第107回ILO総会

第107回ILO総会閉幕:ILOの政労使三者構成原則は否定的な政治の趨勢や議論に対する「最も強力な対抗手段」と説くライダーILO事務局長

記者発表 | 2018/06/08
第107回ILO総会の閉会演説を行うガイ・ライダーILO事務局長

 日本を含む187のILO加盟国から政府、使用者、労働者の代表など5,000人以上が参加して開かれた2018年の第107回ILO総会は6月8日に2週間の日程を終えて閉幕しました。総会では社会対話と政労使の三者構成原則に関する討議が行われましたが、ガイ・ライダーILO事務局長は閉会演説において、三者構成原則は「仕事の世界に価値を付加するだけでなく、公共の議論や政治の場の議論に見られる否定的な趨勢の一部に対する最も強力な対抗手段」であると説き、社会対話を「育み、守り、実践しよう」と呼びかけました。

 総会ではまた、仕事の世界における暴力と嫌がらせ(ハラスメント)に関する新たな基準制定の可能性について交渉が行われ、ILOが創立100周年を迎える2019年の総会で勧告に補足された条約の採択を目指して審議が再開されることになりました。事務局長は「問題となっている事項の重要性に鑑み、本当にこれは失敗するには大きすぎる問題」と評して議論の結果が前向きなものとなることへの確信を表明しました。

 事務局長は本総会に、改めて男女平等を一押しすることを呼びかける討議資料を提出しました。これについては、「いつも通りのやり方では不十分」と訴え、新たなケア経済に向けた正しい歩み、女性が自分の時間を管理できることの強化、女性の仕事の公正な評価、発言力と代表性の向上、暴力とハラスメントに終止符を打つこと、という五つの政策構成要素がより一層の実を伴う必要性を強調しました。100周年に向けて進められている五つの特別事業の一つである「働く女性イニシアチブ」でまとめられることになっている機会均等・平等待遇を確保するための行動計画は、次の100年の仕事の世界の課題に政労使がより良く対応できるよう導き備えさせることを目的に展開されている「仕事の未来イニシアチブ」の成果物に盛り込まれることになりますが、これについて、事務局長は、「私たちの望む仕事の未来は完全な平等を伴うものでなくてはいけないから」と説明しました。事務局長はまた、アラブ被占領地(パレスチナ及びシリアのゴラン高原)の労働者の状況について、視察団が集め評価した情報を元にまとめた年次報告書を提出しました。

 今年の総会では効果的な開発協力についての話し合いも行われましたが、事務局長はこの議論について、「国連の開発体制の改革が進められている今ほど適時の時はない」として、「この変化する環境の中で将来的な活動の道を描く緊急の必要性を確認させる決定的に重要な政治的な一歩」と評しました。

 今年の総会では、アイルランド大統領中央アフリカ共和国大統領コロンビア大統領の3人の国家元首が演説を行いましたが、いずれの演説でも平和と社会正義を推進する努力におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の役割に光が当てられました。この問題を扱った6月7日の仕事の世界サミットにおけるパネル討議には、g7+のエルデル・ダ・コスタ事務局長、コロンビアの石油会社テルペル社のシルビア・エスコバル社長、コロンビア労働組合連盟(CTC)のロサ・エレナ・フロレス・ゴンサレス書記長、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官、在ジュネーブ国際連合ボスニア政府常駐代表のルチヤ・リュビッチ=レピネ大使、マリのパセレル財団のロキア・トラオレ大使が参加し、紛争や危機、災害から抜け出しつつある国で人間らしく働きがいのある仕事を創り出すことの重要性を中心とした議論を展開しました。

 総会では「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」の採択20周年、「児童労働に反対するグローバルマーチ」の20周年を記念するイベントも開かれました。6月4日に開かれた後者のイベントには、マーチを主導した2014年のノーベル平和賞受賞者のカイラシュ・サティアルティ氏も参加しました。

◎第107回ILO総会諸委員会の主な活動

 第107回ILO総会においては各議題を審議する七つの委員会が設けられました。委員会の結論はそれぞれ本会議に提出されて承認されました。

 2008年に採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」のフォローアップ手続きに基づく反復討議として、社会対話と三者構成原則の問題を扱った委員会は、社会対話と政労使三者構成原則を促進する一連の措置を含む行動の枠組みを新たに設けることを決定しました。委員会の結論は、ILOに対しては、能力構築や開発協力の強化、調査研究・訓練の向上、基準関連活動、政策整合性の改善を通じて、加盟国がILOの基準に沿ってあらゆる形態の社会対話をあらゆるレベルで強化するのを支援するよう求めています。ILO加盟国に対しては、団体交渉権の実効的な承認並びに結社の自由に対する労使及び労使団体の基本的な権利に係わる原則の尊重、促進、実現や実効的な社会対話を可能にする法環境及び制度機構環境の整備を求めています。委員会はまた、社会正義を促進する政策の設計において決定的に重要な役割を演じる社会対話は、結社の自由の尊重と団体交渉権の実効的な承認を基盤としていることを再確認し、社会対話を効果的なものとするカギを握るのは、労使の社会的パートナーの自律性と社会対話の結果の尊重・信頼・誓約、そして自由で独立した、力強く代表的な労使団体であると強調しています。

 条約勧告適用専門家委員会の報告書を元に基準関連事項を検討した基準適用委員会は、報告提出その他の基準関連義務が履行されていない国の問題や、労働者の権利の実行に係わる23件の個別案件を検討し、それぞれについて結論を採択しました。

