1977年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約(第148号)

ILO条約 | 1977/06/20

空気汚染、騒音及び振動に起因する作業環境における職業性の危害からの労働者の保護に関する条約(第148号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十七年六月一日にその第六十三回会期として会合し、
 現存の関係のある国際労働条約及び国際労働勧告、特に千九百五十三年の労働者健康保護勧告、千九百五十九年の職業衛生機関勧告、千九百六十年の放射線からの保護に関する条約及び千九百六十年の放射線からの保護に関する勧告、千九百六十三年の機械防護条約及び千九百六十三年の機械防護勧告、千九百六十四年の業務災害給付条約、千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)条約及び千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)勧告、千九百七十一年のベンゼン条約及び千九百七十一年のベンゼン勧告並びに千九百七十四年の職業がん条約及び千九百七十四年の職業がん勧告の規定に留意し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である作業環境(空気汚染、騒音及び振動)に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであると決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約と称することができる。)を千九百七十七年六月二十日に採択する。

第 一 部 適用範囲及び定義

第 一 条

1 この条約は、経済活動のすべての部門について適用する。
2 この条約を批准する加盟国は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはこれらの団体との協議の上、かなりの重要性を有する特殊な問題が生ずる特定の経済活動部門をこの条約の適用から除外することができる。
3 この条約を批准する各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に従つて提出するこの条約の適用に関する第一回の報告において、2の規定に基づいて除外された部門をその除外の理由を付して列記するものとし、その後の報告において、その除外された部門に関する自国の法律及び慣行の現況並びにこの条約がその部門につきどの程度に実施されているか又は実施されようとしているかを述べる。

第 二 条

1 各加盟国は、代表的な使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはこれらの団体との協議の上、次の事項に関しこの条約の義務を個別に受諾することができる。
 (a) 空気汚染
 (b) 騒音
 (c) 振動
2 一又は二の種類の危害についてこの条約の義務を受諾しない加盟国は、この条約の批准書中にこの旨を明示するものとし、国際労働機関憲章第二十二条の規定に従つて提出するこの条約の適用に関する第一回の報告において、その理由を示す。当該加盟国は、その後の報告において、その除外された種類の危害に関する自国の法律及び慣行の現況並びにこの条約がそれぞれの種類の危害につきどの程度に実施されているか又は実施されようとしているかを述べる。
3 批准に際し、この条約の義務をすべての種類の危害については受諾していない各加盟国は、その後において、事情が許すと認める場合には、国際労働事務局長に対し、以前に除外された一又は二の種類についてこの条約の義務を受諾することを通告する。

第 三 条

 この条約の適用上、
 (a) 「空気汚染」とは、健康に有害であり又はその他の点で危険である物質(その物理的状態のいかんを問わない。)によつて汚染されたすべての空気をいう。
 (b) 「騒音」とは、聴力の損失をもたらし又は健康に有害であり若しくはその他の点で危険であり得るすべての音をいう。
 (c) 「振動」とは、固体構造物を通じて人体に伝達される振動であつて健康に有害であり又はその他の点で危険であるものをいう。

第 二 部 一般規定

第 四 条

1 国内法令は、空気汚染、騒音及び振動に起因する作業環境における職業性の危害の防止及び抑制並びにそのような危害からの保護のために措置がとられることを規定する。
2 1の規定に基づく所定の措置の実施に関する規定は、技術基準、実施基準その他の適当な方法によつて採用することができる。

第 五 条

1 この条約を実施するに当たつては、権限のある機関は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の上、措置をとる。
2 使用者及び労働者の代表者は、第四条の規定に基づく所定の措置の実施に関する規定の作成に参与する。
3 この条約に基づく所定の措置の適用に当たつては、すべての段階における使用者と労働者との間でのできる限り密接な協力のための措置がとられるものとする。
4 企業における使用者の代表者及び労働者の代表者は、この条約に基づく所定の措置の適用を監督する監督官に随行する機会を有する。ただし、監督官が、権限のある機関の一般的な指示に照らして、その任務の遂行を害するおそれがあると認めるときは、この限りでない。

第 六 条

1 使用者は、所定の措置の履行について責任を負うものとする。
2 二人以上の使用者が同一の作業場において同時に活動を行う場合には、それらの使用者は、被用者の健康及び安全に関する各使用者の責任を損なうことなしに、所定の措置を履行するために協力する義務を有する。権限のある機関は、適当な場合には、この協力のための一般的手続を規定する。

