1961年の労働者住宅勧告(第115号)

ILO勧告 | 1961/06/28

労働者住宅に関する勧告(第115号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十一年六月七日にその第四十五回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第五議題である労働者住宅に関する提案の採択を決定し、
 この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の勧告(引用に際しては、千九百六十一年の労働者住宅勧告と称することができる。)を千九百六十一年六月二十八日に採択する。

 国際労働機関憲章は、十分な住居の提供を達成するための計画を世界の諸国間において促進する国際労働機関の厳粛な義務を承認するフィラデルフィア宣言に掲げた目標を同機関が促進しなければならないことを定めているので、
 国際連合総会によつて採択された世界人権宣言は、「すべて人は、自己及び家族の健康及び福祉(住宅を含む。)に十分な生活水準を保持する権利を有する。」ことを認めているので、
 国際連合及び国際労働機関は、千九百四十九年に経済社会理事会及び国際労働機関の理事会により留意された住宅及び都市村落計画の分野における国際連合及び専門機関の綜合作業計画に示されるように、国際連合が住宅及び都市村落計画の分野において一般的な責任を有すること及び国際労働機関が労働者住宅に関する問題について特別の関心を有することを認めたので、
 総会は、各加盟国が自国の一般的な社会経済政策の範囲内で国内条件に適した方法により次の一般原則を実施すべきことを勧告する。

一般原則

Ⅰ 適用範囲

1 この勧告は、筋肉労働者及び非筋肉労働者(自営業者及び老令者、退職者又は身体障害者を含む。)の住宅について適用する。

Ⅱ 国の住宅政策の目的

2 すべての労働者及びその家族に十分かつ適切な住宅及び適当な生活環境を提供することを確保するため、一般的な住宅政策の範囲内で住宅及び関連共同施設の建設を促進することを国の政策の目的とすべきである。困窮度の非常に高い者には、ある程度の優先順位を与えるべきである。
3 現存の住宅及び関連共同施設の維持、改善及び近代化についても配慮すべきである。
4 十分かつ適切な住宅については、その家賃又は購入代金のため、労働者がその所得の合理的な割合をこえる負担をしないことを目標とすべきである。
5 労働者住宅計画は、住宅建築について、個人的、共同的及び公的な計画のため十分な余地を認めるべきである。
6 大規模な恒久住宅建築計画は、限られた熟練及び半熟練労働者又は資材が、住宅の生産とともに生産力の拡張のため必要な他の生産のため必要とされることがあるので、経済の成長及び発展のための計画と直接競合することがある事実にかんがみ、労働者住宅の必要及び均衡のとれた経済の発展の必要を考慮して労働者住宅にある程度の優先順位を与えるよう、住宅政策を一般的な社会経済政策と調整すべきである。
7 各世帯は、希望するときは、独立した住宅を与えられるべきである。

Ⅲ 公の機関の責任

8(1) 権限のある国家機関は、憲法上の国家組織に十分な考慮を払つて、住宅についてなんらかの責任を有するすべての公の機関が関係する中央機関を設けるべきである。
 (2) この中央機関の任務は、次のことを含むべきである。
  (a) 労働者住宅及び関連共同施設の需要を研究し、かつ、算定すること。
  (b) 労働者住宅計画を作成すること。この計画は、不良住宅の除去及び不良住宅居住者に対する新たな住宅の提供のための措置を含むべきである。
 (3) 代表的な使用者団体及び労働者団体並びに他の関係団体は、中央機関の活動に関与すべきである。
9 国の住宅計画は、国の他の目的を考慮して、かつ、住宅の需要及び関連施設の需要により定められる限度内で、住宅計画のため利用することができるすべての公私の資源が労働者住宅及び関連共同施設の建設のため調整され、かつ、利用されることを確保することを目的とすべきである。
10 労働者住宅に対する全国的な需要を継続的に満たすため住宅建築能力の相当な、かつ、恒久的な増加が必要とされる場合には、経済発展計画は、国の他の目的を考慮して、住宅建築のため必要な熟練労働力、資材、設備及び資金を長期的に供給するための措置を含むべきである。
11 公の機関は、必要な限度まで、かつ、実行可能な限り、労働者に対し賃借又は自己所有の住宅を直接提供するか又はその提供を促進することについて責任を負うべきである。

