1947年の社会政策(非本土地域)条約(第82号)

ILO条約 | 1947/07/11

非本土地域における社会政策に関する条約(第82号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百四十七年六月十九日にその第三十回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第三項目に含まれる非本土地域における社会政策に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は国際条約の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十七年の社会政策(非本土地域)条約として引用することができる次の条約を千九百四十七年七月十一日に採択する。

第 一 部 当事者の義務

第 一 条

1 この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、この条約に規定されている政策及び措置を該加盟国が責任を有し又は引受けている非本土地域(該加盟国が管理機関である信託統治地域を含む。)に適用することを約する。但し、本条2及び3に指摘される地域を除き、且つ、これら非本土地域の自治権の範囲内にある問題に関しては関係地域の政府の同意を得なければならない。
2 この条約の主要問題がすべて又は主として非本土地域の自治権の範囲内に属する場合には、右の地域の国際関係に責任を有する加盟国は、その地域の政府の同意を得てその地域に代つてこの条約の義務を受諾する旨の宣言を国際労働事務局長に通告することができる。
3 この条約の義務を受諾する宣言は、次のようにして国際労働事務局長にこれを通告することができる。
 (a) 国際労働機関の二又はそれ以上の加盟国の共同管理の下にある地域については、それ等の加盟国によつて
 (b) 国際連合憲章等によつて国際機関が施政の責任を負う地域については、その国際機関によつて

第 二 部 一般原則

第 二 条

1 非本土地域に適用されるべきすべての政策は、主として右地域の人民の福祉及び発展とかれらの社会的進歩に対する欲求の助長とに仕向けられなければならない。
2 さらに一般的に適用される政策は、それらが非本土地域の人民の福祉に及ぼす影響を充分考慮の上これを決定しなければならない。

第 三 条

1 経済的開発を助長しかくして社会的進歩の基礎を確立するために、国際的、地方的、国家的又は地域的な基礎の上に、非本土地域の経済的発達を促進するため財政的及び技術的援助を地方行政機関に確保するようあらゆる努力がなされなければならない。
2 このような援助が与えられる条件には、経済的開発の性格及びその結果行われる事業の条件を定めるに当り、地方行政機関が非本土地域の人民の利益を擁護するのに必要な管理及び協力について規定しておかなければならない。
3 非本土地域の人民に対しその開発から最大限の利益を保障する条件で、公共資本若しくは個人資本又はその両者を経済開発に充てはめるため十分な資金を使用しうるようにすることが責任ある政府機関の政策の目的でなければならない。
4 適当な機会には、非本土地域における高能率水準の生産を助長し、且つその合理的な生活水準の維持を可能ならしめるような貿易事情を確立するために、国際的、地方的又は国家的な措置が講ぜられなければならない。

第 四 条

 公衆衛生、住居、栄養、教育、児童の福祉、婦人の状態、雇用条件、賃金取得者及び独立生産者の報酬、移民労働者の保護、社会保障、公共施設並びに一般生産基準の如き分野の改善を促進するために、適当な国際的、地方的、国家的及び地域的方法により、あらゆる可能な措置が講ぜられなければならない。

第 五 条

 社会的進歩のための方法を企画し及び実施するに際し、適当にして可能な場合にはできるだけその自ら選出した代表を通じ、非本土地域の人民の関心をそそり及び協力させるような一切の方法が講ぜられなければならない。

第 三 部 生活基準の改善

第 六 条

 生活基準の改善は、経済開発計画において主要な目的と認められなければならない。

第 七 条

1 経済開発計画に対しては、かかる開発と当該社会の健全な発展とを調和させるようあらゆる実際上の施策が講ぜられなければならない。
2 特に次の方法により、家族生活と伝来的な社会単位との破壊を避けるため、特に努力がなされなければならない。
 (a) 人口の移動の原因及びその影響の綿密な研究並びに必要な場合にはそれに対する適当な措置
 (b) 経済的な必要により人口の集中を招来する地域における都市又は村落計画の助長
 (c) 都市地域ヘの集中防止とその排除
 (d) 農村地域における生活条件の改善と適当な人力を利用しうる農村地域における適当な産業の確立

