ILO COOP 100インタビュー企画「耕す、コープを。」第2回 労働者協同組合(ワーカーズコープ)玉木信博さん

ニュース記事 | 2020/08/03
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2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。

ILO駐日事務所インターンブログで、長いバージョンをご覧いただけます。 前半 後半
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玉木信博(たまき のぶひろ)さん

大学在学中から環境保護に関わる市民活動やNGO等の活動後、2006年4月、日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団へ入団。高齢者施設、コミュニティセンターや児童館、学童保育所、若者支援の事業や生活保護受給者や生活困窮者支援等のプロジェクト等に関わる。2014年9月より本部、日本社会連帯機構事務局長を務め、2019年、日本労働者協同組合連合会センター事業団常務理事、 日本労働者協同組合連合会理事に着任。2015年4月、長野県上伊那郡中川村へ移住。現在、労働者協同組合における農・地域づくり・福祉の連携を模索し、一般社団法人ソーシャルファームなかがわを地域の仲間と共に設立(2019年9月設立)し、同法人事務局長兼専務理事も務める。

 

「労働者協同組合」、ワーカーズコープとは?

●    ワーカーズコープとは、どんな組織なのでしょう?
 
ワーカーズコープは、働く人びとや市民がみんなで出資し、経営にみんなで参加し民主的に事業を運営し、責任を分かち合って、人と地域に役立つ仕事を自分たちでつくる協同組合です。
農協であれば、正組合員は農業者に限定されるし、生協であれば購買する人たちが組合員に、という風になりますけど、基本的にワーカーズコープはそういうジャンルがないんですよね。ただ、どんな仕事でもいいというわけではなく、今回提出された労働者協同組合(ワーカーズコープ)の法律(労働者協同組合法案)では、地域に必要な、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することと書かれています。地域との関係性をなくしては事業所がそもそも成立しません。

ワーカーズコープ連合会の組織図 参照:労働者協同組合HP

4足のわらじで、全国組織から地域の一般社団法人まで

●    今はどのようなお仕事をされているのですか?
 
これがなかなか難しいのですが(笑)他の協同組合と同じように全国連合会としてのワーカーズコープ連合会というものがあり、私は理事をしています。私自身の仕事は、これとは別にもう2つの仕事があります。

ワーカーズコープセンター事業団は、連合会に加盟しながら、福祉(子育て・高齢者支援、生活に困っている人々の支援)や、建物の設備管理・清掃などの事業を全国で展開しています。その中で、常務理事として事業経営や運動的活動を含む組織全体の方向性を考える部署で働いています。

ワーカーズコープでは、常に経営のことも大きなテーマです。地域に必要で役には立つけれどもすぐには事業にならないような、「つながり」をベースにした活動をする日本社会連帯機構という団体を、ワーカーズコープセンター事業団が中心になって、15年前に立ち上げました。私は今、その団体の事務局長をしています。

上記の他に、昨年から一般社団法人ソーシャルファームなかがわという、今住んでいる長野県の小さな村で、仕事をつくっていくワーカーズコープ的な存在・場所をつくっています。

●    事業のカバー範囲がとても広い印象ですが、ワーカーズコープはもともと今のような事業をされていたのですか?
 
戦後~90年代まで、国が失業者に対して仕事を出すという失業対策事業があったのですが、高度経済成長後に役割を終えて制度をなくしました。制度がなくなることで、失業者が生まれる中、人にただただ雇われて仕事をするのではなく自分たちでお金を出し合って、事業経営もしていこうとしたのが、ワーカーズコープの始まりです。ですので、はじめは、失業対策事業の時にあった、道路や建物の掃除や公園の緑化事業などがメインでしたが、15年前からは、福祉的な仕事に広がっていきました。
 


労働者協同組合の法律ができる「前」とできた「後」

●    一般社団法人という言葉が出ましたが、労働者協同組合(ワーカーズコープ)と一般社団法人は組織のあり方として両立するということですか?
 
