1957年の土民及び種族民条約(第107号)

ILO条約 | 1957/06/26

独立国における土民並びに他の種族民及び半種族民の保護及び同化に関する条約(第107号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百五十七年六月五日にその第四十回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第六議題である独立国における土民並びに他の種族民及び半種族民の保護及び同化に関する提案の採択を決定し、
 この提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定し、
 フィラデルフィア宣言が、すべての人間は、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつと確認していることを考慮し、
 多数の独立国には、土民並びに他の種族民及び半種族民で、まだその国の共同社会に同化されず、かつ、自己の社会的、経済的又は文化的事情のためその国の他の構成員が享有している権利及び利益を十分に受けることができないものが存在することを考慮し、
 それらの住民の生活条件及び労働条件を改善するための継続的活動を促進し、かつ、同住民がその所属する国の共同社会の進歩の利益を十分に受けることを妨げてきたすべての要因に対して同時に措置を執ることが、人道的理由及び関係国の利益のために望ましいことを考慮し、
 この問題に関して一般的国際基準を採択することが、関係住民の保護、それぞれの国の共同社会への漸進的同化並びにその生活条件及び労働条件の改善を確保するための活動を容易にすることを考慮し、
 前記の基準が、国際連合、国際連合食糧農業機関、国際連合教育科学文化機関及び世界保健機関の協力を得て、適当な水準において及びそれぞれの分野において設定されたこと並びに、その基準の適用を促進し、かつ、確保するに当つては、引き続き前記の諸機関の協力を求めることが提案されていることに留意して、
 次の条約(引用に際しては、千九百五十七年の土民及び種族民条約と称することができる。)を千九百五十七年六月二十六日に採択する。

第 一 部 一般原則

第 一 条

1 この条約は、次の者について適用する。
 (a) 独立国における種族民又は半種族民で、その社会的及び経済的状態が、その国の共同社会の他の部類の者が到達している段階より低い段階にあり、かつ、その地位が、自己の習慣若しくは伝統により又は特別の法令によつて全部又は一部規制されているものの構成員
 (b) 独立国における種族民又は半種族民で、征服又は殖民の時に当該国又は当該国が地理的に属する地方に居住していた住民の子孫であるため土民とみなされ、かつ、法律上の地位のいかんを問わず、その属する国の制度に従うよりは、征服又は殖民の時の社会的、経済的及び文化的制度に従つて生活しているものの構成員
2 この条約の適用上、「半種族民」とは、種族的特性を失う過程にあるが、まだその国の共同社会に同化されない集団をいう。
3 前二項にいう土民及び他の種族民又は半種族民は、以下「関係住民」という。

第 二 条

1 政府は、関係住民を保護し及びそれぞれの国の生活に漸次同化させるため、調整され、かつ、組織化された活動を進展することについて第一次的な責任を有するものとする。
2 その活動は、次の措置を含むものとする。
 (a) 関係住民に対し、国内法令がその国の他の構成員に与えている権利及び機会を、同等の立場で享受させるようにすること。
 (b) 関係住民の社会的、経済的及び文化的発展を促進し、及びその生活水準を向上させること。
 (c) 関係住民を人為的に融合するような措置を排除して、国民的同化を可能にすること。
3 その活動の第一の目的は、個人の尊厳の育成並びに個人の有用性の向上及び発意の助長にあるものとする。
4 関係住民のその国の共同社会への同化を促進する方法として、強制を加えることは、排除しなければならない。

第 三 条

1 関係住民がその社会的、経済的及び文化的事情のためその属する国の一般的法律上の利益を受けることができないときは、同住民の制度、人身、財産及び労働を保護するため、特別の措置を執らなければならない。
2 その特別保護措置については、次のことを確保するように注意を払わなければならない。
 (a) その措置が、分離状態を発生させ、又は長引かせる方法として用いられないこと。
 (b) その措置が、特別の保護を必要とする期間及び限度においてのみ、継続されること。
3 その特別保護措置は、一般市民権を差別なく享有することをなんら害するものであつてはならない。

第 四 条

 関係住民の同化に関するこの条約の規定を適用するに当つて、
 (a) 関係住民の文化的及び宗教的価値、同住民間に存在する社会的統制の形態並びに、同住民が、社会的及び経済的変化を受けたときに、集団として及び個人として直面する問題の性格について、正当な考慮を払わなければならない。
 (b) 関係住民の価値及び制度が、その関係住民の集団が受諾することができる適当なものによつて置き換えられない限り、その価値及び制度の崩壊から生ずることのある危険を認識しなければならない。
 (c) 関係住民が生活及び労働の新たな条件に適応するに当つて、同住民が経験する困難を緩和するための政策を執らなければならない。

