1969年の医療及び疾病給付条約(第130号)

ILO条約 | 1969/06/25

医療及び疾病給付に関する条約(第130号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十九年六月四日にその第五十三回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第五議題である千九百二十七年の疾病保険(工業)条約及び千九百二十七年の疾病保険(農業)条約の改正に関する提案の採択を決定し、
 この提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の条約(引用に際しては、千九百六十九年の医療及び疾病給付条約と称することができる。)を千九百六十九年六月二十五日に採択する。

第 一 部 一般規定

第 一 条

 この条約において、
 (a) 「法令」とは、法令及び社会保障に関する規約をいう。
 (b) 「所定の」とは、国内法令により又はこれに基づいて決定されたことをいう。
 (c) 「工業的企業」とは、経済活動の次の部門、すなわち、鉱業、採石業、製造業、建設業、電気業、ガス業、水道業、運輸業、倉庫業及び通信業におけるすべての企業をいう。
 (d) 「居住」とは、加盟国の領域内に通常居住することをいい、「居住者」とは、加盟国の領域内に通常居住する者をいう。
 (e) 「被扶養者である」とは、所定の場合に存在すると推定される被扶養の状態をいう。
 (f) 「妻」とは、その夫の被扶養者である妻をいう。
 (g) 「子」とは、次の者をいう。
  (i) 義務教育終了年齢又は十五歳のいずれか高い方の年齢に達しない子。ただし、第二条の規定に基づいて宣言を行なつた加盟国は、その宣言が効力を有する間、「子」とは義務教育終了年齢又は十五歳に達しない子をいうものとしてこの条約を適用することができる。
  (ii) 所定の条件の下においては、(i)に定める年齢よりも高い所定の年齢に達しない子であつて、徒弟訓練生若しくは学生であるもの又は慢性疾患若しくは病弱のため有償活動に従事することができないもの。ただし、国内法令が「子」とは(i)に定める年齢よりも相当に高い年齢に達しない子をいうと規定している場合には、この要件は、満たされたものとみなされる。
 (h) 「標準受給者」とは、妻及び二人の子を有する男子をいう。
 (i) 「資格期間」とは、所定の拠出期間、雇用期間若しくは居住期間又はこれらの所定の組合せをいう。
 (j) 「疾病」とは、すべての病的状態(原因のいかんを問わない。)をいう。
 (k) 「医療」とは、関連する給付を含む。

第 二 条

1 経済及び医療施設が十分に発達していない加盟国は、批准の際に行なう宣言により、第一条(g) (i)、第十一条、第十四条、第二十条及び第二十六条2の暫定的例外規定を援用することができる。この宣言には、その援用の理由を述べるものとする。
2 1の規定に基づいて宣言を行なつた各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づいて提出するこの条約の適用に関する報告において、自国が援用しているそれぞれの例外規定について次のいずれかのことを述べるものとする。
 (a) 当該規定を援用する理由が存続していること。
 (b) 当該規定を援用する権利を一定の日以後放棄すること。
3 1の規定に基づいて宣言を行なつた各加盟国は、その宣言に適合しかつ事情が許す場合には、次のことを行なう。
 (a) 保護対象者の数を増加すること。
 (b) 支給する医療の範囲を拡大すること。
 (c) 疾病給付の期間を延長すること。

第 三 条

1 法令によつて被用者を保護する加盟国は、批准の際に行なう宣言により、農業的職業から成る部門の被用者であつてその批准の時にこの条約の基準に適合する法令によつてまだ保護されていないものをこの条約の適用から一時的に除外することができる。
2 1の規定に基づいて宣言を行なつた各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づいて提出するこの条約の適用に関する報告において、農業的職業から成る部門の被用者についてこの条約がどの程度に実施されているか及び実施されようとしているか並びにそれらの被用者にこの条約を適用するために達成された進歩を示すものとし、報告すべき変更がない場合には、すべての適当な説明を行なう。
3 1の規定に基づいて宣言を行なつた各加盟国は、事情が許す限度までかつ事情が許す速度で、農業的職業から成る部門の被用者である保護対象者の数を増加する。

