ILO統計局ブログ:女性労働

全ての人にディーセント・ワークを求める探求の中で置き去りにされる女性達

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに貧困を終結させ、不平等や不正義と戦い、気候変動問題に取り組む共通のビジョンを定めています。新型コロナウイルスの世界的大流行は8番目の目標に定められているように、すべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を達成することを目指す歩みを後退させることになるでしょうか。少なくとも女性についてはその可能性が高いように見えます。

ILO統計局データのビパサナ・カルキー統計官(左)とマリー=クレア・ソダーグレン上級経済専門官

 新型コロナウイルスの世界的な大流行が始まる前から職場における男女平等は依然としてつかまえられない目標であり続けていました。今や新型コロナウイルス危機の最前線には女性が立ち、保健医療労働者の7割を占めるなど、必要不可欠な労働者の多くを占めています。にもかかわらず、世界中どの地域でも、国の所得水準にかかわらず、コロナ禍は女性の労働市場における機会に最も深刻な打撃を与えています。これは「持続的かつ包摂的で持続可能な経済成長と、生産的な完全雇用、そして全ての人のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を目指す8番目の持続可能な開発目標(SDGs)の下で達成された歩みの幾つかを後戻りさせる可能性が高いと言えます。コロナ禍が労働市場に与えている影響を完全に理解するにはまだ世界のデータが十分に得られないものの、判明している事実をちょっと眺めてみただけでも、男性よりも女性の方が多く職を失い、その多くが労働市場から完全に去っていること、元々少なかった管理職に占める女性の割合が悪化する可能性が高いこと、就業も就学も訓練受講もしていないニート状態の若い女性が増えていること、地域封鎖措置は就業者の多くを女性が占める高リスク部門を中心に非公式(インフォーマル)経済で働く人々の生計を脅かしていることを指摘することができます。

労働力率における男女間格差

 2020年の労働市場の混乱は2009年の世界金融危機の影響をはるかに上回っています。前代未聞の雇用減は女性の方が厳しくなっています(女性5.0%減、男性3.9%減)。

 その上、地域封鎖に基づく休校によって子どもを自宅で監督する必要が増えたため、そのような世話のために労働力から抜け落ちる可能性の点でも女性は男性をはるかに上回っています。これは古くから見られる労働力率における男女間格差のさらなる拡大を招いています。コロナ禍が始まる以前の2019年で既に、働き盛りの男性の労働力率は93.5%であったのに対し、働き盛りの女性の労働力率はわずか62.1%に過ぎず、幼い子どもと配偶者のいる女性の場合はこの数字はさらに低くなっていました

世帯種別労働力率(25~54歳)
  女性(%) 男性(%)
夫婦・子ども(6歳未満)世帯 45 96.5
拡大世帯 50.8 90.5
62.1 93.5
一人親世帯 64.7 88.9
単身世帯 75 90.2
出典:合計は2019年についてのILOのモデル推計値。
内訳は108カ国の得られる最新データをもとにした人口加重集計値。
英文記事では表が図示されています。また、データ数値が入手できます。

管理職女性

 過去20年、管理職に占める女性の割合は世界的になかなか伸びず、2000年以降の上昇率は3ポイントを下回り、2019年までに女性が世界の労働力に占める割合は39%近くに達したにもかかわらず、管理職に占める割合は28%に過ぎませんでした。これは依然としてガラスの天井が大いに存在することを推測させ、最高執行責任者(CEO)や上級役員、立法議員などの意思決定に携わる地位は依然として男性が占有し、ほぼ4分の3を占めていました。

 一方で、女性に不均等に大きな影響を与えるコロナ禍は過去数十年間に達成されたわずかな歩みを後退させる可能性があります。データが得られる47カ国の半分以上で管理職に占める女性の割合は2019年第4四半期から2020年第3四半期の期間に、時には相当に低下しました。四半期別の数値が得られるのはほとんど高所得国ですが、にもかかわらず、この傾向は女性管理職の半分以上がしばしば自営業者である低所得国でも等しい可能性が高いと思われます。社会的距離確保の措置、地域封鎖、サプライチェーン(供給網)や市場の歪みは、典型的なこととして、女性が所有する企業の業績と成長を阻む構造的な不平等や課題を悪化させることになり、この結果、多くの企業が閉鎖に至りました。

