1996年の船員の賃金、労働時間及び船舶の定員勧告(第187号)

ILO勧告 | 1996/10/22

船員の賃金及び労働時間並びに船舶の定員に関する勧告(第187号) 



国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十六年十月八日にその第八十四回会期として会合し、
 千九百四十九年の賃金保護条約、千九百七十年の最低賃金決定条約、千九百七十六年の船員年次有給休暇条約、千九百七十六年の商船(最低基準)条約、千九百八十七年の船員送還条約(改正)、千九百九十二年の労働者債権の保護(使用者の支払不能)条約及び千九百九十三年の海上の担保権及び抵当権に関する国際条約の規定を想起し、
 前記の会期の議事日程の第二議題である千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)改正条約及び千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)勧告の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百九十六年の船員の労働時間及び船舶の定員条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百九十六年の船員の賃金、労働時間及び船舶の定員勧告と称することができる。)を千九百九十六年十月二十二日に採択する。

Ⅰ 適用範囲及び定義

1(1) この勧告は、加盟国の領域において登録され、かつ、通常は商業海洋航行に従事するすべての海上航行船舶(公有のものであるか私有のものであるかを問わない。)について適用する。
 (2) 権限のある機関は、代表的な漁船所有者団体及び漁船員団体と協議を行った後、実行可能と認める限り、この勧告を商業海洋漁業について適用すべきである。
 (3) いずれの船舶がこの勧告の適用上海上航行船舶又は商業海洋航行若しくは商業海洋漁業に従事する船舶と認めるべきか否かの問題について疑義がある場合には、その問題については、権限のある機関が関係のある代表的な船舶所有者団体、船員団体及び漁船員団体と協議を行った後決定すべきである。
 (4) この勧告は、ダウ、ジャンクその他の伝統的構造の木造船には適用しない。

2 この勧告の適用上、
 (a) 「基本給又は基本賃金」とは、構成のいかんを問わず、通常の労働時間についての支払をいうものとし、時間外手当、賞与、手当、有給休暇その他の追加的な報酬の支払を含まない。
 (b) 「権限のある機関」とは、船員の賃金、労働時間若しくは休息時間又は船舶の定員に関し規則を設け及び命令その他法的効力を有する訓令を発する権限を有する大臣、官庁その他の機関をいう。
 (c) 「併合賃金」とは、基本賃金及び関連する給付を含む賃金又は給与をいう。併合賃金には、時間外労働に対する報酬及び関連するすべての給付を含めることができるものとし、また、部分的に併合された特定の給付のみを含めることができる。
 (d) 「労働時間」とは、船員が船舶のために労働することを求められる時間をいう。
 (e) 「時間外」とは、通常の労働時間を超過する労働時間をいう。
 (f) 「船員」とは、資格のいかんを問わず、国内法令又は労働協約により船員と定義され、かつ、この勧告が適用される海上航行船舶において当該船舶の業務に雇用され又は従業する者をいう。
 (g) 「船舶所有者」とは、船舶の所有者又は船舶の運航に関する責任を船舶所有者から引き受け、かつ、当該責任の引受けに伴う他のすべての任務及び責任を引き継ぐことに同意した管理人、裸よう傭船者等の団体若しくは個人をいう。

Ⅱ 船員の賃金

3 時間外労働に対し追加的な報酬が支払われる船員については、次の要件が満たされるべきである。
 (a) 賃金の計算上海上及び港における通常の労働時間が一日当たり八時間を超えないこと。
 (b) 時間外の計算上基本給又は基本賃金の支払の対象となる一週間当たりの通常の労働時間数が労働協約により決定されない場合には、当該労働時間数が国内法令により定められ、かつ、四十八時間を超えないこと。ただし、労働協約においては、不利でない異なる取扱いを定めることができる。
 (c) 時間外労働に対する報酬率を一時間当たりの基本給又は基本賃金の一・二五倍以上とし、国内法令又は労働協約によって定めること。
 (d) すべての時間外労働の記録が船長又は船長に指名された者によって維持され、かつ、船員によって定期的に裏書されること。

4 全部又は一部が併合された賃金が支払われる船員については、次の要件が満たされるべきである。
 (a) 労働協約、雇入契約及び雇用契約には、船員に支払われる報酬額及び、適当な場合には、当該報酬の対価として船員に期待される労働時間数、並びに併合賃金に加えて支払われ得るすべての追加的な手当及びその支払の条件を明示すること。
 (b) 併合賃金の支払の対象となる労働時間を超える労働時間に対して時間外労働の時給が支払われる場合には、その時給の率を3に定義する通常の労働時間に対応する基本賃金の一・二五倍以上とすること。この原則は、併合賃金に含まれる時間外労働にも適用されるべきである。
 (c) 全部又は一部を併合された賃金で、3(a)に定義する通常の労働時間に対応する部分に係るものについては、適用のある最低賃金以上の額とすること。
 (d) 一部を併合した賃金が支払われる船員については、3(d)の規定に従い、すべての時間外労働の記録が維持され、かつ、裏書されること。