Ⅳ 使用者が提供する住宅

12(1) 使用者は、その労働者に対し自己の企業と関係のない公の機関又は協同組合その他の住宅協会のような独立の私的機関が公平の原則に基づき住宅を提供することの重要性を認識すべきである。
 (2) 使用者がその労働者に直接住宅を提供することは、たとえば、事業所が通常の人口集中地から遠距離にある場合又は業務の性質上労働者をただちに就業させなければならない場合のようなやむを得ない事情のある場合を除き、一般的に望ましくないことを認識すべきである。
 (3) 住宅が使用者により提供される場合には、
  (a) 労働者の基本的人権、特に、結社の自由は、認めるべきである。
  (b) 労働者の雇用契約の終了に伴い住宅の賃貸借又は使用を終了させるに当たつて国内の法令及び慣習は、十分に尊重すべきである。
  (c) 家賃は、4に掲げる原則に合致すべきであり、かつ、いかなる場合においても投機的利潤を含むべきでない。
 (4) 労働の対価としての使用者による住宅及び共同施設の提供は、労働者の利益を保護するために必要な限度内で禁止し、又は規制すべきである。

Ⅴ 融資

13(1) 権限のある機関は、必要な融資手段の経常的かつ継続的な確保により承認された労働者住宅計画の実施を確実にするため、適当な措置を執るべきである。
 (2) この目的のため、
  (a) 妥当な利子率で貸付を受けることができる公私の便宜を提供すべきである。
  (b) 住宅を所有する個人、協同組合及び公の機関で一定の条件を満たすものに対する補助金、租税の軽減及び免除のような適当な直接的及び間接的財政援助手段によつて前記の便宜を補足すべきである。
14 政府並びに使用者団体及び労働者団体は、協同組合及びこれに類する非営利の住宅協会を奨励すべきである。
15 公の機関は、妥当な条件による公私の貸付金の便宜を自己の住居の所有又は建築を希望する労働者に提供することを確保するよう努力し、かつ、住居の所有を促進する他の措置を執るべきである。
16 健全な信用市場が存在し、かつ、国家抵当保険制度又は個人抵当に対する公の保証が適当であると考えられる国においては、労働者住宅の建築を促進する手段としてこれらの制度を設けるべきである。
17 次の目的のため国内の慣行に従つて適当な措置を執るべきである。
  (a) 労働者住宅に対する融資のため使用することができる個人、協同組合及び私的機関の貯蓄を促進すること。
  (b) 労働者住宅の建築に対する個人、協同組合及び私的機関の投資を奨励すること。
18 公の資金の援助を得て建築された労働者住宅は、投機の目的とすべきでない。

Ⅵ 住宅の基準

19 一般原則として、権限のある機関は、構造上の安全並びに体裁、衛生及び居住性に関する合理的な水準を確保するため、地方的条件に照らして住宅の最低基準を設け、かつ、これらの基準を実施するための適当な措置を執るべきである。

Ⅶ 建築産業の能率促進措置

20 政府は、使用者団体及び労働者団体と協力して、建築産業及び関連産業における利用可能な資源の最も効果的な利用を達成するための措置を促進し、かつ、必要な場合には、新たな資源の開発を奨励すべきである。

Ⅷ 住宅建築及び雇用の安定

21 国の住宅計画は、不況期において労働者住宅及び関連共同施設の建設の速度を早めることができるように作成すべきである。
22 政府並びに使用者団体及び労働者団体は、6に掲げる原則に従うことを条件として、建築産業における季節的失業を減少させることにより労働者住宅及び関連施設の年間建設量を増加するため適当な措置を執るべきである。

