ILOブログ:新型コロナウイルス

新型コロナウイルス(COVID-19)の時代に途上国で社会的保護の財源を確保する方法

 危機の時でもそれ以後でも途上国が全ての市民のための社会的保護の財源を確保することは可能であるとジャヤティ・ゴーシュ開発経済学者は説いています。

ジャヤティ・ゴーシュ開発経済学者

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行とその封じ込め措置の経済に対する大いなる悪影響によって世界は今や未曾有の危機に直面しています。ウイルスの大流行は、伝統的に受益者と見なされていた人だけでなく、社会の全ての構成員を守る公衆衛生と社会的保護制度に対する支出の重要性というこの数十年来、世界の政策策定者がほとんど忘れていたことに光を当てることになりました。コロナ禍はどこかで誰かが感染症にかかれば、どこの誰でも感染するリスクがあるという基本的な真実を露わにしました。保健医療を全ての人に広げることは思いやりの問題ではなく、全ての人が生き残るための措置なのです。保健医療に対する政府支出を減らす政策には本質的な欠陥があり、社会や経済の脆弱性を大いに高めることになります。

 新型コロナウイルスは偉大なる平等主義者などではなく、むしろ世界中で国内及び国家間の不平等を急激に拡大しました。地域封鎖や移動制限などの封じ込め措置の影響もまた不平等です。法的保護や社会的保護を欠いている非公式(インフォーマル)経済で働く人々は最も大きな悪影響を受ける傾向があります。強いられた強制は供給にも影響を与えるため、貧困層と考えられていない人々の間にも食料価格の上昇や食料安全保障に対するショックに関する懸念が見られます。

 様々な方面に対する十分な社会的保護の必要性はかつてないほど顕著で急務となっています。しかし、この公共財源に対する大規模な需要は、ほとんどの途上国が輸出と観光収入の急減と資本流出の悲惨な組み合わせに直面している正にその時にやってきました。大半の先進国は大規模な包括的刺激策の財政措置を発動させていますが、これは途上国にはずっと困難です。

 国際収支に対する外的制約と資本逃避の恐れから途上国の政策余地は縮小しています。途上国で即時に必要とされる保健支出の増加分は1,600億ドルから5,000億ドルの間であると予測されている一方で、必要な財源は2.5兆ドル台であると見積もられます。どうすればこれを達成できるでしょうか。

 先進国の包括的財政措置のほとんどが相当額の公債の貨幣化(国家の中央銀行からの借入)を必要としています。途上国でもこれは可能です。国内的には富裕税を通じて税収を上げることができます。ほとんどの国で最も富裕な人口層わずか0.1%にたとえ3%の低税率を課しただけでも相当の収入を生むことができます。多国籍企業への単一課税の提案を実行しても相当額の収入が生まれるでしょう。

 外貨に関して途上国に与えられた柔軟性はずっと小さいため、迅速な歳入増を可能にする即時の変更を通じて国際社会が参入する必要があります。このような新しい融資は補償融資の性格を持ち、政策への条件付け(これは過去においてせいぜい成否混交の結果を生んでいるだけであり、世界規模の景気後退や健康に対する危険要素が存在する時には固執してはいけません)を避けなくてはなりません。

 既存の金融手段の中で即時に適用可能な措置は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDRs)の大量新規発行であると見られます。これは貸付ではなく、IMFが5大主要通貨の加重バスケットとして設けた各国の公式外貨準備高を補足する準備資産であって追加費用なく流動性を追加するものです。

 必要な二つ目の措置は、元本と利子を合わせた全ての債務返済の1年間、あるいは疾病の拡大と地域封鎖の影響の両方に対処しようとする各国の包括的債務再構築措置がうまくいくまでのいずれかの時までの据え置きです。途上国が返済する予定になっている対外債務が今年度は1.6兆ドル、2021年にはさらに1.1兆ドルに上る中、これは必須であると思われます。

 これら全てが現在明らかなものよりもより大きな国際的な連帯を必要とします。しかし、私たちが無視することのできない(そして気候変動への対処に際しては一層重要になる)コロナ禍の一つのメッセージがあるとすれば、それはそのような連帯の不在は全ての国の人々に悪影響を与えるということです。存在している未曾有の脅威には前代未聞のそして地球規模の調整を図った対応が求められているのです。

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 以上は開発経済学者のジャヤティ・ゴーシュ教授によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年5月13日付の英文投稿記事の抄訳です。