賃金設定のプロセス
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給与の支払いについては、「賃金支払のための最長限度の期間は、賃金が次のものよりもしばしば(注:原文は旧字体)支払われることを確保しなければならない。(中略)報酬が月又は年を基礎として定められる被用者については一月一回」とされています[1]。
[1] 1949年の賃金保護勧告(第85号)、第4項および同項(b)をご覧ください。また、1949年の賃金保護条約(第95号)、第12条第1項でも「賃金は、定期的に支払われなければならない」と定められています。 -
団体交渉は、労働条件を定め、使用者、労働者および労使団体間の関係を規定し、労働協約を締結するために行われる自主的なプロセスです[1]。
団体交渉を行うことは基本的権利です[2]。
ILOの結社の自由委員会(Committee on Freedom of Association)は、賃金、給付および手当を団体交渉の対象にすることができると結論付けています[3]。
団体交渉は、企業レベル、部門・産業レベル、国・地域レベルで行うことができ、どのレベルを選ぶかは当事者次第です。団体交渉に関するILOの基準や原則では団体交渉の自主性を強調しており、どのレベルであっても、交渉を強要したり、交渉に法的障壁を設けたりすることは一切あってはなりません。なお、労働組合や使用者がある特定のレベルでの交渉を拒否することは、結社の自由の侵害には当たりません。
[1] 次のILO条約で団体交渉の実施について枠組みが定められています。1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)(特に第4条を参照のこと)、1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)、1971年の労働者代表条約(第135号)、1971年の労働者代表勧告(第143号)。
[2] 詳しくは、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(1998年)第2項(a)をご覧ください。
[3] 詳しくは、“Freedom of Association: Digest of decisions and principles of the Freedom of Association Committee of the Governing Body of the ILO”, Fifth (revised) edition (ILO, Geneva, 2006)の第913項をご覧ください。
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多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)では、賃金設定における好事例(グッドプラクティス)についての指針を「類似の企業が存在していない発展途上国で活動する場合には、政府の政策の枠内で、『できる限りよい賃金、給付及び労働条件を提供すべき』であり、各企業の経営状態も関係しますが、少なくとも労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分な水準であるべきです」[1]と示しています。
また、多国籍企業宣言は、本国政府および受入国政府に対し、多国籍企業と労働者の間における団体交渉の推進を奨励しており、「特に発展途上国において、政府は、低所得層や低開発地域が多国籍企業の活動からできるだけ多くの利益を得ることを確保するべく適切な方策を講じるように努めるべきである」としています[2]。さらに、「労働協約の手段により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者または使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続きの十分な発達及び利用を奨励し、かつ促進するため、国内事情に適する措置がとられるべきである」とも述べています[3]。
[1] 多国籍企業宣言、第41項。
[2] 同上、第42項。
[3] 同上、第56項。
賃金に関する基本的な保護規定
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国際労働基準では、賃金の計算と決定に柔軟性を持たせるために、賃金の計算方法については特定の方法を定めていません。ただ、労働者を不当な扱いから守るために順守しなければならない基本的な保護規定はあります。
賃金の妥当性:固定賃金と出来高払いのいずれであっても、最低賃金は労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分な額とするべきであり[1]、国内の通例と状況に照らして現実的で適切な範囲で以下を考慮することとされています。
- 国内の一般的な賃金の水準、生活費、社会保障給付、他の社会集団の相対的な生活水準
- 経済の発展に必要な条件、生産性の水準、高い雇用水準の達成と維持などの経済的要素[2]
- 生活費などの経済状況の変化[3]
ILOは、最低賃金が労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分なラインかどうかを判定するための基準値を定めていません。その代わりに、部門別の賃金設定には社会対話(特に団体交渉)、また全国的な最低賃金の設定や労働協約の拡大には政労使による三者協議を提唱しています。