第 四 条

1 この条約を批准する加盟国は、次の種類に属する者がこの条約で要求される給付に少なくとも総額において等しい給付を支給する特別の制度によつて保護されている場合には、批准の際に行なう宣言により、この条約の適用からそれらの者を除外することができる。
 (a) 船員(漁船員を含む。)
 (b) 公務員
2 1の規定に基づく宣言が適用される場合には、当該加盟国は、
 (a) 第五条(c)、第十条(b)、第十一条、第十九条(b)及び第二十条に規定する百分率を計算するにあたつて考慮される者の数から、この条約の適用から除外される種類に属する者を除外することができる。
 (b) 第十条(c)に規定する百分率を計算するにあたつて考慮される者の数から、この条約の適用から除外される種類に属する者並びにその妻及び子を除外することができる。
3 1の規定に基づいて宣言を行なつた加盟国は、その後、国際労働事務局長に対し、批准の時に除外した種類に属する者についてこの条約の義務を受諾する旨を通告することができる。

第 五 条

 法令によつて被用者を保護する加盟国は、必要に応じて、この条約の適用から次の者を除外することができる。
 (a) 臨時に雇用される者
 (b) 使用者と同居する使用者の家族の構成員であつて使用者のために労働するもの
 (c) その他の種類の被用者であつて、(a)及び(b)の規定に基づいて除外される者以外の被用者の総数の十パーセントをこえないもの

第 六 条

 加盟国は、この条約の適用上、保護対象者につき批准の時に法令によつて強制的なものとされていないが次の条件を満たす保険で行なわれる保護を考慮に入れることができる。
 (a) 公の機関によつて監督され、又は所定の基準に従い使用者及び労働者によつて共同で運営されること。
 (b) 第二十二条6の熟練男子筋肉労働者の所得をこえない所得がある者の相当な部分に適用されること。
 (c) 適当な場合には、他の形式の保護と組み合わせてこの条約に適合すること。

第 七 条

 保護の対象となる事故には、次のものが含まれる。
 (a) 治療的性質の医療の必要及び所定の条件の下における予防的性質の医療の必要
 (b) 疾病に起因しかつ所得の停止を伴う労働不能であつて国内法令で定めるもの

第 二 部 医療

第 八 条

 各加盟国は、第七条(a)の事故につき、所定の条件に従い保護対象者に対して治療的又は予防的性質の医療の支給を確保する。

第 九 条

 第八条の医療は、保護対象者の健康、労働能力及び自己の用を弁ずる能力を維持し、回復し又は増進するために与えられる。

第 十 条

 第七条(a)の事故に関する保護対象者は、次のいずれかとする。
 (a) すべての被用者(徒弟訓練生を含む。)並びにその妻及び子
 (b) 全経済活動人口の七十五パーセント以上を構成する所定の階層の経済活動人口並びにその階層に属する者の妻及び子
 (c) すべての居住者の七十五パーセント以上を構成する所定の階層の居住者

第 十 一 条

 第二条の規定に基づいて行なわれた宣言が適用される場合には、第七条(a)の事故に関する保護対象者は、次のいずれかとする。
 (a) すべての被用者の二十五パーセント以上を構成する所定の階層の被用者並びにその妻及び子
 (b) 工業的企業におけるすべての被用者の五十パーセント以上を構成する工業的企業の所定の階層の被用者並びにその妻及び子

第 十 二 条

 障害、老齢、扶養者の死亡又は失業について社会保障給付を受けている者並びに適当な場合にはその妻及び子は、第七条(a)の事故につき、所定の条件の下に引き続き保護される。

第 十 三 条

 第八条の医療には、少なくとも次のものが含まれる。
 (a) 一般医の診療(往診を含む。)
 (b) 病院における入院患者及び通院患者に対する専門医の診療並びに病院外で行なわれる専門医の診療
 (c) 医師その他の資格のある者の処方による必要な薬剤の支給
 (d) 必要な場合の入院
 (e) 所定の歯科診療
 (f) 所定の医学的リハビリテーション(補装具及び整形外科的治療装具の支給、保守及び更新を含む。)

