1960年の放射線防護勧告(第114号)

ILO勧告 | 1960/06/22

電離放射線からの労働者の防護に関する勧告(第114号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十年六月一日にその第四十四回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第四議題である電離放射線からの労働者の防護に関する提案の採択を決定し、
 この提案が千九百六十年の放射線防護条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の勧告(引用に際しては、千九百六十年の放射線防護勧告と称することができる。)を千九百六十年六月二十二日に採択する。

Ⅰ 一般規定

1 この勧告は、法令、実施細則又は他の適当な方法により、実施すべきである。この勧告の規定を適用するに当たつて、権限のある機関は、使用者及び労働者の代表者と協議すべきである。
2(1) この勧告は、作業の過程において労働者を電離放射線に被曝(ばく)させるすべての活動に適用する。
 (2) この勧告は、密封又は非密封の放射性物質及び電離放射線発生装置であつて、これらから受ける電離放射線の線量が一定の限度であるため、1にいうこの勧告を実施するためのいずれかの方法によりこの勧告の規定の適用を免除されるものには適用しない。
3 千九百六十年の放射線防護条約第三条2の規定の実施のため、すべての加盟国は、国際放射線防護委員会が随時行なう勧告及び他の権限のある機関の採択する基準に対し十分な考慮を払うべきである。

Ⅱ 最大許容水準

4 千九百六十年の放射線防護条約第六条、第七条及び第八条に掲げる水準は、国際放射線防護委員会が随時勧告する当該数値を十分に考慮して定めるべきである。さらに、体内に摂取することができる空中及び水中の放射性物質の最大許容濃度はこれらの水準に基づいて定めるべきである。
5 千九百六十年の放射線防護条約第六条、第七条及び第八条に掲げる最大許容水準並びに、4に掲げる体内に摂取することができる空中及び水中の最大許容濃度をこえないことを確保するため、集団的及び個人的防護について適切な措置がとられるべきである。

Ⅲ 有資格者

6 使用者は、放射線防護問題を企業のために担当する有資格者を任命すべきである。

Ⅳ 防護方法

7(1) 集団的防護方法により有効な防護が確保される場合には、施設面及び作業面のいずれについてもこれが優先すべきである。
 (2) 集団的防護方法で不十分な場合には、個人的防護設備を使用し、及び必要に応じ、適切な防護措置をとるべきである。
8(1) 防護装置、器械及び器具は、すべて、それが意図する目的を達成するように設計されるか又は改造されるべきである。
 (2) 防護装置、器械及び器具について、それが好調であるか、満足に操作されているか、適切に配置されているか、所要の防護機能を果たしているかどうかを確認する目的で、定期検査を行なうためのあらゆる適切な措置をとるべきである。特に、防護装置、器械及び器具は、使用前及び作業工程、設備又は遮蔽(しゃへい)に変更を生じたときは、そのつど検査すべきである。
 (3) 防護装置、器械及び器具に発見されたいかなる欠陥も、直ちに修理すべきである。もし、必要ならば、このような欠陥があるものが取り付けられている設備は、直ちに使用をやめ、欠陥が除去されるまで使用すべきではない。
 (4) 権限のある機関は、防護設備、特に監視設備の主要な点について適切な方法で、かつ、定期的に検査することを要求すべきである。
9(1) 非密封線源は、その毒性に対し十分な考慮を払つて取り扱うべきである。
 (2) 取扱方法は、放射性物質が体内に侵入する危険及び放射性汚染の拡大を最小限度にとどめる見地から選定すべきである。
10 あらかじめ、次のことについて計画を樹立すべきである。
  (a) 放射性汚染の危険のある放射性物質の密封線源からの漏洩(えい)又は同線源の破損を、できるだけ急速に検知すること。
  (b) 必要な場合には、すべての関係機関の即時の協力を得て、放射性汚染の拡大を防止するため、及び除染を含むその他の適当な安全予防手段を適用するため、直ちに改善措置をとること。
11 労働者を電離放射線による被曝(ばく)を含む線源及びこのような被曝(ばく)又は放射性汚染のおそれのある区域は、適当な場合には、わかりやすい警戒手段で表示すべきである。
12 企業が使用又は貯蔵する放射性物質のすべての線源については、密封たると非密封たるとを問わず、適当に記録しておくべきである。
13(1) 権限のある機関は、放射性物質を使用又は所有する使用者又は企業に対し、これらの物質の使用について所定の様式に従い報告を提出するよう要求すべきである。
 (2) 権限のある機関は、放射性物質を使用しない場合にそれを貯蔵しておくべき条件を定めるべきである。
14 いかなる放射性物質も、権限のある機関の定める通告を行なうことなく、他の使用者又は企業へ移動されるべきではない。
15(1) 放射性線源の紛失、置き忘れ、盗難又は損傷があつたと信ずる理由のある者は、6に掲げる有資格者に対し、又はこれが不可能なときは、有資格者にできる限りすみやかに通報すべき責任を有する他の者に対し、直ちに通報すべきである。
 (2) 紛失、盗難又は損傷が確認された場合には、権限のある機関に対し、遅滞なく通報すべきである。
16 放射線作業に姙娠(にんしん)可能な年令の婦人を従事させることに伴う特殊の医学的問題の見地から、当該婦人が強度の放射線の危険にさらされないようにするためあらゆる考慮を払うべきである。