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)は、特に企業に適用されるILOの規範を定めた文書です。賃金に関しては、労働者やその家族がニーズを満たせるように十分な賃金を支払うことを奨励しています。特に、多国籍企業は「受入国における類似の使用者」が提供するものより「不利でない」賃金や給付を提供するべきであるとしています[4]。また、類似の企業が存在していない場合には、政府の政策の枠内で、「できる限りよい賃金、給付及び労働条件を提供すべき」であり、各企業の経営状態とも関係しますが、少なくとも労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分な水準であるべきだとしています[5]。さらに、雇用条件を決定する上で団体交渉が果たす役割の重要性を強調しています[6]。
法定通貨による労働者への直接の支払い:金銭で支払う賃金は、法定通貨のみを用いて、労働者に直接支払わなければなりません。約束手形、金券、クーポンによる支払いを行うことはできません[7]。自主的な倹約が奨励されることもありますが、労働者は自分の収入を自分の好きなように使えるようでなくてはなりません。また、現物給与による支払いが国内法令や労働協約、仲裁裁定で認められており、現物支給が慣習となっているか、または望ましい場合には、それが適切で有益であるのなら、賃金の一部に限って現物支給が認められています。この際、現物給与の価額は合理的な市場価格で通貨に換算しなければなりません[8]。
給与計算の透明性:賃金の支払いに当たっては、賃金の総額、所定の控除とその目的、および控除後に支払われるべき賃金の額を明確に示す必要があります。賃金からの控除(天引き)は、国内法令で定められているか、労働協約や仲裁裁定で決められている場合にのみ行うことができます。物品の滅失や損害発生時の費用の天引きは、労働者の責任が立証された場合にのみ行うことができます[9]。天引きが行われる場合には、必ず労働者に書面で通知しなければなりません[10]。労働者の採用のため、または雇用の継続のために使用者や仲介者に支払われる費用を賃金から差し引くことはできません。
定期的な支払い:賃金は定期的に支払わなければなりません。出来高給の場合、支払い回数は最低でも月2回とされています。また、支払いは適切に記録しなければなりません[11]。雇用契約の終了に当たっては、契約の条項を鑑みて合理的な期間内に、労働者に対して支払われるべき賃金の全額を清算しなければなりません[12]。
同一価値労働同一賃金:性別にかかわらず同一価値の労働には同一の報酬が支払われるように、報酬金額の基準を定めなければなりません[13]。
商品代・サービス料金の天引きの制限と条件:企業が販売する商品や提供するサービスは、適正価格で提供されるべきです。使用者が設置する店舗や運営するサービスは利潤を確保するためではなく、労働者の利益のために運営されるべきものです。商品やサービスの購入を労働者に強制することがあってはなりません[14]。
[1] 1970年の最低賃金決定条約(第131号)、第3条(a)。
[2] 同上、第3条。
[3] 1970年の最低賃金決定勧告(第135号)、第3項、第11項。
[4] 多国籍企業宣言、第41項。
[5] 同上。
[6] 「労働協約の手段により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者または使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続きの十分な発達及び利用を奨励し、かつ促進するため、国内事情に適する措置がとられるべきである」(多国籍企業宣言、第56項)。
[7] 1958年の農園条約(第110号)、第26条、第28条。
[8] 同上、第27条。
[9] 同上、第25項。
[10] 同上、第31条、第32条。
[11] 同上、第33条、第35条、および第110号勧告、第9項~第18項。
[12] 第110号条約、第33条第2項。
[13] 第110号勧告、第27項、および1951年の同一報酬条約(第100号)。
[14] 第110号条約、第30条。
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購入に多額の費用がかかり、返金の遅れのせいで労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに支障が生じるような場合は、関連する国際労働基準の原則に反する可能性があります。そうした制度の影響で賃金の定期的な支払いに支障が出ることがあってはなりません。また、労働者に返還時期なども含めて明確に説明するべきです。
関連する国際労働基準
1970年の最低賃金決定条約(第131号)
1970年の最低賃金決定勧告(第135号)
規範を定めたその他の文書
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言、第41項。
最低賃金/生活賃金
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ILO憲章の前文には「妥当な生活賃金の支給」というくだりがあります。ILOの目標と目的を定めた1944年のフィラデルフィア宣言では、「賃金及び所得並びに労働時間及び他の労働条件に関する政策ですべての者に進歩の成果の公正な分配を保障し、且つ、最低生活賃金による保護を必要とするすべての被用者にこの賃金を保障する」必要性を強調しています[1]。この原則は、より最近では2008年に採択された公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言でも再び取り上げられています。
