2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)

正 式 名:仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約
(第108回総会で2019年6月21日採択。条約発効日:2021年6月25日。最新の条約)

日本の批准状況:未批准 ◆批准国一覧(英語)

[ 概 要 ]

 仕事の世界における暴力とハラスメントの問題を扱う初の国際労働基準。

 仕事の世界における暴力とハラスメントは、人権の侵害または乱用に当たるおそれがあることや、機会均等に対する脅威であり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と両立せず、容認できないものであることを認めている。また、家庭内暴力が仕事の世界に影響を及ぼすおそれがあることにも留意している。条約は、「暴力及びハラスメント」について、ジェンダーに基づくものを含み、「一回限りのものであるか反復するものであるかを問わず、身体的、心理的、性的又は経済的損害を目的とし、又はこれらの損害をもたらし、若しくはもたらすおそれのある」一定の容認することができない行動及び慣行またはこれらの脅威と定義し、加盟国にはその存在を「一切許容しない一般の環境の醸成」を促進する責任があることに注意を喚起している。そして、仕事の世界における暴力とハラスメントの防止・撤廃のための包摂的で統合され、ジェンダーに配慮した取り組み方法を、第三者が関与する場合があることも考慮に入れた上で採用することや、仕事の世界における暴力とハラスメントを定義し禁止する法令の制定などを通じて、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対する全ての者の権利を尊重、促進、実現することを批准国に求めている。

 包摂性に重点を置くこの条約は、契約上の地位にかかわらず、仕事の世界におけるあらゆる労働者その他の人々を保護することを目指しており、インターンや修習生を含む訓練中の人、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者、就職志望者なども対象に含んでいる。「使用者としての権限を行使し、義務・責任を果たす者」も暴力及びハラスメントの対象になり得ることも認めている。

 暴力及びハラスメントの発生場所に関しても、職場内のみならず、支払いを受ける場所や休憩・食事の場所、衛生・洗浄設備を利用する場所、更衣室、業務に関連した外出・出張・訓練・行事・社会活動中、電子メールなども含む業務に関連した連絡の過程、使用者の提供する居住設備、通勤中も含むものと規定されている。

 条約を補足する同名の勧告(第206号)が同時に採択されている。

 第108回総会ではまた、「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する決議」と題する付帯決議も採択された。決議は、第190号条約の批准及び第206号勧告の実施を加盟国に呼びかけると同時に、ILO理事会に対し、第190号条約の幅広い批准と条約・勧告の効果的な実施に向けた包括的な戦略の策定をILO事務局長に求めるよう提案している。