ILO年次総会

第108回ILO創立100周年記念総会

3分で振り返る第108回ILO総会(英語・3分16秒)

 日本を含む187の加盟国から政府、使用者、労働者の代表が出席して開かれるILOの年次総会。今年は創立100周年を記念するものとして、技術議題は1本に絞り、記念文書の採択に向けた審議も行われます。国連事務総長に加え、ベルギー国王やスイス大統領など、40カ国以上から国家元首または政府首脳といったハイレベル・ゲストの出席も予定されています。6月20日午後にはガイ・ライダーILO事務局長が司会を務め、ミシェル・アンセンヌ元事務局長とフアン・ソマビア前事務局長といった歴代の事務局長が平和と安定性に対するILOの貢献について話し合う場も設けられます。

 議題は以下の六つです(議題概要)。

  1. 理事会議長及び事務局長の報告
     2018年の総会以後1年間における理事会の業務報告と今年1月に発表された仕事の未来世界委員会の報告書で構成される事務局長報告(Report IA)、アラブ被占領地の労働者の状況に関する事務局長報告付録という計3冊の議題資料をもとに本会議で審議が行われます。
     『輝かしい未来と仕事』と題する世界委員会の報告書は、社会・経済政策の中心に人々と人々が行う仕事を据えるという、成長と開発のための人間中心アジェンダを提案し、そのために人の能力、労働に係わる制度機構、持続可能なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の三つに対する投資の増大を呼びかけ、計10項目の具体的な提案を示しています。また、各国が社会対話を通じて仕事の未来に関する国内戦略を策定することや、労働を扱うILOと貿易を扱う世界貿易機関(WTO)、金融事項を扱う世界銀行と国際通貨基金(IMF)との間で新たな協力協定を締結することなども提案されています。提案されている10項目とは次の通りです。
    1. 人の能力への投資-1)すべての人の生涯学習、2)人々の移行支援、3)男女平等に向けた変革を起こすための政策課題、4)社会的保護の強化
    2. 労働に係わる制度機構に対する投資-5)労働者に対する普遍的な保障の確立、6)時間に関する主権の拡大、7)集団的な代表の再活性化、8)ディーセント・ワークのための科学技術
    3. 持続可能なディーセント・ワークへの投資-9)経済の変革、10)人間を中心に据えた経済・事業モデル
     
  2. 事業計画・予算その他の問題
     ILOの事業計画は2暦年制となっており、2020/21年の次期事業計画・予算案(The Director-General's Programme and Budget proposals for 2020-21)及び2018年12月31日締めの財務諸表と監査済連結財務諸表(Financial report)の検討・採択に加え、2020/21年予算の分担金率、ILO行政審判所の審判員の地位・構成など、決定が必要なその他の財務・総務事項が政府代表で構成される財政委員会で検討されます(Report II)。
     数年間にわたる実質ゼロ成長を経て1.57%の微増となる、2018/19年の為替レートで総額8億410万ドルに上る2020/21年の事業計画・予算案が提案されています。ILOの分担金率は国連の分担金率に則って定められるため、次年度の日本の分担金率は、米国(22%)、中国(12.01%)に次ぎ、8.568%になる予定です。
     
