世界の雇用及び社会の見通し:動向編

ILO定期刊行物最新刊:遅々とした雇用回復と不平等の拡大によって新型コロナウイルスの傷跡が長く残る恐れ

記者発表 | 2021/06/02
報告書の内容を3分で紹介(英語・3分8秒)

 2021年6月2日に発表されたILOの定期刊行物『World employment and social outlook: Trends 2021(WESO Trends)(世界の雇用及び社会の見通し:動向編2021年版・英語)』は、新型コロナウイルスの世界的な大流行がもたらした労働市場の危機は終結にはほど遠く、生じた損失を補うのに十分な雇用成長は少なくとも2023年まで見られないだろうとの見通しを示しています。

 新型コロナウイルスの影響による労働時間の減少や直接的な雇用減、達成されなかった雇用の伸びについて分析した本書は、世界危機によって誘発された「仕事ギャップ(実際に減った就業者数にコロナ禍がなかったとしたら達成された雇用成長分を合わせた数)」が2020年には1億4,400万人分に上りましたが、2021年には7,500万人分、2022年に2,300万人分となる見通しを示しています。これに労働時間の減少分を合わせて労働時間の観点から見たギャップもフルタイム職換算で2020年には2億5,500万人分でしたが、2021年に1億人分相当、2022年に2,600万人分相当に減少すると見られます。加えて、危機前から高かった失業水準、未活用労働、劣悪な労働条件の問題が解消されないままで残っています。結果、失業者数は世界全体で2020年に2億2,000万人に達しましたが、2022年でもなおも、2019年の1億8,700万人を大きく上回る2億500万人に留まると予想されます。これは5.7%の失業率に相当しますが、新型コロナウイルス危機の期間を除くと、2013年の水準に逆戻りしたことになります。

 地域別で見ると、2021年上半期に最も状況が悪かったのは、中南米・カリブと欧州・中央アジアとなっており、世界の労働時間の減少は2021年第1四半期に4.8%、第2四半期に4.4%と推定されるのに対し、どちらの地域も第1四半期が8%超、第2四半期が6%超の減少になっています。

 コロナ禍の全体的な状況がこれ以上悪化しないと仮定すれば、2021年後半に世界の雇用は回復の速度を速めると見られますが、ワクチン接種機会における不平等と、ほとんどの途上国及び新興国経済で力強い財政刺激策を支える能力が限られているため、回復にはばらつきがあると予想されます。その上、これらの国では新たに創出される雇用の質が低下する可能性が高いと考えられます。

 雇用と実労働時間の減少は、勤労所得の急落とそれに対応する貧困率の上昇をもたらしており、本人及びその家族が1日1人当たり3.20ドル相当額未満で暮らしている貧困層及び極度の貧困層に分類される労働者が今は世界全体で2019年より1億800万人増えていると見られます。「働く貧困層の根絶に向けた5年間の歩みが無に帰した」と記す報告書はさらに、これによって2030年までの貧困根絶を掲げる国連の「持続可能な開発目標」の達成がますます困難になっていこうと指摘しています。

 新型コロナウイルス危機はまた、脆弱な労働者に、より激しい打撃を与えることによって以前から存在していた不平等を拡大することになりました。世界全体で20億人を数える非公式(インフォーマル)経済で働く人々などの間で見られる幅広い社会的保護の欠如は、コロナ禍に関連した仕事の途絶が世帯収入や家計に災害的な結果をもたらしたことを意味します。

 危機はまた、女性に不均衡に大きな打撃を与えており、2020年の就業者数は男性が3.9%減であったのに対し、女性は5%減を記録しています。さらに、より大きな割合の女性が労働市場から離れ、非労働力化しています。危機による地域封鎖によって追加された家事責任は性別役割の再伝統化のリスクを生んでいます。

 2020年に世界全体で若者の就業者数も8.7%減となっており(25歳以上の場合は3.7%減)、中所得国で最も顕著な減少が見られました。若者の間で見られるこの労働市場参加の遅れと労働市場経験の早期途絶の結果は何年も残る傷跡となる可能性があります。本書と同時に発表された『An update on the youth labour market impact of the COVID-19 crisis(新型コロナウイルス危機の若者の労働市場に対する影響-更新版・英語)』と題する概説資料は、若者の労働市場の展望に対するコロナ禍の影響をより詳しく記し、若者の労働市場における性別格差がより顕著になったことも明らかにしています。

 このような状況に対し、本書は、1)幅広い経済成長と生産的な雇用創出の促進、2)世帯所得と労働市場における移行の支援、3)包摂的かつ持続可能で強靱な経済成長・経済発展に必要な制度基盤の強化、4)人間を中心に据えた回復戦略の策定に向けた社会対話の活用、の四つの原則から成る回復戦略を示しています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、「新型コロナウイルスからの回復は単なる健康の問題ではなく、経済や社会が被った深刻な損害を克服する必要もあります。人間らしく働きがいのある仕事の創出を加速し、社会の最も脆弱な構成員と最も打撃を受けた経済部門の回復を支える意図的な努力なしには、人的潜在力と経済潜在力の喪失、より高い貧困水準と不平等の形でコロナ禍の影響が何年も残る可能性があります」と指摘した上で、「人間を中心に据えた政策を基盤とし、行動と財源に裏打ちされた包括的かつ調整を図った戦略」が必要と説き、「人間らしく働きがいのある仕事の回復がない限り、真の回復はあり得ないでしょう」と訴えています。

 3章構成の本書は、第1章「世界の雇用の動向」で、世界の労働市場の状況や勤労所得の傾向を概説し、新型コロナウイルス後の予測を示した上で、第2章「地域レベルで見た新型コロナウイルス危機の雇用及び社会に対する影響」で地域別、第3章「企業・労働者に対する不均質な影響」で移民労働者や産業別、男女、従業上の地位別、技能水準別で見た労働者及び企業に対する影響を詳しく分析した後、結びの章で人間を中心に据えた回復戦略を具体的に示しています。付録として、世界全体・地域別の雇用、失業、未活用労働、働く貧困層などの労働市場データと予測が掲載されています。オンライン・データベースのWESOデータ・ファインダーでは、これらのデータを国別のものも含み、ダウンロードすることや図表表示が可能です。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。