Ⅸ 都市計画、村落計画及び地域計画

23 労働者住宅計画は、都市計画、村落計画及び地域計画の健全な慣行に従つて作成し、かつ、実施すべきである。
24(1) 公の機関は、土地に対する投機を防止するためすべての適当な措置を執るべきである。
 (2) 公の機関は、
  (a) 労働者住宅及び関連共同施設のため公正な価格で土地を取得する権限を有すべきであり、かつ、
  (b) この住宅及び施設に関する計画を促進するため適当な位置にある予備地を造成すべきである。
 (3) この土地は、公正な価格で労働者住宅及び関連共同施設のために提供すべきである。

Ⅹ 一般原則の適用

25 この勧告に掲げる一般原則を適用するに当たり、国際労働機関の各加盟国並びに関係使用者団体及び労働者団体は、可能な、かつ、望ましい限度まで、勧告の適用方法に関する付属の提案を指針とすべきである。

適用方法に関する提案

Ⅰ 一般的考慮

1 一般原則8の規定に従つて、採択され、かつ、実施される労働者住宅計画は、利用可能な国内資源、経済発展の状態、技術及び住宅建設と競合する優先事業のような関連要因が許す限りすみやかに労働者住宅の条件を最大限に改善するようなものであるべきである。
2 国の住宅計画については、国家的重要性が大きい産業又は地域において雇用され、又はそれらが必要とする労働者の住宅の需要に関し、特に発展の途上にある国においては、特別の考慮を払うべきである。
3 労働者住宅計画を作成しかつ実施するに当たつては、地方的段階において次のことに特別の考慮を払うべきである。
  (a) 労働者の家族の大きさ並びに年令別及び性別構成
  (b) 家族内の親族関係
  (c) 身体障害者、単身居住者及び老令者の特殊事情
4 住宅の需要(たとえば、家族の大きさ又は就業の場所から生ずるもの)に従つて住宅の交換を奨励することにより、現存の賃貸住宅の一層効果的な利用を達成するための措置を適当な場合に執るべきである。
5 権限のある機関は、住宅に関する移住労働者と国内労働者との間の待遇の均等な待遇をできる限りすみやかに達成するため、移住労働者及び、適当な場合には、その家族に対する住宅の提供という特殊の問題に特別の考慮を払うべきである。
6 包括的な建築統計及び人口統計の収集及び分析並びに社会学的研究の実施は、長期の住宅計画の作成及び実施についての要件として奨励すべきである。

Ⅱ 住宅の基準

7 一般原則19に掲げる住宅基準は、特に次の事項に触れるべきである。
  (a) 次の一又は二以上の要因で表示された一人当たり又は一家族当たりの最小空間(合理的な大きさの室に対する必要性について十分な考慮を払うものとする。)
   (i) 床面積
   (ii)  気積
   (iii) 室の大きさ及び数
  (b) 労働者住宅における個人及び世帯によるすべての使用に十分な量の衛生的な水の供給
  (c) 下水及び廃物の十分な処理設備
  (d) 暑気、寒気、湿気、騒音、火気、病原体伝播動物及び、特に、害虫に対する十分な保護
  (e) 十分な衛生施設、換気施設、調理及び貯蔵施設並びに採光及び照明
  (f)(i) 世帯員の間の最低限のプライヴァシー
   (ii) 外部要因による不当な侵害に対する世帯員の保護のための最低限のプライヴァシー
  (g) 居室の畜舎からの適当な分離
8 権限のある機関は、独身労働者又は家族から別居している労働者の宿舎が集団宿舎である場合には、少くとも次の事項を定める住宅の基準を設けるべきである。
  (a) 各労働者のための専用寝台
  (b) 男女別の宿舎
  (c) 衛生的な水の十分な供給
  (d) 十分な排水及び衛生設備
  (e) 十分な換気及び、適当な場合には、暖房
  (f) 当該地域に共同食堂、売店、休息及び娯楽並びに保健施設が存在しない場合には、これらの施設
9 労働者住宅の基準は、社会的、経済的及び技術的発展並びに一人当り実質所得の増加を考慮するため随時改訂すべきである。
10 一般的に、また、雇用の機会が一時的性質を有しない地方においては、労働者住宅及び関連共同施設は、耐久的構造とすべきである。
11 労働者住宅及び関連共同施設は、地震のおそれのような地方的条件に考慮を払つて、利用可能な最も適当な資材で建設するよう努力すべきである。

