ILO新刊:国際労働力移動

ILO新刊:世界の労働力移動500万人増

記者発表 | 2021/06/30
報告書の内容を1分半で紹介(英語・1分24秒)
 国際的な移民労働者数は世界全体で世界の労働力の5%近い1億6,900万人に上ります。男女比は男性6割、女性4割です。移民は非公式(インフォーマル)で保護されていない臨時の仕事に従事している場合が多く、とりわけ女性移民労働者は低賃金・低技能職に不均衡に多く見られます。
 新型コロナウイルス危機は移民の脆弱性を強めることになりました。国際的な移民労働者に占める若者の割合は次第に増えてきていますが、これは多くの途上国における若者の失業率の高さに関係しています。
 移民労働者に自国民同様の保健医療の機会が開かれ、人間らしく働きがいのある労働条件を享受できるように確保する正しい政策を導入する必要があります。
 労働力移動は各国が労働需要の変化に応え、技能を移転・更新し、革新的な取り組みと持続可能な開発を刺激する助けになり得ます。
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 ILOは国境を越える労働力移動についての推計を過去2回(2015年2018年)発表していますが、この度発表された最新刊は2017~19年の期間に国境を越えた移民労働者数が3%増え、1億6,400万人から1億6,900万人に達したことを示しています。同じ期間に若者移民労働者(15~24歳)数も320万人(約2%増)増えて1,680万人に達しています。

 『ILO global estimates on international migrant workers: Results and methodology(ILO国際労働力移動世界推計:結果と方法論・英語)』第3版は、2019年に国境を越えた移民労働者は世界の労働力の5%近くを占め、世界経済の不可欠な一部を構成していたにもかかわらず、多くがしばしば臨時雇用や非公式(インフォーマル)な仕事、保護されていない仕事に就き、自国民労働力よりも高い不安定性や一時解雇、労働条件悪化のリスクにさらされているとした上で、新型コロナウイルス危機がとりわけ低賃金の低技能職に過度に多く存在し、社会的保護の機会が限られ、得られる支援サービスの選択肢も少ない女性移民労働者を中心に、その脆弱性を強めることになったと警鐘を鳴らしています。

 新型コロナウイルスがもたらした変化を分析する際の基準点となり得る本書をまとめたILO労働条件・平等局のマヌエラ・トメイ局長も、「移民労働者はしばしば真っ先に一時解雇の対象となり、治療を受ける機会の点でも困難を経験し、しばしば国の新型コロナウイルス政策対応から除外されています」として、コロナ禍が国外で働く移民労働者の不安定な状況を露わにしたことを指摘しています。

 国境を越えた移民労働者の3分の2以上が高所得国に集中しています。計1億6,900万人の37.7%に当たる6,380万人が欧州・中央アジア、25.6%に当たる4,330万人が米州に移住しており、この二つの地域だけで全体の63.3%の受け皿となっています。次いで、アラブ諸国とアジア太平洋がそれぞれ約2,400万人の移民労働者を受け入れており、この二つの地域を合わせて全体の28.5%になります。アフリカには全体の8.1%に当たる1,370万人の移民労働者が暮らしています。

 移民労働者の大半が男性(9,900万人)ですが、求職目的以外に同伴家族として移住する可能性も高い女性移民労働者(7,000万人)は、男性よりも高い社会的・経済的障害に直面しています。女性は就労における男女差別を経験し、ネットワークを欠いている可能性もあるため、外国で仕事と家庭生活を両立させることが難しくなっています。

 国境を越える移民労働者の大半(86.5%)は依然として壮年層(25~64歳)ですが、2017年には8.3%だった若者の割合が2019年には10.0%に上昇しています。これには多くの途上国における若者の高失業率が関係している可能性があります。

 多くの地域で国境を越える移民労働者は労働力の重要な割合を占めており、受入国の社会や経済に欠かせぬ貢献を行い、保健医療や運輸、サービス、農業、食品加工などの決定的に重要な産業部門で必要不可欠な仕事に就いています。報告書は、移民労働者の66.2%がサービス業、26.7%が工業、7.1%が農業に従事していることを示しています。ただし、これは男女による違いが大きく、男性は工業に多く見られるのに対し、女性はサービス業に占める割合が高く、この一因として保健医療や家事労働といったケアを提供する労働者に対する需要の増加を挙げることができるかもしれません。

 労働条件・平等局と共に本書の制作に携わったILO統計局のラファエル・ディエス・デ・メディナ局長は、本書が調和された相互補完的な情報源を統合した信頼のおけるデータとしっかりとした方法を基盤とした堅固な推定値を提供していることを紹介した上で、「強固な統計証拠を基盤として初めて労働力移動政策は効果的になり、そういった政策は各国が労働需給の変動に応え、革新的な取り組みと持続可能な開発を刺激し、技能の移行・更新を手助けすることができる」と説いています。

 本書は2部構成になっており、第1部「主な結果」で、国際的な移民労働者のストック数を世界全体及び地域別・所得水準別国家群毎に推計し、第2部「推計方法論」で、データソースや集計法、分解法、データの質について解説しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。