  3. 条約・勧告の適用に関する情報と報告
     条約勧告適用専門家委員会の構成やILOの基準関連活動を記した一般報告に加え、批准国から送付された条約適用状況に関する報告書を検討した上で、専門家委員会がまとめた見解が国・条約別に記されている『一般報告及び特定国に関する見解(Report III(Part A))』及び社会的保護の土台をテーマとする総合調査報告(Report III(Part B))の2冊の議題資料が提出されており、基準適用委員会でこれに基づく審議が行われます。
     日本についてA部では、1930年の強制労働条約(第29号)1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)の適用状況が取り上げられており、技能実習生、従軍慰安婦、消防職員・刑務所職員の団結権、公務員の労働基本権の問題が扱われています。
     『人間の尊厳、社会正義、持続可能な開発のために社会的保護を全ての人に』と題するB部は、「2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)」の実施に関して114カ国の政府から寄せられた回答と労使団体の見解をもとにまとめられています。第202号勧告は普遍的社会的保護を漸進的に達成することを目標として、社会的保護の土台と社会保障を拡大する戦略の設計、実施、モニタリングのための柔軟で意味のある手引きを提供しています。
     4部13章構成の本書は、第1部「2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号):社会保障への権利と持続可能な開発の実現の手引きとなる枠組み」で第202号勧告の役割を点検した後、第2部「社会的保護の土台:ライフサイクルを通じて健康で尊厳ある生活を確保」で社会的保護の土台整備のための手引きを示し、第3部「包括的な社会保障制度の中で社会的保護の土台を確立するための政策策定プロセス」で社会的保護の土台の運営と社会保障の拡大に向けた手引きと諸例を紹介し、第4部「社会的な保護の土台勧告の潜在力の発揮に向けた前途」で勧告の実施における機会と課題をまとめています。
     基準適用委員会にはまた、慣例に則り、2018年10月に開かれた第13回ILO/国連教育科学文化機関(ユネスコ)教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART)の報告書も提出されます。報告書には「ILO/ユネスコ教員の地位勧告」の適用に関わる教員団体からの申し立てが含まれていますが、日本からも国歌斉唱・国旗掲揚に関わるアイム89東京教育労働者組合からの申し立て、全日本教職員組合(全教)から以前に出された指導力不足教員政策及び教員評価制度に関する申し立てをフォローアップするものとして、なかまユニオンから出された大阪府教育委員会における評価制度や教科書選定における教員の役割などに関する申し立て、大阪府特別英語教員組合(OFSET)による外国人英語指導助手(NETs)の地位と雇用条件に関する申し立ての3件が取り上げられています。
     
  4. ILO創立100周年成果文書
     1919年に誕生したILOは今年創立100周年を迎えました。これを記念して、全体委員会においてILO憲章や1944年に採択されたフィラデルフィア宣言などの歴史的文書を土台とする記念文書の採択が検討されます。
     『ILO創立100周年成果文書』と題する討議資料(Report IV)に示されている100周年記念宣言案は、仕事の世界が変容する中、完全雇用と全ての人のディーセント・ワークを伴う、より公正かつ包摂的でより安定した仕事の未来を形作るあらゆる機会を捉えるために、ILOは次の100年間、仕事の未来世界委員会が提案した「仕事の未来のための人間中心アプローチ」を推し進めるべきと唱えています。そのために、ILOは環境面から見て持続可能な仕事の未来への公正な移行を確保することや、勤労生活のあらゆる段階を通じた技能獲得の促進、仕事の世界における障害者平等の実現、労働力移動を統治する仕組みの促進などに注力すべきとしています。労働安全衛生を1998年の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」が掲げる労働における基本的な原則と権利に加えることも提案されています。加盟国に対しては、生涯学習などを通じた人々の能力強化、基本的な権利の尊重や生活に十分な賃金、労働時間の上限設定などを就労形態にかかわらず全ての労働者に保障することや労働関連制度機構の強化、介護や保育といったケア経済などの戦略的な部門や基盤構造への投資などを通じた生産的な雇用とディーセント・ワークの促進を呼びかけています。そして、国際労働基準の設定・適用監視はILOの活動にとって本質的に重要であることなど五つの原則を宣言し、宣言の実施に関わる進捗状況を理事会が定期的に点検することを提案しています。
     