1970年の最低賃金決定条約(第131号)では「生活賃金」という用語は使われていないものの、その概念は「労働者及びその家族の必要」というくだりに見られます[2]。ILO条約勧告適用専門家委員会(Committee of Experts on the Application of Conventions and Recommendations)は、“the establishment of a minimum wage system is often portrayed as a means for ensuring that workers (and in some cases, their families) will receive a basic minimum which will enable them to meet their needs (and those of their families); hence the frequent use of the term ‘minimum living wage’. Efforts to implement such a concept imply an attitude or a policy which aims at improving the material situation of workers and guaranteeing them a basic minimum standard of living which is compatible with human dignity or is sufficient to cover the basic needs of workers. Such a policy is in line with the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights as regards every person's right to receive remuneration equivalent at least to a wage which makes it possible for workers and their families to lead a decent life”(「最低賃金制を確立することで、労働者(場合によってはその家族も)は生活のニーズを満たせる基本的な最低限の賃金を得られるようになる、と説明されることが多い。そのため、『最低生活賃金』という用語がしばしば使われる。そのような概念を現実のものにするには、労働者の経済的な状況を改善し、人間の尊厳が保たれる、または生活必需品が十分得られる、基本的な最低限の生活水準を保証することを目的とした方針や政策が必要となる。そのような政策は、労働者やその家族が人間らしい暮らしができるような賃金に最低限相当する報酬を得る万人の権利という考え方において、『経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約』に沿っている」)と説明しています[3]。
1970年の最低賃金決定勧告(第135号)では、貧困を克服し、あらゆる労働者やその家族がニーズを満たせるようにするのであれば、政策で最低賃金を取り上げるべきである、と明言しています[4]。また、最低賃金を固定する根本的な目的は、賃金の許容される最低水準に関して必要となる社会的保護を賃金労働者に与えるためであるべきだとも述べています[5]。
さらに、条約勧告適用専門家委員会は“the minimum wage implies that such a wage must be sufficient for the subsistence needs of workers and their families. Thus, the meeting of subsistence needs are both a criterion of minimum wage fixing and one of the objectives of the Convention. Nevertheless, the needs of workers and their families cannot be considered in a vacuum; they must be viewed in relation to the country's level of economic and social development”(「最低賃金という用語は、そのような賃金が労働者やその家族が生きていくためのニーズを満たすのに十分でなければならないことを意味する。そのため、生きる上でのニーズを満たすことは最低賃金を決定する基準でもあり、本条約の目的の1つでもある。しかし、労働者やその家族のニーズは単独で検討するわけにはいかない。国家の経済的・社会的発展レベルを鑑みて検討しなければならないのである」)とも指摘しています[6]。その他、国内の通例や状況から見て現実的で適切な範囲で、例えば次のような要素を考慮すべきです。
- 国内の一般的な賃金の水準、生活費、社会保障給付、他の社会集団の相対的な生活水準
- 経済の発展に必要な条件、生産性の水準、高い雇用水準の達成と維持などの経済的要素[7]
- 生活費などの経済状況の変化[8]
最低賃金は、特に団体交渉を通じてさまざまな産業部門にわたって賃金を決定する広範で有効な手段がない場合に労働者を保護するためのものです[9]。そのため、最低賃金が労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分なラインかどうかを政府が判定するのに使える基準値(いわゆる「財のバスケット」)をILOでは定めていません。その代わりに、部門別の賃金設定には社会対話(特に団体交渉)、また最低賃金の設定や労働協約の拡大には政労使による三者協議を提唱しています。
