ILO/日本プロジェクト

新型コロナウイルスの大流行の中での命と暮らしのためのきれいな水

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は感染防止のためのきれいな水の必要性を増大させましたが、僻地の脆弱な共同体における必要物資の入手をより困難にしました。日本政府の任意資金協力を得てフィリピンで進められているILOのプロジェクトは、より良い給水システムを構築しつつ、地元に雇用を提供し、安全で健康的な労働条件を促進しています。

新型コロナウイルスの時代のフィリピンにおける安全な水へのアクセス(1分45秒・英語)

 つい2、3カ月前までアネリー・サラザールさん(41歳)は学校でライスケーキを売り、洗濯屋を営んで家計を助けていました。夫のアントニオさん(46歳)はココナツを栽培すると同時に二輪タクシーの運転手として学齢期の3人の子どもを養っていました。4ドル(約400円)で購入する1ガロン(約4.5リットル)の蒸留水を補うために、アネリーさんは毎日、1キロ離れたところにある最寄りのきれいな水の水源まで徒歩で水を汲みに行っていました。

 「子どもの学校には水が供給されていますが、共同体全体にとっては必ずしも十分ではないので雨水を集めています。汚れた表面を流れて来た水を飲むのは安全ではありませんし、長く雨が続くと容器も濁り、よどんできますが、他に選択肢はありませんから」と語るアネリーさんは、バケツの水を飲んだ子どもが発熱し、下痢を起こしたことがあると付け加えます。

 これは新型コロナウイルス(COVID-19)が地域で流行し始める前の話です。

 「今の暮らしはもっと困難です。私たち夫婦は新型コロナウイルスのせいで収入を失い、今はかろうじて生き抜いています。マスクや手指の消毒剤はおろか、手洗いや飲用にきれいな水を買うお金もありません」とアネリーさんは言います。

アネリー・サラザールさん

 新型コロナウイルスはサラザール一家が住むようなバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)内の共同体における課題と不平等を露わにしました。長い年月にわたる武力紛争で荒廃したこの地域に住む多くの貧しい世帯が保護されていない汚れた給水源に頼っており、その結果、水を媒介とする疾病に対して弱い状態になっています。フィリピン統計機関によれば、2019年でも地域に住む世帯の4分の1がきれいな水を得られない状態にあったとされます。

 2019年にILOは日本政府の支援を受け、地元南ウピ自治体、TCESのPTA、労働・雇用省と協力し、上下水道・衛生サービスを改善しつつ、同時に人間らしく働きがいのある仕事を促進するプロジェクトを開始しました。先住民や女性、若者、障害者などの脆弱な人々と元戦闘員を活動に従事させるこのプロジェクトの受益者は、地元世帯約1万2,000戸に及ぶことが期待されています。

 サラザール夫妻も子どもの学校に設置される水道施設の新築工事に採用されました。夫妻の家を含む近隣共同体が新しい設備の受益者になる予定です。しかし、新型コロナウイルスの流行が始まり、タンクの建造工事は着工前に中止になりました。「私たちは3週間の検疫期間に入り、特別の許可証を持つ人しか外出できませんでした。店舗は全て閉じられ、工事を続けるための建設資材も購入できませんでした」と、TCESのPTAのアルトゥーロ・マグハノイ会長は報告します。

ILO/日本・ミンダナオにおける和平の確立のための水道設備管理能力向上計画プロジェクト現場

 リスク評価を経た今日、半数の労働者が職場に復帰し、水道施設工事が再開されました。ILOの「新型コロナウイルスの世界的大流行の中での安全で健康的な職場復帰指針」に従い、物理的な距離が確保され、労働安全衛生の手順が守られています。

 サラザール夫妻も建設現場での仕事に復帰しました。学校が再開する10月には子どもたちが手洗いや飲用に利用できる水道が完成することをアネリーさんは願っています。オンライン授業の選択肢がないサラザール家の子どもたちを含む1,400人の生徒が10月から学校に戻ることになっています。「我が家はインターネットに接続していませんし、私も子どもたちもコンピュータの使い方さえ分かりません。建設プロジェクトで稼いだお金は食卓に家族のための食物を載せる助けになるでしょう」とアネリーさんは語っています。

 ILOの貢献が適切な給水、下水、衛生設備を通じた生活状態の改善と雇用創出に伴う貧困削減をもたらしつつ、紛争後の地域で平和を促進する助けになることをILOフィリピン国別事務所のカリド・ハッサン所長は期待しています。


 以上はILOアジア太平洋総局による2020年9月1日付のマギンダナオ(フィリピン)発英文広報記事の抄訳です。