1964年の衛生(商業及び事務所)条約(第120号)

ILO条約 | 1964/07/08

商業及び事務所における衛生に関する条約(第120号)
(1993年6月21日批准)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十四年六月十七日にその第四十八回会期として会合し、
 その会期の議事日程の第四議題である商業及び事務所における衛生に関する提案の採択を決定し、
 その提案のうちのあるものが国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)条約と称することができる。)を千九百六十四年七月八日に採択する。

第 一 部 締約国の義務

第 一 条

 この条約は、次のものについて適用する。
 (a) 商業事業所
 (b) 労働者が主として事務作業に従事する事業所、団体及び行政機関
 (c) その他の事業所、団体又は行政機関における部門であつて、労働者が主として商業又は事務作業に従事するもの。ただし、これらの部門が工業、鉱業、運送業又は農業における衛生に関する国内法令又は他の制度の適用を受けない場合に限る。

第 二 条

 権限のある機関は、前条に掲げる事業所、団体、行政機関又はこれらにおける部門のうち特定の種類のものについて、この条約の規定の全部又は一部を適用することが雇用の事情及び条件に照らして不適当である場合には、この条約の規定の全部又は一部の適用を除外することができる。もつとも、その適用の除外は、直接に関係のある使用者団体及び労働者団体が存在するときは、これらの団体と協議した上で行うものとする。

第 三 条

 ある事業所、団体又は行政機関がこの条約の適用を受けるものであるかないかについて疑いがある場合には、権限のある機関が(関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体が存在するときは、これらの団体と協議した上で)これを解決するか、又は国内法及び国内慣行に適合する他の方法によりこれを解決する。

第 四 条

 この条約を批准する加盟国は、次のことを約束する。
 (a) 第二部に規定する一般原則の適用を確保するための法令を維持すること。
 (b) 千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)勧告の規定又はこれと同様の規定を国内事情の下で可能なかつ望ましい限りにおいて実施することを確保すること。

第 五 条

 この条約を実施するための法令及び千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)勧告の規定又はこれと同様の規定を国内事情の下で可能なかつ望ましい限りにおいて実施するための法令は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体が存在するときはこれらの団体と協議した上で、作成する。

第 六 条

1 前条に規定する法令の効果的な適用を確保するため、適切な監督その他の手段により、適当な措置をとる。
2 この条約を実施する方法として適当な場合には、前条に規定する法令の実施を確保するため、制裁の形で必要な措置をとる。

第 二 部 一般原則

第 七 条

 労働者が使用するすべての建物及びその設備は、適正に維持し及び清潔に保つ。

第 八 条

 労働者が使用するすべての建物の換気は、自然のものであるか人工のものであるか又はその双方のものであるかを問わず、新鮮な又は浄化された空気を供給する十分かつ適当なものとする。

第 九 条

 労働者が使用するすべての建物の照明は、十分かつ適当なものとし、作業場には、自然の光をできる限り採り入れる。

第 十 条

 労働者が使用するすべての建物においては、事情が許す限り、快適なかつ安定した温度を維持する。

第 十 一 条

 すべての作業場の設置及び作業部署の配置は、労働者の健康に有害な影響を及ぼさないようなものとする。

第 十 二 条

 労働者に対しては、十分な量の衛生的な飲料水その他の飲料を提供する。

第 十 三 条

 十分かつ適当な洗浄設備及び衛生設備が設けられ、適正に維持されるものとする。

第 十 四 条

 労働者に対しては、十分かつ適当な腰掛けを提供するものとし、労働者は、これを使用する適当な機会を与えられる。

第 十 五 条

 作業中に着用しない衣類については、その着替え、保管及び乾燥のための適当な設備を設け、適正に維持する。

第 十 六 条

 建物の地下部分又は窓のない建物であつて、作業が通常行われるものは、適当な衛生基準に適合するものとする。

第 十 七 条

 労働者は、適当かつ実行可能な措置により、不快、不健康、有毒その他何らかの理由により有害な物質、作業方法及び技術から保護される。作業の性質上必要な場合には、権限のある機関は、保護具について定める。

第 十 八 条

 労働者に有害な影響を及ぼすおそれのある騒音及び振動は、適当かつ実行可能な措置により、できる限り減少させる。

第 十 九 条

 この条約が適用されるすべての事業所、団体若しくは行政機関又はこれらにおける部門は、その規模及び生ずるおそれのある危険を考慮して、次のいずれかのことを行う。
 (a) 自己の診療所又は救急施設を維持すること。
 (b) 他の事業所、団体若しくは行政機関又はこれらにおける部門と共同で診療所又は救急施設を維持すること。
 (c) 救急用具棚、救急箱又は救急用具一式を備えること。

第 三 部 最終規定

第 二 十 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 二 十 一 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 二 十 二 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 三 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 四 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 五 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 六 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第二十二条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 七 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。