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)では、企業に「国家の法令に従い、地域の慣行を十分考慮し、関係のある国際基準を尊重」することを奨励しています[10]。
特に賃金に関しては、労働者やその家族がニーズを満たすのに十分な賃金を支払うことを奨励しています。具体的には、多国籍企業は「受入国における類似の使用者が提供するもの」より「不利でない」賃金や給付を提供するべきであるとしています[11]。また、類似の企業が存在していない場合には、政府の政策の枠内で、「できる限りよい賃金、給付及び労働条件を提供すべき」であり、各企業の経営状態とも関係しますが、少なくとも労働者やその家族が最低限のニーズを満たすのに十分な水準であるべきだとしています[12]。
さらに、雇用条件を決定する上で団体交渉が果たす役割の重要性を強調しています[13]。
実際の最低賃金に関する詳しい情報は、ILOの最低賃金データベースStatistics on wagesでご確認ください。このデータベースには、100カ国以上におけるデータを入手できた範囲で、最低賃金水準の絶対値や、国民一人あたりのGDPと平均賃金の両方に対する相対値の統計が掲載されています。社会的パートナーの種類と関与の程度など、最低賃金の制度面の情報も含まれています。
[1] ILO憲章、フィラデルフィア宣言、附属書第3部(d)。この原則は、国連世界人権宣言の以下の条項でもうたわれています。「勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる」(第23条第3項)、「すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに(中略)保障を受ける権利を有する」(第25条第1項)。
[2] 1970年の最低賃金決定条約(第131号)、第3条(a)。
[3] “General Survey of the Reports on the Minimum Wage-Fixing Machinery Convention (No. 26) and Recommendation (No. 30), 1928; the Minimum Wage Fixing Machinery (Agriculture) Convention (No. 99) and Recommendation (No. 89), 1951; and the Minimum Wage Fixing Convention (No. 131) and Recommendation (No. 135), 1970”, ILO, Geneva,1992, paragraph 33.
[4] 最低賃金決定勧告(第135号)、第1項。
[5] 同上、第2項。
[6] “General Survey on the Minimum Wage-Fixing Machinery”, para. 281.
[7] 第131号条約、第3条。
[8] 第135号勧告、第3項、第11項。
[9] 第131号条約、第1条第1項。
[10] 多国籍企業宣言、第8項。
[11] 同上、第41項。
[12] 同上。
[13] 「労働協約の手段により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者または使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続きの十分な発達及び利用を奨励し、かつ促進するため、国内事情に適する措置がとられるべきである」(多国籍企業宣言、第56項)。
現物給与
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現金給与を完全に現物給与で置き換えることは認められません。多くの国で、現物支給が認められる賃金の割合の上限が労働法で定められており、通常は20~40%となっています。現物給与が全体の50%ともなると、労働者やその家族が生活するのに必要な現金報酬が不当に縮小されることになるからです[1]。
さらに、法的に認められる現物給与の上限を守りつつ、以下の保護規定を順守するべきです[2]。
- 国内法令、労働協約または仲裁裁定により認められたものであること
- 現金の代わりに支給された物品が適正価格で計算され、労働者やその家族のニーズを満たすものであること
- 酒類や薬物による現物支給は行わないこと
現金支給の代わりに現物支給を行うと労働者は使用者への依存度が高まり、置かれた立場がより脆弱となるため、不適切な現物支給の場合には強制労働につながる恐れがあります。製品やサービスによる現物支給は、労働者が使用者に対する依存状態に陥ってしまうようなものであってはなりません[3]。
[1] “General Survey of the reports concerning the Protection of Wages Convention (No. 95) and the Protection of Wages Recommendation (No. 85), 1949 ”, ILO, Geneva, 2003, para. 117.
[2] 1949年の賃金保護条約(第95号)、第4条、および“General Survey on the Protection of Wages”, para. 92.