第 十 四 条

 第二条の規定に基づいて行なわれた宣言が適用される場合には、第八条の医療には、少なくとも次のものが含まれる。
 (a) 一般医の診療(可能な場合には、往診を含む。)
 (b) 病院における入院患者及び通院患者に対する専門医の診療並びに、可能な場合には、病院外で行なわれる専門医の診療
 (c) 医師その他の資格のある者の処方による必要な薬剤の支給
 (d) 必要な場合の入院

第 十 五 条

 加盟国の法令が第八条の医療を受ける権利につき保護対象者又はその扶養者が資格期間を満たすことを条件としている場合には、この資格期間の条件は、給付を受ける権利を保護対象者の種類に通常属する者から奪うようなものであつてはならない。

第 十 六 条

1 第八条の医療は、事故の全期間にわたつて支給される。
2 受給者が保護対象者の種類に属しなくなる場合には、当該受給者がその種類に属していた間に発生した疾病について医療を受ける権利は、二十六週を下回らない所定の期間に制限することができる。ただし、その医療は、当該受給者が疾病給付を引き続き受けている間は、停止されない。
3 2の規定にかかわらず、医療の期間は、長期の医療を要すると認められる所定の疾病については、延長するものとする。

第 十 七 条

 加盟国の法令により受給者又はその扶養者が第八条の医療の費用を分担することとなつている場合には、その費用の分担に関する規則は、過重な負担とならずかつ医療的及び社会的保護の効果をそこなわないようなものとする。

第 三 部 疾病給付

第 十 八 条

 各加盟国は、第七条(b)の事故につき、所定の条件に従い保護対象者に対して疾病給付の支給を確保する。

第 十 九 条

 第七条(b)の事故に関する保護対象者は、次のいずれかとする。
 (a) すべての被用者(徒弟訓練生を含む。)
 (b) 全経済活動人口の七十五パーセント以上を構成する所定の階層の経済活動人口
 (c) 事故期間中における生計手段が第二十四条の要件に適合する所定の限度をこえないすべての居住者

第 二 十 条

 第二条の規定に基づいて行なわれた宣言が適用される場合には、第七条(b)の事故に関する保護対象者は、次のいずれかとする。
 (a) すべての被用者の二十五パーセント以上を構成する所定の階層の被用者
 (b) 工業的企業におけるすべての被用者の五十パーセント以上を構成する工業的企業の所定の階層の被用者

第 二 十 一 条

 第十八条の疾病給付は、定期的支払金とし、次の方法で計算する。
 (a) 被用者又は経済活動人口の階層が保護される場合には、第二十二条又は第二十三条の要件に適合する方法
 (b) 事故期間中における生計手段が所定の限度をこえないすべての居住者が保護される場合には、第二十四条の要件に適合する方法