第 五 条

 関係住民の保護及び同化に関するこの条約の規定を適用するに当つて、政府は、
 (a) 同住民及びその代表者の協力を求めなければならない。
 (b) 同住民に対し、その発意を十分に育成する機会を与えなければならない。
 (c) あらゆる方法により、同住民の間における市民的自由の発展及び選挙制度の確立又はその制度への参加を奨励しなければならない。

第 六 条

 関係住民の生活条件及び労働条件の改善並びにその教育水準の向上には、同住民が居住する地域の全面的経済開発計画において、高い優先順位を与えなければならない。また、その地域の経済開発のための特別の計画も、前記の改善及び向上を促進するように立案しなければならない。

第 七 条

1 関係住民の権利及び義務を定めるに当つては、同住民の慣習法を考慮しなければならない。
2 関係住民は、自己の慣習及び制度がその国の法的制度又は同化計画の目的と矛盾しない場合には、その慣習及び制度を維持することができる。
3 前二項の規定の適用は、関係住民の構成員が、すべての市民に与えられている権利を自己の能力に従つて行使すること及びそれに伴う義務を負担することを妨げるものではない。

第 八 条

 国の共同社会の利益及び国の法的制度に合致する範囲内において、
 (a) 関係住民が実行している社会統制の方法は、同住民の構成員が行つた犯罪又は違反を処理するため、できる限り用いなければならない。
 (b) 前記の社会統制の方法を用いることができないときは、当該問題の処理に当る機関及び裁判所は、刑罰に関する関係住民の慣習に留意しなければならない。

第 九 条

 すべての市民について法律により規定される場合を除き、関係住民の構成員に対して強制的な個人的役務をいかなる形式で科することも、報酬の有無にかかわらず、法律により禁止され、かつ、罰せられるものとする。

第 十 条

1 関係住民に属する者は、予防拘禁の不当な適用に対して特に保護され、かつ、自己の基本的権利の実効的な保護のため訴を提起することができるものとする。
2 一般的法律に定める刑罰を関係住民の構成員に科するに当つては、同住民の文化的発達の程度を考慮しなければならない。
3 拘置の方法よりも、更生の方法が優先しなければならない。

第 二 部 土地

第 十 一 条

 関係住民が伝統的に占居する土地に対する同住民の構成員の所有権は、集団的であると個人的であるとを問わず、認めなければならない。

第 十 二 条

1 関係住民は、国の安全保障、国の経済開発又は同住民の保健の為国内法令による場合を除き、その自主的な同意なくしては、自己の居住地域から移転させてはならない。
2 前記の場合において、例外的措置として関係住民の移転が必要であるときは、同住民には、従前から占居した土地と少くとも等価値の土地で、現在の必要及び将来の発展のために適当なものを提供しなければならない。他に就業の機会があり、かつ、関係住民が貨幣又は物品による補償を希望する場合には、同住民は、適当な保証の下にその補償を受けるものとする。
3 前二項に定めるところに従つて移転させられた者は、その結果として生ずるいかなる損失又は損害に対しても、十分な補償を受けるものとする。

第 十 三 条

1 土地所有権の譲渡及び土地使用権の譲渡に関する手続で、関係住民の慣習により確立されているものは、関係住民の必要を満たし、かつ、その経済的及び社会的発展を妨げない限り、国内法令の範囲内において尊重しなければならない。
2 関係住民の構成員でない者が、同構成員に属する土地の所有又は使用を獲得するため、その関係住民の慣習を利用すること、又は法律に関する同構成員の知識の欠如を利用することがないようにするための措置を執らなければならない。

第 十 四 条

 国の農地計画は、関係住民に対し、次のことについて、その国の共同社会の他の部類の者に与えられる待遇と同様の待遇を確保しなければならない。
 (a) 関係住民がその正常な生活に欠くことのできないものを確保するため又は将来の同住民の人口増加のために必要な土地をもつていないときは、同住民に対しさらに多くの土地を提供すること。
 (b) 関係住民がすでに所有している土地の開発を促進するために必要な手段を与えること。

第 三 部 募集及び雇用条件

第 十 五 条

1 各加盟国は、関係住民に属する労働者が、その募集及び雇用条件について、法律が一般的に労働者に対して与える保護を享有する地位にないときは、国内法令の範囲内において、効果的な保護を確保するため、特別の措置を執るものとする。
2 各加盟国は、関係住民に属する労働者とその他の労働者との間のすべての差別待遇を防止するため、特に次のことに関してできる限り努力するものとする。
 (a) 雇入(熟練労働への雇入を含む。)
 (b) 同一価値の労働に対する同一賃金
 (c) 医療扶助、社会扶助、業務災害の防止、労働者災害補償、労働衛生及び住宅
 (d) 団結権、すべての合法的組合活動の自由及び使用者又は使用者団体との労働協約の締結権

