協同組合人インタビュー
米岡 良晃氏インタビュー(厚生労働省 雇用環境・均等局 労働者協同組合業務室 室長)
「協同組合人インタビュー(Spotlight Interviews with Co-operators)」は、ILO職員が協同組合および社会的連帯経済に関する業務を通じて出会った、世界中の協同組合人や社会的連帯経済の担い手へのインタビュー・シリーズです。今回ILOは日本の厚生労働省 雇用環境・均等局 労働者協同組合業務室の室長である米岡 良晃氏にお話を伺いました。
2025年06月19日
ご自身について、そして協同組合や社会的連帯経済(SSE)全般に関わるようになったきっかけについて教えてください。
私は2007年に厚生労働省に入省し、障害者福祉や困窮者支援、医療政策、非正規労働対策などの様々な分野に携わってきました。直接的に協同組合制度を担当したのは2024年に労働者協同組合制度の担当室長に着任した時ですが、それまでのキャリアの中でも、福祉施策などの分野では、営利企業による活動に委ねることでは解決できない社会課題が多くあることを実感していました。
日本では、急速な高齢化の進展とともに、社会福祉サービスのニーズが急増しており、サービスの担い手たる事業者の確保が重要な課題となっています。こうした事業の運営主体は、非営利の法人、例えば、社会福祉法人やNPO法人などが多くの割合を占めており、これらに比べると数は少ないながら協同組合も福祉サービスの担い手として活発に活動されています。
日本の協同組合は、消費生活協同組合、農業協同組合、中小企業組合など、様々な事業目的別に順次制度化されてきました。こうした中、新たな協同組合として「労働者協同組合」が法制化され、2022年10月に施行されました。少子高齢化や人口減少が進む我が国において、社会課題の解決に取り組む主体の有力な選択肢が増えたものと考えています。
労働者協同組合事務局はいつ、なぜ設立されましたか?どのような政策目標と課題に取り組むために設立されましたか?
日本で法律を立案又は改正する場合、政府が原案を起草し、国会に提出することが多いのですが、「労働者協同組合法」の場合は、関係団体などからの要望を受けた有志の国会議員が中心となり、10年以上に及ぶ議論の末に法案を立案されました。
そうして成立した労働者協同組合法においては、労働者自身が出資して設立し、自ら運営する新しい協同組合制度を創設することで、
・労働者が、生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労できる機会を確保する、
・労働者協同組合が、地域における多様な需要に応じた事業を行うことにより、持続可能で活力ある地域社会の実現を目指す、
といったビジョンが示されています。
労働者協同組合法が2022年10月に施行されることに伴い、厚生労働省に、新たに担当部署として「労働者協同組合業務室」が設置されました。国民に対するこの制度の周知広報に取り組むとともに、設立された労働者協同組合が適切に運営されるよう、地方自治体による指導監督の仕組みを整備するなど、労働者協同組合制度の普及・発展をミッションとしています。
日本の労働者協同組合は、どのような分野や地域社会にサービスを提供していますか?その社会的・経済的貢献を示す事例はありますか?
労働者協同組合法の施行後、組合の数は順調に増加し、2025年6月1日時点で153法人が設立されています。その事業内容を分類すると、以下のような状況となっています。
・福祉関係の事業(高齢者介護、障害福祉、子育て支援、困窮者支援)が多く、全体の約3割を占める。
・消費生活協同組合の店舗運営や配送の事業も多く、約2割を占める。
・その他にも、地域の困りごと解決、家事・清掃、農産物の生産・加工、キャンプ場経営など、様々な事業が実施されている。
また、こうした労働者協同組合による事業活動は、以下のような社会的・経済的な貢献に繋がっています。
・労働者協同組合は、少子高齢化や人口減少が進む地域等において、営利企業が参入しづらい分野での社会課題の解決に取り組んでいる。
・働き方や仕事内容を組合員が自ら話し合って決めるという労働者協同組合の特色から、女性や高齢者、障害者など多様な人材が活躍しやすい環境の整備に繋がっている。
・ボランティアではなく賃金の支払いを前提とした「仕事おこし」に繋がり、地域経済の活性化にも寄与している。
在の法制度のもとで、労働者協同組合が成長し、持続可能に運営していくために、どのような支援が提供されていますか?
日本の労働者協同組合法は、施行後2年半あまりという新しい制度であり、国民の皆様にこの制度を有効に活用していただき、より多くの組合が設立されるように促していくとともに、設立された組合が関連法令やコンプラインアンスを遵守して適切に運営されるよう指導等をしていくことが、厚生労働省としての当面のミッションと考えています。
このため、国民向けのオンラインセミナーを開催し、労働者協同組合の設立や運営に関するノウハウ等を発信するとともに、既に活動している組合の事業内容の紹介なども行っています。また、全国で5つの地域をモデル地域として指定し、地方自治体や多様な協同組合の関係者、労働者団体や使用者団体などとも連携しながら、労働者協同組合による新たな事業モデルや雇用の創出にも取り組んでいます。
一方で、既に設立された労働者協同組合には小規模な法人が多いため、持続可能で安定的な事業運営を目指す上で苦労されている組合も少なくありません。今後、労働者協同組合の運営実態やニーズの把握にも取り組み、制度の更なる改善に向けて取り組んでいくことも必要と考えています。
今後、労働者協同組合の可能性をどのようにお考えですか?日本の社会課題の解決にどのように貢献できるでしょうか?
日本は、本格的な「少子高齢化・人口減少時代」を迎えようとしており、
・経済社会の担い手となる労働力を確保するため、女性や高齢者をはじめ誰もが安心して希望どおり働き、活躍できる社会を実現すること、
・増大する医療・介護ニーズに対応するための社会保障サービスの提供体制を確保すること、
・人々が孤独・孤立に陥らず安心して暮らせる社会を目指し、地域住民による「支え合い」の機能を強化すること、
などが、政府として取り組むべき重要な課題となっています。
労働者協同組合は、先ほどもお答えしたとおり、多様な人材が活躍しやすいという特色を持っており、また、既に設立された組合では、地域住民等が担い手となって、福祉事業や地域コミュニティの活性化など、それぞれの身近な地域の課題解決に資する事業に取り組んでいます。こうした実態を見ても、労働者協同組合は、まさに現代日本が直面する社会課題の解決の有力な担い手となり得るポテンシャルを持っていると期待しています。
今後とも、労働者協同組合の更なる普及・発展を目指して、しっかりと取り組んでまいります。