第 二 十 二 条

1 この条の規定の適用を受ける定期的支払金については、給付の額に事故期間中に支払われる家族手当の額を加えた額は、第七条(b)の事故に関し、標準受給者につき、少なくとも、受給者の従前の所得と標準受給者と同一の家族的責任を有する保護対象者に支払われる家族手当の額との合計額の六十パーセントに達しなければならない。
2 受給者の従前の所得は、所定の規則に従つて計算するものとし、保護対象者がその所得に従つて階層に分類されている場合には、その者の従前の所得は、その者が属していた階層の基準所得によつて計算することができる。
3 給付の額又は給付の計算にあたつて考慮される所得については、所定の最大限度を設けることができる。この最大限度は、受給者の従前の所得が熟練男子筋肉労働者の賃金に等しいか又はそれより低い場合には、1の規定が満たされるように定める。
4 受給者の従前の所得、熟練男子筋肉労働者の賃金、給付及び家族手当は、同一の時を基準として計算する。
5 標準受給者以外の受給者については、給付は、標準受給者に対する給付と均衡を保つものとする。
6 この条の規定の適用上、熟練男子筋肉労働者は、次のいずれかとする。
 (a) 電気機械以外の機械の製造業における取付工又は旋盤工
 (b) 7の規定による典型的な熟練労働者と認められる者
 (c) すべての保護対象者のうちの七十五パーセントの者の所得に等しいか又はこれをこえる所得がある者。この所得は、一年以下の所定の期間を基礎として決定する。
 (d) すべての保護対象者の平均所得の百二十五パーセントに等しい所得がある者
7 6(b)の規定の適用上、典型的な熟練労働者と認められる者は、経済活動に従事する者のうち第七条(b)の事故についての男子である保護対象者の最大多数を擁する大分類の経済活動中これらの保護対象者の最大多数を擁する中分類の経済活動において雇用される者とする。このため、国際連合経済社会理事会が千九百四十八年八月二十七日にその第七回会期において採択した全経済活動の国際標準産業分類(千九百六十八年までの改正を含み、この条約の附属書に掲げる。)又はさらに改正されることがある同分類を使用する。
8 給付の額が地域によつて異なる場合には、熟練男子筋肉労働者は、6及び7の規定に従つて地域ごとに決定することができる。
9 熟練男子筋肉労働者の賃金は、労働協約により、国内法令が適用されるときはこれにより若しくはこれに基づき、又は慣習によつて定められる通常の労働時間に対する賃金を基準として、生計費手当があるときはこれを含めて、決定する。この賃金が地域によつて異なり、かつ、8の規定が適用されない場合には、中央値の賃金を採用する。

第 二 十 三 条

1 この条の規定の適用を受ける定期的支払金については、給付の額に事故期間中に支払われる家族手当の額を加えた額は、第七条(b)の事故に関し、標準受給者につき、少なくとも、普通成年男子労働者の賃金と標準受給者と同一の家族的責任を有する保護対象者に支払われる家族手当の額との合計額の六十パーセントに達しなければならない。
2 普通成年男子労働者の賃金、給付及び家族手当は、同一の時を基準として計算する。
3 標準受給者以外の受給者については、給付は、標準受給者に対する給付と均衡を保つものとする。
4 この条の規定の適用上、普通成年男子労働者は、次のいずれかとする。
 (a) 電気機械以外の機械の製造業における典型的な未熟練労働者と認められる者
 (b) 5の規定による典型的な未熟練労働者と認められる者
5 4(b)の規定の適用上、典型的な未熟練労働者と認められる者は、経済活動に従事する者のうち第七条(b)の事故についての男子である保護対象者の最大多数を擁する大分類の経済活動中これらの保護対象者の最大多数を擁する中分類の経済活動において雇用される者とする。このため、国際連合経済社会理事会が千九百四十八年八月二十七日にその第七回会期において採択した全経済活動の国際標準産業分類(千九百六十八年までの改正を含み、この条約の附属書に掲げる。)又はさらに改正されることがある同分類を使用する。
6 給付の額が地域によつて異なる場合には、普通成年男子労働者は、4及び5の規定に従つて地域ごとに決定することができる。
7 普通成年男子労働者の賃金は、労働協約により、国内法令が適用されるときはこれにより若しくはこれに基づき、又は慣習によつて定められる通常の労働時間に対する賃金を基準として、生計費手当があるときはこれを含めて、決定する。この賃金が地域によつて異なり、かつ、6の規定が適用されない場合には、中央値の賃金を採用する。

第 二 十 四 条

 この条の規定の適用を受ける定期的支払金については、
 (a) 給付の額は、所定の給付表又は権限のある公の機関が所定の規則に従つて定める給付表によつて決定する。
 (b)  (a)の額は、受給者及びその家族の他の生計手段が所定の相当な額又は権限のある公の機関が所定の規則に従つて定める相当な額をこえる場合には、その限度においてのみ減額することができる。
 (c) 給付及び他の生計手段の合計額から(b)に規定する相当な額を控除した額は、受給者及びその家族が健康なかつ人間たるにふさわしい生活を営むために十分なものであり、かつ、第二十三条の要件に従つて計算される給付を下回らないものとする。
 (d) この条約に基づいて支払われる疾病給付の総額が、第二十三条及び第十九条(b)の規定を適用して得られる給付の総額を少なくとも三十パーセント上回る場合には、(c)の規定は、満たされたものとみなす。