第 八 条

 農業生産者の生産力を向上し且つその生活基準を改善するために、当該機関が講ずべき措置は、次の事項を包含しなければならない。
 (a) 慢性的な負債の原因となる事由をできる限り除去すること。
 (b) 農地の譲渡は、それが該地域に最大の利益となるような場合にのみ許されるようにするため非農業者に対する農地の譲渡を統制すること。
 (c) 慣習上の権利を充分に尊重しつつ、該地域の住民にもつとも利益となるように土地及び資源が利用されるようにするため、適当な法令又は規則の実施により、土地及び資源の所有及び利用の統制を行うこと。
 (d) 小作人及び労働者にできるだけ高い生活水準を付与し、生産性又は価格水準の改善により受ける利益について平等な分け前を確保するために、小作制度及び労働条件の監督を行うこと。
 (e) あらゆる実際的な方法により、且つ特に生産者及び消費者協同組合を結成し、奨励し及び援助することにより生産及び分配の費用を低減せしめること。

第 九 条

1 独立生産者及び賃金取得者に対し、自らの努力により生活水準を改善する余地を与え、且つ使用者及び労働者の代表的な団体と協議ののち行われる生活条件についての公の調査により得られた最低の生活基準の維持を確保する条件を保障する施策を講じなければならない。
2 最低生活基準を決定するについては、食糧及びその栄養価、住居、被服、医療並びに教育のような労働者の不可欠な家族的需要を考慮しなければならない。

第 四 部 移民労働者に関する条項

第 十 条

 労働者が雇用される事情により、かれらをその家庭から離して住まわせる場合には、雇用条件についてかれらの正常な家族の需要を考慮しなければならない。

第 十 一 条

 非本土地域の一地域における労働力資源が他の地域のために一時利用される場合には、労働が利用される地域から労働が供給される地域へ労働者の賃金及び貯蓄の一部が移送されることを助長するような手段を講じなければならない。

第 十 二 条

1 一地域の労働力資源が管轄の異つた地域において利用される場合には、関係地域の権限ある機関は、必要に応じ又は希望に応じ、いつでもこの条約の条項の適用に関連して起る共通の事項を規制するための協定を結ばなければならない。
2 右の協定は、労働者がその労働力を利用される地域に居住する労働者により享受されるのに劣らない保護と利益を与えられるよう規定しなければならない。
3 右の協定は、労働者がその賃金及び貯蓄の一部をその家族に送付しうるような便宜について規定しなければならない。

第 十 三 条

 労働者及びその家族が生計費の低い地域から高い地域に移動する場合には、その変化により招来される生計費の増加について考慮が払われなければならない。

第 五 部 労働者の報酬及びこれに関連する問題

第 十 四 条

1 当該労働者を代表する労働組合と使用者又は使用者の団体との間に自由な交渉によつて締結される労働協約による最低賃金の決定は、奨励されなければならない。
2 労働協約による最低賃金の決定についてなんらの適当な取極がない場合には、使用者及び労働者団体が存在する場合にはその代表を含む使用者及び労働者の代表と協議の上、最低賃金率を決定しうるよう必要な方法がとられなければならない。
3 当該使用者及び労働者が現行の最低賃金率について知悉せしめられ、且つその賃金率が実施される場合、賃金がこれらの率よりも低く支払われることがないよう必要な措置が講ぜられなければならない。
4 最低賃金率が適用される労働者で、その適用以後その率よりも低い率で賃金が支払われた場合には、司法手段又は法律により許されたその他の手段によつて、法令又は規則により定められた期間内に不払の額を回収する権利が与えられなければならない。

