ILOブログ:メンタルヘルス

職場におけるメンタルヘルスについてオープンに話し合いましょう

 これほど多くの労働者が新型コロナウイルスの世界的大流行の精神的影響を受けている現状では、もはやメンタルヘルスの問題に触れることを禁忌とすることはできません。

マナル・アッジILO労働安全衛生上級専門官

 新型コロナウイルス(COVID-19)という言葉が私たちの語彙に加わる前からストレスや不安は職場の大きな問題でしたが、ウイルスの世界的大流行によって状況ははるかに悪くなりました。この数カ月間に経験した奥深い変化に直面して多くの労働者が無力感を抱いています。だからこそ、精神衛生(メンタルヘルス)について公然かつはっきりと話し合うことが大切なのです。

 新たな日常となったテレワークは、自宅における労働の中で孤立しているように感じたり、職業上の責任と家庭責任のやりくりに苦労したり、職業生活と私生活の境界が曖昧になるのを経験している労働者に新たなストレスをもたらしています。この現象はあまりにも突然で大規模なため、この新しい職場空間における充分な保護を提供するようなテレワークに関するルールは存在しません。

 保健医療従事者や救急隊員などだけでなく、必要不可欠な商品の生産、配達や運輸、人々の安全や保安の確保に関与する最前線の労働者らもコロナ禍のために多くのストレスを生む状況に直面しています。この数カ月、これらの労働者は職場で感染し、家族や友人にウイルスを移す不安を絶えず抱えながら、ほとんど休みなく、いつもよりも長時間の労働と作業量の増加に対処してきました。

 身体的な攻撃を受けた者も多く、例えば、店に小麦粉がなかったために顧客から棒で殴打されたパキスタンの雑貨店主の件は、耳にした心乱される複数の話の一つです。

 こういったこと全てが労働者のメンタルヘルスと安寧に深い影響を与えています。

 その上、多くが仕事を失う不安も抱えています。大規模な一時解雇が経済のあらゆる産業部門に広がっており、失業率が大恐慌時に次ぐ高さになっている現状では、誰もが将来に対する不確実感を抱えていても不思議ではありません。

 こういった信じられないほど高い不確実性に直面し、労働者は気分の変動、士気の低下、疲労、不安、うつ状態、燃え尽き状態を経験し、果てには自殺の考えを抱く場合さえあるかもしれません。胃腸の問題、食欲や体重の変動、皮膚の反応、疲労、心血管性の疾病、筋骨格障害、頭痛、その他の説明の付かない痛みや苦痛などの一連の身体的反応が生じる可能性もあります。また、対処形態の一つとして、たばこや酒類、薬物の摂取が増えることになるかもしれません。

 適切な評価と管理がなされない場合、こういった心理社会的リスクはうつ状態の引き金となるか、うつ状態を深めることになり、真のメンタルヘルス問題と化してしまう可能性があります。

 こういった危機と変化の時代において労働者の福祉を守るために、ILOは従業員、使用者、管理者向けの新たなガイドを発表しました。『Managing work-related psychosocial risks during the COVID-19 pandemic(新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行下における仕事に関連した心理社会的リスクの管理・英語)』と題するこの刊行物には、地域封鎖時と職場復帰時の両方の場合に職場で講じ得る10の行動分野が含まれ、職場のレイアウトや危険有害因子暴露箇所などの職場の物理環境を組織する方法、新型コロナウイルス関連の特定の状況下で作業量や仕事の割当を評価する方法、暴力及びハラスメントへの対処方法、強く効果的なリーダーシップが従業員にいかに好影響を与え得るかなどといった点に関する助言が示されています。また、労働者が自らの生命や健康が危険にさらされるとの不安から働くことを拒否した場合に不当解雇から身を守る方法についても記されています。

 コロナ禍を生き抜くのは困難です。このような状況に直面するのが初めての労働者も多く存在することでしょう。これに関するルールも経験も、頼るべきロールモデルもありません。だからこそ、このタブーを破るためにも職場におけるメンタルヘルスについての指針をまとめ、それについて語り合うことが決定的に重要なのです。

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 以上はマナル・アッジILO労働安全衛生上級専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年7月3日付の英文投稿記事の抄訳です。