1957年の土民及び種族民勧告(第104号)

ILO勧告 | 1957/06/26

独立国における土民並びに他の種族民及び半種族民の保護及び同化に関する勧告(第104号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百五十七年六月五日にその第四十回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第六議題である独立国における土民並びに他の種族民及び半種族民の保護及び同化に対する提案の採択を決定し、
 この提案が千九百五十七年の土民及び種族民条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定し、
 次の基準が、国際連合、国際連合食糧農業機関、国際連合教育科学文化機関及び世界保健機関の協力を得て、適切な水準において及びそれぞれの分野において設定されたこと並びに、その基準の適用を促進し、かつ、確保するに当つては、引き続き前記の諸機関の協力を求めることが提案されていることに留意して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百五十七年の土民及び種族民勧告と称することができる。)を千九百五十七年六月二十六日に採択する。
 総会は各加盟国が次の規定を適用することを勧告する。

Ⅰ 一般規定

1(1) この勧告は、次の者に適用する。
  (a) 独立国における種族民又は半種族民で、その者の社会的及び経済的状態が、その国の共同社会の他の部類の者が到達している段階より低い段階にあり、かつ、その地位が、自己の慣習若しくは伝統により又は特別の法令によつて全部又は一部規制されているものの構成員
  (b) 独立国における種族民又は半種族民で、征服又は殖民の時に当該国又は当該国が地理的に属する地方に居住していた住民の子孫であるため土民とみなされ、かつ、法律上の地位のいかんを問わず、その属する国の制度に従うよりは、征服又は殖民の時の社会的、経済的及び文化的制度に従つて生活しているものの構成員
 (2) この勧告の適用上、「半種族民」とは、その種族的特性を失う過程にあるが、まだその国の共同社会に同化されていない集団をいう。
 (3) (1)及び(2)にいう土民及び他の種族民又は半種族民は、以下「関係住民」という。

Ⅱ 土地

2 関係住民が土地を使用する事実上の又は法律上の条件を規制するため、立法上又は行政上の措置を執るべきである。
3(1) 関係住民は、一層よい耕作法が導入されない限り代田式耕作に適した予備地を保障されるべきである。
 (2) 半遊牧民の集団に対する定住政策の目的が達成されるまで、このような集団が家畜を支障なく放牧しうる区域を設定すべきである。
4 関係住民の構成員は、地下資源の所有権に関し又はこのような資源の開発に対する優先権に関して、その国の他の構成員と同一の待遇を受けるべきである。
5(1) 関係住民の構成員が所有する土地をこれらの種族民に属しない者又は団体に直接又は間接に賃貸することは、法律により定められる特別の場合を除いて、制限すべきである。
 (2) このような賃貸が認められる場合には、所有者に適正な賃料を支払うことを確保するための措置を執るべきである。集団が所有する土地について支払われる賃料は、その土地を所有する集団の利益のため、適当な規則に基いて使用されるべきである。
6 関係住民の構成員が所有する土地について同住民に属しない者又は団体の抵当権を設定することは、制限すべきである。
7 関係住民に属する農民の負債をなくするため、適当な措置を執るべきである。信用協同組合制度を組織すべきであり、また、農民がその土地を開発することができるよう、低利率の貸付金、技術援助及び適当な場合には補助金を、その農民に供与すべきである。
8 適当な場合には、生産、供給及び販売の近代的な協同方式は、関係住民の間における土地及び生産用具の共同所有及び共同使用についての伝統的様式並びに共同社会役務及び相互援助の伝統的制度に適応すべきである。

