1996年の船員の労働時間及び船舶の定員条約(第180号)

ILO条約 | 1996/10/22

船員の労働時間及び船舶の定員に関する条約(第180号)
(未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千二十一年六月十八日にその第百九回会期として会合し、八本の国際労働条約の廃止並びに十本の国際労働条約及び十一本の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千二十一年六月十八日に、千九百九十六年の船員の労働時間及び船舶の定員条約(第百八十号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の全加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十六年十月八日にその第八十四回会期として会合し、
 千九百七十六年の商船(最低基準)条約、その千九百九十六年の議定書及び千九百九十六年の労働監督(船員)条約の規定に留意し、
 国際海事機関の諸文書、すなわち、改正された千九百七十四年の海上における人命の安全のための国際条約、千九百九十五年に改正された千九百七十八年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約、安全な定員の原則に関する決議A四八一(ⅩⅡ)(千九百八十一年)、船舶の安全な運航及び汚染の防止のための管理に係る国際規則(国際安全管理(ISM)規則)に関する決議A七四一(一八)(千九百九十三年)及び配乗及び安全性に係る疲労の要因に関する決議A七七二(一八)(千九百九十三年)の関連規定を想起し、
 千九百八十二年の海洋法に関する国際連合条約が千九百九十四年十一月十六日に効力を生じたことを想起し、
 前記の会期の議事日程の第二議題である千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)改正条約及び千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)勧告の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百九十六年の船員の労働時間及び船舶の定員条約と称することができる。)を千九百九十六年十月二十二日に採択する。

第 一 部 適用範囲及び定義

第 一 条

1 この条約は、この条約が適用される加盟国の領域において登録され、かつ、通常は商業海洋航行に従事するすべての海上航行船舶(公有のものであるか私有のものであるかを問わない。)について適用する。この条約の適用上、二の加盟国に登録されている船舶は、この船舶の旗国の領域において登録されたものとみなす。
2 権限のある機関は、代表的な漁船所有者団体及び漁船員団体と協議を行った後、実行可能と認める限り、この条約の規定を商業海洋漁業について適用する。
3 いずれの船舶がこの条約の適用上海上航行船舶又は商業海洋航行若しくは商業海洋漁業に従事する船舶と認めるべきか否かの問題について疑義がある場合には、その問題については、権限のある機関が関係のある代表的な船舶所有者団体、船員団体及び漁船員団体と協議を行った後決定する。
4 この条約は、ダウ、ジャンクその他の伝統的構造の木造船には適用しない。

第 二 条

 この条約の適用上、
 (a) 「権限のある機関」とは、船員の労働時間若しくは休息時間又は船舶の定員に関し規則を設け及び命令その他法的効力を有する訓令を発する権限を有する大臣、官庁その他の機関をいう。
 (b) 「労働時間」とは、船員が船舶のために労働することを求められる時間をいう。
 (c) 「休息時間」とは、労働時間以外の時間をいうものとし、短い休憩を含まない。
 (d) 「船員」とは、資格のいかんを問わず、国内法令又は労働協約により船員と定義され、かつ、この条約が適用される海上航行船舶において雇用され又は従業する者をいう。
 (e) 「船舶所有者」とは、船舶の所有者又は船舶の運航に関する責任を船舶所有者から引き受け、かつ、当該責任の引受けに伴う他のすべての任務及び責任を引き継ぐことに同意する管理人、裸傭(らよう)船者等の団体若しくは個人をいう。

第 二 部 船員の労働時間及び休息時間

第 三 条

 第五条に定める限度内において、所定の期間における超えてはならない最長労働時間又は与えなければならない最短休息時間を定める。

第 四 条

 この条約を批准する加盟国は、船員の通常の労働時間の基準を、他の労働者の労働時間の基準と同様に、一日当たり八時間の労働とし、かつ、一週間当たり一日の休日及び公の休日を伴うものとすることを認める。ただし、加盟国が船員の通常の労働時間をこの基準よりも不利とならないように定める労働協約を承認又は登録する手続を定めることを妨げない。

第 五 条

1 労働時間又は休息時間の限度は、次のとおりとする。
 (a) 最長労働時間は、次の時間を超えてはならない。
  (i)  いかなる二十四時間についても十四時間
  (ii) いかなる七日間についても七十二時間
 (b) 最短休息時間は、次の時間を下回ってはならない。
  (i)  いかなる二十四時間についても十時間
  (ii) いかなる七日間についても七十七時間
2 休息時間は、二を超えない期間に分割することができる。そのいずれか一の期間は少なくとも六時間の長さとし、休息時間から休息時間までの間隔の長さは、十四時間を超えてはならない。
3 招集、防火及び救命艇に係る訓練並びに国内法令及び国際文書に定める訓練については、休息時間の妨害を最少とし、かつ、疲労を引き起こさない方法により行う。
4 機関区域が無人である場合その他船員が待機の状態にある場合において、呼び出されて働くことによって通常の休息時間が妨害されたときは、当該船員には、十分な補償休息時間を与える。
5 労働協約若しくは仲裁裁定が存在しないか又は権限のある機関が3又は4に関し協約若しくは裁定の中の規則が不適当であると決定する場合には、権限のある機関は、関係の船員に対して十分な休息を確保するための規則を定める。
6 1及び2の規定は、加盟国が権限のある機関による所定の限度の例外を認める労働協約の承認又は登録のための国内法令又は手続を定めることを妨げるものではない。この例外については、所定の基準にできる限り従うものとし、当直を担当する船員又は短航海に従事する船舶の船員に対し一層頻繁な若しくは長期の休暇を考慮し又は補償休暇の付与を考慮することができる。
7 加盟国は、船内労働の配置に関する表を見やすい場所に掲示することを求めることにし、この表には、各職務につき少なくとも次の事項を含める。
 (a) 海上及び港における業務の予定
 (b) 旗国の現行の法令又は労働協約に定める最長労働時間又は最短休息時間
8 7の表については、標準化された様式で船内の常用語及び英語により作成する。