第 十 五 条

1 あらゆる取得賃金が正当に支払われることを確保するために必要な措置が講ぜられなければならず、且つ使用者は、賃金の支払簿を備付け、労働者に賃金支払の明細書を発行し且つ必要な監督を容易ならしめるようなその他の方法を講じなければならない。
2 賃金は、通常法定通貨によつてのみこれを支払わなければならない。
3 賃金は、通常各労働者に直接これを支払わなければならない。
4 労働者が遂行した労働に対する賃金の全部又は一部をアルコールその他のアルコール飲料に替えることはこれを禁止しなければならない。
5 賃金は、そこで使用されている労働者を除き、酒場又は売店において支払つてはならない。
6 賃金は、賃金取得者の負債の可能性を少くするような期間毎に定期的にこれを支払わなければならない。但しこれに反する地方的の慣行が確立されており、且つこの慣行を継続することを労働者が希望していることを権限ある機関が確認する場合は、その限りではない。
7 食糧、住居、衣服その他の重要供給物資及びサービスが報酬の一部をなす場合には、それが充分であること並びにその貨幣価値が適切に評価されることを確認するため、権限ある機関においてあらゆる実行可能な措置を講じなければならない。
8 次の目的のため、あらゆる可能な措置が講ぜられなければならない。
 (a) 労働者に対しかれらの賃金に対する権利を知悉させること。
 (b) 許可されない賃金控除を防止すること。
 (c) 報酬の一部を成す供給物資及びサービスについて、賃金から控除しうる額は、これをこれらの物資及びサービスの現金による適正な価格に制限すること。

第 十 六 条

1 賃金前払の最高額及びその返還方法は、権限ある機関により規制されなければならない。
2 権限ある機関は、労働者が雇用を受諾することを勧奨するために行われる前払の額を制限しなければならない。また許容される前払の額は、労働者に明白にこれを説明しなければならない。
3 権限ある機関により定められた額を超える前払は、法律上回収することができず且つ労働者に対し支払われるべき額から後日これを回収することはできない。

第 十 七 条

1 賃金取得者及び独立生産者間の任意的な形式の貯蓄は、奨励されなければならない。
2 賃金取得者及び独立生産者を高利貸から保護するために、特に融資に対する利率の低下を目的とした措置により、金貸業者の活動の統制により、及び協同組合的信用機関又は権限ある機関の統制の下にある組織を通じて適当な目的のために融資を行うための方策を助長することによつて、あらゆる実行可能な措置が講ぜられなければならない。

第 六 部 人種、皮膚の色、性別、信教、部落組合加入又は労働組合加入により差別をしないこと

第 十 八 条

1 次に掲げる事項に関し人種、皮膚の色、性別、信教、部落組合加入及び労働組合加入の故を以て労働者に対し差別待遇をなすことを廃止することは、本政策の目的でなければならない。
 (a) 当該地域内に於て合法的に居住し、又は労働するすべての労働者に対し平等的な経済的取扱をなすことを規定する労働立法及び労働協約
 (b) 公私の労務に雇用され得ること
 (c) 就業及び昇進の条件
 (d) 職業教育を受ける機会
 (e) 労働条件
 (f) 衛生、安全及び福祉に対する措置
 (g) 訓練
 (h) 労働協約の交渉における参加
 (i) 本土地域において同一価値の労働に対する同一賃金の原則が承認されている程度で同一の作業又は企業に於てこの原則によつて決定されるべき賃金率
2 前項(i)の規定に従う条件の下に、低賃金労働者に適用される賃金率を引上げることにより、人種、性別、信教、部落組合加入又は労働組合加入に基因する賃金率の現在差額を少くするあらゆる実行可能な措置を講じなければならない。
3 一地域内の労働者が他の地域に於ける労務に雇用される場合には、その賃金以外に、家庭を離れての雇用に基く労働者自身及び家族の妥当な出費をまかなう為に現金又は実物による給付を支給することができる。
4 上記の諸規定は、権限ある機関が母体の保護、並びに婦人労働者の衛生、安全及び福祉を確保するに必要であり且つ望ましいと考える様な措置を執ることを妨げるものであつてはならない。