第 四 部 職業訓練、手工業及び農村工業

第 十 六 条

 関係住民に属する者は、職業訓練施設について、他の市民と同様の機会を享有するものとする。

第 十 七 条

1 一般に適用される職業訓練計画が関係住民に属する者の特別の必要を満たさないときは、政府は、その者に対し特別訓練施設を提供しなければならない。
2 特別訓練施設は、関係住民の間において各職種に従事する集団の経済的環境、文化的発展の段階及び実際の必要についての慎重な調査に基くものでなければならない。同施設は、特に、関係住民が伝統的に適性を示してきた職業に必要な訓練を、関係者に授けることができるものでなければならない。
3 特別訓練施設は、関係住民の文化的発展の段階がそれを必要とする期間に限り、提供しなければならない。同施設は、同化の過程の進展に応じ、他の市民に提供する施設に替えられなければならない。

第 十 八 条

1 手工業及び農村工業は、関係住民の経済開発の要因として、同住民がその生活水準を高め、かつ、生産及び販売の近代的方法に適応しうるように奨励しなければならない。
2 手工業及び農村工業は、関係住民の文化的遺産を保存し、かつ、同住民の芸術的素質及び特有の表現様式を改善するように発展させなければならない。

第 五 部 社会保障及び保健

第 十 九 条

 現行の社会保障制度は、実行可能なときは、次の者に対して漸進的に拡張しなければならない。
 (a) 関係住民に属する賃金労働者
 (b) 関係住民に属するその他の者

第 二 十 条

1 政府は、適当な保健施設を関係住民のために提供することについて責任を有するものとする。
2 当該施設の設置は、関係住民の社会的、経済的及び文化的状態に関する組織的な調査に基くものでなければならない。
3 当該施設の発展は、社会的、経済的及び文化的発展に関する一般的措置と並行して進めなければならない。

第 六 部 教育及び伝達の手段

第 二 十 一 条

 関係住民の構成員が、その国の共同社会の他の者と同等の立場で、あらゆる段階の教育を受ける機会を有するようにするための措置を執らなければならない。

第 二 十 二 条

1 関係住民の教育計画は、方法及び技術については、同住民がその国の共同社会への社会的、経済的及び文化的同化の過程において到達している段階に適合するものでなければならない。
2 当該計画を作成するに当つては、通常、人種学的調査をあらかじめ行うものとする。

第 二 十 三 条

1 関係住民に属する児童には、その母語で、又は実行不可能なときは、その属する集団が最も普通に使用する言語で、読み書きを教えなければならない。
2 母語又は土語から当該国の国語又は公用語へ漸進的に移行するように、措置を執るものとする。
3 母語又は土語を保存するため、適当な措置をできる限り執るものとする。

第 二 十 四 条

 関係住民の初等教育は、その国の共同社会に同化するための一助となるべき一般知識及び技能を、児童に対し与えることを目的とする。

第 二 十 五 条

 国の共同社会の他の部類の者、特に関係住民と最も直接に接触する者が同住民に対していだく偏見を取り除くため、教育的措置を執るものとする。

第 二 十 六 条

1 政府は、関係住民に対し、特に労働及び社会福祉に関する同住民の権利及び義務を理解させるため、同住民の社会的及び文化的特性に適した措置を執らなければならない。
2 前記の措置を執るため、必要があるときは、翻訳書及び関係住民の言語による大量伝達の形式を利用するものとする。

第 七 部 行政

第 二 十 七 条

1 この条約に定める事項について責任を有する政府当局は、その事項に関する計画を執行する機関を設立し、又は発展させなければならない。
2 前記の計画は、次のことを含むものとする。
 (a) 関係住民の社会的、経済的及び文化的発展のための適当な措置を立案し、調整し及び実施すること。
 (b) 権限のある機関に対し立法その他の措置を提案すること。
 (c) 前記の措置の適用を監督すること。

第 八 部 一般規定

第 二 十 八 条

 この条約を実施するために執る措置の性質及び範囲は、それぞれの国に特有の事情を考慮して、融通性のあるように決定しなければならない。

第 二 十 九 条

 この条約の規定の適用は、他の条約及び勧告に従つて関係住民に与えられる利益に影響を及ぼすものではない。

第 三 十 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 三 十 一 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 三 十 ニ 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 三 十 三 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 三 十 四 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 三 十 五 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 三 十 六 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第三十二条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 三 十 七 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。