5 国内法令又は労働協約には、当該法令又は当該労働協約に規定する報酬その他の補償に代えて、時間外又は週の休日及び公の休日に行われた労働につき、少なくとも労働が行われた時間と同じ時間の非番での下船又は追加的な休暇を与えることを規定することができる。

6 代表的な船員団体及び船舶所有者団体との協議を行った後制定された国内法令又は適当な場合には労働協約においては、次の原則を考慮すべきである。
 (a) 同一価値の労働に対する同一報酬が、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的系統又は社会的出身による差別なしに、同一の船舶に雇用されるすべての船員について適用されること。
 (b) 適用する賃金又は賃金率について規定する雇入契約その他の契約を船内に備え置くこと。賃金又は賃金率に関する情報は、船員が理解することができる言語による署名された関係情報の写しの船員への交付、契約の写しの乗組員が見やすい場所への掲示その他の適当な手段により、すべての船員の利用に供すべきである。
 (c) 法貨により賃金を支払うこと。適当な場合には、銀行口座振替、銀行小切手、郵便小切手又は郵便為替により賃金を支払うことができる。
 (d) 一箇月ごと又は一定期間ごとに賃金を支払い、また、雇用の終了時には、不当に遅延することなく報酬の未払分の全額を支払うこと。
 (e) 船舶所有者が報酬の支払を不当に遅延し又は支払を行わない場合には、権限のある機関が相当な罰を課し又は他の適当な是正措置をとること。
 (f) 船員が文書により他の方法を要請する場合を除くほか、賃金が直接船員に支払われるか又は船員の指定する銀行預金口座に支払われること。
 (g) (h)の規定に従うことを条件として、船舶所有者が船員が有するその報酬の処分の自由にいかなる制限も課さないこと。
 (h) 報酬からの減額が次の場合にのみ認められること。
  (i)  国内法令又は適用のある労働協約に明示的な規定がある場合
  (ii)  権限のある機関が最も適当と認める方法により船員が当該減額の条件について知らされている場合
  (iii) 当該減額の合計額が国内法令、労働協約又は判決が当該減額について定める限度を超えていない場合
 (i) 雇用の獲得又は維持に関し、船員の報酬からいかなる減額も行わないこと。
 (j) 関係する船員に対する便益について公正かつ妥当な価格が適用されていることを確保するため、権限のある機関が船舶における売店その他の便益に関する事項を検査する権限を有すること。
 (k) 賃金その他雇用について支払われる金額に関する船員の債権が千九百九十三年の海上の担保権及び抵当権に関する国際条約の規定に従って確保されない場合には、当該債権が、国際労働機関の千九百九十二年の労働者債権の保護(使用者の支払不能)条約に従って保護されること。

7 加盟国は、船舶所有者団体及び船員団体と協議を行った後、この勧告に含まれるすべての事項に関する苦情を調査するための手続を定めるべきである。

Ⅲ 最低賃金

8(1) 加盟国は、団体交渉自由の原則を妨げることなく、代表的な船舶所有者団体及び船員団体と協議を行った後、船員の最低賃金を決定する手続を定めるべきである。代表的な船舶所有者団体及び船員団体は、当該手続の運用に参加すべきである。
 (2)  (1)の手続及び最低賃金を定める場合には、最低賃金の決定に関する国際労働基準及び次の原則に妥当な考慮を払うべきである。
  (a) 最低賃金の水準については、海上の業務の性質、船舶の定員の水準及び船員の通常の労働時間を考慮すべきである。
  (b) 最低賃金の水準の決定に際し、生計費の変動及び船員のニーズの変化を考慮して調整されるべきである。
 (3) 権限のある機関は、次のことを確保すべきである。
  (a) 監督及び制裁の制度により、定められた率よりも低い率で賃金が支払われないこと。
  (b) 最低賃金率よりも低い率で賃金の支払を受けたすべての船員が低廉かつ迅速な司法上の手続その他手続によって当該不足額の支払を受けることができること。

Ⅳ 有能海員の一箇月当たりの最低基本給又は賃金の額

9 このⅣの適用上、「有能海員」とは、甲板部に勤務する部員について求められる職務(指導的立場にあり又は専門性を有する部員の職務を除く。)を行う技能を有すると認められる船員及び国内法令、国内慣行又は労働協約により有能海員として定義される船員をいう。

10 有能海員の一暦月の勤務に対する基本給又は基本賃金の額は、合同海事委員会又はその他機関であって国際労働事務局の理事会が承認するものが定期的に定める額よりも低い額とすべきではない。同理事会が当該額について決定を行った場合には、国際労働事務局長は、改定された額を国際労働機関の加盟国に通知する。千九百九十五年一月一日に合同海事委員会が定めた額は、三百八十五米ドルである。

11 このⅣのいかなる規定も、最低労働条件の規則に関し、船舶所有者又は船舶所有者団体と船員団体との間で合意された取決めを妨げるものと解すべきではない。ただし、権限のある機関が当該条件を認めることを条件とする。

Ⅴ 従前の勧告に及ぼす効果

12 この勧告は、千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)勧告に代わるものとする。