ポッドキャスト:新型コロナウイルスと後発開発途上国

世界の後発開発途上国の仕事と生計手段に対する新型コロナウイルスの世界的大流行の影響

 このポッドキャストでは、ILO雇用政策局雇用・経済分析ユニットのアウレリオ・パリソット・ユニット長に、先般発表された政策概説資料『COVID-19 - Tackling the jobs crisis in the Least Developed Countries(新型コロナウイルス-後発開発途上国における雇用危機への取り組み・英語)』について尋ねました。

 ILO雇用政策局は「グローバルな課題、グローバルな解決策」をテーマに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響とILOの政策対応を専門家に尋ねるポッドキャスト・インタビュー・シリーズを開始しました。2020年12月11日に発表された第8話では「世界の後発開発途上国の仕事と生計手段に対する新型コロナウイルスの世界的大流行の影響」と題し、作業文書20号『COVID-19, jobs and the future of work in the LDCs: A (disheartening) preliminary account(後発開発途上国における新型コロナウイルスと職と仕事の未来:(がっかりさせられる)暫定報告)』の著者の1人であるILO雇用政策局雇用・経済分析ユニットのアウレリオ・パリソット・ユニット長に、先般発表された政策概説資料『COVID-19 - Tackling the jobs crisis in the Least Developed Countries(新型コロナウイルス-後発開発途上国における雇用危機への取り組み・英語)』の主な内容について尋ねました。


 世界には後発開発途上国と呼ばれる国がサハラ以南アフリカに33カ国、アジア太平洋に13カ国、米州に1カ国存在します。後発開発途上国全体で、世界の国内総生産(GDP)の1.3%、世界人口の13%、そして世界の貧困層の40%を占めています。

 新型コロナウイルによって消失した仕事の数についてのはっきりとした証拠はなかなか得られないものの、政府や国際機関、労働組合、非政府組織(NGO)などによる特別研究や企業調査、世帯電話調査、簡易評価などは相当数存在し、それらのデータをすくい取ると、後発開発途上国全てで商業や飲食業、運輸業、対人サービス、家事労働などの部門における相当の就業者減と就業率低下の例が示されています。後発開発途上国の就業者の半分以上が従事する農業も移動制限による影響を受けています。バングラデシュ、セネガル、東チモール、ウガンダ、イエメンでは調査回答者の8~9割が収入減を経験しており、これはより強い困窮の指標です。

 後発開発途上国に多い自営業者は、テレワークのような贅沢は得られず、働かないでいる余裕もありません。さらに、重要なこととして、小規模・零細事業が店を閉め、労働者がますます深く非公式(インフォーマル)経済や貧困、飢えに陥るといういわゆる傷跡効果の兆候が見出されています。

 影響の全体を理解するには、こういったバラバラの証拠を背景にはめ込む必要がありますが、背景である後発開発途上国の労働市場は、様々な側面で同時にショックを受けており、影響が強められています。第一の影響は、封鎖措置と社会的距離の確保による国内の経済活動に対する直接的な影響です。これまでの危機では緩衝装置として機能していた都市のインフォーマル経済が潰されています。この明確な証拠として、例えば、マリの電話調査ではサービス部門の事業の88%が販売収益がないか低下したと報告しており、セネガルの都市インフォーマル経済における質的評価では話を聞いた労働者の4割が職を失っていたことを挙げることができます。

 同時に、感染例が1件もないにもかかわらず、グローバル・バリューチェーン(世界的な価値連鎖)の縮小や、輸出、送金、外国投資の激減によって製造業、建設業、観光業、鉱業の公式(フォーマル)経済でも就業者が相当に失われています。この産業部門毎の収縮は極めて速く経済内を駆け巡り、社会的保護がないために自動安定化装置もなく、財政支援は非常に限られています。

 最後に健康、栄養、教育に対するコロナ禍の間接的な影響があり、休校一つとっても成長に長期的なマイナス効果があります。つまり、全体としてマクロ経済には巨大なショックが与えられ、正に景気後退の悪循環に入っています。

 後発開発途上国には、世界の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確認された患者数のわずか2%しか住んでいません。したがって、公衆衛生面の影響が比較的小さな貧しい国々が経済的にも社会的にも最も影響を受けることになるかもしれないのは悲しい逆説です。

