ILO Newsletter「ビジネスと人権」

公正な移行と持続可能な回復に向けて、世界のディーセント・ワーク促進のためのEUの新たな取組み

世界中の多くの人々にとってディーセント・ワークがまだ現実のものとなっていません。欧州委員会は、公正なグリーン及びデジタル経済への移行と、パンデミックからの持続可能な回復に向けた課題に関するEUの行動を示した、「世界のディーセント・ワークに関する声明」を採択しました。ILOは、EUのこの新たな取組みに対して、歓迎の意を示しています。

記事・論文 | 2022/03/17
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欧州委員会は、公正なグリーン及びデジタル経済への移行と、パンデミックからの持続可能な回復に向けた課題に関するEUの行動を示した、「世界のディーセント・ワークに関する声明」を採択しました。[1]

最新の報告によれば、全世界の10人に1人にあたる1億6,000万人の子どもたちが児童労働に従事しています[2]。また2,500万人が強制労働の状況にあります[3]。これは、世界中の多くの人々にとってディーセント・ワークがまだ現実のものとなっていないことを示しています。

2022年2月23日、ILOは、欧州委員会が「世界における公正な移行と持続可能な回復のためのディーセント・ワークに関する声明」の採択を歓迎すると発表しました[4] 。この声明は、労働者のウェルビーイングなど、人権を擁護するEU(欧州連合)のコミットメントを、国内外において再確認するものです。同声明は、EUが、世界でディーセント・ワークを推進する上で、責任あるリーダーとしての役割を強化するつもりであるという強力なメッセージを発しています。

ILO の調査によれば、COVID-19 の大流行により、所得と労働市場の不平等は悪化し、女性や若者、 非公式経済の労働者など脆弱な立場にある人々は、より深刻な影響を受けています。一方、仕事の世界は、技術革新、人口動態の変化、気候変動、グローバル化によって、変貌を遂げつつあります。

この声明は、EUがこれらの課題に対してどのように行動するかを示しており、公正なグリーン及びデジタル経済への移行とCOVID-19の大流行からの包摂的で持続可能かつ強じんな回復の中心に、世界におけるディーセント・ワークの促進を据えています。このアプローチは、COVID-19危機からの、人間を中心に据えた回復に向けた行動に対するILOの世界的呼びかけ[5]に沿うものです。

ILOのガイ・ライダー事務局長は、「欧州は、社会の変化や課題に対して、しばしば進歩的な解決策を見出そうとしてきた。欧州委員会との長年にわたる協力関係とパートナーシップは非常に貴重であり、繁栄は共有されなければならない、人権と労働の権利は人間の尊厳を支える、社会対話は社会正義と職場における公正のために不可欠な要素である、という共通の価値観を有している。ILOは、世界におけるディーセント・ワークに向けた今回の声明が、すべての人のためのディーセント・ワークの効果的な促進につながるよう、EUと協力する用意がある。」と述べています。

ディーセント・ワークを促進するEUの包括的なアプローチは、ILOの策定したディーセント・ワークの普遍的な概念に沿うものです。(i) 雇用の創出、(ii) 仕事における権利の保障、(iii)社会的保護、(iv)社会対話の促進、という相互に補強し合う4つの目的を追求しています。また、横断的な目標に、ジェンダー平等と差別をなくすことを掲げています。EUは、労働者の安全と健康を確保する権利を、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」[6] の枠組みに統合するための努力を支持しています。すべてのEU加盟国が批准し、EUが締結する多くの自由貿易協定や公共調達指令において顕著に表れている、ILOの8つの中核的労働基準の重要性について強調しています。

そして、強制労働や児童労働に対する取組みを強化し、強制労働によって作られた製品がEU市場に入ることを禁止するための新たな法的イニシアチブを準備すると発表しています。欧州委員会は、児童労働、強制労働、人身売買の撤廃を目指す「アライアンス8.7」[7]のパートナーになるための必要な措置を講じる予定です。

この声明と共に、欧州委員会は「企業の持続可能性デュー・ディリジェンス指令」の法案を採択しました。[8]

この法案は、企業自体、その子会社、及びそのバリューチェーン(直接的及び間接的に確立されたビジネス関係)に適用されます。企業のデュー・ディリジェンス義務を遵守するために、企業は以下を行う必要があると述べています。
  • 人権及び環境への、現実のまたは潜在的な負の影響を特定する。
  • 潜在的な影響を防止または緩和する。
  • 実際的な影響を停止する、または最小限に抑える。
  • 苦情処理手続きを確立し、維持する。
  • デュー・ディリジェンスの方針と手続きの有効性を監視する。
  • デュー・ディリジェンスに関する情報を公開する。
具体的には、労働者にとって安全で健康的な労働環境が守られなければならないなど、国際条約に定められた人権をより効果的に保護することを示しています。また、この法案は、環境に関する主な条約に反する環境への悪影響の回避も目的としています。企業は、様々な影響の深刻さや可能性、特定の状況下で企業が利用できる手続、優先順位の設定の必要性を考慮し、適切な手段を講じていく必要があります。[9]

企業自体及び、そのバリューチェーンに及ぶ事業活動において、労働者の権利が守られ、環境負荷の軽減と地球の持続可能性に寄与し、国内、そして世界でディーセント・ワークを促進する上で、どのような行動を企業は尊重すべきなのでしょうか。このような国外の動きを見ることは、今、企業が果たすべき責任とは何であるかについて考えるきっかけになります。

参考:
[1] EU Commissionウェブサイト:Commission sets out strategy to promote decent work worldwide and prepares instrument for ban on forced labour products (23 Feb. 2022)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1187

[2] ILO駐日事務所ウェブサイト:ILO/UNICEF発表:児童労働:2020年の世界推計、動向、前途 - (日本語概要)
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_815231/lang--ja/index.htm

[3] ILO駐日事務所ウェブサイト:グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を:エグゼクティブサマリー
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_736227/lang--ja/index.htm

[4] ILO本部ウェブサイト:”ILO welcomes renewed EU focus on decent work worldwide for a just transition and a sustainable recovery
https://www.ilo.org/brussels/information-resources/news/WCMS_837914/lang--en/index.htm

[5] ILO駐日事務所ウェブサイト:COVID-19危機からの、人間を中心に据えた回復に向けた行動に対するILOの世界的呼びかけ
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_809363/lang--ja/index.htm

[6] ILO駐日事務所ウェブサイト:「労働における基本的原則及び権利に関する ILO宣言とそのフォローアップ
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/WCMS_246572/lang--ja/index.htm

[7] Alliance 8.7
https://www.alliance87.org/

[8] EU Commissionウェブサイト:“Just and sustainable economy: Commission lays down rules for companies to respect human rights and environment in global value chains” (23 Feb. 2022)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1145

[9] 上記サイトより参照