Ⅲ 募集及び雇用条件

9 関係住民に属する労働者の募集は、同住民が法律により一般的に労働者に与えられる保護を享有する地位にないときは、特に次のことを規定することにより規制すべきである。
  (a) 民間募集業者に対する許可制度を設け、かつ、その活動を監督すること。
  (b) 特に次の措置を執ることにより、労働者の募集がその者の家庭生活及び共同社会生活を害しないよう保証すること。
   (i)  特定の期間及び特定の地域における募集を禁止すること。
   (ii)  労働者がその出身社会との接触を保ち、かつ、その社会の重要な種族的活動に参加できるようにすること。
   (iii) 募集された労働者の被扶養者の保護を確保すること。
  (c) 募集のための最低年令を決定し、及び未成年労働者の募集に関する特別の条件を設定すること。
  (d) 労働者が募集の際に満たすべき健康条件を設定すること。
  (e) 募集された労働者の輸送のための基準を設定すること。
  (f) 次のことを確保すること。
   (i)  労働者がその母語による説明によつてその雇用条件を理解すること。
   (ii) 労働者がその雇用条件を自由に、かつ、十分な理解の上で受諾すること。
10 関係住民に属する労働者の賃金及び個人の自由は、当該住民が法律により一般的に労働者に対して与えられる保護を享有する地位にないときは、特に次のことを規定することにより保護すべきである。
  (a) 賃金は、通常、法貨で支払うこと。
  (b) 賃金の一部をアルコールその他のアルコール性飲料又は有害な薬品の形で支払うことを禁止すること。
  (c) 居酒屋又は商店での賃金の支払は、その場所で使用される労働者に対する場合を除き、禁止すること。
  (d) 賃金前貸しの最高額及びその償還方法、並びに賃金からの控除を許容しうる限度及び条件を規制すること。
  (e) 企業との関連において経営される工場売店又は同様の施設を監督すること。
  (f) 負債又は労働契約の不履行を理由として、労働者が通常使用する物品及び道具を、権限のある司法機関又は行政機関の事前の承認を受けることなく、押収し又は没収することを禁止すること。
  (g) 負債を理由として労働者の個人の自由に対し干渉することを禁止すること。
11 募集者又は使用者の費用で労働者がその出身社会へ送還を受ける権利は、次のすべての場合に確保すべきである。
  (a) 労働者が雇用の場所への旅行中又は雇用中に病気又は災害によつて労働不能となつた場合
  (b) 労働者が健康検査の結果雇用に不適であると判断された場合
  (c) 労働者が雇用のために移送された後、自己の責任に帰することのできない理由によつて雇用されない場合
  (d) 労働者が詐欺又は誤りによつて募集されたことを権限のある機関が発見した場合
12(1) 関係住民に属する労働者が近代社会における労使関係の概念及び方式に適応することを促進するための措置を執るべきである。
 (2) 必要があるときは、関係のある労働者及び使用者の代表者との協議の上で、雇用契約の標準型を作成すべきである。このような契約は、労働者及び使用者のそれぞれの権利及び義務並びに契約が終了する条件を定めるべきである。この契約の遵守を確保するため、適当な措置を執るべきである。
13(1) 雇用の中心地又はその周辺における労働者及びその家族の安定が、関係労働者の利益及び関係国の経済の利益となる場合には、法律に従つてそのような安定を促進するための措置を執るべきである。
 (2) このような措置を適用するに当り、関係住民に属する労働者及びその家族が、新たな社会的及び経済的環境の生活及び労働の様式に順応する問題について、特別の注意を払うべきである。
14 関係住民に属する労働者の移住が、同労働者及びその出身社会の利益に反すると考えられる場合には、同労働者が伝統的に居住している地域における生活水準を向上させることを目的とする措置により、その移住を阻止すべきである。
15(1) 政府は、関係住民に属する労働者が多数募集される地域に、定置の又は移動の公共職業安定機関を設置すべきである。
 (2) このような機関は、労働者が職業を見いだし、また、使用者が労働者を見いだすことを援助することのほか、次のことを行うべきである。
  (a) 関係住民の居住する地域に社会的及び経済的動揺をもたらすことなく、この地域で調達しうる労働力によつて、その国の他の地方の労働力の不足を補充しうる限度を決定すること。
  (b) 賃金、住宅、業務災害給付、輸送及び他の雇用条件に関する法律、規則及び契約に含まれる規定で労働者及びその使用者に関係のあるものについて、それらの者に助言すること。
  (c) 関係住民の保護を確保するための法令の実施について責任を有する機関と協力すること並びに、必要があるときは、関係住民に属する労働者の募集及び雇用条件に関する手続について監督の責任を負うこと。

Ⅳ 職業訓練

16 関係住民に対する職業訓練計画は、同住民の構成員を指導員として訓練することに関する規定を含むべきである。指導員は、自己の教えることを同住民の特殊な条件及び必要に適応させることができるような技術(できれば、人類学的及び心理学的要因に対する知識を含む。)に精通していなければならない。
17 関係住民の構成員の職業訓練は、実行可能な限り、それらの者が居住する場所の周辺又はそれらの者が働く場所で行うべきである。
18 同化の初期の段階においては、この訓練は、できる限り関係集団の土語によつて行うべきである。
19 関係住民に対する職業訓練計画は、自営労働者が必要な材料及び設備を取得することができるようにするため、並びに賃金労働者がその資格に適した職業を見いだすことを助けるための援助措置と調整されるべきである。
20 関係住民に対する職業訓練の計画及び方法は、基礎教育の計画及び方法と調整されるべきである。
21 関係住民の構成員は、職業訓練の期間中、提供される施設を利用することができるようすべての可能な援助(できれば奨学金を含む。)が与えられるべきである。

Ⅴ 手工業及び農村工業

22 関係住民の間の手工業及び農村工業を奨励するための計画は、特に次のことを目的とすべきである。
  (a) 作業の技術及び方法並びに労働条件を改善すること。
  (b) 信用の供与、独占的支配からの保護、仲介者による搾取からの保護、適正な価格による原料の供給、技能基準の設定並びに生産品の意匠及び美的特色の保護を含めて、生産及び販売をあらゆる面について発達させること。
  (c) 協同組合の結成を奨励すること。

