ILO統計局ブログ:労働

仕事あるいは労働と就業は同義語に非ず

 日常生活ではwork(仕事または労働)とemployment(就業または雇用)は区別なく用いることができるかもしれませんが、労働市場での意味は全く異なります。就業とはボランティア労働や研修生の無給労働、自家使用のための労働に並ぶ、労働形態の一つに当たります。

ロシーナ・ガンマラーノ経済専門官

 日常生活ではwork(仕事または労働)とemployment(就業または雇用)は、ほぼ同じ意味で用いられていますが、正確な定義が必要な統計の世界では違います。就業とはボランティア労働や研修生の無給労働、自家使用のための労働に並ぶ、労働形態の一つに当たります。

 しかし、つい最近まで労働統計は、「賃金または収益を得ることを目的として財の生産あるいはサービスの提供を行う何らかの活動」という、労働の一形態に過ぎない就業にしか焦点を当ててきませんでした。これ以外の労働形態、そしてそれによってそのような労働が生産や経済、社会に与える影響は長く看過されてきましたが、2013年の第19回国際労働統計家会議において国際社会はようやくあらゆる労働形態を計測する必要性を認め、あらゆる労働形態を含む労働についての正確な統計上の定義を示す決議を採択するに至りました。この決議では、仕事または労働を意味するworkとは、「他者による利用あるいは自家使用を目的として、年齢・性別にかかわらず人々が行う財の生産あるいはサービスの提供のための何らかの活動」と定義されています。

 このような定義に含まれる可能な労働形態をそれぞれにはっきりと定義し、特定する必要もありました。そのためには、二つの基準が用いられました。一つは労働が有償のものか無償のものであるかの別、もう一つは他者による利用を目的とするかあるいは自家使用を目的とするかの区別です。これによって以下の四つの労働形態が導かれましたが、これ以外にも様々なものが存在する可能性があります。

  • 就業または雇用(employment):
    賃金または収益を目的として行う何らかの財の生産あるいはサービス提供の活動(他者による利用を目的とした有償労働)
  • 研修生による無給の労働(unpaid trainee work):
    職場経験またはある職業もしくは商売用の技能を得るために他者のために行う何らかの無償の財の生産あるいはサービス提供の活動
  • ボランティア労働(volunteer work):
    他者のために行う何らかの無償で非強制的な財の生産あるいはサービス提供の活動
  • 自家使用生産労働(own-use production work):
    最終的に自家消費を目的として行う何らかの財の生産あるいはサービス提供の活動
様々な労働形態と労働力の状態の関係図

 さらに、人々が同時に複数の労働形態に従事することは可能であり、また一般的でさえあります。就業者がボランティアに従事したり、自家菜園で野菜を作る場合や、無給のインターンが生活のためにアルバイトをする場合、ボランティアが自分で使用するための衣服や家具を作っている場合や無給のインターンを行っている場合もあるでしょう。こういった複数の労働形態に従事している人の主たる労働形態を特定する場合には、就業を優先させます。

 就業は労働形態であるだけでなく、労働力の状態の一つでもあります。労働力とは、賃金または収益と引き換えに財及びサービスの生産に従事し得る労働者の現在供給量のことを指します。就業者の場合は主たる労働形態と労働力の状態は一致しますが、就業が主たる労働形態でない人の場合には、仕事を探しているか否か、仕事に就ける状態にあるか否かの別で状態は左右され、就業者でなくとも仕事を探しており、就業できる状態にある生産年齢の人は失業者、それ以外は非労働力に分類されます。

 失業者と非労働力は就業者ではありませんが、ボランティア労働や自家使用生産労働に従事している引退者や主婦、学生、失業期間中にボランティアや無給のインターンに従事している人など、他の労働形態で労働市場に積極的に参加し、経済や社会に貢献している可能性があります。

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 以上はILO統計局データ生成・分析班のロシーナ・ガンマラーノ経済専門官によるILOの労働統計データベースILOSTATの2019年10月29日付英文ブログ記事の抄訳です。ILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。