国際青少年デー

ILO新刊:難民の若者にディーセント・ワークに至る可能性がある道を開くデジタル労働プラットフォーム

記者発表 | 2021/08/12

 2021年2月に発表されたILOの定期刊行物『World employment and social outlook(世界の雇用及び社会の見通し・英語)』2021年版は、「変容する仕事の世界におけるデジタル労働プラットフォームの役割」を副題に掲げ、オンライン・プラットフォーム経済の長短、つまり、多くの若者に開かれている就労の機会と、無規制のデジタル・プラットフォーム労働に従事する人々の脆弱性を明らかにし、様々な疎外されている人口集団がデジタル経済におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)から利益を得る方法に関するさらなる研究を提案しています。

 8月12日の国際青少年デーに合わせて発表された本書は、この呼びかけに応える委託研究の成果物として、アフリカ3カ国の避難民とその受入社会の若者の状況を分析し、人間らしく働きがいのある労働条件を確保するには考え方や行動における新たな方向性が求められるものの、デジタル経済は多くの難民の若者に仕事の機会を提供する可能性があると記しています。

 『Towards decent work for young refugees and host communities in the digital platform economy in Africa: Kenya, Uganda, Egypt(アフリカのデジタル・プラットフォーム経済における難民とその受入社会の若者のディーセント・ワークに向けて:ケニア、ウガンダ、エジプト・英語)』と題する新刊書は、地元の労働市場に参入するのに苦労している場合が多い難民は、地元に生計を得る機会がない場合、ジュミアやアップワークといった著名なデジタル・プラットフォームに目を向けてはどうかと提案し、インターネットを通じて提示されるその場その場の仕事であるデジタル・ギグワークは難民に収入をもたらす潜在力を秘めていることを示しています。

 ただし、難民のデジタル・プラットフォーム労働に関連し、ディーセント・ワークの欠如と接続性不足という二つの大きな懸念事項が存在します。本書の対象であるアフリカ3カ国(ケニア、ウガンダ、エジプト)は、いずれもデジタル経済に多額の投資を行い、インターネットへのアクセス拡大に向けた国家戦略を策定しています。にもかかわらず、インターネット利用者は2020年現在で、エジプトでは人口の57%、ウガンダでは24%、ケニアでは22.5%に留まっています。

 世界全体で見ると難民の93%が少なくとも2Gネットワークにカバーされているものの、インターネット利用が可能な電話の保有率は一般人口の半分程度と見られます。難民の若者の場合、アクセスの機会はさらに限られています。

 この他の重要な課題としては、就労許可取得の困難、不安定な電気供給とインターネット接続、適切なハードウエアやソフトウエアの入手機会の欠如、デジタル支払いの仕組みを利用できる機会の欠如などが挙げられます。

 報告書の著者であるエディンバラ大学のアンドレアス・ハクル講師は、デジタル経済や人間らしく働きがいのあるデジタル労働にアクセスする機会の点で多くの難民人口が直面している特定の障害に加え、インターネット接続の不均衡な拡大、デジタルスキルやデジタル・リテラシーにおける不平等の存在が、こういった仕事への応募を困難にしていると指摘し、調整を図った行動なしには、デジタル経済は難民の若者の暮らしを司る、深く根付いた社会・経済における不平等を強める可能性があると警鐘を鳴らしています。

 一方で、難民のデジタル経済へのアクセスを円滑化するイニシアチブも既に導入されており、不利な立場の人々を支援することを目指す、社会的影響力のある労働プラットフォームなどの仲介機関は、難民に就労機会を再配分し、難民を代理してプラットフォームとの料金や条件の交渉を行っています。ケニアのカクマキャンプやウガンダのビディ・ビディ居住地、カイロのようなエジプトの大きな難民受入都市では、コーディング・アカデミーやブートキャンプ、デジタル技術・職業教育訓練などのデジタル技能訓練が提供されています。

 本書は難民の若者のデジタル就労の促進に向けて以下のような提案を行っています。

  • インターネット、その経済・就労関連側面における難民のアクセス改善
  • デジタル化された仕事の未来における難民の就労能力を高めるように難民の多様なデジタルスキル構築努力を深めると共に、難民人口を対象とする雇用サービス機関の強化を通じ、技能と需要を一致させるため、関連する使用者や経済部門と協働すること
  • 社会的企業や社会的影響力のある労働プラットフォームなどの現在存在する難民の遠隔使用者に財政的・技術的支援を提供し、その従業員や個人事業主に、より良い支払いや労働条件が達成されるよう公式(フォーマル)化戦略を促進すること
  • 難民キャンプの労働者が労使団体にアクセスできるようにすることによって、現在は難民受入の場でほとんど存在していないデジタル労働関連の社会対話を改善すること
  • 高いレベルでの広報提言や政策支援を通じて、難民に関連した法・政策体制が提示するデジタル生計手段を阻む障害や障壁に具体的に対処すること

 11章構成の本書は大きく五つに分けられています。第1部では、デジタル経済の背景となる議論、その主な特徴をアフリカの若者や難民との関連性で示し、第2部では、本書が焦点を当てているケニア、ウガンダ、エジプトの3カ国における仕事を創出する手段としてのデジタル経済の妥当性の背景を示し、分析しています。第3部では、この3カ国のみならず、地域及び世界全体における様々な種類のプラットフォームについて、難民及び不利な立場にある若者にとっての適切性とアクセス可能性に焦点を当てつつ、その妥当性を詳しく検討した後、第4部では、デジタル技能訓練と起業家ハブの側面をより深く掘り下げ、この3カ国における主な活動主体の概要を示すと共に提示される機会と課題を論じています。最後の第5部では、難民と若者自体の視点を採用し、デジタル経済におけるそれぞれの経験を眺め、直面している主な課題を考察します。最後に示される結論と関係者に対する提言は、今後の介入活動の設計、政策策定の参考になるような批判的思考と革新的な取り組みの基盤、そして重要な識見を与えるものとなっています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。