  5. 2回討議手続きに基づく基準設定の第2次討議-仕事の世界における暴力とハラスメント(嫌がらせ)
     2018年の第107回総会における第一次討議を受けて、基準設定委員会において、仕事の世界における暴力と嫌がらせ(ハラスメント)をなくすことを目指した新たな基準の制定に向けた2回目の審議が行われます。『仕事の世界における暴力とハラスメントに終止符を打つ』と題し、2018年の第一次討議で提案された勧告に補足された条約の案を含む報告書(Report V(1))と、これに対する加盟国政労使の見解と事務局による注釈を記した報告書(Report V(2A)及び締切以降に到着した見解を掲載したReport V(2A)(Add.))、そして見解を元に作成された条約及び勧告の原案を英仏2カ国語で掲載した報告書(Report V(2B))の計4冊の討議資料が準備されています。
     「仕事の世界における暴力と嫌がらせの撤廃に関する条約」と題する条約案は、批准国に暴力と嫌がらせから自由な仕事の世界への権利を認め、法や政策などを通じて仕事の世界における暴力と嫌がらせの撤廃に向けた包摂的で性差に対応した総合的な取り組みを行うことを求めています。仕事の世界における暴力と嫌がらせを禁止する法規の制定や適切な予防措置の行使、救済を受ける機会の確保や手引き・研修の提供、啓発キャンペーンの実施などに関する規定が盛り込まれています。対象となる労働者には、従業員に加え、契約上の地位に関わりない全ての労働者、インターンや見習い実習生などの研修生や元従業員、ボランティア、求職者も含み、仕事の世界には職場だけでなく、職場関連の旅行などのイベントや社交の場、食事や休憩の場、使用者の支給する住まい、妥当な場合には通勤途上も含み、加害者・被害者には国内法に従い、顧客や患者、一般の公衆なども含むものとしています。「仕事の世界における暴力と嫌がらせ」の定義としては、「一回限りの出来事か繰り返されるものかを問わず、心身に対する危害あるいは性的・経済的に危害を与えることを目的とするか、そのような危害に帰する、あるいは帰する可能性が高い、一連の許容できない行動様式及び行為またはその脅威(性差に基づく暴力と嫌がらせを含む)」と定めています。
     提案されている同名の勧告案は、条約を補足するものとして、中核的原則、保護と予防、執行・救済措置・支援、手引き・研修・啓発の4分野について、詳しい内容を提案しています。
     
  6. 100周年記念各種イニシアチブを含む仕事の未来に関連したテーマ別討議とイベント
     創立100周年を機に、ガイ・ライダーILO事務局長は、過去の業績を振り返るだけでなく、将来に向けた課題に取り組む手段をILOに装備させることを目指し、特別事業を開始しました。これには仕事の未来に加え、統治機構(ガバナンス)、基準、グリーン、企業、貧困撲滅、働く女性の七つのテーマが含まれています。
     総会はこれらのテーマについて4日間にわたり、自由討議形式で話し合いを行います。3月に開かれた第335回理事会における討議を受けて決定されたテーマは次の通りです。◇6月13日-児童労働反対世界デー(6月12日)記念イベント「共に進もう、児童労働のない、より明るい未来に向けて」及び「ディーセント・ワークの基盤としての結社の自由と団体交渉権の実効的な承認」、◇6月14日-「より明るい未来に向けた仕事と技能」、「生涯を通じての持続可能な移行の確保」、◇6月17日-「ディーセント・ワークに向けた科学技術の道」、◇6月18日-「公平な仕事の未来に向けた多国間主義」及び「ディーセント・ワークのためのビジネス

 総会のウェブサイト(英語)では討議資料、記者発表、討議議事録などを入手できます。ハイレベルゲストの演説、本会議の模様及びテーマ別フォーラム動画でも配信されます。毎日現地時間の13~15時(日本時間20~22時)にはデイリーショーと題し、専門家や出席者へのインタビューを含み、現地から最新の情報をお伝えする番組動画を配信します。メディアセンターでは、総会参加者のインタビュー動画や音声ファイル、写真などを入手できます。会期中の最新の動きは次のハッシュタグを用いてソーシャルメディアで追うこともできます(英語#ILO100、仏語及び西語#OIT100)。

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