日本の任意資金協力事業

仕事、平和、そして学業のための水

 かつて紛争に悩まされたフィリピンのバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)で、ILOが日本政府の任意資金拠出を受けて和平促進と雇用創出を目指して展開しているプロジェクトは、学童にも利益をもたらすことが予定されています。

記事・論文 | 2020/02/12
学校で列を作って水を汲む生徒達(写真:ILO/M. Rimando)

 マギンダナオ州にあるティマナン中央小学校では授業が始まりましたが、教室に入っている生徒はまだ半分くらいです。外の学校菜園にポツンと立つ水道管の前に、5歳から12歳の子ども達の長い列ができています。それぞれプラスチックの容器やじょうろを手にしています。子どもたちが運ぶには重すぎるバケツからこぼれた水で道はぬかるみ、つるつる滑ります。

 生徒が手を洗ったり、トイレを流すために使う水の唯一の水源がこの水道です。

 「毎日水汲みが必要です。とても疲れます。水を取りに行くために休み時間に何も食べられない時もあります」とチャールズ・タララ君(12歳)は語っています。

 「朝と午後の休み時間の間に生徒は水汲みに行かなくてはならないので、理科の授業を始められません。教室内にもトイレにも水道は通っておらず、水源は学校に一つしかないのです」とラリン・アルキサル先生は言います。

理科の授業を受ける前に手を洗うチャールズ君(写真:ILO/M. Rimando)

 ティマナン中央小学校はフィリピン南部のバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)にあります。地域は何十年にもわたって紛争にかき乱されてきました。

 2019年3月に発足したBARMMはフィリピンで最も貧しい地域の一つに数えられ、様々な課題に直面しています。その一つが安全で信頼のおける水の供給が必要であるということです。

 ある時、学校の水道が涸れ、生徒はトイレを使えなくなりました。下水設備の欠如は他の形でも学校に影響を与えています。

 「学校菜園の野菜を収穫して弁当の足しになるように生徒に配っていたのですが、もう学校で野菜は栽培できません。調理用の水も十分ではありません。給水量の低下は学校だけでなく、水源として学校の給水タンクに頼っている近隣の共同体にも影響を与えました」とアルキサル先生は説明します。

 ILOと日本国政府は手を組んで地域の上下水道の改善を目指しています。この「ミンダナオにおける和平の確立のための水道設備管理能力向上プロジェクト」は、地元共同体の関与を得て、上下水道設備の開発、構築、運営、維持を行います。

昼休みに学校に水を持ってくる少女(写真:ILO/M. Rimando)

 とりわけ復員戦闘兵、脆弱な立場にある若者、先住民、紛争によって移動を強いられ、脆弱な立場に陥った人々に地域の請負業者としての訓練が提供されます。

 これにより約1,800人分の雇用が創出され、約1万2,000の世帯とティマナン中央小学校のような学校が水供給改善の恩恵を受けることが期待されます。

 「バンサモロ自治地域への介入は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進し、貧困を削減しつつ、雇用を創出することを意図しています。安全で信頼のおける水の供給は基本的ニーズの一つであり、教育を受け、健康で生産的な労働力の育成に不可欠です。これは平和と安全保障にとっても決定的に重要です」とILOフィリピン国別事務所のカリド・ハッサン所長は語っています。

ILOと日本政府はマギンダナオ州の学校と近隣共同体の給水改善に向けて設備を建造します(写真:ILO/M. Rimando)

 プロジェクトは危機回復・予防、とりわけ脆弱な集団の雇用創出及び技能開発の分野でILOがフィリピンで実施してきた事業を土台として進められます。持続可能な開発目標(SDGs)のうち、きれいな水と衛生設備に関する目標6、ディーセント・ワークと経済成長に関する目標8、そして平和、公正、強い制度・機構に関する目標16に対応しています。

お問い合わせ先:
ILO/日本上下水道(WatSan)プロジェクト
マネジャー
マ・ジェニリン・アギナルド(Ms Ma Jennylyn Aguinaldo)
E-mail

ILOフィリピン国別事務所
メディア・広報担当官
ミネット・リマンド(Ms Minette Rimando)
E-mail


 以上はILOフィリピン国別事務所のミネット・リマンド・メディア・広報担当官による2020年2月12日付のマギンダナオ発英文広報記事の日本版です。