2000年の母性保護条約(第183号)

ILO条約 | 2000/06/15

1952年の母性保護条約(改正)に関する改正条約(第183号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、二千年五月三十日にその第八十八回会期として会合し、
 すべての女性労働者の平等並びに母子の健康及び安全を更に促進するため、並びに加盟国の経済的及び社会的発展の多様性及び企業の多様性並びに国内法及び国内慣行における母性の保護に関する発展を認識するため、千九百五十二年の母性保護条約(改正)及び千九百五十二年の母性保護勧告を改正することの必要性に留意し、
 千九百四十八年の世界人権宣言、千九百七十九年に国際連合で採択された女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、千九百八十九年に国際連合で採択された児童の権利に関する条約、千九百九十五年の北京宣言及び行動綱領、千九百七十五年の女性労働者の機会及び待遇の均等に関する国際労働機関の宣言、千九百九十八年の労働における基本的な原則及び権利に関する国際労働機関の宣言並びにその実施についての措置及び男女労働者の機会及び待遇の均等を確保することを目的とした国際労働条約及び国際労働勧告特に千九百八十一年の家族的責任を有する労働者条約の諸規定に留意し、
 政府及び社会が責任を共有する女性労働者の置かれている状況及び妊娠に対する保護を提供することの必要性を考慮し、
 その第八十八回会期の議事日程の第四議題である千九百五十二年の母性保護条約(改正)及び千九百五十二年の母性保護勧告の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、二千年の母性保護条約と称することができる。)を二千年六月十五日に採択する。

範囲

第 一 条

 この条約の適用上、「女性」とは、いかなる差別もなくすべての女子をいい、「乳児」とは、いかなる差別もなくすべての乳児をいう。

第 二 条

1 この条約は、すべての女性の被用者(非典型的な従属的形態における労働者を含む。)について適用する。
2 この条約を批准する加盟国は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、この条約の適用が実質的で特殊な問題を生ずる場合には、限られた種類の労働者についてこの条約の全部又は一部の規定の適用を除外することができる。
3 2の規定を適用する加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づくこの条約の適用に関する第一回の報告において、この条約の適用範囲から除外した労働者の種類及びその除外の理由を掲げる。加盟国は、その後の報告において、当該種類の労働者に対し、この条約の規定の適用範囲を漸進的に拡大するためにとられた措置について記載する。

健康の保護

第 三 条

 加盟国は、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、権限のある機関により母子の健康に有害であると認められた業務又は母子の健康に相当な危険があるとの評価が確立した業務を妊娠中又は哺育中の女性が行う義務を負わないことを確保するための適当な措置をとる。

母性休暇

第 四 条

1 この条約の適用を受ける女性は、出産の予定日を記載した健康証明書又は国内法若しくは国内慣行に定める他の適当な証明書を提出した場合には、十四週間を下回らない期間の母性休暇の権利を有する。
2 加盟国は、この条約の批准に際して行う宣言において、1に規定する母性休暇の期間の長さを明示する。
3 加盟国は、その後において、批准の際に明示した母性休暇の期間を延長する旨の新たな宣言を国際労働事務局長に寄託することができる。
4 母子の健康の保護を十分に考慮して、母性休暇の期間は、六週間の産後の強制的な休暇の期間を含む。ただし、政府並びに代表的な使用者団体及び労働者団体が全国的な規模で別段の合意をする場合は、この限りでない。
5 産前の母性休暇については、産後の強制的な休暇の期間を短縮することなしに、出産の予定日と実際の出産日との間に経過した期間が延長される。

疾病又は併発症の場合の休暇

第 五 条

 妊娠又は出産に起因する疾病、併発症又は併発症のおそれがある場合には、健康証明書の提出により、母性休暇の前又は後に休暇が与えられる。その休暇の性格及び最長期間は、国内法及び国内慣行に従って定めることができる。