[3] “Combating forced labour: A handbook for employers and business”, ILO, Geneva, 2015
懲戒処分としての減給
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国際労働基準では、懲戒処分として賃金を減額することが認められるかどうかについて規定は設けていません[1]。ILO条約勧告適用専門家委員会(Committee of Experts on the Application of Conventions and Recommendations)によると、多くの国でそうした減給は公式に禁止されています。認められている国では、公正な手続きを保障するための規定、例えば書面による労働者への通知を義務付けることや、不服申し立てを行う権利を認めることなどが国内法で定められています[2]。
条約勧告適用専門家委員会は、賃金保護に関する労働基準で3つの主要原則が確立されていることも指摘しています[3]。
- いかなる種類の減給も、適切な法的根拠(国内法令、労働協約または仲裁裁定など)がなければ法的に認められず、個別の契約では根拠として不十分であること
- 減給が認められる場合も、労働者に支払われる減額した賃金は、いかなる場合でも、労働者本人やその家族がまともな生活収入を確保するのに十分な額でなければならないこと
- 予期しない減給のために労働者やその家族が生活費を確保できないという事態があってはならないため、対象となる労働者には減給を行う根拠とその程度について全情報を事前に通知しなければならないこと。望ましい方法は関連の法令や内部規定などが雇用契約の中できちんと参照できるようにするか、職場に常時掲示しておくことだが、いずれにしても、減給される可能性があるあらゆる場合において、労働者にはその内容と程度について事前に通知を行い、国内法に定められた保護措置に関する権利を知らせること
[1] 減給に関連した国際労働基準は、1949年の賃金保護条約(第95号)や1949年の賃金保護勧告(第85号)で定められています。第85号勧告の第2項と第3項では、労働者の過ちや不注意による損害、材料への損害、または使用者の財産への損害に対する弁償としての減給、また、使用者から提供される材料、道具や設備の使用に対する支払いとしての減給のみを取り上げています。
[2] “General Survey of the reports concerning the Protection of Wages Convention (No. 95) and the Protection of Wages Recommendation (No. 85), 1949”, ILO, Geneva, 2003, para. 242 and 244.
[3] “General Survey on the Protection of Wages” , para. 295-297.
夜間勤務への補償
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1990年の夜業条約(第171号)第8条では、夜業労働者への補償を労働時間(就業時間の短縮や休憩時間の延長)や給与(夜勤割増)、または類似した形で行う際に、その夜業の内容を考慮して決めなければならないと定めています。1990年の夜業勧告(第178号)第8項と第9項では、金銭的補償について詳しく述べています。このように、ILOの条約などでは夜間勤務には補償を追加する必要があることが認められています。ただ、その方法としては賃金の割り増しが望ましいものの、必ずしもこれに限りません。
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規格の不適合や無断欠勤など、社内規程に反する行為に罰金を科すことは、労働者が強制的に働かされているかどうかという問題とは無関係であるため、強制労働の問題には当たりません。ただ、賃金保護など、国際労働基準の他の原則については問題となる可能性があります。
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推奨されている間隔の上限は、賃金の計算方法によって異なります。1949年の賃金保護勧告(第85号)では、以下の指針を定めています。
「4 賃金支払のための最長限度の期間は、賃金が次のものよりもしばしば支払われることを確保しなければならない。
(a) 賃金が時間、日又は週を以て計算される労働者については十六日を超えない期間において一月二回
(b) 報酬が月又は年を基礎として定められる被用者については一月一回
