ILOブログ:新型コロナウイルス

新型コロナウイルスが示す多国間主義がかつてないほどに求められている理由

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は持続可能な開発に対する多国間主義による取り組みの重要性を改めて強調すると共に様々な国民経済が相互に接続しているという現実を確認させることになりました。

マリア=エレナ・アンドレILO労働者活動局長

 危機は性質上、制度の新たな欠陥を露呈させたり、既存の欠陥を広げるものですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な大流行も例外ではありません。ウイルスが根を降ろした幾つかの国は国内に解決策を求めていますが、これは単に一部の集団が国内の政治機会を私利として利用しようともくろんでいる結果ではなく、多国間システムに対する一般的な不満が政策目標の前進に最適なのは集団的な努力よりもむしろ一国だけの行動であるとの思想に一定の役割を演じたことを私たちは認めなくてはなりません。

 新型コロナウイルスの場合、これはとりわけ皮肉な傾向です。なぜならウイルスはその性質上、国境を知らず、国の主権を認めないからです。ですが、これは個々の国の社会・経済制度に内在する弱点とその対応力を明確にするにはきわめて効果的です。これはまた、個々の多国間機関、そして圧力を受けた時に団結し、一体的に業務を提供する多国間システムの集団的な力に対する挑戦でもあります。

 新型コロナウイルスはILOのような国際機関がなぜ作られたかを私たちに思い起こさせるべきであり、またそうすることができるものです。この状況におけるILOの特別の妥当性は、創立から100年目の2019年に合意された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」に掲げられている諸原則から明らかです。宣言の前文には次のように記されています。「世界各地に見られるなかなか解消されない貧困、不平等と不正義、紛争、災害その他の人道的緊急事態は、その前進に対する脅威、そして繁栄の分かち合いとディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を全ての人に確保する上での脅威となる」。

 宣言は政策の整合性を強めるため、多国間システム内におけるより良い協力と関与を求めています。そして、所得不平等への取り組み、貧困撲滅、そして紛争、災害その他の形態の人道的緊急事態を経験している場所に特別の注意を払うことを含み、持続可能な開発にはディーセント・ワークが不可欠であることを再確認しています。重要なこととして、宣言はまた、グローバル化の下では、「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、かつてないほど一層、他の全ての国の進歩の障害となる」ことを思い起こさせています。新型コロナウイルスは孤立主義が無益であるとの教訓を改めて明確に強調しています。

 より広い視野に立ってみると、ウイルスはまた国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその持続可能な開発目標(SDGs)の政治的及び実利的な絶対的責務を再活性化することにもなりました。人々とこの地球のための歩みを早めるには全てのSDGsが重要であることが確認されましたが、一部の人にとりわけ重大なものとして、保健医療の質と全ての人の機会に向けた投資を含む健康と福祉を掲げる目標3、きれいな水とトイレを全ての人に確保することを目指す目標6、再訓練や再技能形成、生涯学習などを含み、適切な基盤構造を伴った質の高い包摂的な公教育を目指す目標4、就労に係わる権利や適切な労働衛生措置、強固で包摂的な社会対話と社会的保護制度、人並みの暮らしができる賃金などを含むディーセント・ワークと持続可能な経済成長を目指す目標8を挙げることができます。

 コロナ禍は持続可能な開発に向けた多国間の取り組みの重要性、そして社会面、経済面、環境面の優先事項を組み合わせることの重要性を改めて強調することになりました。これはまた、ニッチな政治イデオロギーが認めることを選択しようとしまいと関係なく、様々な国民経済の相互接続性の現実、そして調整が図られていない国家の行動はウイルスの影響の極小化あるいはその完全な根絶には効果的にならないであろうとの現実を確認させることにもなりました。

 この危機の最も直接的で深刻な要素は間もなく終わるかもしれませんが、人々、経済、そして地球に対するその影響は長く留まることでしょう。解決策を提供できる能力構造に対する最も脆弱な人々を中心とした市民の信頼回復を含み、経済・社会制度の戦略的な再建が必要になるでしょう。つまり、「より良い立て直し」が求められています。しかしながら、これは誰も置き去りにしない連帯と社会正義の諸原則を基盤とした多国間主義を通じて初めて可能になると言えるでしょう。

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 以上はILO労働者活動局のマリア=エレナ・アンドレ局長によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年5月8日付の英文投稿記事の抄訳です。