管理職、就業者、労働力人口に占める女性の割合(%)
図表:管理職、就業者、労働力人口に占める女性の割合
英文記事の図表からはデータ数値が入手できます。

ニート

 世界的にニートに占める若者の割合は10年以上、改善の兆しをあまり見せていないのに対し、若者の中でも女性は男性よりも不均等に大きな影響を受け続けています。2019年時点で若者の間でニートになる可能性は女性が男性の2倍以上になっていました。

 2020年全体についての世界的な数値はまだ得られませんが、四半期データからはデータが得られる50カ国中45カ国でニート率は2020年第2四半期に前年同期よりも高くなっています。新型コロナウイルスの世界的な大流行に起因する地域封鎖措置は2020年に未曾有の就業者減を引き起こし、減少率は年長者(3.7%)よりも年少労働者(8.7%)の方が高かったため、これは何も驚くべきことではありません。一方で、技術職業教育もオン・ザ・ジョブ研修も大規模な混乱を経験し、多くが学業の中断を余儀なくされました。

 新型コロナウイルス危機による若者の状況悪化が特に懸念されるのは、2019年で既に世界全体で3分の1がニート状態にあった若い女性の場合です。

若者性別ニート率(%)
図表:若者性別ニート率
英文記事の図表からはデータ数値が入手できます。

インフォーマル経済

 世界のインフォーマル就業者の76%に当たる推定16億人のインフォーマル経済で働く人々が地域封鎖措置の相当の影響を受けるか、飲食・宿泊業などの最も大きな打撃を受けた産業部門で働いていました。中でも女性は高リスク部門に不均等に多くが従事していました(男性の32%に対して女性の42%)。

 しばしば生き残りや収入維持のための既定の選択肢として機能するインフォーマル就業は危機時には増加する傾向があるものの、新型コロナウイルスの世界的大流行期間中の人やモノの移動の制限はこの種の対処の仕組みの利用を制限し、これは翻って、インフォーマル労働者とその家族を非常に不安定な状況に残し、突然の収入喪失にさらし、貧困に陥る危険の増大に直面させています。

 しばらく前から明らかであったように新型コロナウイルス危機は女性に不均等に大きな影響を与えています。得られるデータは危機が従来から存在した男女不平等をどれだけ悪化させているかをますます示すようになってきています。このような状況下ではより良くより公正な立て直しを図るには、男女平等を回復努力の中核に据えた雇用政策が求められる一方、直面している課題の適切な数量化に向けて性別データや性別測定方法の強化も必要です。

 ILOは1世紀以上にわたり、仕事の世界に関連した問題を取り扱ってきました。この実績が認められ、17ある持続可能な開発目標中五つの目標に含まれるディーセント・ワークに関連した14の指標の管理機関に選ばれました。管理機関として、ILOは、◇データ生成者向けに各国統計を編纂し、◇各国データ及びメタデータを確認して国際比較の可能性を確保し、◇世界・地域総計を推計し、◇データを分析してデータのギャップや主な傾向を特定し、◇データ及びメタデータを毎年国連に報告し、◇SDG進捗報告に貢献し、◇SDGの労働市場に関する高品質データの生成に向けて各国の能力強化を図っています。

 ILOは各国から報告されるデータが得られない年や国についての労働市場指標の推計を出し、予測を示すために用いる計量経済学モデル系列を積極的に維持しています。モデルに投入される数値は歴史的時系列データです。しかし、新型コロナウイルスの世界的な大流行が労働市場にもたらした未曾有のショックを歴史的データに対するベンチマークで評価するのは困難であり、したがって、ILOのモデル推計・予測データ集合系列のほとんどが今は推計生成時に年労働力調査データが得られた最新年である2019年を最後としています。幾つかの指標については、2020年の推計を出すために現況報告モデルが用いられており、2021年の推定値を予測するには新しい予測モデルが用いられています。関連データが乏しいなどといった例外的な状況であるため、2020~21年の推計値は非常に不確実であると言えます。現況報告及び予測モデルの詳細は、ILOが不定期的に出している新型コロナウイルスと仕事の世界に関するモニタリングシリーズの付属資料をご覧ください。

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 以上はILO統計局データ生成・解析ユニットのビパサナ・カルキー統計官とマリー=クレア・ソダーグレン上級経済専門官による2021年3月29日付の英文投稿記事の抄訳です。ILOの労働統計データベースILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。