いや、両立しないんですよね。組織の設立目的自体が違うということもあるし、働く1人ひとりの出資する権利が一般社団法人にある訳ではないので、完全には一致しないんです。また、NPO法人では出資が許されていないので、組合員として参加時に出資をして、退会時に出資金が返還されるという仕組みはNPO法人ではつくれないんです。そういう意味では、一致しないからこそ、新しい法律をつくっているんですよね。今はワーカーズコープの法律がないので、一般社団法人やNPO法人など色々な形態を取りながら、運営方法としてワーカーズコープの要素を取り入れながら活動をしています。労働者協同組合の法律が出来たら、転換をするという形です。
 


●    労働者協同組合の法律ができたら、どのような変化がありますか?
 
この日本初の労働者協同組合の法律ができれば、ワーカーズコープだけでなく、日本で協同組合を自分たちでつくることが社会に広まるキッカケになると思っています。株式会社やNPO、一般社団はつくれると思うんですが、協同組合はつくるというイメージがない現状の中、今回の法案では3人以上いれば協同組合が設立できることになっています。

ヨーロッパでは、コミュニティ協同組合であったり、社会的協同組合やだったり、同じ思いを持った人たちが集まって、何か問題を解決するためにつくる組織という認識なんです。フランスのワーカーズコープとかはITベンチャーのようなものが多いと聞いていますし、ドイツでは再生可能エネルギーの協同組合があったり。イタリアでは80~90年代に精神病院が廃止されて、その受け皿は地域だということで、社会的協同組合というものをつくって働く場とケアの機能を果たしています。
 
日本でも、ようやくここに来て、色々な協同組合の人たちや労働団体も含めて色々な応援や支援もあったり、国会でも法律を作ろうとする機運が高まってきている状態です。色々な人たちが多様なワーカーズコープをつくることが非常に進む可能性があり、とても楽しみですね。


 

ケアと一次産業が、気候変動への取組の鍵

●    玉木さんは多様な組織や分野に関わっていらっしゃいますよね。その中でも、特に注力しているお仕事は何ですか。
 
私の中で1番大事にしていることは「ワーカーズコープの中でのケアってなんだろうか」というテーマですね。これまでは、「支援するーされる」の関係性を前提とした福祉の考えが多いと思いますが、今は、「対等な関係の中に自分たちワーカーズコープのケアがある」ことが現場のメンバーの間では一般的な認識になっています。海外から視察が来ることもあるのですが、千葉県松戸にある高齢者介護の事業所では、障害のある組合員もヘルパーとして働いてるんです。一面ではケアされる人たちが認知症の人たちのケアをする役割をもっていたりだとか、アルコール依存症の人たちが本部で働いていたりとか、発達障害の人たちも働いているし、多様な人たちがともに働いているという状況になってると思います。

もう1つは、気候変動の問題に対してワーカーズコープは一体何ができるのかということです。僕らはずっと地域に必要な仕事や、持続可能で循環的な地域社会を考えてはきたけれども、気候変動の問題を放置しておくと、そういう次元ではなくなりますよね。そのような状況の中で、ワーカーズコープにおけるケア(福祉)と一次産業の部分がこれから気候変動に対して非常に大きな役割を果たすんじゃないかと思っています。具体的な取り組みの1つとして、現在はBDFという天ぷら油を回収してバイオディーゼル(燃料)につくり直すということも、全国3カ所でやっています。
 

震災時、被災者自身による仕事づくりを一緒に

●    今回の新型コロナウイルス感染拡大や阪神淡路大震災、東日本大震災などの緊急時に、どのように連携・協力してきた/していくのでしょうか?
 
阪神淡路大震災の時は、災害支援ボラティア等でワーカーズコープからも現場に入ったと聞いています。あの時は建物の倒壊が多かったので、建設労協というのを現地で立ち上げて支援に入ったそうです。2011年の東日本大震災は、本部の一部を東北に移管するという形をとりました。その当時、私は北関東地域を担当していて、月に一回北関東のメンバーと一緒に炊き出しにも行っていました。ワーカーズコープとしては、東北復興本部と、以前からあった東北事業本部と一緒に、「被災者自身による」仕事づくりというのを今日まで続けてきています。目に見えるインフラは良くなっていくけど、気持ちの傷は生涯癒えないかもしれないという中で、20~30代のメンバーが試行錯誤して、事業所を被災当事者と一緒に立ち上げました。被災地でも支援する-されるの関係ではなく、「自分たちで」という意識が強かったと思います。
 
 
●    コロナウイルスと今までの震災とでは質が違ったりするのでしょうか?
 
