ILO新刊:家事労働

条約採択から10年が経過してもなお平等とディーセント・ワークを求めて戦い続けている家事労働者

記者発表 | 2021/06/15
報告書の内容を1分半で紹介(英語・1分38秒)
 ベビーシッター、介護労働者、庭師その他の家事労働者は私たちの家庭と社会を支えています。新型コロナウイルスの世界的大流行の中で数百万人の家事労働者が職を失い、その多くが社会的保護も所得支援も得られていません。しかし、長くその仕事が保護されてこなかった家事労働者にとって、このような状況は新しいことではありません。
 ILOは2011年に、正に家事労働が本物の仕事であることを認め、家事労働者が他の労働者と等しい権利を享受するよう確保するために第189号条約を採択しました。政府、労働者団体、使用者団体の10年に及ぶ努力を経て、法的保護の点では進展が見られるものの、実際にこの新しい権利を享受している家事労働者はわずかです。世界全体で7,600万人を数える家事労働者の81%が依然として非公式に雇われており、この割合は他の職業の2倍に上ります。労働時間が非常に長かったり、逆に非常に短い傾向も他の労働者より高く、賃金は他の雇用者の平均月額賃金の56%に過ぎません。
 家事労働者に率いられ、各国はこの法と実施の格差の縮小を進めています。家事労働者にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現することは可能であり、必要なことなのです。
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 「2011年の家事労働者条約(第189号)」が採択された6月16日は国際家事労働者デーです。今年は第189号条約採択10周年に当たることから、これを記念して国際デーに先立って発表された新刊書は、家事労働者の労働者としての権利を確認した歴史的な条約の採択から10年経ってもなお、必要不可欠なサービスを提供する労働者として認められるために戦っている家事労働者の現状を示しています。

 『Making decent work a reality for domestic workers: Progress and prospects ten years after the adoption of the Domestic Workers Convention, 2011 (No. 189)(家事労働者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を現実のものに:2011年の家事労働者条約(第189号)採択後10年間の歩みと展望・英語)』と題する報告書は、この10年、多くの家事労働者にとっては労働条件の改善が達成されなかっただけでなく、新型コロナウイルスの世界的な大流行によって状況が悪化していることを指摘しています。

 危機のピーク時にほとんどの欧州諸国やカナダ、南アフリカでは5~20%の家事労働者が職を失いました。米州の状況はさらに悪く、25~50%に達しています。対して、ほとんどの国で同時期に職を失った人は他の職業では雇用者の15%に達しなかったとみられます。報告書のデータからは、世界の雇用者の4.5%に当たる、世界全体で7,560万人を数える家事労働者はコロナ禍の深刻な影響を受けていることが示されています。これはまた、育児や介護などの日々のケアニーズに関し、家事労働者のサービスに頼ってきた一般世帯にも影響を与えています。

 新型コロナウイルスの世界的な大流行は、既に非常に劣悪であった家事労働者の労働条件をさらに悪化させることになりました。古くから見られる労働者保護と社会的保護におけるギャップを理由として、家事労働者はコロナ禍の影響に対してより弱く、非公式(インフォーマル)経済で働く6,000万人以上の家事労働者の場合は特に大きな影響を受けています。

 10年前に採択された画期的な家事労働者条約は、大部分を女性が占める世界中で数千万人を数える家事労働者から、画期的な進展として喝采をもって迎えられました。その後、労働法規の適用範囲から完全に除外されている家事労働者数が16ポイント以上減少するなど、一定の進展はありましたが、大多数(36%)が依然として労働法の適用から完全に除外されていることは、この法律上のギャップを縮小する緊急の必要性を指し示すものです。とりわけ、ギャップが最も大きいアラブ諸国とアジア太平洋では緊急の対応が求められます。

 労働法や社会保障法が適用されている場合でも実施面では相当規模の排除やインフォーマル性の問題が残り、報告書は雇用関連の社会的保護が実効的に適用されているのは家事労働者の5人に1人(18.8%)に過ぎないと指摘しています。

 家事労働は依然として圧倒的に女性が多い職種であり、全体の76.2%に当たる5,770万人が女性です。欧州及び中央アジアと米州では女性が大半を占めるのに対し、アラブ諸国(男性が63.4%)と北アフリカでは男性が女性を上回り、南アジア(男性が42.6%)でも半分弱が男性です。

 家事労働者の大半が二つの地域に集中しています。約半分が中国を中心とするアジア太平洋(3,830万人)で暮らし、4分の1あまりが米州(1,760万人)で暮らしています。日本でも東アジアでは中国に次いで多い約114万人(この9割が直接雇用)の家事労働者が存在しています。

 今日、家事労働者の組織化は進み、家事労働者を代表する団体によってその意見や権利は擁護されています。家事労働者の団体は雇い主の団体と共に、これまでに達成された進展において重要な役割を演じてきました。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、「労働法及び社会保障法の全ての家事労働者への適用拡大と実施を始めとして、危機は家事労働者のディーセント・ワーク機会の確保に向けて、家事労働を公式(フォーマル)化する緊急の必要性に光を当てることになりました」と指摘しています。

 報告書は3部11章構成で家事労働者の現状を概説しています。◇定義、出典、方法論、◇第1章「世界・地域推計」、◇第2章「家事労働者の地域別推計」、◇将来展望で構成される第1部「世界・地域統計」で、家事労働者数の世界全体・地域別推計や今後の需給見通しを示した後、◇方法論、◇第3章「国内労働法の適用範囲」、◇第4章「労働時間を司る法規」、◇第5章「最低賃金と現物払いを司る法規」、第6章「母性保護を含む社会保障を司る法規」で構成される第2部「労働・社会保障法規の適用範囲」で、法の適用状態を検討しています。◇序章、◇第7章「労働時間、賃金、社会保障」、◇第8章「家事労働における労働安全衛生の促進と暴力及びハラスメントの防止」、◇第9章「インフォーマル性とフォーマル化」、◇第10章「発言力、代表性、社会対話」、◇第11章「新型コロナウイルスの世界的大流行の影響とコロナ禍対応」、◇結論で構成される第3部「家事労働者のディーセント・ワークを現実のものに」ではさらに、労働時間、賃金、社会保障の各分野における実効的な保護の現状や新型コロナウイルスの世界的大流行の影響、家事労働者のディーセント・ワークに至る道に立ちはだかる障害を示し、それぞれの課題に取り組む好事例も紹介した上で、今後進むべき道を提案しています。付録として、日本を含む各国の家事労働者数や法の適用状況、賃金など、豊富な国別資料が含まれています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。