Ⅴ 監視

17(1) 適用されている水準が守られているかどうかを確認する見地から、電離放射線及び放射線物質による労働者の被曝(ばく)を測定するため、適切な監視が労働者及び作業場について行なわれるべきである。
 (2) この監視は、外部放射線については、フィルム、線量計その他の適当な方法で行なわれるべきである。
 (3) この監視は、内部放射線については、最大許容水準に近いか、又はそれをこえたと信ずる理由のある場合には、次の事項に関する検査を含むべきである。
  (a) 放射線汚染
  (b) 実行可能なときは、体内負荷量
 (4) 監視は、全身被曝(ばく)の測定のほか、最大の障害を受けるおそれのある身体の部分に対する部分被曝(ばく)の測定を可能にするものであるべきである。
18 権限のある機関は、適当なときは、作業場を離れる者の手、身体及び衣服の汚染を検知する目的で検査を行なうことを要求すべきである。
19 千九百六十年の放射線防護条約及びこの勧告の規定に従つて監視を行なう者は、この業務を遂行するのに十分な設備及び便宜を提供されるべきである。

Ⅵ 医学的検査

20 千九百六十年の放射線防護条約に掲げるすべての医学的検査は、適当な資格を有する医師によつて実施されるべきである。
21 千九百六十年の放射線防護条約第十三条に掲げる場合については、すべての必要な特殊の医学的検査が実施されるべきである。
22 前諸項に掲げる医学的検査の経費は、労働者に負担させるべきではない。
23 前記の医学的検査を行なう医師には、当該労働者の労働条件を確認するために十分な便宜を提供すべきである。
24 前記の医学的検査を受けるすべての労働者については、権限のある機関の定める要件に従つて健康記録が作成され、かつ、保存されるべきである。
25 その健康記録は、全国的に標準化された形式のものとすべきである。
26 労働者の集積線量が雇用に関連して考慮されるため、実行可能な限り、24に定める労働者が作業の過程において受けたすべての線量に関する完全な記録が保存されるべきである。
27 千九百六十年の放射線防護条約第十四条に定める医学的助言の結果、通常の雇用において電離放射線による被曝(ばく)を今後受けることが望ましくないとされた労働者については、適当な代替的雇用を与えるため、あらゆる合理的な努力が払われるべきである。

Ⅶ 検査及び通報

28 千九百六十年の放射線防護条約第十五条に掲げる検査機関は、放射線障害に十分精通し、かつ、電離放射線防護について助言を行なう資格のある者を相当数保有するか、又はそれらの者をいつでも利用しうるようにしておくべきである。
29(1) この検査機関の代表者には、施設、器具又は作業方法に認められる欠陥であつて、電離放射線により労働者の健康又は安全に脅威をもたらすと信じられる合理的な理由があるものについては、これを改善するための措置をとる権限を与えるべきである。
 (2) この検査機関の代表者が前記の措置をとることができるようにするため、法令に定める司法又は行政機関に提訴する権利を留保して、代表者は、次のことを要求する命令を発し又は発せしめる権限を与えられるべきである。
  (a) 労働者の健康又は安全に関する諸規定の遵守を確保するため必要な変更を施設又は工場に対し一定の期限までに行なうこと。
  (b) 労働者の健康及び安全上必要なときは、即時に有効な措置をとること。
30(1) すべての加盟国は、電離放射線の線源の分布及び使用を監督する措置をとるべきである。
 (2) これらの措置は、次のことを含むべきである。
  (a) 放射線線源の分配を権限のある機関に対しその定める通報を行なうこと。
  (b) 電離放射線による労働者の被曝(ばく)を含む作業が初めて開始される前、及び電離放射線を発生し、又はそれらに対する防護を実施する器具又は施設が実質的に拡張又は変更される前に、権限のある機関に対し、その定める通報を、器具又は施設の性質に関する情報及び放射線防護の措置について行なうこと。
31 使用者は、権限のある機関に対し、その定める通報を、電離放射線による被曝(ばく)を含む作業の最終的停止について行なうべきである。

Ⅷ 使用者及び労働者の協力

32 使用者及び労働者の双方は、電離放射線防護措置の実施に際しもつとも緊密な協力を確保するため、あらゆる努力を払うべきである。