第 二 十 五 条

 加盟国の法令が第十八条の疾病給付を受ける権利につき保護対象者が資格期間を満たすことを条件としている場合には、この資格期間の条件は、給付を受ける権利を保護対象者の種類に通常属する者から奪うようなものであつてはならない。

第 二 十 六 条

1 第十八条の疾病給付は、事故の全期間にわたつて支給する。ただし、給付の支給期間は、所定の各労働不能につき五十二週を下回らない所定の期間に制限することができる。
2 第二条の規定に基づいて行なわれた宣言が適用される場合には、第十八条の疾病給付の支給期間は、所定の各労働不能につき二十六週を下回らない所定の期間に制限することができる。
3 加盟国の法令が所得停止の最初の期間中は疾病給付が支給されないことを規定している場合には、この期間は、三日をこえないものとする。

第 二 十 七 条

1 第十八条の疾病給付の支給を受けている者又はその支給を受ける権利を有する者が死亡した場合には、その者の遺族若しくは他の被扶養者又は葬祭の費用を負担した者に対し、葬祭給付が所定の条件に従つて支払われる。
2 加盟国は、次に場合には、1の規定の適用を排除することができる。
 (a) 当該加盟国が千九百六十七年の障害、老齢及び遺族給付条約第四部の義務を受諾している場合
 (b) 当該加盟国の法令が保護対象者の所得の八十パーセント以上の額の現金疾病給付の支給を規定している場合
 (c) 保護対象者の過半数が、公の機関の監督を受ける任意保険により葬祭給付の支給を保障されている場合

第 四 部 共通規定

第 二 十 八 条

1 保護対象者がこの条約に従つて本来受ける権利を有する給付は、次の場合には、所定の限度まで停止することができる。
 (a) その者が当該加盟国の領域内にいない間
 (b) その者が事故について第三者から補償を受けている間その補償の限度まで
 (c) その者が虚偽の請求を行なつた場合
 (d) 事故がその者の犯罪行為によつて生じた場合
 (e) 事故がその者の故意の重大な非行によつて生じた場合
 (f) その者が、正当な理由なしに、利用に供されている医療若しくはリハビリテーションの事業の利用を怠り、又は事故の発生若しくは継続の立証若しくは受給者の行為に関する所定の規則に従わない場合
 (g) 第十八条の疾病給付については、その者が公の費用又は社会保障の機関若しくは事業の費用で扶養されている間
 (h) 第十八条の疾病給付については、その者が家族給付以外の社会保障現金給付を受けている間。ただし、給付の停止される部分は、その社会保障現金給付の額をこえないものとする。
2 本来支給すべき給付の一部は、所定の場合においてかつ所定の限度内で当該保護対象者の被扶養者に支給される。

第 二 十 九 条

1 請求人は、給付が拒否された場合又は給付の質若しくは量に関する不服がある場合には、訴えを提起する権利を有する。
2 この条約の適用上、立法機関に対して責任を負う政府機関に医療の管理が委任されている場合には、1の訴えを提起する権利は、医療の拒否又は受けた医療の質に関する不服につき適当な機関に審査を請求する権利をもつて替えることができる。

第 三 十 条

1 各加盟国は、この条約に従つて支給される給付の適正な支給について一般的責任を負い、かつ、そのために必要なすべての措置をとる。
2 各加盟国は、この条約の適用に関係のある機関及び事業の適正な運営について一般的責任を負う。