第 六 条

 十八歳未満の船員は、夜間に労働してはならない。この条の適用上、「夜間」とは、午前零時から午前五時までの時間を含む少なくとも連続九時間の時間をいう。ただし、この規定は、作成された計画及び予定に従って十六歳から十八歳までの年少船員について行われる訓練の効果が損われる場合には、適用することを要しない。

第 七 条

1 この条約のいかなる規定も、船長が、船舶、乗船者若しくは貨物の切迫した安全の確保に必要な労働又は海上における遭難者若しくは遭難船舶を援助するための労働にその時間の長さのいかんを問わず従事することを船員に要求する権限を害するものと解してはならない。
2 1の規定に従い、船長は、労働時間又は休息時間の予定を停止し、船員に対し、通常の状態が回復されるまでの間労働にその時間の長さのいかんを問わず従事することを要求することができる。
3 船長は、通常の状態が回復された後は、実行可能な限り速やかに、予定された休息時間内に労働に従事したすべての船員に対し、十分な休息の時間が与えられることを確保する。

第 八 条

1 加盟国は、第五条の規定に従っていることを監視することを可能にするため、船員の毎日の労働時間又は休息時間の記録を維持することを求める。船員は、当該船員及び船長又は船長の委任を受けた者によって承認された当該船員に関する記録の写しを受け取る。
2 権限のある機関は、船内において1の記録を維持するための手続(情報が記録される間隔を含む。)を定める。権限のある機関は、利用可能なすべての国際労働機関の指針を考慮して船員の労働時間又は休息時間の記録の様式を定めるか、又は国際労働機関が作成した標準化された様式を使用する。当該記録の様式については、第五条8に規定する言語により作成する。
3 この条約に関係する国内法令の規定及び関連する労働協約の写しは、船内に保管し、かつ、乗組員が容易に利用することができるようにする。

第 九 条

 権限のある機関は、この条約を実施する規則で労働時間又は休息時間を規律するものの遵守を監視するため、前条に規定する記録を適切な間隔で検査し及び承認する。

第 十 条

 記録その他の証拠により労働時間又は休息時間を規律する規則の違反が明らかとなった場合には、権限のある機関は、将来違反が生ずることを防止するための措置(必要な場合には、船舶の定員の変更を含む。)がとられることを求める。

第 三 部 船舶の定員

第 十 一 条

1 この条約が適用されるすべての船舶には、権限のある機関が発給する安全のための最少の人員の配置に関する文書又はこれに相当する文書に従い、十分、安全、かつ効果的に人員を乗り組ませなければならない。
2 権限のある機関は、定員の水準を決定し、承認し又は変更する場合には、次の事項を考慮する。
 (a) 十分な休息を確保し疲労を軽減するため、実行可能な限り、過度の労働時間を回避し又は最少にする必要性
 (b) 前文に掲げる国際文書

第 十 二 条

 十六歳未満の者は、船内で労働してはならない。

第 四 部 船舶所有者及び船長の責任

第 十 三 条

 船舶所有者は、船長に対しこの条約上の義務(船舶に適切に人員を乗り組ませる義務を含む。)を履行するために必要な資源を提供することを確保する。船長は、この条約に基づく船員の労働時間及び休息時間に関する要件が遵守されることを確保するため、すべての必要な措置をとる。

第 五 部 適用

第 十 四 条

 この条約の規定が労働協約、仲裁裁定又は判決によって実施される場合を除くほか、この条約を批准する加盟国は、法令によってこの条約の規定を適用する責任を有する。

第 十 五 条

 加盟国は、次のことを行う。
 (a) この条約の規定を効果的に実施するため、すべての必要な措置(適当な制裁及び是正措置実施を含む。)をとること。
 (b) この条約に従ってとられる措置の適用を監督するため適当な監督機関を設けること及びその目的のため当該機関に必要な資源を提供すること。
 (c) 船舶所有者団体及び船員団体と協議を行った後、この条約に係る事項についての苦情を調査する手続を整備すること。

第 六 部 最終規定

第 十 六 条

 この条約は、千九百五十八年の賃金、労働時間及び定員(海上)改正条約、千九百四十九年の賃金、労働時間及び定員(海上)改正条約、千九百四十六年の賃金、労働時間及び定員(海上)条約、及び千九百三十六年の労働時間及び定員(海上)条約を改正するものである。批准のためのこれらの条約の開放は、この条約が効力を生ずる日に終了する。

第 十 七 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、五の加盟国(総トン数百万トン以上の船腹を保有する国三国以上を含むことを要する。)の批准が登録された日の後六箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後六箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通報する。
2 国際労働事務局長は、第十八条2に定める条件が満たされたときは、この条約が効力を生ずる日につき国際労働機関の加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 一 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。