5(1) 賃金が個数労働又は生産を基礎として計算される労働者については、賃金支払のための最長限度の期間は、できるだけ賃金が十六日を超えない期間において一月二回よりもひんぱんに支払われることを確保するようこれを定めなければならない。
(2) 仕事の完成が二週間を超えることを要する仕事を遂行するために使用され、且つ賃金の支払のための期間が労働協約又は仲裁裁定により別段に定められない労働者については、次のことを確保するため適当の措置を講じなければならない。
(a) 支払は、遂行される仕事の量に比例して、十六日を超えない期間において一月二回よりもひんぱんに計算されること。
(b) 最終的決済は、仕事の完成から二週間以内に行われること。」 -
いかなる種類の減給も、適切な法的根拠(国内法令、労働協約または仲裁裁定など)がなければ法的に認められません。個別の契約では根拠として不十分です。
企業に奨励される一般原則は、職業紹介(募集・あっせん)にかかるいかなる手数料や費用も、直接的にも間接的にも、たとえ一部だとしても、労働者に請求してはならないというものです。ただ、国内法に規定があれば一部例外が認められています。1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)第7条では、「権限のある機関は、関係する労働者の利益のために、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、特定の種類の労働者及び民間職業仲介事業所が提供する特定の種類のサービスについて(中略)例外を認めることができる」としています。そのため、職業紹介(募集・あっせん)手数料を労働者に請求することの可否についてはその国の法令を調べることが重要です。
ただし1949年の賃金保護条約(第95号)第9条では、採用または雇用の継続を目的として、労働者から使用者かその代理人、または仲介業者(人材派遣会社や人材紹介会社)への直接的・間接的な支払いを確保するために賃金からの控除(天引き)を行うことを禁止しています。
つまり、国内法令の下で有料の職業紹介事業が認可されている国では、労働者が民間職業仲介事業所のサービスに対して、賃金からの天引きを伴わない形で費用を直接支払うことは認められる、ということです。ただし、公正な人材募集・斡旋に関する一般原則及び実務指針ならびに募集・斡旋手数料及び関連費用の定義(III.一般原則)第7条では、労働者に職業紹介(募集・あっせん)にかかる手数料や費用を負担させることは認められていません。
予期しない減給のために労働者やその家族が生活費を確保できないという事態があってはならないので、対象となる労働者には減給を行う根拠とその程度について全情報を事前に伝達しなくてはなりません。望ましい方法は関連の法令や内部規定などが雇用契約の中できちんと参照できるようにするか、職場に常時掲示しておくことですが、いずれにしても、労働者には職業紹介サービス料金の天引きについて事前に通知を行い、国内法に定められた保護措置に関する権利を知らせることが必要です。 -
賃金の支払いが遅れたとしても、組織的なものではなく、労働者を支配するためでもない場合(例えば現金振込の一時的な問題など)は、強制労働には見なされません。
強制労働とは、「処罰の脅威によって強制され、また、自らが任意に申し出たものではない全ての労働」のことです。
使用者が賃金の支払いを拒否することは処罰の対象となり得ます。また、支払いの遅延は強制労働の事態が生じている兆候の可能性があります。例えば、ILO条約勧告適用専門家委員会(Committee of Experts on the Application of Conventions and Recommendations)は、“concern about the vulnerable situation of migrant workers, including migrant domestic workers, who are often subjected to abusive employer practices, such as retention of passports, non-payment of wages, deprivation of liberty, and physical and sexual abuse, which cause their employment to be transformed into situations that could amount to forced labour”(「家事労働などに従事する移民労働者は、パスポートの没収や賃金の不払い、自由の剝奪、身体的・性的虐待など、使用者による虐待的な行為の被害を受けることが多く、弱い立場にあるため、強制労働と同等の状況に陥る懸念がある」)と指摘しています。