 委員会では「1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)」の適用に係わる日本の案件も取り上げられました。ほぼ毎回取り上げられていた1970、80年代と異なり、10年ぶりに扱われた公務員の労働基本権の問題について審議した委員会は、政府に対し、以下を実行するための期限を定めた行動計画を社会的パートナー(労使)と共に立てて、その結果を、今年の条約勧告適用専門家委員会に報告することを求めました。

  • 社会的パートナーと協議の上、自律的労使関係制度について慎重に検討すること
  • 消防職員委員会制度の機能改善に向けた政府の活動に関する情報の提供
  • 消防職員について、これを警察と見なす政府の見解等に関して全国レベルの社会的パートナーと協議を行うこと
  • 刑務所職員について、社会的パートナーと協議の上、警察の一部と見なされる職種、見なされない職種について検討すること
  • 社会的パートナーと協議の上、人事院の手続きが中立的で迅速な調停と仲裁を確保しているか否か検討すること

 委員会はまた、労働時間分野の9条約、1議定書、6勧告を対象とした総合調査を行ってまとめられた報告書『Ensuring decent working time for the future(将来に向けた人間らしく働きがいのある労働時間の確保・英語)』を巡る議論も行いました。委員会は、現在仕事の世界で起こっている変容は伝統的な働き方の多くを変えつつあり、作業組織にも影響を与えていることに留意し、今回の議論を時宜を得たものとして評価しました。そして、テレワーキングやオンラインなどのプラットフォーム経済における働き方を含む、新たに登場しつつある労働取り決めに特に言及し、労働者を守り、使用者に平等な活動の地歩を確保するためにも労働時間の適切な規制枠組みの整備が重要との考えを示しました。また、労働時間に関するルールを定め、手引きを提供することによって、労働時間の取り決めが労使双方の具体的なニーズにより良く対応するよう確保する上での労使の重要な役割を強調しました。

 ILOの効果的な開発協力に関する一般討議を行った委員会では、加盟国政労使による「すべての人へのディーセント・ワーク」と持続可能な開発目標の達成を支援する上でのILOの開発協力の今後に関し、活発な議論が繰り広げられました。仕事の世界における変化や、社会、経済、環境面の地球規模のメガトレンドから生じつつある課題や機会の大きさが指摘され、最近採択された国連開発システムの改革に関する国連の決議がとりわけ各国レベルでのILOの業務や支援に与えるであろう影響についても十分な認識が示されました。

 委員会で採択された決議はILO事務局長に対し、採択された結論を関連する国際・地域機関に伝え、それを実行する行動計画を準備するよう求めています。委員会の結論にはILOの今後の開発協力に関する行程表と指導原則が含まれています。指導原則には国の主体性を強めることや、現場に一層大きな影響や結果をもたらすような形でディーセント・ワークの達成に向けたILOの四つの戦略目標を促進すること、あらゆるレベルにおける政策整合、持続可能な開発における民間セクターの役割の増大、能力開発により多くの重点を置くこと、革新的で包摂的なパートナーシップ及び資金調達形態の促進、社会対話を通じた透明性の向上などが含まれています。加盟国を支援し、より提携が強まった国別優先事項への国連の対応に幅広いパートナーと共に参加するためにILOの備えを強めることを意図して策定された行程表は、社会正義と「誰も置き去りにしない」の二つの概念を共に進めるものとなっています。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には既に地球全体の希望と普遍的な目標としてディーセント・ワークが組み込まれていますが、開発協力は依然として、持続可能な開発目標を達成に導くILOの戦略的かつ総合的な手段であり続けるとされました。

 仕事の世界における暴力と嫌がらせ(ハラスメント)に関する基準設定の第1次討議を行った委員会は、勧告に補足された条約の設定に向けて踏み出すことを決定しました。提案されている基準は、仕事の世界における暴力とハラスメントの定義として、「一回限りの出来事か繰り返されるものかを問わず、心身に対する危害あるいは性的・経済的に危害を与えることを目的とするか、そのような危害に帰する、あるいは帰する可能性が高い、一連の許容できない行動様式及び行為またはその脅威と理解されるもの(性差に基づく暴力とハラスメントを含む)」と理解されるべきとし、インターンやボランティア、求職者等までも含み、契約上の地位にかかわらず、あらゆる部門の働く人々を幅広く対象とし、職場だけでなく、通勤途上や出張・イベント中などに発生するものも含むべきとしています。提案されている条約案は、暴力とハラスメントから自由な仕事の世界への権利を認めることを批准国に求め、就労に係わる基本的な原則と権利の尊重・促進・実現や、仕事の世界における暴力とハラスメントを禁止する法規の制定、適切な防止措置や監視措置、被害者支援措置などの整備、研修や手引きの提供などに関する規定が盛り込まれています。勧告案については、時間不足のためにほとんど審議が行われず、今後の検討事項となっています。

 選考委員会からは、6本の条約の廃止と3本の勧告の撤回、地域会議の規則改定、海上の労働に関する条約の改正提案が本会議に提出され、いずれも承認されました。

 他に、総会代表団の委任状とそれに関連する異議を審査する委任状委員会、財務報告や分担金率などの財務事項を扱う財政委員会も設けられました。


 以上は次の2点の2018年6月8日付ジュネーブ発英文広報資料の抄訳です。