1982年の雇用終了勧告(第166号)

ILO勧告 | 1982/06/22

使用者の発意による雇用の終了に関する勧告(第166号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十二年六月二日にその第六十八回会期として会合し、
 その会期の議事日程の第五議題である使用者の発意による雇用の終了に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百八十二年の雇用終了条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百八十二年の雇用終了勧告と称することができる。)を千九百八十二年六月二十二日に採択する。

Ⅰ 実施方法、適用範囲及び定義

1 この勧告は、国内法令、労働協約、就業規則、仲裁裁定若しくは判決により又は国内慣行に適合する他の方法であつて国内事情の下で適当とされるものにより適用することができる。
2(1) この勧告は、経済活動のすべての部門について及び雇用されているすべての者について適用する。
 (2) 加盟国は、次の種類の雇用されている者をこの勧告の全部又は一部の適用から除外することができる。
  (a) 特定の期間又は特定の仕事のための雇用契約に基づき雇用されている労働者
  (b) 試用期間中又は雇用に係る資格の取得期間中の労働者。ただし、これらの期間は、あらかじめ決定された合理的なものでなければならない。
  (c) 短期間臨時的に雇用されている労働者
 (3) 必要な場合には、この勧告に基づき与えられる保護と少なくとも同等の保護を全体として与える特別の措置により雇用条件が規制される種類の雇用されている者をこの勧告又はその一部の規定の適用から除外するための措置を、関係のある使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはそれらの団体との協議の上、権限のある機関により又は各国における適当な機構を通じてとることができる。
 (4) 必要な場合には、関係労働者の特別の雇用条件又は関係労働者を雇用する企業の規模若しくは性質に照らし重要なかつ特別の問題を有する種類の雇用されている者をこの勧告又はその一部の規定の適用から除外するための措置を、関係のある使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはそれらの団体との協議の上、権限のある機関により又は各国における適当な機構を通じてとることができる。
3(1) 特定の期間の定めのある雇用契約であつて、千九百八十二年の雇用終了条約及びこの勧告に基づく保護を回避することを目的とするものが利用されることを防ぐための適当な保障を規定すべきである。
 (2) この目的のため、例えば、次のことについて措置を定めることができる。
  (a) 行われる作業の性質、作業が行われる条件又は労働者の利益にかんがみ、雇用関係を期間の定めのないものとすることができない場合に、特定の期間の定めのある契約の採用を限定すること。
  (b)  (a)に規定する場合を除くほか、特定の期間の定めのある契約を期間の定めのない雇用契約とみなすこと。
  (c)  (a)に規定する場合を除くほか、特定の期間の定めのある契約を一回又は二回以上更新した場合には、期間の定めのない雇用契約とみなすこと。
4 この勧告の適用上、「終了」及び「雇用の終了」とは、使用者の発意による雇用の終了をいう。

Ⅱ 一般的適用の基準

終了の正当性

5 千九百八十二年の雇用終了条約第五条に規定する理由のほか、次のものは、終了の妥当な理由とすべきではない。
  (a) 年齢。ただし、退職に関する国内の法令及び慣行に従うことを条件とする。
  (b) 強制的兵役その他の市民的義務による休業で国内の法令及び慣行に従うもの
6(1) 疾病又は負傷による一時的な休業は、終了の妥当な理由とすべきではない。
 (2) 一時的な休業の定義、診断書が必要とされる範囲及び(1)の規定の適用を制限する可能性は、1に定める実施方法により決定されるべきである。

