1985年の職業衛生機関条約(第161号)

ILO条約 | 1985/06/25

職業衛生機関に関する条約(第161号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十五年六月七日にその第七十一回会期として会合し、
 職業に起因する疾病、疾患及び負傷から労働者を保護することが、国際労働機関にその憲章により課された任務の一であることに留意し、
 関係のある国際労働条約及び国際労働勧告、特に、国内政策及び国内段階における行動の諸原則を規定している千九百五十三年の労働者健康保護勧告、千九百五十九年の職業衛生機関勧告、千九百七十一年の労働者代表条約並びに千九百八十一年の職業上の安全及び健康に関する条約並びに千九百八十一年の職業上の安全及び健康に関する勧告に留意し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である職業衛生機関に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百八十五年の職業衛生機関条約と称することができる。)を千九百八十五年六月二十六日に採択する。

第 一 部 国内政策の原則

第 一 条

 この条約の適用上、
 (a) 「職業衛生機関」とは、本来予防的な機能を委託され、かつ、次の事項について使用者、労働者及び企業における労働者代表に助言する責任を負う機関をいう。
  (i)  作業に関連する最良の身体上及び精神上の健康を促進するような安全かつ健康的な作業環境の実現及び維持のための要件
  (ii) 労働者の身体上及び精神上の健康状態を考慮した作業の労働者の能力への適合
 (b) 「企業における労働者代表」とは、国内法又は国内慣行により認められた者をいう。

第 二 条

 加盟国は、国内事情及び国内慣行を考慮して、また、最も代表的な使用者団体及び労働者団体がある場合には、これらの団体との協議の上、職業衛生機関に関する整合的な国内政策を策定し、実施し、及び定期的に検討する。

第 三 条

1 加盟国は、公共部門における労働者及び生産協同組合の構成員を含むすべての労働者のために、経済活動のすべての部門及びすべての企業において職業衛生機関を漸進的に発展させることを約束する。とられる措置は、企業に特有の危険に対して十分かつ適当なものとする。
2 関係加盟国は、すべての企業のために職業衛生機関を直ちに設置することができない場合には、最も代表的な使用者団体及び労働者団体があるときはこれらの団体との協議の上、職業衛生機関の設置計画を作成する。
3 関係加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に従つて提出するこの条約の適用に関する第一回の報告において、2の規定に従つて作成された計画を述べ、その後の報告において、適用上の改善を述べる。

第 四 条

 権限のある機関は、この条約を実施するためにとられる措置に関し、最も代表的な使用者団体及び労働者団体がある場合には、これらの団体と協議する。

第 二 部 機能

第 五 条

 職業衛生機関は、労働者の健康及び安全に対する使用者の責任を害することなく、また、職業上の健康及び安全について労働者が関与することの必要性を十分に考慮して、企業の職業上の危険に対して十分かつ適当な次の機能を有する。
 (a) 作業場における健康に対する危険の確認及び評価
 (b) 作業環境及び作業慣行における労働者の健康に影響を及ぼすおそれのある要因(使用者が提供する場合には、衛生設備、食堂及び住宅を含む。)の監視
 (c) 作業計画及び作業編成(作業場の設計を含む。)、機械その他の器具の選定、保全及び状態並びに作業において使用する物質に関する助言
 (d) 作業慣行を改善するための計画の発展への参加並びに新たな器具の健康面についての検査及び評価への参加
 (e) 職業上の健康、安全及び衛生、人間工学、個人用保護具並びに集団用保護設備に関する助言
 (f) 作業に関連する労働者の健康の監視
 (g) 労働者に作業を適合させることの促進
 (h) 職業リハビリテーションの措置に対する援助
 (i) 職業上の健康及び衛生並びに人間工学の分野における情報、訓練及び教育の提供についての協力
 (j) 応急手当及び応急治療の編成
 (k) 職業上の事故及び職業病の分析への参加

第 三 部 組織

第 六 条

 職業衛生機関の設置は、次のいずれかの方法により定める。
 (a) 法令
 (b) 労働協約又は関係のある使用者及び労働者が合意したその他の方法
 (c) 権限のある機関が関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体と協議の上承認したその他の方法

第 七 条

1 職業衛生機関は、単一の企業のための機関として、又は適当な場合には複数の企業に共通の機関として、組織することができる。
2 職業衛生機関は、国内事情及び国内慣行に従い次のものにより組織することができる。
 (a) 関係のある企業又は企業の集団
 (b) 官庁又は公的機関
 (c) 社会保障機関
 (d) 権限のある機関が承認したその他の団体
 (e) (a)から(d)までのいずれかの組合せ

第 八 条

 使用者及び労働者並びに労働者代表が存在する場合にはその代表は、職業衛生機関に関する組織上の措置及び他の措置の実施に際し、公平な立場で協力し及び参加する。

第 四 部 運営の条件

第 九 条

1 職業衛生機関は、国内法及び国内慣行に従い、総合的なものとする。その職員の構成は、遂行される業務の性質により決定する。
2 職業衛生機関は、企業内の他の機関と協力してその機能を果たす。
3 国内法及び国内慣行に従い、職業衛生機関と適当な場合には衛生業務の提供に関係のある他の機関との間で、十分な協力及び調整を確保するための措置をとる。

第 十 条

 職業衛生業務を提供する職員は、第五条に規定する機能に関し、使用者及び労働者並びに労働者代表が存在する場合にはその代表からの十分な職務上の独立性を有する。

第 十 一 条

 権限のある機関は、遂行される業務の性質並びに国内法及び国内慣行に従い、職業衛生業務を提供する職員に必要な資格を決定する。

第 十 二 条

 作業に関連する労働者の健康の監視は、労働者の賃金の喪失を伴わず、無料で、かつ、できる限り労働時間中に行う。

第 十 三 条

 すべての労働者に作業における健康に対する危険を通知する。

第 十 四 条

 使用者及び労働者は、労働者の健康に影響を及ぼすおそれのある作業環境における判明している又は疑わしいすべての要因について職業衛生機関に通知する。

第 十 五 条

 職業衛生機関は、労働者の不健康の発生及び健康上の理由による欠勤について、不健康又は欠勤の理由と作業場に存在するおそれのある健康に対する危険との間に何らかの関係があるかないかを確認することができるようにするため、通知を受ける。使用者は、職業衛生業務を提供する職員に欠勤の理由を証明するよう要求しない。

第 五 部 一般規定

第 十 六 条

 国内法令は、職業衛生機関が設置された後にその運営の監督及びこれに対する助言について責任を負う機関を指定する。

第 十 七 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 一 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。