新刊発表

ILO新刊:デジタル経済の急成長によって要請される整合性ある政策対応

記者発表 | 2021/02/23
報告書の内容を1分半で紹介(英語・1分36秒)

 インターネットやスマホ・アプリなどを通じて仕事を仲介する場であるデジタル労働プラットフォームはこの10年に世界全体で5倍に成長しました。この成長は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を提供し、持続可能な企業のより着実な成長を育むために国際的な政策対話と規制協力が必要なことを強調しています。

 ILOからこの度発表された新刊書『World employment and social outlook 2021: The role of digital labour platforms in transforming the world of work(世界の雇用及び社会の見通し2021年版:変容する仕事の世界におけるデジタル労働プラットフォームの役割・英語)』は、世界中の多様な業種における85の事業体の代表と約1万2,000人の労働者を対象とした調査及びインタビューから見出された事項をまとめています。労働者がオンライン経由で作業を遠隔で遂行する「インターネット基盤型オンライン・プラットフォーム」と、タクシーの運転手や配達員など、特定の物理的な位置に所在する人によって作業が遂行される「活動地点基盤型プラットフォーム」という二つの主な種類のデジタル労働プラットフォームに焦点を当てている本書は、デジタル労働プラットフォームが女性や障害者、若者、伝統的な労働市場では縁辺に置かれている労働者などに新たな就労機会を提供しており、事業体にもまた、顧客基盤の拡大と共に多様な技能を備える柔軟で豊かな労働力にアクセスするのを許していることを示しています。

 一方で、新たな課題も提示しています。プラットフォーム労働者にとっての課題は、労働条件や仕事と収入の不規則性、社会的保護の機会や結社の自由、団体交渉権の欠如に関係しています。労働時間はしばしば長く、予測不能になり得、収入が時給2ドルを下回るのはオンライン・プラットフォーム労働者の半分に達し、加えて、プラットフォームによっては相当の男女賃金格差が見られます。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な大流行はこういった問題の多くをさらに露呈させました。

 事業体の場合は多くが不当競争やデータと価格設定に関する不透明性、高い手数料に関連した課題に直面しています。中小企業には加えて、金融の機会やデジタル基盤構造の利用における困難も存在します。

 デジタル労働プラットフォームによって形成された新たな機会は、かつては明確であった被用者と自営業者の区別をさらに曖昧にする方向に作用しています。労働条件は主にプラットフォームの業務契約条件によって規制されていますが、これはしばしば一方的に決定されています。仕事の割当や評価はますます人間に代わってコンピュータで計算されたアルゴリズムが担い、労働者の管理やモニタリングも行っています。

 プラットフォームは複数の法域を横断して運営されているため、ディーセント・ワークの機会が提供され、持続可能な事業体の成長が育まれるよう確保するためには政策の整合と調整が必要です。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、デジタル労働プラットフォームが世界中でとりわけ女性、若者、障害者、疎外されてきた集団などにかつては存在しなかった機会を開いていることは歓迎すべきとしつつも、「従業上の地位にかかわらず、働き手は誰もが就労に関わる自らの基本的な権利を行使できる必要があります」と強調し、労働者、使用者、政府がこの前進の利益を平等かつ完全に享受できるためにも、プラットフォームが提示する新たな課題にグローバルな社会対話を通じて対応できる可能性を説いています。

 デジタル・プラットフォームの費用と便益は世界中に分け隔てなく配分されているわけではありません。プラットフォーム投資の96%がアジア、北米、欧州に集中しており、収益の7割が米国と中国というわずか2国に集中しています。

 「インターネット基盤型オンライン・プラットフォーム」の仕事は北側諸国の事業体が外注し、先進国の労働者よりも収入が低い南側諸国の労働者が遂行しています。デジタル経済のこの不均衡な成長はデジタル格差を定着させ、不平等を拡大する危険があります。

 多くの政府、企業、そして労働組合を含む労働者代表がこういった問題の一部に取り組み始めていますが、対応はバラバラで、それが全ての当事者にとっての不確実性につながっています。

 デジタル労働プラットフォームは複数の法域を横断して運営されているため、規制の確実性と国際労働基準の適用を確保するには国際的な政策対話と調整が必要です。デジタル労働プラットフォーム、労働者、政府間の規制協力と地球規模の社会対話が要請され、これはやがて、以下のような多くの目的の確保に向けた、より効果的かつ整合的な取り組みに至る可能性があります。

  • 労働者の従業上の地位が各国の分類の仕組みに従って正しく分類されること
  • 労働者と事業体の双方にアルゴリズムの透明性と説明責任が確保されること
  • プラットフォームを利用する自営労働者が団体交渉権を享受できること
  • 必要な場合には政策及び法的枠組みの拡大及び適用を図ることによって、プラットフォーム労働者を含む全ての労働者に適切な社会保障給付に向けた道を開くこと
  • プラットフォーム労働者が選択した場合、活動地点の管区の裁判所を利用できること

 デジタル労働プラットフォームで活動する労働者と事業体の経験を捕捉しようとの初の大規模な試みの成果物である本書は、6章構成を取っており、第1章「産業と仕事の世界のデジタル化」で、デジタル労働プラットフォームに焦点を当てつつ、デジタル経済とデジタル・プラットフォームの全体的な隆盛の軌跡を追った後、第2章「デジタル労働プラットフォームのビジネスモデルと事業戦略」で、収益モデルや価格設定戦略、人材募集・斡旋活動,アルゴリズムによる作業過程の管理や労働者の評価、プラットフォームの統治ルールなどプラットフォーム・ビジネスモデルの主な要素と事業戦略を論じています。第3章「経済におけるデジタル労働プラットフォームの普及:事業体がそれを利用する理由と方法」では、様々な経済部門におけるデジタル労働プラットフォームの普及度合いを分析し、企業がデジタル労働プラットフォームを利用する理由とその方法を探ります。第4章「デジタル労働プラットフォームと仕事の再定義:労働者にとっての機会と課題」は、約1万2,000人の労働者から集めた証言をもとにデジタル労働プラットフォームを利用して働く人々の機会と課題を提示します。第5章「デジタル労働プラットフォームにおけるディーセント・ワークの確保」で、新たな課題に対処するためにプラットフォーム運営者や政府、社会的パートナーである労使が講じているイニシアチブや統治形態を紹介した上で、第6章「機会を捉える:前途への道」で、労働者のディーセント・ワーク、企業の公正競争を確保するために各国、国際、多国間機関レベルで求められるかもしれない政策を提案しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。