労働規制

危機後の雇用を巡る複雑な現状に取り組んだディーセント・ワークのための規制研究ネットワーク第4回会合

2015年07月14日

英国・ダーラム法科大学院のディアドリ・マッカン準教授

 労働市場の規制が21世紀の勤労生活の要求に応える能力を有するか否かは、2008年に始まった経済ショック以前から疑問視されていました。何らかの形で多くの国にその余波がいまだに残っている危機を抜け出した今、新たなモデルが緊急に必要なことが明白になりました。若者を中心に深刻化する失業問題、非常に不安定な仕事の増加、働く貧困層(ワーキング・プア)の拡大、不平等の破壊的影響、しばしば仕事の質が極めて低いインフォーマル経済の膨張と定着などといった、危機をきっかけとして発生・拡大した勤労生活における変化は世界中の政策関係者に大きな課題を提起しています。このような傾向は労働力の多くが現行の規制枠組みが想定している就業モデルとは異なる働き方をしていることを意味しています。その上、緊縮政策はこういった労働者保護の枠組みの社会的・経済的利益を認めることなく、その解体を迫っています。

 7月8~10日にジュネーブのILO本部で開かれた「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)のための規制(RDW)研究ネットワーク」の第4回会合では世界各地から集まった300人以上の研究者や政策関係者が危機後の世界における労働規制のあり方について意見を交換し、不平等や不安定性、緊縮政策の影響など、仕事の未来を巡る世界的な議論の最前線にある様々な問題を探究し、ディーセント・ワークを提供するには、堅固なマクロ経済・貿易・投資政策と並び、労働規制が決定的に重要であるという点で合意に達しました。

 会議の組織委員会で調整役を務めた英国・ダーラム法科大学院のディアドリ・マッカン準教授は会議の内容をこのようにまとめた上で、必要なのは規制緩和ではなく、むしろ、「有意義な実行・執行の仕組みを伴ったしっかりとした規制枠組み」であると説き、すべての労働者を守りつつ、必要に応じて女性や移民、若者のような伝統的に不利な立場にある集団の特定のニーズに対応する、最も効果的な規制形態の特定に焦点を当てるべきと論じています。

 会議で発表された様々な調査研究プロジェクトは労働規制の重要性を再確認させるものでしたが、同時に伝統的な規制形態を革新的なメカニズムと統合するように規制体系を再形成する必要性を推測させました。会議では例えば、脆弱な人口層の所得保障を確保する方法、インフォーマルな就労形態などにおける組織化の新たな方法を促進する手段、世界的な価値連鎖(グローバル・バリューチェーン)の全体にわたって労働者の権利を確保する方法、労働市場の規制を開発戦略に効果的に組み込む方法などが検討されました。

 会議では現代の労働規制のカギを握る課題は、許容できない労働形態が世界的にその重要度を増してきている点であることが確認されました。ILOが「就労に係わる基本的な原則と権利が否定され、労働者の生命、健康、自由、人間としての尊厳、安全保障が脅かされているか世帯を極度の貧困状態に留めるような条件の下で遂行されている仕事」と定義づけているこの就労形態に取り組む上での中心的な問題は、そのような労働形態の多くが伝統的な規制手段の及ばない位置に存在しているという点であり、したがってこういった保護されていない集団に労働者の権利を拡大する法と執行の仕組みが必要なのです。これは見過ごされている労働者が必要としている種類の保護を提供するような革新的で対象を定めた仕組みを従来の規制と組み合わせた機構でなくてはなりません。しかし、これを実現できる手法はまだ確定されておらず、したがって、様々な状況に合わせて革新的な規制形態を設計・試行し、その効果を調べ、必要な調整を加える実験が必要です。

 その一つの重要な分野が、2011年の家事労働者条約(第189号)採択以後に様々な国で成立した一連の新しい法です。今回の会議でもアルゼンチンやインド、中国や日本など様々な国の法的枠組みが、家事労働者に対する保護を向上させる展望のみならず、労働規制の未来にとってのより幅広い教訓を導き得るとの観点から熱心に議論されました。中でも最も重要で革新的な法体系は家事労働の特異性に対処し、住み込み家事労働者の特別のニーズを認め、家事労働を含むように社会的保護制度を改革し、個人宅を含むように執行の仕組みを拡充し、代表メカニズムや労働時間の枠組み、賃金支払い方法を定め直す創造的な方法を提供しています。会議で提案されたように、このような革新の精神をより幅広く採用する必要があります。家事労働法から導き出されたテクニックは臨時労働者やインフォーマル就労者などのこの他の見過ごされている集団を保護する取り組みに組み込むことができます。家事労働の規制経験はより幅広く、普遍的な規範の効果的な実行にとって極めて重要なアイデアを示しています。労働規制の未来がディーセント・ワークを確保することにあるならば、危機後の複雑な就業形態や効果的な規制に関するそのような教訓を吸収することが必要不可欠なのです。

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 以上はダーラム法科大学院のディアドリ・マッカン準教授による英文論評の抄訳です。

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