 後発開発途上国は新型コロナウイルスの世界的大流行に素早く対応し、国境を封鎖し、脆弱な世帯や労働者、企業に緊急ライフラインを提供しました。その過程で、インフォーマル経済で働く人々に手を差し伸べる新たな方法を見出しましたが、それがこの危機の新しい特徴です。例えば、エチオピアとレソトでは政府が脆弱な世帯に対する現金給付など、既存の伝統的な安全網の対象を危機の影響を新たに受けた人々に広げました。1,600万人の人口中1,000万人に食料を配布したセネガルのように現物支援を選んだ国もあります。

 幾つかの政府はまた、革新的な解決策を発見しました。例えば、トーゴでは新たに携帯電話による現金給付計画が発動し、有権者登録に使われているデータ集合を利用して約140万人のインフォーマルな労働者に支援を提供できています。カンボジアやギニア、ネパールなどのように臨時労働や労働集約型公共事業計画を用いている国もあります。電子商取引や携帯電話利用支払いシステム、いわゆるデジタル金融が強く推進されていますが、この好例として、バングラデシュやウガンダ、ルワンダを挙げることができます。

 重要なこととして、好調な宅配サービスや生産の方向性を変えて、地元で調達できる材料を用いて地元の病院に医療機器を提供している企業など、民間セクターにおける対応にも大いに創意工夫が見られる点を強調しておく必要があります。

 非常に重要な制約要素として財政的な余地の欠如が挙げられます。低所得国経済の財政支援は平均でGDPの1.4%であり、世帯や企業の被っている経済的ショックの規模を大幅に下回っています。さらに、総合的支援策の一部は、例えば、非常に重要な基盤構造に対する投資をあきらめて資本支出から振り替えられた予算で構成されています。

 ちなみに、先進国経済における新型コロナウイルス対策の総合的財政措置は平均でGDPの8%を占め、企業に対する助成金や貸付保証といった支援策を含むと最大16%にもなります。

 新技術の活用による成功例、生産性が高まった例が所々に数多く見られます。多くの国でモバイルバンキングのシステムを通じた振り込みが可能になり、中央銀行は例えば、手数料を減らし、キャッシュレス取引を円滑化するなどの行動を取っています。電子政府も導入され、デジタル・バングラデシュのように電子式の国民身分証明書制度を整備した国もあります。これらは明らかに危機対応の一環ですが、公務サービスの提供が改善される潜在力を秘めています。

 また、労働市場のモニタリングに新たに高頻度データソースが用いられました。こういったデータソースの一部を用いて、例えば、エチオピアでは雇用創出全国委員会と共同で特別簡易労働力調査を行いました。

 より幅広い話として、例えば、ソーラーパネルの採用が普及し、分散型エネルギー生産が可能になっています。精密照準節水農法を実験している国があるほか、多くの国で宅配やその他のサービス、教育・訓練用にデジタル・プラットフォームが盛んに用いられています。興味深いこととして、その多くが若手起業家の新規事業です。これがとりわけ重要なのは、後発開発途上国の人口は非常に若く、20歳未満が平均で人口の約半分を占めているためです。

 後発開発途上国がこの危機から回復するには財政支援が決定的に重要であり続けるでしょう。限られた財政的余地を使って最も脆弱な集団に対する救済を提供し続けるだけでなく、同時に新たな雇用を創出して労働市場の安定化を図り、経済を再始動させる手助けを提供する必要もあります。つまり、より少ない財政的余地でより多くのことを行わなくてはならないのです。

 中心は、設計と実施を改善した力強い雇用政策です。ILOでは、様々な政府機関同士の緊密な調整、進捗状況をモニタリングする信頼のおける適時の労働市場情報、説明責任を確保する社会対話を伴った、雇用を豊かに生む回復のための力強い全国的な計画を提案しています。生産的な変革は、公的機関と民間セクターの戦略的な相互作用を通じた重要な下支えとなります。労働市場計画、雇用安定業務、訓練、金融機関はカギを握る促進役として一定の役割を演じることができます。新型コロナウイルス対応における一つの元気づけられる展開は、多くの国で政府が零細・小規模事業のニーズにもっと注意を払うようになったということです。