終了前又は終了時の手続

7 労働者の雇用は、使用者が当該労働者に書面による適切な警告を与える場合を除くほか、繰り返し行われた場合にのみ国内の法令又は慣行の下で終了を正当なものとする種類の非行を理由として終了されるべきではない。
8 労働者の雇用は、使用者が当該労働者に適切な指示及び書面による適切な警告を与える場合において当該労働者が改善のための合理的な期間が経過した後も作業を十分に行わないときを除くほか、不十分な業務遂行を理由として終了されるべきではない。
9 労働者は、千九百八十二年の雇用終了条約第七条に定めるところにより、当該労働者の雇用の終了をもたらすおそれのある当該労働者の行為又は業務遂行に関する申立てに対し自己を弁護するに当たり、他の者の援助を受ける権利を有すべきである。この権利は、1に定める実施方法により規定することができる。
10 使用者は、非行を知つた後合理的な期間内に労働者の雇用を終了しなかつた場合には、当該非行を理由として当該労働者の雇用を終了する権利を放棄したものとみなされるべきである。
11 使用者は、個々の雇用の終了の事案について最終的な決定が行われる前に労働者代表と協議することができる。
12 使用者は、労働者の雇用の終了の決定を当該労働者に対し書面により予告すべきである。
13(1) 雇用の終了を予告された労働者又は雇用を終了された労働者は、要請により、当該終了の理由について使用者から書面による説明を受ける権利を有すべきである。
  (2)  (1)の規定は、千九百八十二年の雇用終了条約第十三条及び第十四条に規定する理由による集団的終了の場合において、これらの条項に規定する手続が遵守されるときは、適用されることを要しない。

終了に対する提訴の手続

14 雇用の終了に対する提訴の手続の前又は当該手続の間において、調停の手続を利用することについての措置を定めることができる。
15 公の機関、労働者代表及び労働者団体により、労働者が行うことのできる提訴の可能性について労働者が十分に知らされることを確保するための努力が払われるべきである。


予告期間中の勤務に服さない時間


16 労働者は、千九百八十二年の雇用終了条約第十一条に規定する予告期間中、他の雇用を探す目的のため、両当事者にとつて都合のよい時に勤務に服さない合理的な時間を賃金の損失を伴うことなく与えられる権利を有すべきである。

雇用の証明書

17 雇用を終了された労働者は、要請により、自己の採用及び雇用の終了の日並びに自己が従事した仕事の種類のみを記載する証明書を使用者から受領する権利を有すべきである。もつとも、当該労働者の要請があるときは、当該労働者の行為及び業務遂行に関する評価をこの証明書又は他の証明書において与えることができる。

離職手当その他の収入保障

18(1) 雇用を終了された労働者は、国内の法令及び慣行に従つて、次のいずれかのものを受ける権利を有すべきである。
    (a) 使用者により直接支払われ又は使用者の拠出により設定された基金により支払われる離職手当その他の離職給付(その額は、特に勤務期間及び賃金水準に基づくべきである。)
    (b) 失業保険若しくは失業扶助又は他の形式の社会保障からの給付(例えば、老齢給付、廃疾給付)。ただし、これらの給付は当該給付の通常の条件に従う。
    (c)  (a)又は(b)に規定する手当又は給付の組合せ
  (2) 失業保険又は一般的適用範囲を有する制度に基づく失業扶助に係る資格条件を満たしていない労働者は、(1) (b)の規定に基づく失業給付を受けていないことのみを理由として、(1) (a)に規定する手当又は給付を支給されることを要求することはできない。
  (3)  (1) (a)に規定する手当又は給付を受ける権利の喪失であつて、重大な非行による終了の場合におけるものについては、1に定める実施方法により措置を定めることができる。

Ⅲ 経済的、技術的若しくは構造的理由又はこれと類似の理由による雇用の終了に関する補足規定

19(1) すべての関係のある当事者は、企業、事業所又は施設の能率的な運営を害することなく、経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由による雇用の終了をできる限り回避し又は最小にし及び関係のある労働者に対するこれらの理由による雇用の終了の不利な影響を軽減するよう努めるべきである。
  (2) 権限のある機関は、適当な場合には、当事者が計画された終了により生じた問題の解決を求めることを援助すべきである。