1930年の強制労働条約(第29号)の批准国における適用状況の調査では、賃金の不払いや支払いの遅延の事例で強要や脅迫の要素が見られる場合のみを取り上げています。そのうち大半で使用者が賃金を恣意的に扱っており、その結果、弱い立場に置かれた労働者が債務を負わされていることが判明しています。
また、賃金の支払いが長期間遅延すると弱い立場の労働者を生み出したり悪化させたりする可能性が高まるため、長期の遅延はさらに明確な兆候となります。不払いの期間の長さや退職する自由に対する影響は、給与水準、労働者が働いている国、制度的な保護措置などの要因に左右されます。この期限を過ぎると自動的に強制労働と見なされる、というような遅延期限は定められていません。 -
一般的に、高額の預託金の請求などによる賃金からの天引きや賃金の不払いは、労働者が仕事を辞めたくなったときに離職を妨げるような制約となります。しかし、預託金の金額が常識の範囲内で、返金される条件を労働者に通知してあり、返金条件が満たされた場合は実際に返金されるようであれば、そういった預託金を請求しても強制労働には当たりません。制服の保証金の場合、退職の際には制服を返却すれば保証金が返金されることを労働者に周知しなくてはなりません。制服は常識の範囲内の状態で返却しなければならないなどの他の条件があれば明確に提示し、その条件が退職を希望する労働者の妨げとなることがあってはなりません。
退職時に返金されない保証金は保証金ではなく、制服代の強制的な請求だと言えます。そういった費用を賃金から天引きすることは賃金保護の観点から問題となります。1949年の賃金保護勧告(第85号)では、次のように定められています。「使用者により供給される工具、材料又は装具に関する賃金からの控除を次の場合に制限するため、適当の措置を講じなければならない。
(a) かかる控除が関係ある職業又は業務において慣習として承認される場合
(b) かかる控除が労働協約又は仲裁裁定により定められる場合
(c) かかる控除が国内の法令又は規則により承認された手続により別段に許容される場合」
これらの条件が満たされていれば、労働者に制服代の支払いを求めても問題はありません。ただし、制服が労働者の所有物になることを明確に伝える必要があります。 -
賃金の保護に関して重要な原則は、主に次の通りです。
1. いかなる種類の減給も、適切な法的根拠(国内法令、労働協約または仲裁裁定など)がなければ法的に認められず、個別の契約も、社内規定による一方的な減給も根拠として不十分であること
2. 減給が認められる場合も、労働者に支払われる減額した賃金は、いかなる場合でも、労働者やその家族がまともな生活収入を確保するのに十分な額でなければならないこと
3. 予期しない減給のために労働者やその家族が生活費を確保できないという事態があってはならないため、対象となる労働者には減給を行う根拠とその程度について全情報を事前に通知しなければならないこと。望ましい方法は関連の法令や内部規定などが雇用契約の中できちんと参照できるようにするか、職場に常時掲示しておくことだが、いずれにしても、減給される可能性があるあらゆる場合において、労働者にはその内容と程度について事前に通知を行い、国内法に定められた保護措置に関する権利を知らせること詳しくは1949年の賃金保護条約(第95号)、および1949年の賃金保護勧告(第85号)をご覧ください。
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関係する国際労働基準での扱いは、下される懲戒処分の内容によって異なります。
懲戒処分により減給となる場合については、ILO条約勧告適用専門家委員会(Committee of Experts on the Application of Conventions and Recommendations)は1949年の賃金保護条約(第95号)を取り上げて、懲戒処分による減給が認められている国では公正な手続きを保障するための規定、例えば書面による労働者への通知を義務付けることや、不服申し立てを行う権利を認めることなどが国内法で定められていることを指摘しています。
懲戒解雇となる事例では、労働者は裁判所、労働審判、仲裁委員会、仲裁人などの中立的機関に解雇を不服として合理的な期間内に申し立てを行う権利を与えられるべきです。
より一般的に言えば、あらゆる労働者はいかなる不利益も被ることなく苦情を申し立て、適切な手続きにより審査を受ける権利を有するべきです。苦情の対象となる事例は、不公正な懲戒処分と思われる行為に労使関係が絡んでいるか、その企業の労働者(複数の場合も含む)の雇用条件に影響を与える可能性が大きい場合のほか、その状況が労働協約、個別の雇用契約、国内法その他の規則に反していると思われる場合です。 -