Ⅲ 特別計画

12 発展の途上にある国においては、熟練労働力及び建築産業が発達するまでの間暫定措置として、特に農村地域において住宅事情改善の一助となる仮住宅自力建築のための大規模な助成計画のような計画に特別の考慮を払うべきである。同時に、これらの国においては、建築産業のため失業者及び未熟練労働者を訓練し、それによつて恒久的住宅建築の能力を増加するための措置を執るべきである。
13 政府、使用者並びに使用者団体及び労働者団体は、労働者の住宅所有及び、望ましい場合には、住宅自力建築計画を援助するため、すべての適当な措置を執るべきである。これらの措置は、たとえば、次のことを含むことができる。
  (a) 建築技術上の援助及び、必要な場合には、作業の適当な監督のような技術上の役務の提供
  (b) 住宅及び建築問題の研究並びに、住宅設計、住宅基準、建築技術及び建築資材のような事項に関する情報を含む手引書及び解説付きの簡単なパンフレットの出版及び配付
  (c) 住宅自力建築のための簡単な建築技術についての訓練
  (d) 原価を下廻る価格における、設備、資材又は道具の販売又は賃貸
  (e) 利子率の引下げ並びに、最初の支出に対する直接的な財政補助、開発費を下廻る価格における土地の販売及び名目的な賃貸料による土地の長期賃貸のような、類似の利益供与
14 必要な場合には、住宅内の設備の維持及び合理的な利用に関する情報を家族に与えるためすべての適当な措置を執るべきである。

Ⅳ 使用者が提供する住宅

15 住宅が使用者により提供される場合には、次の規定を適用すべきである。ただし、法律又は団体協約その他の拘束力のある協定により労働者に対し同等の保護が保障されている場合は、この限りでない。
  (a) 使用者は、労働者の雇用契約が終了した場合には、合理的な期間内に住宅の明渡しを受ける権利を有すべきである。
  (b) 労働者又はその家族は、病気、廃疾、業務災害、退職又は死亡により、当該労働者が雇用されなくなつたときは、他の満足すべき住宅を入手することができるよう、合理的な期間、引き続き当該住宅を使用する権利を有すべきである。
  (c) 雇用の終了に伴い住宅を明け渡さなければならない労働者は、次のものについて公正な補償を受ける権利を有すべきである。
   (i) 使用者の所有する土地に許可を得て栽培している作物
   (ii) 原則として、使用者の同意を得て行なわれた造作で住宅の効用を恒久的に増加させ、かつ、使用により価値が滅失していないもの
16 使用者が提供する住宅を使用する労働者は、通常の破損を除き、当該住宅を現状のままに維持すべきである。
17 使用者が提供する住宅を使用する労働者と個人的な関係又は用務(労働組合の用務を含む。)を有する者は、その労働者が使用する住宅に自由に立ち入る権利を有すべきである。
18 適当な場合には、公の機関その他の機関又は住宅を使用する労働者が、使用者により提供される住宅の所有権を公正な価格で取得する可能性を検討すべきである。ただし、その住宅が当該企業の操業地域にある場合は、この限りでない。

