1949年の労働条項(公契約)条約(第94号)

ILO条約 | 1949/06/29

公契約における労働条項に関する条約(第94号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百四十九年六月八日を以てその第三十二回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第六項目である公契約における労働条項に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は条約の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十九年の労働条項(公契約)条約として引用することができる次の条約を千九百四十九年六月二十九日に採択する。

第 一 条

1 この条約は、次の条件を充す契約に適用する。
 (a) 契約の当事者の少くとも一方は公の機関であること。
 (b) 契約の履行は次のものを伴うこと。
  (i) 公の機関による資金の支出 及び
  (ii) 契約の他方当事者による労働者の使用
 (c) 契約は次のものに対する契約であること。
  (i)  土木工事の建設、変更、修理若しくは解体
  (ii)  材料、補給品若しくは装置の製作、組立、取扱若しくは発送 又は
  (iii) 労務の遂行若しくは提供 並びに
 (d) 契約は条約が実施される国際労働機関の加盟国の中央機関により査定されること。
2 権限のある機関は、条約が中央機関以外の機関により査定される契約に適用されるべき程度及び方法を定めなければならない。
3 この条約は、下請負業者又は契約の受託者により行われる作業に適用する。かかる適用を確保するため権限のある機関は、適当な措置を講じなければならない。
4 権限のある機関が関係ある使用者団体及び労働者団体(各団体の存在する場合)と協議の上定める限度を超えない額の公の資金の支出を伴う契約は、この条約の適用から除外することができる。
5 権限のある機関は、関係ある使用者団体及び労働者団体と協議の上、管理の地位を占める者又は技術的、専門的若しくは科学的性質を有する者であつて、労働条件が国内の法令若しくは規則、労働協約又は仲裁裁定により規律されず且つ通常筋肉労働を行わないものをこの条約の適用から除外することができる。

第 二 条

1 この条約の適用をうける契約は、当該労働が行われる地方において関係ある職業又は産業における同一性質の労働に対し次のものにより定められているものに劣らない有利な賃金(手当を含む。)、労働時間その他の労働条件を関係労働者に確保する条項を包含しなければならない。
 (a) 関係ある職業又は産業における使用者及び労働者の大部分を夫々代表する使用者団体及び労働者団体の代表者間の労働協約その他の承認された交渉機関により、
 (b) 仲裁裁定により、又は
 (c) 国内の法令又は規則により
2 当該労働が行われる地方において前項に掲げられる労働条件が同項に掲げられる方法をもつて規制されない場合には、契約中に挿入される条項は、右のものに劣らない有利な賃金(手当を含む。)、労働時間その他の労働条件を関係労働者に確保するものでなければならない。
 (a) 最も近くの適当な地方において関係ある職業又は産業における同一性質の労働に対し労働協約若しくはその他の公認交渉機関、仲裁又は国内の法令若しくは規則により定められるもの
 (b) 契約者が従事する職業又は産業において、一般事情が類似している使用者により遵守される一般水準
3 契約に挿入されるべき条項の条件及びこれが変更は、権限のある機関が関係ある使用者及び労働者の団体(かかる団体が存在する場合)と協議の上、国内事情に最も適当すると認められる方法でこれを決定しなければならない。
4 権限のある機関は、広告による明細書その他により、契約申込者に当該条項の条件を知悉させることを確保するため適当の措置を講じなければならない。

第 三 条

 契約の履行に従事する労働者の健康、安全及び福利に関する適当の規定が国内の法令若しくは規則、労働協約又は仲裁裁定によりいまだ適用されない場合には、権限のある機関は、関係労働者に対する公平にして合理的な健康、安全及び福利の条件を確保するため充分な措置を講じなければならない。

第 四 条

 この条約の規定を実施する法令、規則又はその他の手段は、
 (a)(i) すべての関係者に知らしめなければならず、
  (ii) これが遵守に付責任ある者を定めなければならず、且つ
  (iii) 労働者にその労働条件を知らせるため関係ある設備及び作業場において見易き箇所に掲示することを要求しなければならない。
 (b) 有効な実施を確保するためその他の措置が実施されている場合を除き、
  (i)  関係労働者が労働する時間及びこれに支払われる賃金の適当な記録の保存について規定しなければならない。
  (ii) 有効な実施を確保するに充分な監督制度の維持について規定しなければならない。

