1924年の余暇利用勧告(第21号)

ILO勧告 | 1924/07/05

労働者の余暇利用施設の発達に関する勧告(第21号)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千四年六月一日にその第九十二回会期として会合し、本会期の議事日程の第七議題である複数の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千四年六月十六日に、千九百二十四年の余暇利用勧告(第二十一号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百二十四年六月十六日を以て其の第六回会議を開催し、
 右会議の会議事項の第一項目たる労働者の余暇利用施設の発達に関する提案の採択を決議し、且
 右提案は勧告の形式に依るべきものなることを決定し、
 国際労働機関の締盟国をして立法其の他の方法に依り之が実現を為さしむる目的を以て考慮せしむる為、国際労働機関憲章の規定に従ひ、千九百二十四年七月五日、千九百二十四年の余暇利用勧告と称せらるべき左の勧告を採択す。
 国際労働機関の総会は、華盛頓に於て開催せられたる其の第一回会議が労働時間に関する条約を採択するに際し、睡眠の為必要なる時間の外、労働者が其の欲する所を為し得べき適当なる期間換言すれば適当なる余暇期間を労働者の為確保することを其の主たる目的の一としたるに因り、
 労働者は、右余暇中其の身体上、智能上及道徳上の能力を其の各自の嗜好に従ひ自由に発達せしむるの機会を有し、且右の発達は、文明の進歩の見地より大なる価値あるものなるに因り、
 右余暇の良好なる使用は、一層多様なる趣味を追求するの手段を労働者に与へ、又其の平常の作業に依り之に加へらるる過労を緩和することを得しめ、以て労働者の生産能力を増進し且其の生産高を増加すべく、従て一日八時間制より最大限度の成績を挙ぐることを助くるを得べきに因り、
 各国に於て行はるる慣習及地方の事情は、充分之を重要視するものなりと雖、余暇期間の最善の使用を確保するに一般に最適するものと現在認めらるる原則及方法を定むることは有用なるべく、且右の方針に基き為されたる所を一切の国の為に知らしむることは、亦有益なるべきに因り、且
 右の情報の価値は、労働時間に関する条約の批准が国際労働機関の締盟国に依り考慮せらるるに際し殊に大なるに因り、総会は、以下の通勧告を為す。

I 余暇の保全

 法令、労働協約其の他の方法に依り労働時間に制限の加へられたる国に於て、右の措置より予期せらるる一切の利益を賃金労働者の為にも亦公共の為にも得むとするときは、労働者が前記に依り之に与へられたる余暇時間を充分に享受することを確保する為措置を執るを要することに意見一致したるに因り、
 一方に於て労働者は、之に与へられたる余暇期間の価値を充分認むべく且此の余暇の損はるることを防ぐ為如何なる事情の下に於ても其の全力を竭すべきこと、又他方に於て使用者は、労働者をして其の余暇期間中時間外賃金労働に従事することを不必要ならしむる為労働者の必要に充分応ずる賃金を定むるを常に主眼とすべきこと重要なるに因り、且
 法定の労働時間を超えて同一又は他の使用者の為にする本職たる賃金労働を継続することの禁止は、実施困難なりと認められ、且労働者の余暇時間を其の欲する通使用するの権利をときとして侵害することあるべしと雖、総会は、多数の国に於て右の方針に基き執られたる措置に付注意を促すことを認むるに因り、
 総会は、法定の労働時間に対し労働者に正常の生活標準を確保すべく且使用者及労働者間の任意の合意に依り労働者の時間外賃金労働に従事することを防ぐ為執るべき措置を決定すべき労働協約の締結を各国政府が奨励し且容易ならしむべきことを勧告す。
 且労働者をして前記に依り之に確保せられたる余暇期間を最善く利用するを得しむる為一切の便宜を之に与ふべきことに意見一致したるに因り、総会は、左の通勧告す。
 (a) 各締盟国は、各種産業の必要、地方の慣行竝各種労働者の各種の能力及習性を相当に参酌すると共に、余暇期間を能ふ限り継続的ならしむる様労働時間を按配するの手段を考慮すべきこと。
 (b) 好く考案せられたる運送系統に依り竝乗車賃及時間表に関する特殊の便宜を与ふるに依り、労働者をして其の家庭と作業場との間の往復に於て費す時間を最少限度迄短縮するを得しむべきこと。又使用者団体及労働者団体は、斯る系統を得るの最善の手段に関し、公の運送機関又は私の運送企業に依り広く協議せらるべきこと。

