労働力移動

ILO新刊:高所得国の多くで移民・自国民間の賃金格差が拡大

記者発表 | 2020/12/14
報告書の内容を動画で紹介(英語・1分9秒)

 12月18日の国際移住者デーを前に発表されたILOの新刊書は、平均時給で見た場合、データが得られる49カ国中の高所得国では移民労働者の時給は自国労働者の時給を13%近く下回ることを明らかにしています。国によってはこの格差はさらに大きく、例えばキプロスは42%、イタリアは30%、オーストリアは25%になっています。一方で、欧州連合(EU)は全体としては平均より低く約9%、フィンランドは11%となっています。この格差は過去5年間に複数の高所得国で拡大し、例えば、最新年で30%のイタリアは2015年に27%、2015年に25%であったポルトガルは最新年が29%、19%であったアイルランドは21%になっています。

 しかしながら、移民はどの国でも差別と排除の問題に直面しており、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行によって問題は悪化しているとILOの新刊書『The migrant pay gap: Understanding wage differences between migrants and nationals(移民の賃金格差:移民と自国民の賃金の違いを理解する・英語)』は指摘しています。

グラフ:新型コロナウイルス以前のデータで見た一部諸国の移民と移民以外の労働者との平均賃金格差
注:欧州連合の平均は各国の賃金労働者数の加重平均。各国から提供された調査データをもとにしたILOの推計。英語ページではデータを入手できます。

 報告書はさらに、高所得国における移民は27%が臨時契約、15%がパートタイム労働といったように不安定な労働形態にある傾向が高いことを示しています。就業部門としては、第一次産業(農林漁業)に不均衡に多く就業し、第二次産業(鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・水道、建設業)の仕事に就く割合も自国民より高くなっています。

 同じ職種で比べた場合でも移民労働者の収入は同じような資格の自国民よりも低くなっています。さらに、自らの教育や技能にそぐわない、より低技能でより低賃金の仕事に就く可能性が高いことは、採用段階での差別を指し示すものかもしれません。高所得国ではより高学歴の移民労働者が、より高い職種に到達する可能性も低くなっています。例えば、移民労働者に占める中等学校修了者が米国では78%、フィンランドでは98%に上るにもかかわらず、高技能職あるいは半高技能職に就いている移民労働者の割合は前者がわずか35%、後者が50%に過ぎません。これは技能と経験の国家間移転が困難な事実を反映しており、主に移民労働者の技能と資格を認定する仕組みが欠如していることに起因しています。

 低・中所得国では状況は逆で、移民労働者は通常、一時滞在の高技能海外駐在者で賃金は非移民労働者より高くなる傾向があり、時給ベースで見るとその差は約17.3%になっています。

 女性移民労働者は移民であることに加え、女性であるという点で二重の不利を抱えており、時給ベースで見た高所得国における移民労働者内の男女賃金格差は全体の格差である16%を上回る21%近くに達していると推定されます。これは一つには、移民家事労働者の相当部分を女性が占めることに起因しており、世界全体の移民家事労働者の73%に当たる845万人が女性移民労働者です。高所得国のケア労働者における移民労働者とそれ以外の労働者の賃金格差も約19%に達しています。

 差別対策が移民労働者に占める「働く貧困層」の割合をいかに低下させるかについてのシミュレーションによれば、高所得国では現行11.5%の「働く貧困層率」が差別対策によって5.9%に、低・中所得国では現行13.8%が12.2%に、欧州連合(EU)では15.0%が6.2%へと、高所得国ほど効果が大きいと見られます。

 コロナ禍が移民労働者の健康や経済に与えている影響はそれ以外の労働力人口に対するものを上回り、新型コロナウイルス危機に突入して以来、数千万人の移民労働者が職を失って帰国を余儀なくされています。移民労働者の仕事は非移民労働者の仕事に比べてテレワーク向きではない傾向があり、移民労働者の多くがウイルスにさらされる可能性が高い最前線で働いています。

 危機の全体像はまだ判明しませんが、移民労働者と自国民労働者の労働市場における差異を拡大し、賃金格差をさらに広げるかもしれないと報告書は指摘しています。

 本書はILO労働条件・平等局内の労働力移動部包摂的労働市場・労働関係・労働条件部と協力して完成させました。ミシェル・レイトン労働力移動部長は、移民労働者がしばしば、賃金、雇用・訓練の機会、労働条件、社会保障、労働組合の権利などの点で労働市場において不平等な待遇を受けていることを指摘した上で、多くの経済で基本的な役割を演じている移民労働者を「二流の市民」扱いすることはできないと説いています。

 5章構成の本書は、第1章で本書の背景や関連文献紹介を行った後、第2章で移民労働者と自国民労働者の労働市場における特性を示し、第3章で移民労働者と自国民労働者の賃金格差を測定・分析し、第4章で賃金格差の中で説明できる部分を取り上げ、第5章で結論を述べ、政策提案を行っています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。