事前通知に関する規定は、労働者が仕事を辞めたいときに退職する権利と、使用者が代わりの人員を見つけるための合理的な期間を確保する権利との兼ね合いで決められます。この2つの相反する権利の間で適切なバランスを判断することは政府の役目であるため(その際は労働組合や使用者団体との協議を経ることが望ましい)、退職の事前通知の期限は各国の法律で定められています。労働者と企業は国内法で定められた事前通知の規定を順守しなければなりません。法で定められた最低限の予告期間を守らなかった労働者には、国内法に従って処罰が科されるべきであり、企業の社内規程はこれに準拠する必要があります。
試用期間は、労働者がその仕事に向いているか、またその仕事が労働者に向いているかを使用者と労働者が判断するためのものです。労働者と仕事の相性が良くないとどちらか一方が判断した場合、事前通知の規定に従って試用期間中いつでも労働関係を解消することができます。この権利を行使したために処罰が科されることがあってはなりません。ただ、この権利を使用者が行使した際に賃金から天引きすることは、強制労働には当たりません(例えば1930年の強制労働条約(第29号)、1957年の強制労働廃止条約(第105号))。しかし、そうした扱いは、1949年の賃金保護条約(第95号)や1949年の賃金保護勧告(第85号)が定める賃金保護に関する規定には反しています。雇用関係の解消を希望したのが使用者側かどうかによらず、労働者には勤務した日数分の報酬を支払う必要があります。雇用関係を解消する権利を労働者が行使するのを阻止したり罰したりするために賃金から天引きすることは労働の強要に当たり、そもそも試用期間の目的にも反しています。 -
賃金の前払いや従業員への貸し付けが離職を妨げる手段として利用されてはならないことを方針で明示するべきです。前払いや貸し付けの金額も、貸付金の返済のために賃金から天引きする額も、国内法で定められた上限を超えてはなりません。また、前払いと貸し付けの付与と返済に関する条件を労働者に通知する必要があります。
インターネットへのアクセス
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インターネットアクセスの問題を取り上げている国際労働基準としては、2006年の海上の労働に関する条約(改正)が経営陣と協議を行う際に参考になると思います。同条約中のB3.1.11指針(レクリエーション用の設備並びに郵便及び船舶への訪問に関する手配)では、次のように定められています(一部抜粋)。
「1.レクリエーションに係る設備及びサービスについては、海運業における技術上、運航上及び他の進歩から生ずる船員の需要の変化に照らして適当なものであることを確保するため、頻繁に検討を行うべきである。(中略)
4.実行可能な場合には、船員に費用を負担させることなく、次の便宜を含めることについても考慮を払うべきである。(中略)
(j)船舶と陸上との間の電話通信並びに可能な場合には電子メール及びインターネットへの妥当な金額の利用料金による合理的なアクセス」
賃金のデジタル払い
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ILOの1949年の賃金保護条約(第95号)第3条は、金銭で支払う賃金は法定通貨で支払わなければならず、約束手形、金券、クーポンなどを代替手段として用いるのは禁止しなければならないとしていますが、暗号通貨はほとんどの国で法定通貨として認められていないため、大半の国の法制度の下で、暗号通貨による賃金の支払いはこの基準の違反となります[1]。
特筆すべき例外としては、エルサルバドルと中央アフリカでは2022年の時点でビットコインが法定通貨として認められているため、賃金の支払いをビットコインで行うことが可能になっています。
こうした動きと並行して、暗号通貨とは異なり政府が責任を持つ中央銀行デジタル通貨(CBDC)への関心が高まっています。世界中で約130の中央銀行がデジタル通貨の検討、設計やテストを行っており、発行まで完了しているところもあります。15カ国がCBDCのテスト段階、10カ国がすでに発行済みです。そうした国々ではCBDCを法定通貨とすることが想定されていて、重要な用途の1つとして賃金の支払いに用いることも見込まれています。とりわけ中国ではすでにCBDCであるデジタル人民元が法定通貨として発行されており、2023年4月から公務員を対象にデジタル人民元による賃金の支払いが試行的に行われています。
[1] 賃金のデジタル払いの可能性を最大化するためのさまざまな検討事項の概要については、ILOの“Brief: Promoting responsible digital wage payments”もご覧ください。
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