II 余暇と社会衛生

 労働者の余暇期間の利用は、社会の一切の階級の健康及福利を増進する為公共に依り執らるる一般の措置より之を分離するを得ざるに因り、総会は、大なる福利問題にして其の解決が労働者の状態を改善するに貢献すべきものを各詳細に研究することは姑く措き、締盟国に左記を勧告す。
 (a) 公衆浴場、水泳「プール」等の施設に依る個人衛生の奨励
 (b) 酒精濫用、結核、花柳病及賭博に対する立法措置又は私の措置

III 住宅政策

 労働者の家庭生活の調和ある発達を促す一切のことを奨励するは、労働者及総ての公共の為有益なるに因り、且
 労働者を前記の危険より保護するの最有効なる手段は、適当なる家庭を有せしむるに在るに因り、
 総会は、必要あるときは、関係ある国又は地方の機関と協力の上、田園都市又は郊外に於て健康及慰楽の相当なる条件を具へ借賃低廉にして健康に適する住宅の数を増加することを勧告す。

IV 余暇利用の営造物

1 労働者に其の各自の嗜好を自由に発揮するの機会を与ふる多数の営造物は、各国又は各地方の風習の如何に依り発達するものなるも、其の間に差別を設くることなく、総会は、明確なる需要に副はざる営造物の設置より生ずる不適切なる活動を回避するの必要に付締盟国の注意を促す。総会は、右営造物の設置及発達に付其の受益者たるべき労働者の希望、嗜好及特殊の要求を参酌するの重要なることを力説せむと欲す。
2 同時に個人及家の充分にして調和ある発達を助け且公共の一般進歩に貢献すべき営造物の中に於て、総会は、左記を目的とする企図を勧告す。
 (a) 休養の利益と多少なりとも家の財源を増加するの感情とを結合する労働者の家庭経済及家庭生活の改善(庭園、小圃、家禽飼養等)
 (b) 近代産業に於て行はるる極めて専門化せる状態の下に労働する年少労働者をして自発心及競争精神を鼓舞する様其の精力を自由に伸張するを得しむる運動競技に依る労働者の身体の健康及体力の増進
 (c) 労働者の最痛切に感ずる需要の一に応じ且産業社会に進歩の最善の手段を与ふる技術教育、家庭教育及一般教育の普及(図書館、読書室、講話、技術課程及一般課程等)
3 尚総会は、締盟国が労働者の道徳上、智能上及身体上の発達に関係ある団体に補助を付与するに依り、此の種の活動を奨励すべきことを勧告す。

V 営造物の自由なる使用及地方的活動の調整

 過去多年間大産業国の労働者は、其の工場又は手工場の外に於て充分なる自由及独立を以て生活することを確保する様常に力め、其の私事に対する如何なる外部の干渉をも殊に嫌悪し、且右の感情は、頗る強くして余暇使用問題を国内的にも国際的にも処理する一切の企図に対し該企図が労働者の自由を束縛することあるべきを虞れ、反対を惹起するに至れるに因り、
 総会は、労働者の余暇の賢明なる使用を奨励する為の営造物の創設を誘導したる動機に付敬意を表明するも、特定の営造物を使用することを直接又は間接に労働者に強要するの傾向を有する制度又は企図に対し、労働者の個人の自由を保障するの必要に付、締盟国が右の営造物の主導者の注意を促すべきことを提議するものなるに因り、且
 受益者自身に依り創設せられ且発達せしめらるる営造物が最実際的にして成功するものなるに因り、総会は、多くの場合に於て公の機関又は使用者が小圃、競技又は教育的営造物の奨励の為金銭其の他の援助を与へ従て之が経営に参加するの正当なる請求を為し得ることを認むるも、右営造物の受益者の自由に対する侵害を回避する為有らゆる注意を用ふべきことを勧告す。
 余暇使用の系統的組織は、之を考慮せざるも、該使用を助くるためなされたる多数の成功せる努力に留意し、総会は、各締盟国が休養の手段を与ふる各種の営造物の活動を調整し且調和する為、公の機関、使用者団体、労働者団体及産業組合の各代表者より成る大地方又は小地方の委員会の設立を促進するの能否を考慮すべきことを尚勧告す。
 尚総会は、労働者の余暇の使用を適当ならしむべしとするの世論を涵養するの目的を以て、積極的にして有効なる宣伝を各国に於て企つべきことを締盟国に勧告す。