ILO統計局ブログ:男女間格差

なかなか解消されない科学技術部門の男女間格差

 科学技術分野における男女間格差がなかなか解消されないことは様々な書籍に著されていますが、それが国の富裕度合いや開発水準を問わず見られる現象であるということには驚かされるかもしれません

 ほぼ世界的に科学技術部門で働く女性は少なく、賃金も低くなりがちであることがILO統計局のデータベースILOSTATから示されています。国の所得水準や発展段階にかかわらず、ほとんどどの国でもITなどの情報通信産業で働く女性は少なく、世界116カ国のデータによれば、この部門の女性就業者割合は中央値で全体の3分の1を下回っています。さらに、75カ国のデータによれば、デジタル関係の職種に就いた場合、女性の賃金は中央値で男性より21%低くなりますが、これは経済全体で見た場合の16%の格差を大きく上回っています。

情報通信産業における女性
国名 女性就業者比率(%) 男女賃金格差(男性の月額平均賃金から女性の月額平均賃金を差し引いた値が男性の月額平均賃金に占める割合、%)   国名 女性就業者比率(%) 男女賃金格差(男性の月額平均賃金から女性の月額平均賃金を差し引いた値が男性の月額平均賃金に占める割合、%)
アルジェリア 25   アルゼンチン 22 9
アルメニア 44 12 オーストラリア 30  
オーストリア 32 38 アゼルバイジャン 59 19
バーレーン 19   バングラデシュ 9 18
ベラルーシ 41 44 ベルギー 25 15
ボリビア 34 15 ボスニア・ヘルツェゴビナ 27 13
ブラジル 29 27 ブルネイ 47 11
ブルガリア 37 29 ブルンジ 32  
カンボジア 27 63 カーボベルデ 37 -25
ケイマン諸島 42   チリ 31  
コスタリカ 27 21 コートジボワール 14 52
クロアチア 34   キプロス 36 30
チェコ共和国 24 32 デンマーク 27  
ドミニカ共和国 34   エクアドル 38 22
エジプト 22 -3 エルサルバドル 32 21
エストニア 32   フィジー 27 28
フィンランド 27 15 フランス 31 16
ジョージア 42 26 ドイツ 33 24
ガーナ 11 43 ギリシャ 38 14
グアテマラ 25 28 ガーンジー 26  
ガイアナ 42 10 ホンジュラス 31 28
香港 31 11 ハンガリー 24 23
アイスランド 32 14 インドネシア 24 -10
イラン 21   アイルランド 31  
マン島 28 42 イスラエル 38 40
イタリア 29   日本 26 24
カザフスタン 43 7 キリバス 41  
韓国 30 30 コソボ 20  
クウェート 14   キルギスタン 40 31
ラオス 44 -27 ラトビア 40 27
リヒテンシュタイン 29 22 リトアニア 33 28
ルクセンブルグ 28 23 マダガスカル 35  
マレーシア 31 21 モルディブ 29 23
マリ 22   マルタ 30  
モーリシャス 40 46 メキシコ 36 14
モルドバ 40 35 モンゴル 37 17
モンテネグロ 53   モザンビーク 20  
ミャンマー 39 9 ナミビア 24 20
ネパール 21 -33 オランダ 24  
ニュージーランド 35 29 北マケドニア 35  
ノルウェー 29 14 パレスチナ 23 21
パキスタン 3 -46 パナマ 33 15
ペルー 34 36 フィリピン 35 7
ポーランド 31   ポルトガル 30 16
カタール 18 25 ルーマニア 35 14
ロシア 35 21 ルワンダ 37 66
サモア 45 -12 サンマリノ 34  
サウジアラビア 7 47 セネガル 29  
セルビア 39 21 セーシェル 45  
シンガポール 39 17 スロバキア 22 29
スロベニア 29 13 スペイン 29  
スリランカ 28 26 スリナム 37  
スウェーデン 27   スイス 28 22
台湾 43   タイ 38 -10
トルコ 23   ウクライナ 28 20
アラブ首長国連邦 13   英国 28 24
米国 31   ウルグアイ 33 18
ベトナム 36 9 ザンビア 23 50

 格差の一因はこの産業で女性が就いている職種に基づいています。ILOの定期刊行物『Global wage report 2018/19(世界賃金報告2018/19年版・英語)』は、情報通信技術(ICT)職場に入る女性は、より高賃金のICTソフトウェア開発などの仕事よりも、より低待遇のICTプロジェクトマネジャーのような仕事に集中する傾向があると記しています。

 一般に高技能が求められる場合は特に、男性が主流を占める職種はより大きな男女賃金格差を示す傾向があります。

男性が主流を占める職種では男性の賃金プレミアムが高くなる
男性が職種に占める割合と賃金プレミアムの相関図

 ここで得られた事実が重要なのは、成長産業における男女不平等を明らかにしただけでなく、デジタル技能が広く求められているからです。毎年数千人分の新規雇用が生み出されており、この技能の不足は経済の拡大を抑制する危険性があります。この技能不足の解消に失敗すれば、主要20カ国・地域(G20)で今後10年間に失われる経済成長は1.5兆ドル分にも上るとの予測も出されています。

 全ての人をデジタル社会に包摂することは国連の活動の主要項目であり、ICTは持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた歩みを早める助けになり得ます。私たちの暮らしのあらゆる側面にますます科学技術が浸透し、仕事の未来が進むにつれ、デジタル技能に対する高い需要は今後も維持されると考えられます。これは、より多くの女性をこの産業に受け入れ、より平等な賃金を確保する必要性に光を当てるものです。

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 以上はILOの労働統計データベースILOSTATの2019年11月12日付英文ブログ記事の抄訳です。ILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。