 真の問題は、財政的余地が限られているだけでなく、税収や輸出、送金額の減少によって縮小してもいることです。同時に対外債務に対する支払額が増加しているため、国際的な援助が不可欠です。多くの国が単独では対応できない危険があります。例えば、先進20カ国・地域(G20)による債務返済停止のグローバル・イニシアチブのような好ましい展開が幾つか見られはしますが、もっと多くのことが必要です。

 後発開発途上国の仕事の未来ですが、コロナ禍の今後の動向とその経済的な結果は依然として大きな不確実性に包まれているものの、大いに懸念される一つの世界的な趨勢として、低賃金未熟練労働に対する需要の大幅かつ長期的な低下があります。これには周期的要因と構造的要因があります。周期的要因としては、コロナ禍によって先進国、新興国、途上国で発生している大規模な雇用危機は主に未熟練労働者と低技能労働者に影響を与えており、封鎖が解除され、経済活動が通常のペースに戻る中でなくなったものの一部は回復するものの、労働市場には相当のギャップがあり、危機前の水準に戻るには何年もかかるかもしれないというものです。

 これに輪をかけるものとして、生産と流通における構造的な変化があります。テレワークの取り決め、電子商取引、自動化、人工知能に対する依存が加速しており、ひとたび採用されると、この変化は勢いを増し、生産工程やビジネスモデルにおける変革を招きます。これが雇用に与える影響は多様であると見られ、例えば、電子商取引の成長を受けて不安定な宅配の仕事が今は増加していますが、正味では未熟練労働に対する需要の低下が増す可能性が高いとほとんどの専門家が見ています。

 後発開発途上国はこのような変化から利益を得るには弱い立場にあります。情報・電気通信の基盤構造は弱く、インターネットは平均で国民の2割にしか普及していません。企業はあまりにも小さく、関連する技能を備えている労働者はほとんどいません。さらに経済の脱グローバル化と共に途上国での生産における労働コスト上の利点がさらに縮小すると考えられます。

 しかし、後発開発途上国の官民両部門は同時に、新型コロナウイルス危機対応において大いに創意工夫と資源の豊かさを示しました。そこで、諸国は開発戦略を見直して、地元及び地域の生産システムにおける、ITによって可能になった革新事業や新規部門、新興部門の新たな雇用機会に政策の対象をより良く定める必要があるでしょう。こういった下からの取り組みにはそれに見合った公的支援や民間投資が求められ、国際支援が重要な役割を演じることでしょう。

 ILOではより良い仕事の未来の構築に向けて、基盤構造や制度・機構、人々の能力に対する投資を呼びかけていますが、これは後発開発途上国に特に当てはまると思われます。広帯域伝送、運輸、再生可能エネルギーへの投資が促進役としてカギを握ることでしょう。包摂的な制度・機構は労働市場と経済がうまく機能し、公的資金が生産的に用いられるのを確保することになり、教育と訓練を受けた人々はプラスの変化の引き金となり、強靱性を後押しするエンジンを提供することでしょう。

 さらに強調されることは、若者が重要な役割を演じるであろうということです。現在の人口動態に基づくと、2050年までに世界の若者(15~24歳)の4人に1人が後発開発途上国で生まれるとみられます。若者は相当の資産、将来的な成長と繁栄に欠かせない資産となることでしょう。

 コロナ禍は仕事の未来に関する会話を変えつつあり、後発開発途上国においては特にそう言えます。長引く急激な低賃金未熟練労働に対する需要の低下に既に直面している後発開発途上国が抱える新たな課題は巨大ですが、楽観的になる根拠も存在します。革新性と起業家精神は市場の拡大を招き、エネルギー費用を引き下げ、幅広い経済部門で生産性を引き上げています。科学技術はまた、信用貸付利用機会、よりフォーマルな事業運営への移行、そしてより対象を絞り、調整を図り、透明な政策介入を円滑化する助けになり得ます。潜在的な可能性は既に存在しており、今は何が機能するかを特定し、より良い立て直しの道を見つけるべき時です。


 以上はILO雇用政策局による2020年12月11日付の英語ポッドキャスト「世界の後発開発途上国の仕事と生計手段に対する新型コロナウイルスの世界的大流行の影響」の抄訳です。