だいぶ違うかもしれないですね。これまでの自然災害は被災していない別の地域がサポートできましたが、今回は世界的に失業や貧困が深刻になってくると思います。おそらくワーカーズコープが単一できることは少なくて、農協、生協、森林組合、漁協、金融の組合やNPOとも一緒になって取り組んでいく必要があると思います。

さらに、長期のことを考えると、暮らし方とか働き方そのものが大きく変わっていくんだと思うんですよね。今回のコロナ禍では都市一極集中や一次産業の大切にされない社会の脆弱性が見えたため、今後、社会をつくる上で地域の中で小さな深い関係性を色々つくっていくことが重要になると思うんです。そう考えると、ワーカーズのような組織が色々な人たちと連携してやっていくべきことは、中長期的に見ても大きいと思っています。
 

ワーカーズとの出会い=社会に対する印象を共有できる人との出会い

●    ここからは玉木さんご自身のキャリアをお聞きしたいと思います。なぜ、ワーカーズコープで働こうと思われたのですか?
 
学生のときから好きだった農業をしようと思って移住先を探していたのですが、東京で生まれ育ったのに、「東京が嫌だから自然の中で生きていきたい」っていうのもどうなのかなと思い、東京で地域に役立てるような仕事を探すことにしました。その時に、ちょうど地域のコミュニティセンターをワーカーズが委託を受けて運営しますという新聞求人が出ていて、話を聞きにいきました。もともと協同組合は知っていたんですが、働く人の協同組合(ワーカーズコープ)は知りませんでした。当時は働く前にお金を出資をするって考えらませんでしたが、ワーカーズコープの説明会では、組織の歴史から現状から丁寧に説明は受け、最後に「うちはこういう組織だけれども、いいですか?」って逆に問われたのも印象的でしたね。
 

●    「ワーカーズコープにしよう!」と思った決め手は何でしたか?
 
面接してくださった人たちがみんな魅力的な人たちで、世間話とかも含めて面白かったんですよ。もちろん、組織のミッションとかも大事なんですけど、日常的に考えていることを共有してくれる仲間がいるってすごく大事だと思っていて。入った後もこの共感の部分は続いていますね。大変なこととか、いっぱいありますけど、結局そういうところ(社会に対しての思い)でつながっていますね。ワーカーズコープは1つの業種じゃないので、事業も働く人たちの経歴も本当に多種多様なので、それが1番の魅力なんだと思います。



ワーカーズは、衝突も含めて人と向き合う力を鍛えてくれる「民主主義の学校」

●    多様性があるからこそ、何かを決めたり実行するのが難しい部分もあるのではないですか?
 
僕はそういうこと自体が面白さだと思っています。自分が全然出来ないことや考えもしないことを他の人は出来たりするということを認識するのは、とても大事かなと。その前提のもと、日常的に対話のトレーニングを通して、衝突も含めた向き合う力をお互いにつけていかないと社会的な包摂って程遠いような気がするんですよね。ワーカーズコープは、日常の中で、自分自身の民主主義のトレーニングが出来るところだと思っています。今僕が住んでいる中川村の前村長さんは「ワーカーズコープは民主主義の学校かもしれない」と言ってくれて、とても嬉しかったです。
 



●    ワーカーズコープで民主主義のトレーニングをやってこられて、いかがですか?
 
