第33回国際労働問題シンポジウム

シンポジウム報告「COVID-19危機からより良い仕事の未来へ――産業別の取組みと社会対話」

ニュース記事 | 2020/12/03
2020年12月2日、ILO駐日事務所と法政大学大原社会問題研究所は、160名の視聴者が参加する中、「第 33回 国際労働問題シンポジウム」を共催しました。政労使、学識者の立場からの報告により、産業別の取組みと社会対話について、特に衣料品産業に焦点を当てて考察を深め、COVID-19危機をより良い仕事の未来につなげるために私たちはどう行動していけばよいのか?というテーマのもと、議論しました。

今年7月、ILOは「COVID-19と仕事の世界グローバルサミット」をバーチャルで開催し、世界のリーダーや加盟国政労使は、より良い仕事の世界の構築に向けて結束して取り組む決意を示しました。麻田千穂子ILOアジア太平洋総局長は、シンポジウムに寄せたメッセージにおいて、本シンポジウムの開催は日本におけるその一歩となると述べました。*シンポジウムに寄せるメッセージ全文  /  メッセージ動画(短縮版、英語字幕付き)

ILOによるCOVID-19が仕事の世界に与えた影響分析の一つに、様々な産業のグローバルな対応をまとめた「ILO産業別概況」があります。基調講演でILO本部部門別政策局前次長の伊澤章氏は、それぞれの産業の特性に応じた対策を検討し、各産業の中で実施することが重要とし、「今回の世界規模の危機に対して行われてきたグローバル・レベルの産業別労使団体の議論を、各国レベルの労使対話の活性化につなげる必要がある」と述べました。

株式会社アシックスは、ILOのベターワーク事業のパートナー企業であり、今回、グローバル・レベルの衣料品産業の労使団体が行った「Call to Action(行動の呼びかけ)」にも賛同企業として事業活動を行っています。CSR サステナビリティ部部長を務める吉川美奈子氏は、「Call to Action」の国際、国別レベルの体制について、また工場との透明性の高い対話を通したサプライヤーの事業継続に向けた取り組みについて報告しました。

国レベルの労使の合意による危機対応の好事例として、UAゼンセン参与/インダストリオール・グローバルユニオン日本加盟組織協議会事務局長の郷野晶子氏はインドネシアの例を紹介しました。その上で「企業が責任ある購買慣行を継続することで、サプライヤーが社会的責任を遂行し易くなる。」と述べ、日本の多国籍企業の労使双方が、サプライチェーンの労働者の権利を守るという責務を果たすことに期待を示しました。

厚生労働省大臣官房総括審議官(国際担当)の井内雅明氏は、「社会対話を踏まえた雇用、労働分野における政策検討とその実施が政府の役割であり、より良い仕事の未来を構築するために、『新たな日常』に向けて事業再構築を進める企業への支援等が重要」と述べ、国際的な結束としては、ILOの開発協力事業を通じて、COVID-19の影響を受けた各国のニーズを踏まえ、必要な開発協力・支援を行っていく姿勢を示しました。

「本シンポジウムの開催は、新型コロナの地球規模での影響を日本で考える機会となった。」と法政大学大学院連帯社会インスティテュートの中村圭介教授は述べました。日本社会がグローバルな取り組みから学ぶところとして、問題は産業別に異なる形で現れる、問題に対して労使が共同で取り組むことが効果的な結果を生む、そして脆弱な労働者のグループへの配慮の必要性をあげ、日本は、現在の危機、あるいは将来の危機に備えて、世界にどのような貢献ができるのか、という問いを提起しました。

議論を通じて明らかになったのは、COVID-19危機により、すでに存在していたものの、これまで対応が不十分であった問題も顕在化したということです。例えばインフォーマル労働者、若者、女性、移民労働者など脆弱な立場のグループが特に打撃を受けています。COVID-19危機を乗り越え、より良い仕事の未来を構築する(Build back better)ためには、社会保障制度を充実させ、それぞれの産業の特性に応じた柔軟な対策を講じる必要があります。その実現に向けて社会対話は不可欠なツールです。このような取組みは持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速させることにもつながります。昨年のILO総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」も課題を解決するための重要な成果物であることを再確認し、政労使および関係者らが前向きな対話を重ねていくことの重要性が強調され、シンポジウムは終了しました。

このシンポジウムの記録は、『大原社会問題研究所雑誌』 2021年4月号に掲載する予定です。
過去のシンポジウムの記録は、同誌のオンライン・ジャーナルでご覧いただけます。