ILOブログ:世界環境デー

新型コロナウイルスの世界的大流行の中に見える光明を捕らえよう

 諸国が封鎖制限の緩和に踏み切る中、今こそコロナ禍の中で起こった環境に対するプラスの影響を土台にすべき時ですと、ILOグリーン・ジョブ専門家は説いています。

ムスタファ・カマル・グイエILOグリーン・ジョブ計画調整官

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行という人間の悲劇は予期せぬ好結果をもたらしています。何カ月も産業が閉鎖され、町の通りから自動車が消えたため、地球全体で劇的な大気汚染と温室効果ガス排出量の減少が目撃されています。一方で、地球規模の食料体系の混乱は都市農業に新たな命を吹き込みました。バンコクやパリといった都会で都市封鎖措置は自宅で野菜や果樹の栽培を行う都市居住者の増加をもたらしています。現在、食料の9割以上を輸入に頼っているシンガポールは2030年までに栄養ニーズの3割を地元で生産することを目標に掲げ、地域社会や社会的企業に都市農業に従事することを奨励しています。

 アフリカでも複数の国でウイルスとの戦いの一環として、社会的起業家や大学、個人が環境に優しく費用効果の高い製品を開発しています。例えば、大工や溶接工の生成したリサイクル資材や中古資材を用いて非接触型の手洗い設備の見本品が生産されています。加えて、コロナ禍の中で電子商取引や宅配事業が劇的に成長しているため、包装会社が環境面から見て持続可能な包装に向けた調査研究を始めています。

 欧州屈指の公害都市であり、ウイルスによる打撃が特に深刻なイタリア北部のミラノ市は新型コロナウイルスによる制限が解除された際に住民を守るため、通り35キロを都市全域にわたる実験的な自転車道及び歩道網に化すことを計画しています。

 コロナ禍はまた、多くの企業に将来的なショックから身を守るため、環境リスクや災害リスクの管理を事業計画に組み込み、持続可能なサプライチェーン(供給網)に投資することを推進しています。

 しかしながら、世界中で封鎖措置が緩和され、諸国がいつも通りのやり方に戻ろうとする中で、既に汚染水準や温室効果ガス排出量が上昇してきています。つまり、コロナ禍は短期間で環境に対して劇的なプラスの変化をもたらし得る可能性を示したと同時に、この地球が従来の破壊路線にいかに容易に立ち戻るかも示したのです。

広報動画-新型コロナウイルスからの環境に優しい回復(1分3秒・英語)

 ウイルスの世界的大流行以前のILOの研究は、地球温暖化のパターンが変わらないとすれば、2030年までに熱ストレスによってフルタイム労働者換算で8,000万人分に相当する労働生産性の低下が見られると予測していました。加えて、気候変動を原因とする自然環境の変化は、水系や肥沃な土壌、森林規制など、生態系とつながっている推定12億の雇用(世界の労働力の4割に相当)とこういった人々の提供するサービスにマイナスの影響を与える可能性が高いと思われます。

 以上の理由から政府、産業界、労働組合、市民社会の指導者らは、いつも通りのやり方に戻るのではない新型コロナウイルス後の回復を求めているのです。私たちに必要なのはむしろ、将来のショックに対してより強靱で、人の健康、生態系、そして最終的に雇用や収入に対する害が少なく、より持続可能な経済と社会を再建できるよう、総合的で一貫性のある対応です。政府及び労使団体には、社会対話を通じて雇用創出、強靱な企業と職場、そして環境の持続可能性を促進するような持続可能な回復に対する幅広い支持と力強い合意を形成する重要な機会が開けているのです。環境に優しい循環型のグリーン経済における革新的な取り組み、そしてこの危機の間に目撃された企業及び職場慣行、公共政策、消費姿勢における肯定的な変化は新型コロナウイルス後の持続可能な回復が不可能な任務ではないことを示しました。

 ILOを含む包摂的なグリーン経済に向けたパートナーは、2020年6月5日の世界環境デーに際し、人の健康と環境の健康の相互依存性を認め、生物多様性の消失、不平等の拡大、気候変動といった、地平線上に現れているより奥深いリスクに対する強靱性の構築を目指した回復努力を呼びかけ、迅速かつ公正で環境に優しい回復を導く10の政策選択肢を示す共同声明を発表しました。

* * *

 以上はムスタファ・カマル・グイエILOグリーン・ジョブ計画調整官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年6月5日付の英文投稿記事の抄訳です。