第 三 十 一 条

 公の機関の監督を受ける機関により又は立法機関に対して責任を負う政府機関により運営が行なわれていない場合には、
 (a) 保護対象者の代表者は、所定の条件の下に運営に参加するものとする。
 (b) 国内法令は、適当な場合には、使用者の代表者の参加について規定するものとする。
 (c) 国内法令は、公の機関の代表者の参加についても同様に規定することができる。

第 三 十 二 条

 各加盟国は、自国の領域内において、通常そこに居住し又はそこで就業する非内国民に対し、この条約に定める給付を受ける権利について内国民に与える待遇と均等の待遇を与えることを確保する。

第 三 十 三 条

1 次の条件を満たす加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体が存在する場合には、それらの団体と協議の上、この条約の第二部及び第三部の特定の規定の適用を一時的に排除することができる。ただし、その適用排除がこの条約の基本的な保障を根本的に減損し又は阻害しないことを条件とする。
 (a) 第二条及び第三条の例外及び除外の規定を援用することなしにこの条約の義務を受諾したこと。
 (b) この条約に規定する給付よりも全体として高額の給付を支給し、かつ、医療及び疾病給付に関するその支出の合計が国民所得の少なくとも四パーセントに達すること。
 (c) 次の三条件のうち少なくとも二条件を満たすこと。
  (i)  第十条(b)及び第十九条(b)で要求される百分率に少なくとも十を加えた百分率の経済活動人口を保護し、又は第十条(c)で要求される百分率に少なくとも十を加えた百分率のすべての居住者を保護すること。
  (ii)  第十三条の医療よりも相当高い水準の治療的及び予防的性質の医療を支給すること。
  (iii) 第二十二条及び第二十三条で要求される百分率に少なくとも十を加えた百分率に相当する疾病給付を支給すること。
2 1の適用排除を行なつた各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づいて提出するこの条約の適用に関する報告において、その適用排除に関する自国の法律及び慣行の現況並びにこの条約の条項の完全な適用のために達成された進歩を示すものとする。

第 三 十 四 条

 この条約は、次のものには適用しない。
 (a) 当該加盟国についてこの条約が効力を生ずる日前に生じた事故
 (b) 当該加盟国についてこの条約が効力を生ずる日後に生ずる事故について支給される給付であつてこの給付を受ける権利がその日前の期間に由来するもの

第 五 部 最終規定

第 三 十 五 条

 この条約は、千九百二十七年の疾病保険(工業)条約及び千九百二十七年の疾病保険(農業)条約を改正するものである。

第 三 十 六 条

1 千九百五十二年の社会保障(最低基準)条約第七十五条の規定に従い、同条約第三部の規定及び同条約の他の部の関係規定は、この条約を批准した加盟国につき第三条の規定に基づく宣言が適用されない場合において、その加盟国がこの条約によつて拘束される日から適用されなくなる。
2 この条約の義務の受諾は、第三条の規定に基づく宣言が適用されないことを条件として、千九百五十二年の社会保障(最低基準)条約第二条の規定の適用上、同条約第三部の規定及び同条約の他の部の関係規定の義務の受諾を構成するものとみなす。

第 三 十 七 条

 この条約で規定する問題に関して総会が将来採択する条約にその旨の規定がある場合には、新条約で指定するこの条約の規定は、新条約を批准した加盟国につき、新条約が当該加盟国について効力を生ずる日から適用されなくなる。

第 三 十 八 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 三 十 九 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 四 十 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 四 十 一 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 四 十 二 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 四 十 三 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 四 十 四 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第四十条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 四 十 五 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

附 属 書
全経済活動の国際標準産業分類(千九百六十八年までの改正を含む。)