第 五 条

1 公契約における労働条項の規定の遵守及び適用を怠る場合について、契約の手控えその他により適当の制裁を適用しなければならない。
2 関係労働者をしてその正当の賃金を受けることを得しめるため、契約の下における支払手控えその他の方法により適当の措置を講じなければならない。

第 六 条

 国際労働機関憲章第二十二条により提出される年次報告には、この条約を実施する措置に関する充分な情報を包含させねばならない。

第 七 条

1 人口の稀薄又は地域の発達段階のために権限のある機関がこの条約の規定を実施すること不可能と認める広い地域を含む領域を有する加盟国については、右機関は、関係ある使用者及び労働者の団体と協議の上(かかる団体が存在するときは)、その適当と認める特定の企業又は業務に関し一般的に又は例外を付して、この条約の適用よりかかる地域を除外することができる。
2 各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条により提出するこの条約の適用に関するその最初の年次報告において、この条の規定を援用せんとする地域を指摘し、且つこれを援用せんとする理由を示さなければならない。いかなる加盟国も、その年次報告の日付以後、かくの如く指摘した地域を除いては、この条の規定を援用することはできない。
3 この条の規定を援用する各加盟国は、三年を超えない期間において、関係ある使用者及び労働者の団体と協議の上(かかる団体が存在するときは)、1により除外される地域にこの条約の適用を拡張する可能性を再考慮しなければならない。
4 この条の規定を援用する各加盟国は、爾後の年次報告においてこの条の規定を援用する権利を放棄する地域と、かかる地域における条約の漸次的適用の目的を以て行われた進歩の程度とを指摘しなければならない。

第 八 条

 この条約の規定の実施は、権限のある機関が関係ある使用者及び労働者の団体と協議の上(かかる団体が存在するときは)、不可抗力の場合、又は国の福利若しくは安全を危殆ならしめる緊急の場合において一時これを停止することができる。

第 九 条

1 この条約は、関係加盟国に対する条約の効力発生前に締結された契約には適用しない。
2 この条約の廃棄は、条約の実施中締結された契約に関するその適用に影響を及ぼさないものとする。

第 十 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 十 一 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准を国際労働事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 ニ 条

1 国際労働機関憲章第三十五条2の規定に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、次の事項を示さなければならない。
 (a) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えずに適用することを約束する地域
 (b) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えて適用することを約束する地域及びその変更の細目
 (c) この条約を適用することができない地域及びその適用することができない理由
 (d) 当該加盟国がさらに事情を検討する間決定を留保する地域
2 前項(a)及び(b)に掲げる約束は、批准の不可分の一部とみなされ、かつ、批准と同一の効力を有する。
3 加盟国は、1(b)、(c)又は(d)に基きその最初の宣言において行つた留保の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも取り消すことができる。
4 加盟国は、第十四条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、指定する地域に関する現況を述べた宣言を事務局長に通知することができる。

第 十 三 条

1 国際労働機関憲章第三十五条4又は5の規定に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、当該地域内でこの条約の規定を変更を加えずに適用するか又は変更を加えて適用するかを示さなければならない。その宣言は、この条約の規定を変更を加えて適用することを示している場合には、その変更の細目を示さなければならない。
2 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、前の宣言において示した変更を適用する権利の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも放棄することができる。
3 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、第十四条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、この条約の適用についての現況を述べた宣言を国際労働事務局長に通知することができる。

第 十 四 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で前項に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 五 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 十 六 条

 国際労働事務局長は、前条までの規定に従つて登録されたすべての批准書、宣言書及び廃棄書の完全な明細を国際連合憲章第百二条の規定による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 十 七 条

 国際労働機関の理事会は、この条約が効力を生じた後十年の期間が経過するごとにこの条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 十 八 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第十四条の規定にかかわらず、当然この条約の即時廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 九 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ともに正文とする。