1994年のパートタイム労働条約(第175号)

ILO条約 | 1994/06/24

パートタイム労働に関する条約(第175号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十四年六月七日にその第八十一回会期として会合し、
 千九百五十一年の同一報酬条約、千九百五十八年の差別(雇用及び職業)条約並びに千九百八十一年の家族的責任を有する労働者条約及び千九百八十一年の家族的責任を有する労働者勧告の規定とパートタイム労働者との関連性に留意し、
 千九百八十八年の雇用の促進及び失業に対する保護条約及び千九百八十四年の雇用政策(補足規定)勧告とパートタイム労働者との関連性に留意し、
 生産的なかつ自由に選択される雇用がすべての労働者にとり重要であること、パートタイム労働が経済的に重要であること、追加的な雇用の機会を促進するに当たりパートタイム労働の役割を考慮した雇用政策が必要であること並びに雇用の機会、労働条件及び社会保障の分野においてパートタイム労働者に対する保護を確保することが必要であることを認識し、
 前記の会期の議事日程の第四議題であるパートタイム労働に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百九十四年のパートタイム労働条約と称することができる。)を千九百九十四年六月二十四日に採択する。

第 一 条

 この条約の適用上、
 (a) 「パートタイム労働者」とは、通常の労働時間が比較可能なフルタイム労働者の通常の労働時間よりも短い被用者をいう。
 (b) (a)に規定する通常の労働時間は、一週間当たりで、又は一定の雇用期間の平均により計算することができる。
 (c) 「比較可能なフルタイム労働者」とは、次のフルタイム労働者をいう。
  (i) 関係するパートタイム労働者と同一の種類の雇用関係を有するフルタイム労働者
  (ii) 関係するパートタイム労働者と同一の又は類似の種類の労働又は職業に従事するフルタイム労働者
  (iii) 関係するパートタイム労働者と同一の事業所に雇用されているフルタイム労働者、同一の事業所に比較可能なフルタイム労働者がいない場合には同一の企業に雇用されているフルタイム労働者又は同一の企業に比較可能なフルタイム労働者がいない場合には同一の活動部門で雇用されているフルタイム労働者
 (d) 部分的失業、すなわち経済的、技術的又は構造的な理由による通常の労働時間の集団的かつ一時的な短縮の影響を受けたフルタイム労働者は、パートタイム労働者とみなさない。

第 二 条

 この条約は、他の国際労働条約に基づいてパートタイム労働者に適用することができる一層有利な規定に影響を及ぼすものではない。

第 三 条

1 この条約は、すべてのパートタイム労働者について適用する。ただし、加盟国は、特定の種類の労働者又は事業所に対しこの条約を適用することにより重要性を有する特別の問題が生ずる場合には、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の上、当該特定の種類の労働者又は事業所の全部又は一部をこの条約の適用範囲から除外することができる。
2 この条約を批准する加盟国であって1の可能性を援用するものは、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づくこの条約の適用に関する報告において、1の規定により除外する特定の種類の労働者又は事業所及びその除外が必要であると判断され又は引き続き必要であると判断される理由を明示する。

第 四 条

 次の事項に関し、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者に対し与える保護と同一の保護を受けることを確保する措置をとる。
 (a) 団結権、団体交渉権及び労働者代表として行動する権利
 (b) 職業上の安全及び健康
 (c) 雇用及び職業における差別

第 五 条

 パートタイム労働者が、パートタイムで働いているという理由のみによって、時間、生産量又は出来高に比例して計算される基本賃金であって、同一の方法により計算される比較可能なフルタイム労働者の基本賃金よりも低いものを受領することがないことを確保するため、国内法及び国内慣行に適合する措置をとる。

第 六 条

 職業活動を基礎とする法定の社会保障制度は、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者と同等の条件を享受するよう調整される。この条件は、労働時間、拠出金若しくは勤労所得に比例して、又は国内法及び国内慣行に適合する他の方法により決定することができる。

第 七 条

 次の分野において、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者と同等の条件を享受することを確保するための措置をとる。ただし、金銭上の権利は、労働時間又は勤労所得に比例して決定することができる。
 (a) 母性保護
 (b) 雇用の終了
 (c) 年次有給休暇及び有給の公の休日
 (d) 病気休暇

第 八 条

1 加盟国は、労働時間又は勤労所得が一定の基準を下回るパートタイム労働者を、次のものの適用範囲から除外することができる。
 (a) 第六条に規定する法定の社会保障制度(業務災害給付に係るものを除く。)
 (b) 前条の規定が対象とする分野においてとられる措置(法定の社会保障制度に基づかない母性保護の措置に係るものを除く。)
2 1に規定する基準は、不当に多くの割合のパートタイム労働者を除外することがないよう十分に低いものとする。
3 1に規定する可能性を援用する加盟国は、次のことを行う。
 (a) 現行の基準について定期的に検討すること。
 (b) 国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づくこの条約の適用に関する報告において、現行の基準、その理由及び除外される労働者に対する保護の漸進的な拡大に考慮が払われているか否かを明示すること。
4 最も代表的な使用者団体及び労働者団体は、この条に規定する基準の設定、検討及び改正について協議を受ける。

第 九 条

1 使用者及び労働者の双方のニーズを満たす生産的なかつ自由に選択されるパートタイム労働を活用することを容易にするための措置をとる。ただし、第四条から第七条までに規定する保護が確保されることを条件とする。
2 1の措置には、次のことを含む。
 (a) パートタイム労働を利用し又は受け入れることを妨げるおそれのある法令を再検討すること。
 (b) 職業安定組織が存在する場合には、その情報提供及び職業紹介の活動においてパートタイム労働の可能性を明示し及び公表するため職業安定組織を活用すること。
 (c) 失業者、家族的責任を有する労働者、高齢の労働者、障害を有する労働者、教育又は訓練を受けている労働者その他の特定の集団のニーズ及び選好に対し、雇用政策において特別の注意を払うこと。
3 1の措置には、パートタイム労働の使用者及び労働者の経済的及び社会的目的への対応の程度についての調査及び情報の普及を含めることができる。

第 十 条

 適当な場合には、国内法及び国内慣行に従い、フルタイム労働からパートタイム労働への転換又はその逆の転換が任意に行われることを確保するための措置をとる。

第 十 一 条

 この条約は、労働協約又は国内慣行に適合するその他の方法による場合を除くほか、法令によって実施する。最も代表的な使用者団体及び労働者団体は、法令が制定される前に協議を受ける。

第 十 二 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 三 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 四 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 五 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 六 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 七 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 八 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十四条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 九 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。