企業における主要な変更に関する協議

20(1) 使用者は、生産、計画、組織、構造又は技術上の主要な変更で雇用の終了を伴うおそれのあるものの導入を計画する場合には、特に、そのような変更の導入、そのような変更が及ぼすおそれのある影響及びそのような変更の不利な影響を回避し又は軽減するための措置について、できる限り早期に関係のある労働者代表と協議すべきである。
  (2) 使用者は、関係のある労働者代表が(1)に規定する協議に効果的に参加することができるようにするため、計画された主要な変更及びそのような変更が及ぼすおそれのある影響に関連するすべての情報を適切なときにこれらの代表に提供すべきである。
  (3) この20の規定の適用上、「関係のある労働者代表」とは、千九百七十一年の労働者代表条約に基づき、国内の法令又は慣行により認められる労働者代表をいう。

終了を回避し又は最小にするための措置

21 経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由による雇用の終了を回避し又は最小にするために考慮されるべき措置には、特に、採用の制限、労働力の自然削減を行わせるように労働力の削減を一定の期間にわたって行うこと、部内異動、訓練及び再訓練、適当な収入保障を伴う任意の早期退職、超過勤務の制限並びに所定の労働時間の短縮を含むことができる。
22 所定の労働時間の一時的な短縮が一時的な経済的困難による雇用の終了を回避し又は最小にするであろうと認められる場合には、所定の労働時間のうち就業しない時間に係る賃金の損失の一部の補償であって、国内の法令及び慣行の下で適切な方法によつて資金が賄われるものを行うことに考慮が払われるべきである。

終了に係る選定のための基準

23(1) 経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由により雇用を終了される労働者の使用者による選定は、可能な限り事前に設定される基準であつて、企業、事業所又は施設の利益及び労働者の利益の双方を十分に考慮したものに従つて行われるべきである。
  (2) これらの基準、その優先順位及びその相対的重要性は、1に定める実施方法により決定されるべきである。

再雇用に係る優先権

24(1) 経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由により雇用を終了された労働者は、使用者が同等の資格を有する労働者を再び雇用する場合には、再雇用に係る一定の優先権を与えられるべきである。ただし、当該労働者が再雇用の希望を離職後一定の期間内に表明していたことを条件とする。
  (2)  (1)に規定する再雇用に係る優先権は、特定の期間についてのものとすることができる。
  (3) 再雇用の優先権の基準、再雇用の場合における権利(特に先任権)の保有の問題及び再雇用された労働者の賃金に関する条件は、1に定める実施方法により決定されるべきである。

終了の影響の軽減

25(1) 経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由による雇用の終了の場合には、可能なときは関係のある使用者及び関係のある労働者代表の協力を得て、権限のある機関によりとられる措置で国内事情に適合するものにより、影響を受けた労働者をできる限り速やかに、適当なときは訓練又は再訓練を行った上、代わりの適切な雇用に就けることが促進されるべきである。
  (2) 当該使用者は、可能な場合には、例えば他の使用者との直接の接触により、影響を受けた労働者が他の適切な雇用を探すことを援助すべきである。
  (3) 影響を受けた労働者が他の適切な雇用に就き又は訓練若しくは再訓練を受けることを援助するに当たつては、千九百七十五年の人的資源開発条約及び千九百七十五年の人的資源開発勧告に留意することができる。
26(1) 経済的、技術的若しくは構造的性格又はこれと類似の性格の理由による雇用の終了の不利な影響を軽減するため、訓練又は再訓練の期間中の収入保障並びに訓練又は再訓練に係る費用の一部又は全部の償還並びに住居の変更を要する雇用を見つけ及びそのような雇用に就くことに関連する費用の一部又は全部の償還を提供することに考慮が払われるべきである。
  (2) 権限のある機関は、国内の法令及び慣行に従い、(1)に規定する措置の全部又は一部を援助するため、財源を提供することを考慮すべきである。

Ⅳ 従前の勧告に対する影響

27 この勧告及び千九百八十二年の雇用終了条約は、千九百六十三年の雇用終了勧告に代わるものである。