大分類、中分類及び小分類表

中分類 小分類
大分類 1 農業、狩猟業、林業及び漁業
11 農業及び狩猟業
111 農業及び畜産業
112 農業的サービス業
113 狩猟、わなかけ業及び猟鳥獣増殖業
12 林業及び伐木業
121 林業
122 伐木業
13 130 漁業
大分類 2 鉱業及び採石業
21 210 石炭鉱業
22 220 原油鉱業及び天然ガス鉱業
23 230 金属鉱業
29 290 その他の鉱業
大分類 3 製造業
31 食料品、飲料品及びたばこの製造業
311―312 食料品製造業
313 飲料品製造業
314 たばこ製造業
32 繊維製品、衣服類及び皮革の製造業
321 繊維製品製造業
322 衣服類製造業(はき物製造業を除く。)
323 皮革、皮革製品、皮革代用品の製品及び毛皮製品の製造業(はき物及び衣服類の製造業を除く。)
324 はき物製造業(硬化ゴム製、型ゴム製及びプラスチック製のはき物の製造業を除く。)
33 木材及び木製品の製造業(家具製造業を含む。)
331 木材、木製品及びコルク製品の製造業(家具製造業を除く。)
332 家具及び装備品の製造業(主として金属を材料とする家具及び装備品の製造業を除く。)
34 紙及び紙製品の製造業、印刷業並びに出版業
341 紙及び紙製品の製造業
342 印刷業、出版業及び関連産業
35 化学薬品、化学製品、石油製品、石炭製品、ゴム製品及びプラスチック製品の製造業
351 工業用化学薬品製造業
352 その他の化学製品の製造業
353 石油精製業
354 各種の石油製品及び石炭製品の製造業
355 ゴム製品製造業
356 他に分類されないプラスチック製品の製造業
36 非金属鉱物製品製造業(石油製品及び石炭製品の製造業を除く。)
361 陶磁器及び土器の製造業
362 ガラス及びガラス製品の製造業
369 その他の非金属鉱物製品の製造業
37 第一次金属工業
371 鉄鋼一次製品製造業
372 非鉄金属一次製品製造業
38 金属製品及び機械器具の製造業
381 金属製品製造業(機械器具製造業を除く。)
382 機械製造業(電気機械製造業を除く。)
383 電気機械、電気装置、電気器具及び電気用品の製造業
384 輸送用機械器具製造業
385 専門機械器具、理化学機械器具、計測用器械及び制御用器械で他に分類されないもの、写真用品並びに光学用品の製造業
39 390 その他の製造業
大分類 4 電気業、ガス業及び水道業
41 410 電気業、ガス業及びスチーム業
42 420 水道業
大分類 5 建設業
50 500 建設業
大分類 6 卸売業、小売業、飲食店及び旅館業
61 610 卸売業
62 620 小売業
63 飲食店及び旅館業
631 料理店、喫茶店その他の飲食店
632 旅館、下宿、キャンプその他の宿泊所
大分類 7 運輸業、倉庫業及び通信業
71 運輸業及び倉庫業
711 陸上運輸業
712 水上運輸業
713 航空運輸業
719 運輸関連サービス業
72 720 通信業
大分類 8 金融業、保険業、不動産業及び対企業サービス業
81 810 金融業
82 820 保険業
83 不動産業及び対企業サービス業
831 不動産業
832 対企業サービス業(機械器具貸付業を除く。)
833 機械器具貸付業
大分類 9 公共サービス業、対社会サービス業及び対個人サービス業
91 910 一般行政機関及び防衛機関
92 920 衛生業及び類似のサービス業
93 対社会サービス業及び関連公共サービス業
931 教育機関
932 研究所及び科学機関
933 医科サービス機関、歯科サービス機関その他の保健サービス機関及び獣医科サービス機関
934 福祉機関
935 経済団体、職業団体及び労働団体
939 その他の対社会サービス業及び関連公共サービス業
94 娯楽サービス業及び文化サービス業
941 映画その他の娯楽提供業
942 図書館、博物館、植物園、動物園及び他に分類されないその他の文化サービス業
949 他に分類されない娯楽サービス業
95 対個人サービス業及び家事サービス業
951 他に分類されない修理サービス業
952 洗たく業、洗たくサービス業及び染色業
953 家事サービス業
959 各種の対個人サービス業
96 960 国際機関その他の治外法権享有機関
大分類 0 分類不能の経済活動
00 000 分類不能の経済活動