定期刊行物-中南米・カリブの労働概観

ILO定期刊行物最新版:コロナ禍の中で2年が経過し、中南米・カリブの労働市場の回復は不十分

記者発表 | 2022/02/01

 中南米・カリブでは2021年に経済成長率が6%を超える強い景気回復が記録されたものの、失われた雇用を回復するには不十分であり、地域の平均失業率は2021年末でも9.6%と推定され、非公式(インフォーマル)経済が膨らむ展望が見られると2022年2月1日に発表されたILO中南米・カリブ総局の年次刊行物最新版『Panorama laboral 2021: América Latina y el Caribe(中南米・カリブの労働概観2021年版・西語)』は記しています。

 この地域は本書の刊行が始まった1994年以降で最悪の雇用危機に直面しており、危機が最悪だった2020年第2四半期には地域の就業者が4,900万人減少しましたが、このうち450万人はまだ職を失ったままです。このうち400万人はコロナ危機による失業者となり、残りの50万人はいまだに労働市場に復帰していません。2022年初めの時点で、地域の失業者は約2,800万人と推定されます。

 9.6%の地域平均失業率は2020年のピーク時の10.6%よりは改善しているものの、2年間のコロナ禍の影響を測定する参照基準として用いられている2019年の8%よりは後退したままです。報告書は2022年の経済成長がずっと低い2%強と予想されていることは、地域がコロナ危機から抜け出すにはもっと長くかかることを明白に示していると強調しています。そして、この状況下でコロナ禍が解消されないとすると、2022年の失業率は0.2~0.3ポイント下がるものの、9%を超えたままで高止まりするとの予想を示しています。これは、既に低成長、低生産性、高いインフォーマル経済率と不平等率の状況に陥っていた地域の好調とはほど遠い2019年の労働市場状況に戻るにも不十分であろうと見られます。

 報告書はさらに、コロナ禍突入後の危機はそれ自体が非典型的な動きを示したことに光を当てています。これは公式(フォーマル)な職業の方に影響が大きいのではなく、インフォーマルな仕事の方がより大きく失われるといった状況に反映されており、この結果、数百万人の収入が途絶しました。インフォーマル経済率が下がった国さえあります。しかし、その後、状況は逆転し、得られるデータからは2021年第3四半期までに回復された仕事の6~8割がインフォーマルなものであることが示されています。インフォーマル経済率は既にコロナ禍前の水準に等しい49%に達しており、これは就業者の2人に1人がインフォーマル経済で働いていることを意味します。

 報告書はまた、女性の失業率が2020年から12.4%と、高止まっており、2021年にも改善が見られなかったことは、就労に関わる男女不平等に対する危機の影響を拡大する方向に寄与している点に光を当てています。報告書は、女性に最も影響が強いというこの地域の状況は、女性が飲食・宿泊業その他のサービス活動、世帯部門といった危機の影響が大きな経済部門に多く就労していることに関連しており、女性の方がインフォーマル経済で多く働いていることによっても説明がつけられると記しています。

 地域の若者の失業率は依然として懸念事項であり、コロナ禍以前に既に18%前後と高すぎる水準であったものが、危機と共に20%の天井を直ちに突破し、今なお21.4%と、前代未聞の高さを維持しています。

 報告書にはまた、雇用、職種・産業別の就業者数、最低賃金と平均所得の推移についての都市部と非都市部の違いを示すデータも含まれています。2021年に雇用の伸びが特に大きかったのは、建設業(16.7%増)、商業(9.1%増)、運輸業(6.7%増)などであり、これは2020年にこれらの産業で観測された大幅な縮小とは対照的な動きであると本書は記しています。

 『中南米・カリブの労働概観2021年版』には、テレワーク勤務の増大やデジタル・プラットフォームを基盤とするサービス活動の顕著な増加といったコロナ禍によって加速した趨勢とデジタル移行の提示する課題の特別な分析も含まれています。この新しいシナリオはこういった変容が提供する機会を活用し、労働市場混乱の可能性を回避するという大きな課題を政策策定に携わる人々に提示しています。報告書は資格の需要と供給の適合を高め、今後求められる技能に対してより良く備え、科学技術の破壊的な影響を減じるために、職業訓練の内容と範囲の適応を図る必要性を指摘しています。さらにまた、こういった障害を除去する助けになり、この移行がより多くのより良い仕事の創出につながるよう確保する公共政策の必要性にも光を当てています。

 「労働市場の不確実な見通し、コロナ禍による感染の広がり、今年予想されるパッとしない経済成長の展望は、この雇用危機を2023年、あるいはひょっとすると2024年まで長引かせる可能性があります。長すぎる雇用危機は意欲の喪失と欲求不満を生み、これは社会の安定や統治にも反映するため、懸念される事態です」とビニシウス・ピニェイロILO中南米・カリブ総局長は語っています。さらに、「中南米・カリブでコロナ禍の影響がより深刻なのは、インフォーマル経済や不平等といった『社会的併存症』が理由」と指摘し、これは危機が始まった時に「そのような困難な時期に人々を支える十分な社会的保護体制を欠いた中で仕事と収入がなくなるといった状況」に寄与したことを説明しています。

 本書の執筆に携わったILOの専門家チームの調整役を務めたロクサナ・マウリッツィオILO労働経済地域専門官は、現在の景観では、「人々、そしてとりわけフォーマル雇用の創出に焦点を当てた包括的で広域にわたる政策から成る、より幅広い政策課題を掲げること」が至上命題と説き、「雇用を創出する一貫性のある措置集合なしには、危機の影響が長引き、中南米・カリブの社会と労働に深い傷跡を残すことになるでしょう」と警鐘を鳴らしています。

 2部構成の本書は、第1部で中南米・カリブの経済や労働力率、就業率、失業率、実労働時間、労働市場構成、賃金などの地域の労働市場の2021年の状況をまとめ、将来展望を示した上で、第2部では特別テーマとして、デジタル移行の課題と地域の労働市場に対するその影響を取り上げ、デジタル化や自動化の現状、テレワーク勤務やデジタル・プラットフォーム労働の普及度合い、人間を中心に据えた回復における科学技術の役割などを分析しています。


 以上はILOカリブ諸国ディーセント・ワーク技術支援チーム(DWT)兼国別事務所によるリマ発英文記者発表の抄訳です。