アジアのサプライチェーンで一段と高まる建設的な労使関係の重要性(2020年1月28日開催セミナー報告)

国際労働機関(ILO)と全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)は、アジアのサプライチェーンで建設的な労使関係を促進するためのセミナーを開催

News | 28 January 2020
サプライチェーンにおける建設的な労使関係構築の重要性と、海外事業体における労使紛争発生事例とその対処方法を取り上げるセミナーが開催され、労働組合からの出席者を中心とする参加者が耳を傾けました。約150名の参加者を前に、ILOと金属労協(JCM)からの登壇者がILOの役割と歴史や、サプライチェーン上で企業に期待される役割、労使紛争の迅速な解決に向けた知見を紹介しました。
【写真1.髙倉明議長(金属労協)による主催者挨拶の模様)】

冒頭の発表では、ILOアジア太平洋地域総局労働者教育専門家のアン・ポンスル氏から、三者構成主義と社会対話が第一次および第二次世界大戦後の平和と復興や民主化のみならず、社会的・経済的危機の中でも社会正義を推進する上で、歴史的に重要な役割を担ってきたことが説明されました。同氏は1919年の創設から始まるILOの歴史をひも解きながら、ILOが国際労働基準(条約、勧告、議定書、宣言)を設定しながら、その時々の世界的な課題に対処してきたことを強調しました。この100年間、ILOの中核的条約や宣言は次第に拡充され、2019年の仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言に至りました。同宣言は、ILOが世界中で一貫して三者間での対話を通じた紛争の予防と解決を促進してきたことを示しています。
【写真2.アン・ポンスル氏(ILO)】

また、アン氏の発表では、ILO多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)(2017年改定)が、サプライチェーンにおける企業の社会的責任(CSR)と建設的な労使関係の構築に向けて、多国籍企業と政労使のそれぞれが果たす役割を規定していることが示されました。さらに、あらゆるステークホルダーが参加する調停プロセスを経て解決に導いた、インドネシアでの労使紛争の事例等、アジアでのこれまでの経験が紹介されました。

続いて、郷野晶子ILO労働者側理事(連合参与、インダストリオール・グローバルユニオン日本加盟組織協議会事務局長)がILOと日本の労働組合との関わりについて講演しました。同理事は、必ずしもすべての国で労働者を守るための国内法が整備されているわけではないとして、アジアにおいて結社の自由等、労働者の権利が深刻に侵害されている事例を指摘しながら、ILOがこれらの権利擁護に果たしている役割を説明し、また、企業にはグローバル・サプライチェーンにおいて国際労働基準を順守する責任があることを強調しました。また、労使紛争とILOの関わり方に触れながら、日系企業への影響の一つとして、結社の自由委員会で労使紛争が取り上げられると企業ブランドに傷がつくため、企業がCSR活動を推進する一つの要因になっていると指摘しました。さらにILOの役割を説明した上で、100周年記念宣言と最新のILO条約である暴力とハラスメント条約(第190号)を紹介し、労働者をハラスメントから守るために、日本でも同条約の早期の批准が必要であると訴えました。
【写真3.郷野晶子氏(ILO労働者側理事)】

金属労協国際局部長の岩井伸哉氏は、海外日系企業における労使紛争の調査の結果を報告しました。同氏は、労使紛争発生の際には、1)事業展開地域にかかわらず国際労働基準を意識すること、2)問題が大きくなる前に問題を把握して対処すること、3)基本的には現地労使での対話による解決を目指すこと、4)現地労使で解決できない場合は現地労組の上部団体と連携あるいは日本の労働組合を通じた日本本社への働き掛けによる紛争解決の支援、をもって建設的な労使関係の構築を目指すことが重要と指摘しました。
【写真4.岩井伸哉氏(金属労協)】

金属労協ではこうした関係構築実現に向け、国内外で労使向けのセミナーやワークショップを定期的に開催しています。また、岩井氏は各国の労使紛争の事例をその原因ごとにまとめた調査を発表しました。1999年から現在までに金属労協に連絡のあった142件の海外日系企業での労使紛争を地域別に分析すると、101件が東南アジア各国で発生しており、アジアにおける日本の本社企業労使に対する期待の高さが数字に現れています。
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「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムは、EUが資金拠出してILO、OECDと連携して立ち上げられました。アジアの6ヵ国(中国、日本、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム)で実施され、政労使が企業の社会的責任(CSR)と責任ある企業行動(RBC)に関する課題や機会を話し合う場を提供しています。プログラムでは、国際的に認められた指針であるILOの多国籍企業宣言とOECDの多国籍企業行動指針に基づいて、調査、普及、政策アドボカシー、セミナー開催等の活動に取り組んでいます。