Ⅴ 融資

19 公の機関は、特に新世帯主、独身者及び均衡のとれた経済の発展のために移動することが望ましい者のような特定の部類の労働者のため、賃貸住宅計画に対し直接に融資し、又は財政援助を行なうべきである。
20 一般原則15の規定に従つて労働者に与えられる貸付金は、住宅に要する最初の費用の全部又はその相当な部分を賄うものであるべきであり、かつ、長期的に妥当な利子率で返済することができるものとすべきである。
21 準備基金及び社会保障機構に対しては、長期投資に利用しうる積立金を労働者住宅のための貸付金の便宜を提供するため使用することを奨励すべきである。
22 住宅の所有を促進するため労働者に与えられる貸付金については、失業、災害その他やむを得ない事由による住宅に対する資金上の権利の喪失から当該労働者を保護し、特に、労働者が死亡した場合におけるその者の資金上の権利の喪失から当該労働者の家族を保護するため、十分な措置を執るべきである。
23 公の機関は、不十分な所得のため又は家族扶養の責任に関する過度に重い支出のため適当な住宅を入手することができない労働者に対し、特別の財政援助を与えるべきである。
24 公の機関が住宅所有に対して直接的な財政援助を行なう場合には、受益者は、その能力の範囲内で、その住宅に関し資金上その他の責任を負うべきである。
25 住宅計画に対して財政援助を行なう公の機関は、その労働者住宅の賃借又は所有が、人種、宗教、政治上の意見又は労働組合員であることを理由として拒否されないことを確保すべきである。

Ⅵ 建築産業の能率促進措置

26 労働者住宅計画は、継続施行の経済性を利用するため長期的に、かつ、年間平均的に行なうべきである。
27 熟練労働者及び半熟練労働者、監督職員、請負業者並びに建築家及び技師のような専門職員の訓練のための施設を改善し、かつ、必要な場合には、拡張するため適当な措置を執るべきである。
28 建築資材、道具又は設備が不足している場合には、これらの物資を生産する工場の建設に優先権を与えること、その工場の設備を輸入すること及びこれらの物資の取引きを増加させることのような措置に考慮を払うべきである。
29 建築法規並びに設計、資材及び建築技術に関する他の規則は、保健及び安全の重要性に十分留意して、新たな建築資材及び建築方法(地方的に利用することができる資材及び自力建築方法を含む。)の使用を認めるように立案すべきである。
30 特に、作業地における作業計画及び組織の改善、資材の一層の規格化及び作業方法の簡易化並びに建築研究の成果の応用について特別の考慮を払うべきである。
31 請負業者、建築資材供給者及び建築産業労働者の側における制限的な慣行を排除するためすべての努力を払うべきである。
32 労働者住宅の社会的、経済的及び技術的問題の研究を行なうために、国の機関を発展させるべきである。適当な場合には、国際連合その他の適当な国際機関の後援又は援助による地域住宅センターが提供することができるような役務を利用することができる。
33 小規模な建築請負業者の能率を、たとえば、安価な建築資材及び建築方法についての情報の提供、道具及び設備の中央貸与施設の設置、特別訓練課程並びに適当な金融上の便宜が存在していない場合にはこれを設置することによつて促進するためすべての努力を払うべきである。
34 建築費の引下げのための措置は、労働者住宅及び関連施設の基準を低下させるような結果を生じさせるべきでない。