いやぁ、疲れますよね(笑)みんなとよく言っているんですが、終わりがないんですよね。「こうしたら成功だ」というものがワーカーズの中ではなくって。今やっていることとか、向き合っていること自体に価値があるって思った方がいいのかなと思います。そのような意味では、一次産業はぴったりなのかもしれないですよね。林業で関わっている若い仲間と話しても、自分が切った木は80年前に植えられていたり、自分が植えた木がもしかしたら300年後に切られるかもしれないっていう感じなんですよね。
 
 
 

2030年・・・地域の中でFEC(Food, Energy, Care)の自給圏づくりへ

●    玉木さんが描く2030年のビジョンはどのようなものですか?
 
ワーカーズコープ連合会としては気候危機に対応するために、まさに今、コロナ後の社会の中長期的なプランをグリーン・エコノミーといわれる分野に重きを置きながら作っています。グリーンニューディールといっても、地域の中でFEC(Food、Energy、Care)の自給圏づくりを進めていくイメージです。この10年ぐらい取り組んできましたが、コロナ以降はさらに重点を置き、組織整備も重要になってくると思います。今までは、全国の本部(東京)と事業所で役割を決めて運営してきましたが、これからは、もっと事業所に判断を委ねていくことが必要になってくると思います。事業所ベースで全国をネットワークでつないでいくような、ダイナミックな組織づくりができたらいいなと思います。
 

●    玉木さんご自身のビジョンはありますか?
 
僕自身は、ソーシャルファームというだれもが働ける場をつくりたくって10名程の仲間で立ち上げました。地域にあるもので、社会に役立つものをつくり、持続可能な産業にしていくことが一般社団法人ソーシャルファームなかがわの一つの大きな目標ですかね。もともと薬用養命酒が中川村で生まれたっていうのもあって、昨年から近隣の会社とか農家とか、信州大学の研究者とかと一緒に薬草・薬木栽培研究を始めています。それを、地域の障害のある人たちが生産/加工/販売したりする仕事にならないかなって考えています。さらに、高齢化と過疎化の中で、地域で空き家の管理をしていく仕事も重要になるかなと思っています。そういう地域の資源を地域の高齢者や障がい者が仕事として担っていく仕組みと関係性を3年ぐらいかけてつくっていきたいですね。
 

何もかも個人でやらなくて良い・・・色々な共同体に関わる中の一選択肢としての協同組合

●    若い人たちに協同組合を広げるにはどうしたらいいでしょうか?
 
私の年代も含めて若い人たちは色々な活動も個人ベースで進んでいて、それがすごくもったいないと思います。人と何かをやるってことが辛いとか面倒臭いかもしれませんが、何もかも個人でやらなくていいんですよね。家直して貰うんだったら例えば友達の大工とかにやってもらうし。協同組合を1つつくって、家そのもの自体を共有する、借りたいという人がいたら斡旋するという形でもいいと思いますし。もっと協同組合的に、1人が1つのワーカーズで働くっていうことだけではなく、自分の仕事も持ちながらもワーカーズコープを作ったりとか、地元で生協を作ったりとか、そういう風に色んなチャンネルを自分で持ちながら暮らしていくっていうことは一つの選択肢としてあるのかなと。もっと1人が色んな仕事とか役割とか、転職をすることも含めて、もうちょっと生き方は自由であっても良いっていう社会の風潮になったらいいですよね。
 


●    最後に、協同組合を一言で表すと?
 
この機会に初めて考えましたが、「人間らしい組織」だと思います。株式会社にも良い企業もたくさんあると思いますが、やはり仕組みとしては資本が中心にあると思います。人間らしく働いたり生きたりすることを大事にする人間中心の組織は協同組合かなと思います。
人間らしさも時代と共に色んな変化があって、終わりが無いというか、ずっと考え続けるものだと思います。協同組合が出来た100年前の人間らしさと今とでは、良くなっている部分もあるだろうし、失った部分もあるだろうし。そういう意味ではこれから、またその人間らしさは変化するけれど、協同組合に関わっている人たちはずっと考え続けるんでしょうね。
1回決めて、進むんですけど、間違えたら見直すってぐらいが人間らしいかなと。一生懸命前に進むことも良いなと思うんですけど、途中で間違えるじゃないですか。その間違いを間違いとして認めてまた方向転換をしようというのが、協同組合であり、人間らしい組織だと思います。