第 七 部 教育及び訓練

第 十 九 条

1 男女両性の児童及び年少者が有用な職業に就き得るよう十分に用意する為、非本土地域においては、その地域的事情の許す限り、教育、職業訓練及び徒弟制度に関する広範囲な制度を進歩発展させるために適当な措置が講ぜられなければならない。
2 当該地域内の法令及び規則は、終学年令並びに就業し得る最低年令及び条件を規定しなければならない。
3 児童をして現在の教育施設を利用することを得せしめ、且つ児童労働に対する要求のために斯かる施設の拡張が妨げられないようにするため、学令期の児童の大多数を収容しうる教育施設のある地域では、授業時間中終学年令未満の者を使用してはならない。

第 二 十 条

1 非本土地域における熟練労働の発達を通じ生産力を高めるために、生産のための新しい技術訓練が適当の場合に地区、地方及び首都の中心地において設けられなければならない。
2 かかる訓練は、被訓練者が出た地域及び訓練を行う国の使用者及び労働者団体と協議の上、権限ある機関によつて又はその監督の下にこれを組織しなければならない。

第 八 部 雑則

第 二 十 一 条

1 この条約の第一条1に規定される地域に関しては、この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、次のことを述べた宣言をその批准に添付し、又は批准後でき得る限り速かに国際労働事務局長に通告しなければならない。
 (a) この条約の諸規定が変更なしに適用されることを約する地域
 (b) この条約の諸規定が変更されて適用されることを約する地域及びかかる場合には右の変更の詳細
 (c) この条約を適用することができない地域及びかかる場合には適用できない理由
 (d) 決定を留保する地域
2 本条1(a)及び(b)に掲げた約束は、批准の不可欠な部分とみなさるべく、且つ批准と同一の効力を有するものとする。
3 加盟国は、本条1(b)、(c)又は(d)によつてその最初の宣言中でなした留保を爾後の宣言によつていつでも包括的に又は部分的に取消すことができる。
4 第二十七条の規定に従いこの条約を廃棄することができる場合は何時でも、加盟国は、以前の宣言中の条項を他の点について変更し、且つ特に指摘する地域についての現状を述べた宣言を事務局長に通告することができる。

第 二 十 二 条

1 この条約の第一条2及び3に従い国際労働事務局長に通告される宣言は、この条約の規定が関係地域に変更なく適用されるか又は変更をうけて適用されるかを指摘しなければならない。条約の規定が変更をうけて適用される旨を指摘している場合には、右の宣言は、変更の詳細を示さなければならない。
2 関係加盟国又は国際機関は、以前の宣言中に指摘した変更を援用する権利を、爾後の宣言によつて包括的に又は部分的に何時でも放棄することができる。
3 関係加盟国又は国際機関は、第二十七条の規定に従いこの条約を廃棄することができる場合は何時でも、以前の宣言中の条項を他の点について変更し、且つこの条約の適用についての現状を述べた宣言を国際労働事務局長に通告することができる。

第 二 十 三 条

 この条約の規定の変更を明記せる宣言が実施されている地域に関しては、前記の変更を援用する権利を放棄することを可能にする目的を以て、進歩がどの程度為されたかを条約の適用に関する年次報告に指摘しなければならない。

第 二 十 四 条

 この条約において取り扱われている問題に関し今後総会により採択される条約に規定がある場合には、右条約において指摘されているこの条約の条項は、次の宣言を国際労働事務局長に通告した地域には適用されなくなる。
 (a) 千九百四十六年の国際労働機関憲章改正文書により改正された国際労働機関憲章第三十五条2に従い右条約の条項を適用することを約する宣言 又は
 (b) 右の第三十五条5に従い右条約の義務を受諾する宣言

第 九 部 最終規定

第 二 十 五 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知しなければならない。

第 二 十 六 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長により登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 二 十 七 条

1 この条約を批准した各加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、それが登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した各加盟国で、1に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年間拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基づいて、十年の期間が満了するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 八 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 二 十 九 条

 国際労働事務局長は、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准、宣言及び廃棄の完全な明細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 三 十 条

 国際労働機関の理事会は、この条約の効力発生の後十年の期間が満了するごとに、この条約の運用に関する報告を総会に提出しなければならず、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 三 十 一 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第二十七条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、この条約を批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 三 十 二 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ひとしく正文とする。