2026年6月のILO総会でプラットフォーム経済に特化した国際労働基準が初めて採択されました。この第193号条約の下で、プラットフォーム経済におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)はどのように推進されるのでしょうか。ここでは、条約の役割や対象となる人々の他、労働者やデジタル労働プラットフォーム、政府にとってこの条約がどのような意味を持つかについて解説します。
※英語版の更新に伴い、日本語版の内容を最新の情報に更新しました(2026年7月21日追記)
第193号条約の役割は?
プラットフォーム経済におけるディーセント・ワークに関する条約(第193号条約、Convention concerning decent work in the platform economy, 2026)は、プラットフォーム経済に特化した初の国際労働基準です。技術革新と新しいビジネスモデルが、労働者の権利の保障や、公正な競争、持続可能な経済成長と両立できるようにするためのグローバルな枠組みを定めています。
この条約はなぜ重要か?
第193号条約は、仕事の世界においてプラットフォーム経済に特化した初のグローバルな枠組みであり、特に、デジタル化が仕事の世界に及ぼす影響に対処するために策定された初の国際基準です。この条約は、デジタル労働プラットフォームにより就労機会が創出されることを踏まえつつ、就業上の地位にかかわらず全てのデジタルプラットフォーム就業者が基本的権利と適切な保護の恩恵を享受できるようにすることを目指しています。また、ILOでは今回初めて、デジタルへの移行が仕事の世界にもたらす影響に特に焦点を当てて労働基準の設定に関する議論を行いましたが、この条約の採択はその成果でもあります。政労使三者が社会対話を通じて新たな課題に協力して対処できることが実証されたのです。
この条約の対象は?
この条約の対象は、デジタル労働プラットフォームやデジタルプラットフォーム就業者です。就業者が雇用関係にあるかどうかは関係なく、自営業者も対象になります。プラットフォームの種別については、活動地点基盤型とインターネット基盤型の両方が含まれます。
この条約では全てのデジタルプラットフォーム就業者が被用者に分類されるか?
この条約は、特定の雇用形態への分類を強制していません。むしろ、この条約は加盟国に対し、雇用関係における地位が、主に業務遂行状況、報酬または支払いなどの事実に基づき、デジタル労働プラットフォームを通じた業務の特殊性を考慮した上で、正しく決定されるよう措置を講じることを求めています。
この条約によって、プラットフォーム労働、特に自営業が禁止されることはあるか?
自営業も、いかなる特定のビジネスモデルも、この条約で禁止されることはありません。プラットフォーム就業者がその就業上の地位にかかわらず適切な権利と保護を享受できるようにすることがこの条約の目的です。
この条約ではどのような権利や保護が定められているか?
この条約は、例えば次のような広範の論点が取り上げられています。
- 労働における基本的原則および権利
- 労働安全衛生
- 暴力やハラスメント
- ディーセント・ワークの機会の推進
- 報酬や賃金
- 社会保障
- 労働者に関してアルゴリズム(計算手法)に基づく自動化技術を用いたシステムを利用することの影響
- データ保護とプライバシー
- プラットフォームアカウントの一時停止・無効化や雇用関係などの終了
- 移民や難民の保護
- 法的救済の利用
この条約は、アルゴリズムやAIについて取り上げているか?
この条約は、意思決定を自動的に行うシステムを含め、アルゴリズムに基づく自動化技術を用いたシステムの利用が及ぼす影響について条項を定めています。また、こうしたシステムが就業者に影響を与える場合、その透明性のある利用と審査メカニズムへのアクセスに関する原則を定めています。AI(人工知能)については明示的には言及されていませんが、この条約は、AI技術が組み込まれている場合を含め、自動化技術を用いたシステムを労働内容の監督・評価や労働に関する意思決定に利用する場合を対象としています。
移住労働者や難民に関する条項は含まれているか?
この条約は、加盟国が移住労働者や難民に対する虐待を防ぎ保護するための措置をとることを求めています。
デジタル労働プラットフォームは、仲介業者を介したり、国境を越えてサービス提供したりすることで、この条約の適用を回避できるか?
この条約は、プラットフォーム労働の形態は国境を越えたり仲介業者を経由したりする場合が多いことを踏まえた上で、就業者を効果的に保護するための条項を定めています。例えば、デジタル労働プラットフォームや仲介事業者に関して条約を実施したり、プラットフォームや仲介業者それぞれに課せられた責任を明確に定義したりすることを求めています。また、加盟国は、その領域内で労働に従事しているデジタルプラットフォーム就業者に関してこの条約を実施しなければなりません。この条約に併せて採択された決議では一部のデジタル労働プラットフォームは国境を越えて運営されている点が強調されており、この条約の実施に当たって加盟国間の協力が特に重要となります。
被用者に分類されるデジタルプラットフォーム就業者は、この条約によって既存の権利が損なわれることはあるか?
この条約は、被用者に分類される者を含め、特定の加盟国で既に認められているデジタルプラットフォーム就業者が有する権利に対していかなる形でも悪影響を及ぼすことはありません。むしろ、最低限の保護の水準を定めた上で、アルゴリズム管理やデータ保護など、デジタル経済においてますます重要になる分野で安全対策を導入します。また、デジタルプラットフォーム就業者が、同じ就業上の地位にある他の者に認められている保護と比べて、不利に扱われないようにすることをこの条約は目指しています。言い換えれば、被用者として分類されたプラットフォーム就業者は、それ以外の世の中にある、どんな区分の被用者と比べても、保護が手薄になることがあってはならない、ということです。
この条約により加盟国によるデジタルプラットフォーム業務の監督における柔軟性が低減するのでは?
この条約は、柔軟性を低下させたり無くしたりすることを意図したものではありません。むしろ、共通の原則と保護を確立しつつ、加盟国がその規定をどのように実施するかについて柔軟性を残しています。
この条約は、プラットフォーム経済における非公式性(インフォーマリティ)をどのように扱っているか?
この条約は、公式経済(フォーマル経済)と非公式経済(インフォーマル経済)の両方におけるデジタルプラットフォーム就業者に適用されます。デジタル労働プラットフォームが公式化(フォーマライゼーション)への道筋を作り出す可能性があることを認識し、加盟国に対し、自営業者の登録を含め、デジタル労働プラットフォームを通じて行われる業務の公式化を促進するための適切な措置を講じることを求めています。
その他の規定も、透明性の促進、社会保障へのアクセスの円滑化、雇用における身分決定の支援、実施と執行の強化などを通じて、公式化を促進することができます。この条約は、公式化の単一のモデルを規定していません。加盟国が国内法および慣行に従って採用する措置には柔軟性が残されています。
この条約は全ての加盟国で直ちに適用されることになるか?
他の全てのILO条約と同様に、第193号条約は、批准した加盟国でのみ法的拘束力が生じます。批准後は、各国の法制度や慣行に従って、国内法、規則、政策、労働協約、その他の措置を通じて実施されなければなりません。また、批准が行われる前の段階でも、この条約は、政府、使用者、労働者、デジタル労働プラットフォームにとって政策上の重要な指針となり得ます。
加盟国にはどのようなフォローアップ手続きが求められるか?
ILO憲章第19条に基づき、全ての加盟国は、新たに採択された条約および勧告について、立法その他の措置を講じるために、権限ある機関(通常は議会) に検討のため提出することが求められています。
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