第 七 条

1 労働者は、作業環境における空気汚染、騒音及び振動に起因する職業性の危害の防止及び抑制並びにそのような危害からの保護に関する安全手続に従うことを要求される。
2 労働者又はその代表者は、作業環境における空気汚染、騒音及び振動に起因する職業性の危害からの保護を確保するために、提案を行い、情報及び訓練を受け、並びに適当な機関に対し申立てを行う権利を有する。

第 三 部 防止措置及び保護措置

第 八 条

1 権限のある機関は、作業環境における空気汚染、騒音及び振動にさらされることによる危害を定義するための基準を定めるものとし、適当な場合には、この基準に基づきさらされる限度を明示する。
2 基準を作成し及びさらされる限度を決定するに当たつては、権限のある機関は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体によつて指名された技術的な資格を有する者の意見を考慮する。
3 基準及びさらされる限度は、当該作業場において数種の有害な因子に同時にさらされることによる職業性の危害の増加をできる限り考慮して、設定され及び補完され並びに、その時の国内の及び国際的な知識及び資料に照らして、定期的に改正される。

第 九 条

 作業環境は、できる限り、次の措置により、空気汚染、騒音又は振動に起因する危害がないようにする。
 (a) 設計若しくは設置の際に新しい設備若しくは工程に適用され又は既存の設備若しくは工程に加えられる技術的措置、又は、これが可能でない場合には、
 (b) 作業の組織に係る補足的な措置

第 十 条

 第九条の規定に基づいてとられる措置により、作業環境における空気汚染、騒音及び振動を第八条の規定に基づいて明示される限度内に抑えることができない場合には、使用者は、適切な個人用保護具を提供しかつ保全する。使用者は、この条の規定に基づいて提供される個人用保護具なしに労働者に労働することを要求してはならない。

第 十 一 条

1 権限のある機関が定める条件で、権限のある機関が定める場合において、作業環境における空気汚染、騒音又は振動に起因する職業性の危害にさらされている労働者又はさらされるおそれのある労働者に対し適当な間隔を置いて健康管理が行われるものとする。この健康管理には、権限のある機関が定める就業前の健康診断及び定期健康診断を含む。
2 1に規定する健康管理は、関係労働者に対して無償で行われる。
3 空気汚染、騒音又は振動にさらされる業務への継続的就業が医学的に不適当とされる場合には、関係労働者に対して他の適当な職を与え又は社会保障措置その他の方法によつてその所得を維持するため、国内慣行及び国内事情に適合するあらゆる努力が払われるものとする。
4 この条約の実施は、社会保障又は社会保険に関する法令に基づく労働者の権利に不利な影響を及ぼしてはならない。

第 十 二 条

 権限のある機関が指定する工程、物質、機械及び設備であつて、労働者に空気汚染、騒音又は振動に起因する作業環境における職業性の危害をもたらすものの利用については、権限のある機関に届け出なければならない。権限のある機関は、適当な場合には、その利用を、所定の条件で許可し、又は禁止することができる。

第 十 三 条

 すべての関係者は、
 (a) 空気汚染、騒音及び振動に起因する作業環境における潜在的な職業性の危害について十分かつ適切に知らされる。
 (b)  (a)の危害の防止及び抑制並びにそのような危害からの保護のために利用し得る措置について十分かつ適切な指導を受ける。

第 十 四 条

 国内の事情及び資源を考慮の上、空気汚染、騒音及び振動に起因する作業環境における危害の防止及び抑制の分野における調査を促進するための措置がとられるものとする。

第 四 部 適用措置

第 十 五 条

 権限のある機関が定める条件で、権限のある機関が定める場合において、使用者は、作業環境における空気汚染、騒音及び振動の防止及び抑制に関する事項を取り扱うため、資格を有する者を指名すること又は資格を有する外部の機関若しくは若干の企業の共用の機関を利用することを要求される。

第 十 六 条

 各加盟国は、
 (a) 法令又は国内慣行及び国内事情に適合するその他の方法により、この条約を実施するために必要な措置(相当な刑罰の設定を含む。)をとる。
 (b) この条約の適用について監督するため適当な監督機関を設け又は適切な監督の実施を確保する。

第 五 部 最終規定

第 十 七 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつて第二条に掲げる危害の全部又は一若しくは二の種類の危害についてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 一 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。