Ⅵ 社会保障及び援助措置

23 関係住民に属する労働者に対し社会保障制度を拡張するに当つては、事情に応じて、これらの労働者の一般の社会的及び経済的状態を改善する措置が先行するか又は併行すべきである。
24 自営の農業生産者の場合には、次のことに関して措置を執るべきである。
  (a) 近代式農法の教授
  (b) 用具、家畜、種子等の供給
  (c) 作物又は家畜に対する自然的災害の結果生ずる生活手段の喪失に対する保護

Ⅶ 保健

25 関係住民に対し、その構成員の健康に注意するため、その共同社会に地方保健委員会を組織することを奨励すべきである。このような機関の結成には、この機関を十分に利用することを確保するため、適当な教育的努力が伴うべきである。
26(1) 関係住民の構成員が、その国の通常の施設によつて補助的保健職員又は専門的医療衛生職員としての訓練を受けることができない場合には、このような訓練のための特別施設を設けるべきである。
 (2) このような特別施設を設けることが、関係住民の構成員から通常の施設による訓練を受ける機会を奪うこととならないように留意すべきである。
27 関係住民の間で働く専門的保健職員は、その仕事を同住民の文化的特性に適応させることができるよう、人類学的及び心理学的方法について訓練を受けるべきである。

Ⅷ 教育

28 関係住民に属する児童に対する読み書きの教授及び教授の手段としての母語又は土語の利用に最も適当な方法を決定するため、科学的研究を行い、かつ、この研究に資金を供与すべきである。
29 関係住民の間で働く教員は、その仕事を同住民の文化的特性に適応させることができるよう、人類学的及び心理学的方法について訓練を受けるべきである。これらの教員は、できる限り、この住民の中から募集すべきである。
30 予備職業教育は、関係住民に対して行う初等教育計画の中に導入されるべきであり、また、農業、手工業農村工業及び家事経済に関連する学科の教授に重点をおくべきである。
31 初歩的な保健教育は、関係住民に対して行う初等教育計画の中に含めるべきである。
32 関係住民の初等教育は、できる限り、基礎教育運動によつて補足すべきである。この運動は、児童及び成年者がその環境の問題並びに市民として、また、個人としてのその権利及び義務の問題を理解することを助け、もつて同住民がその共同社会の経済的及び社会的進歩に一層有利に参加することができるようにすべきである。

Ⅸ 言語及び他の伝達手段

33 適当な場合には、関係住民の同化は、次のことによつて促進すべきである。
  (a) 関係住民の土語及び方言の専門用語及び法令用語の数を豊富にすること。
  (b) 土語及び方言を書くため、アルファベットを定めること。
  (c) 関係住民の教育的及び文化的水準に適応する読本を土語又は方言を用いて出版すること。
  (d) 二国語併用の辞書を出版すること。
34 視聴覚方法を関係住民の間の伝達手段として利用すべきである。

Ⅹ 国境地帯の種族集団

35(1) 適当かつ可能な場合には、その伝統的な版図が国境を越えて存在する半遊牧の集団を保護するため、関係政府間の協定によつて国際的措置を執るべきである。
 (2) このような措置は、特に次のことを目的とすべきである。
  (a) 他の国で働く前記の集団の構成員が、雇用の地域で実施されている基準に基く公正な賃金を受けることを確保すること。
  (b) これらの労働者が、その国籍又は半遊牧的性格のために差別待遇を受けることなく、その生活条件を改善するよう援助すること。

ⅩI 行政

36 次のことを目的とする行政的措置は、その措置を執るため特に設置された政府機関により、又は他の政府機関の活動の適当な調整を通じて執るべきである。
  (a) 関係住民の保護及び同化に関する立法上及び行政上の規定の実施を確保すること。
  (b) 関係住民の構成員が、土地を有効に所有し、及び他の天然資源を利用することを確保すること。
  (c) 関係住民の利益のため必要な場合には、その財産及び所得を管理すること。
  (d) 法律扶助を必要とするがその費用のない関係住民の構成員に、その扶助を無償で提供すること。
  (e) 関係住民のため、教育及び保健施設を設置し、かつ、維持すること。
  (f) 関係住民の生活様式について及び同住民がその国の共同社会に同化する過程についての理解を容易にすることを目的とする研究を促進すること。
  (g) 関係住民に属する労働者が、その置かれる産業的環境に慣れないため、搾取されることを防止すること。
  (h) 適当な場合には、関係住民が居住する地方において個人及び公私の法人が行う慈善活動及び営利活動を、保護及び同化計画の範囲内で、監督し及び調整すること。
37(1) 関係住民の保護及び同化について特に責任を有する国内機関は、同住民の数が多い地域に地方センターを設けるべきである。
 (2) これらの機関には、遂行すべき特殊の仕事のため選抜され、かつ、訓練された職員を置くべきである。これらの職員は、できる限り関係住民の構成員の中から募集すべきである。