熱ストレス

カタールが労働者の熱ストレスからの保護を強める法を新たに制定

記者発表 | 2021/05/27

 湾岸地域では気温が上昇し始めていますが、カタールでこの度、労働者の熱ストレス(熱中症)からの保護を強める新たなルールが成立しました。2021年5月26日に発表された行政開発・労働・社会事項大臣決定は、屋外での労働が禁止される夏期労働時間を大幅に拡大しました。

 2007年の法令では、6月15日から8月31日の期間は11時半~15時の屋外作業空間における労働が禁じられていますが、即日施行された新たなルールは、これに置き換わるものとして、この禁止期間を6月1日から9月15日の10時~15時半に広げました。加えて、時間にかかわらず、個別職場で、いわゆる暑さ指数として知られる、周辺温度、湿度、太陽放射、風速を考慮に入れて算出される湿球黒球温度(WBGT)指数が32.1度を超えた場合、あらゆる活動を中止すべきことも定めています。

 さらに、労働者の年次健康診断と企業によるリスク評価も義務付けられました。

 モハメッド・アルオバイドリー行政開発・労働・社会事項次官は、新たな大臣決定によって導入された措置について、「夏期月間における安全・健康面の優先事項である労働者の熱中症リスクをさらに緩和する助けになるもの」との確信を表明しています。ILOカタール・プロジェクト事務所のマックス・トゥニョン担当官も新しい大臣決定について、「環境状況と様々な緩和戦略の実効性の実地調査をもとにした、根拠に根ざした政策策定の例」と評価しています。

 ILOは2019年にカタールで、行政開発・労働・社会事項省及び同国におけるサッカー・ワールドカップを主催する引き渡し・遺産最高委員会と共に、世界最大の熱ストレス研究を実施しました。研究の委託を受けたこの分野の主導的な機関であるテッサリア大学(ギリシャ)のFAME研究所は、同年一夏をかけて、延べ5,500労働時間を超える労働者の健康と労働強度に関するデータを収集し、◇熱ストレスの状況は職種や作業現場、シフト時間によって大きく異なり、暑さ指数は暑熱緩和戦略の調整に用い得る信頼のおける基盤であることや、◇夜間勤務は高い熱ストレス水準への暴露を減らし得るものの、状況はなおも難しく、その上、労働者が十分に睡眠を取れない危険性があり、熱ストレスと睡眠障害リスクの組み合わせの点から見ると、16時~午前2時が最適の期間であること、◇熱中症のなりやすさに国籍や人種による違いは見出されなかったこと、などの結果を得ました。

FAME研究所の所長であるテッサリア大学のアンドレアス・フロウリス准教授がカタールにおける熱ストレス調査によって見出された主な事項を説明(英語・5分25秒)

 労使団体の代表も新たな法律を歓迎しています。国際使用者連盟(IOE)のロベルト・スアレス事務局長は、「全ての労働者の労働安全衛生は使用者にとっての優先事項」とした上で、すべての人の保護と適正な労働条件を確保する、労働者の熱中症リスク緩和措置に対する支持と、新たなツールと規則がそのような事象の予防に必要な明確さを使用者に示すことへの期待を表明しました。国際労働組合総連合(ITUC)のシャラン・バロウ書記長も「職場における労働者の安全と健康の保護に向けたカタール政府の継続的な努力」を評価すると共に、新たな法律を歓迎し、「気候変動が世界中の労働者に悪影響を与えている今、熱ストレスに関する法律を制定する国が近い将来増加すること」への期待を示しています。

 法律の周知を確保するために、労働監督官は新たな措置を積極的に執行するだけでなく、屋外労働時間に関する助言を労使に提供しています。企業が新たなルールを実施する助けになる手引きや複数言語による労働者向け広報資料も作成されています。


 以上はILOカタール・プロジェクト事務所によるドーハ発英文記者発表の抄訳です。