Ⅶ 住宅建築及び雇用の安定

35 建築産業の失業者数が一作業地における雇用の終了と他の作業地における雇用の開始との間において生ずる過渡的失業者数を著るしくこえる場合又は建築産業以外において相当な失業者が存在する場合には、適当なときは、できる限り多数の失業者に雇用を提供するため労働者住宅及び関連施設の建設計画を拡張すべきである。
36 民間の建築又は一般に経済活動が衰退する時期において、及び建設量を増加させる必要がある場合においては、政府は財政援助又は地方機関及び私企業の借入能力の拡大のような措置により地方機関、私企業又は両者による労働者住宅及び関連施設の建設を促進するために、特別の措置を執るべきである。
37 必要な場合には、民間の住宅建設量を増加するための措置は、利子率及び必要な頭金の額の引下げ並びに割賦償還期間の延長を含むことができる。
38 適当な場合には、建築産業における季節的失業を減少させるため執るべき措置は、次のことを含むことができる。
  (a) 建築作業が安全かつ満足な方法で実施されることを可能にし、かつ、従来建築作業の実施に不適当と考えられていた期間において労働者を保護するために、すべての適当な工場、機械、資材及び技術を利用すること。
  (b) 不適当な気候条件の下にあつても建築作業を中断しないことが技術的に可能であること及び社会的に望ましいことについて関係者を教育すること。
  (c) 前記の条件の下における作業に伴うことがある追加の経費の全部又は一部を補うため補助金を交付すること。
  (d) 労働者住宅及び関連施設の建設計画の各種作業の実施時期を季節的失業の減少に役立つよう調節すること。
39 必要な場合には、労働者住宅及び関連施設の建設に関係のある雇用安定計画の実施に際し、各種の中央の公の機関と地方の公の機関との間並びにこれらの機関と民間団体との間における行政上及び財政上の調整を確保するため適当な措置を執るべきである。

Ⅷ 家賃政策

40(1) 高度の、かつ、向上しつつある生活水準を有する高度に工業化された国においては、一般原則4に掲げる原則を考慮して、家賃が通常の住宅の建設費を賄うようになることが長期的目標の一とされるべきであるが、実質賃金の増加及び建築産業における生産性の向上により通常の住宅の建設費を賄う家賃にあてられる労働者の所得の割合が漸次減少することを一般的目標とすべきである。
 (2) 家賃のいかなる増加も、投資に対する合理的な利潤率をこえる利潤を許すべきでない。
 (3) 著るしい住宅不足の時期においては、現存の労働者住宅の家賃の不当な引上げを防止するための措置を執るべきである。住宅不足が緩和し、かつ、十分な数の適切な労働者住宅が需要を満たすため利用しうるようになるに従い、適当な場合には、これらの措置は、この項の規定に従うことを条件として漸次緩和することができる。

Ⅸ 都市計画、村落計画及び地域計画

41 労働者住宅は、実行可能な限り、かつ、利用しうる公私の輸送施設を考慮して、就業地に容易に達することができ、かつ、学校、商店街、すべての年令層のための厚生娯楽地域及び施設、宗教施設並びに医療機関のような共同施設に近接しているべきであり、また、空地を含み、魅力のある、かつ、巧妙に設計された環境を形成するように位置の選定を行なうべきである。
42 労働者のための住宅の設計及び新たな地域共同体の計画については、将来の入居者を代表する機関で住宅及び環境に関する入居者の必要を満たすための最も適当な手段について最もよく助言することができるものと協議するためすべての努力を払うべきである。
43 労働者住宅の位置の選定に当たつては、工場による空気の汚染の可能性並びに地表流水及び下水その他の廃棄物の処理に重大な関係を有することがある地勢条件を考慮すべきである。
44 仮住宅の建築に当たつては、地域共同体の計画及び居住密度の統制を確保することが特に重要である。
45 労働者及びその家族に対してできる限り快適な環境を確保し、かつ、通勤のため労働者が消費する時間及び通勤に伴う危険を最小限にするため、都市において住居地域、商業地域、及び工業地域のような相互に関係がある地域を設けるという原則を採用することが望ましい。
46 権限のある機関は、不良住宅を一掃するため、適当な場合には、市民団体その他の関係団体並びに地主、住宅所有者及び借家人と協力して不良住宅地域の更生に適する建築物の修復及び近代化のような方法による不良住宅地域の更生並びに建築学上又は歴史上重要な建物の保存のためのすべての実行可能な措置を執るべきである。権限のある機関は、また、前記の更生が実施されている期間中一時的に退去させられることがある家族に対して適当な住宅を確保するため適当な措置を執るべきである。
47 大都会における人口過剰を緩和するため、産業及び人口の過度の集中を防止し、都市開発と農村開発との間の一層良好な均衡を達成することを目的として将来の開発計画を地域的に作成すべきである。