給付

第 六 条

1 第四条又は前条に規定する休暇により休業している女性に対し、国内法令に従い又は国内慣行に適合するその他の方法により、現金給付が与えられる。
2 現金給付は、1に規定する女性及びその乳児が適切な健康状態及び適当な生活水準を確実に維持することのできる水準とする。
3 第四条に規定する休暇に関し、国内法又は国内慣行により現金給付を従前の所得に基づいて支払う場合には、その額は、当該女性の従前の所得又は給付の算定のために考慮される所得の三分の二を下回ってはならない。
4 第四条に規定する休暇に関して支払われる現金給付を決定するために国内法又は国内慣行により他の方法を用いる場合には、当該給付の額は、3の規定を適用して平均的に得られる額と同等の額とする。
5 加盟国は、現金給付の資格条件がこの条約を適用する大多数の女性によって満たされることができるよう確保する。
6 女性が国内法令の下で又は国内慣行に適合するその他の方法により現金給付の資格条件を満たさない場合には、社会的な扶助を受けるために必要な資産調査を条件として、社会的な扶助のための基金から妥当な給付を得る権利を有する。
7 医療給付は、国内法令又は国内慣行に適合するその他の方法により、女性及びその乳児に与えられる。医療給付は、出産の介助及び産前産後の手当並びに必要がある場合の病院への収容を含む。
8 労働市場における女性の立場を保護するため、前二条に規定する休暇に係る給付は、強制的な社会保険、公的基金又は国内法及び国内慣行により定められている方法を通じて与えられる。使用者は、次に掲げる場合を除くほか、雇用している女性に対するいかなる金銭給付の直接的な費用についても、当該使用者の明確な合意なしに個人として責任を負わない。
 (a) 国際労働機関の総会がこの条約を採択する日の前に加盟国において国内法又は国内慣行に定められている場合
 (b) その後において、政府並びに代表的な使用者団体及び労働者団体が全国的な規模で合意する場合

第 七 条

1 経済及び社会保障制度が十分に発達していない加盟国は、国内法令に従い疾病又は一時的な障害に対して支払われる給付の率を下回らない率の現金給付が行われる場合には、前条3及び4の規定を遵守しているとみなされる。
2 1の規定を適用する加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づくこの条約の適用に関する第一回の報告において、その理由及び現金給付の給付率について説明する。加盟国は、その後の報告において、給付率を漸進的に引き上げるためにとられた措置について記載する。

雇用保護及び無差別

第 八 条

1 妊娠、出産及びその結果又は哺育に無関係な理由による場合を除くほか、妊娠中、第四条若しくは第五条に規定する休暇中又は国内法令に規定する職場への復帰後の一定期間中に使用者が女性の雇用を打ち切ることを違法とする。解雇の理由が妊娠、出産及びその結果又は哺育に無関係であることを証明する責任は使用者が負う。
2 女性は、母性休暇の終了時に、原職又は当該休暇の直前と同一の額が支払われる同等の職に復帰する権利を保証される。

第 九 条

1 加盟国は、母性が雇用上(第二条1の規定にかかわらず、雇用へのアクセスを含む。)の差別の原因とならないようにするための適当な措置をとる。
2 1に規定する措置は、次の業務に関して国内法令により要求されている場合を除くほか、女性が求職するときに妊娠検査又はそのような検査の結果の証明を求められることの禁止を含む。
 (a) 国内法令により妊娠中又は哺育中の女性に対し就業を禁止され又は制限されている業務
 (b) 母子の健康に危険があると認められ又は相当な危険がある業務

哺育中の母

第 十 条

1 女性は、その乳児の哺育のために一日一回以上の休憩をとり又は一日の労働時間を短縮する権利を与えられる。
2 哺育のための休憩又は一日の労働時間の短縮が認められている期間、当該哺育のための休憩の回数、当該哺育のための休憩の長さ及び一日の労働時間を短縮する手続は、国内法及び国内慣行によって定められる。当該休憩又は一日の労働時間から短縮された時間は労働時間として算定され、また、その算定に従って報酬を与えられる。

定期的な検討

第 十 一 条

 加盟国は、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、第四条に規定する休暇の期間を延長すること又は第六条に規定する現金給付の金額若しくは率を引き上げることの妥当性について定期的に検討する。

実施

第 十 二 条

 この条約は、労働協約、仲裁裁定、判決又は国内慣行に適合するその他の方法により実施する場合を除くほか、法令により実施する。

最終規定

第 十 三 条

 この条約は、千九百五十二年の母性保護条約(改正)を改正する。

第 十 四 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 五 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国で自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国による批准が国際労働事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 六 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 七 条

1 国際労働事務局長は、加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録についてすべての加盟国に通報する。
2 国際労働事務局長は、二番目の批准の登録について加盟国に通報する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 八 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 九 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第十六条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 一 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。