漁業労働

タイの漁業部門における労働者酷使の削減に向けた労働監督業務の向上

 タイの水産加工業における許容できない就労形態の防止・削減に向けたプロジェクトの一環として、ILOは同国で労働監督官の訓練を行っています。

タイの漁業におけるより良い執行体制の構築(英語・2分56秒)。労働監督官が用いている技術と課題について紹介するこの動画は、新たな研修カリキュラムの一端を示しています。

 2015年にタイの水産業におけるいわゆる奴隷労働問題が国際的に非難され、欧州委員会から同国に「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」に対する警告を意味するイエローカードが出されました。政府はこれに対応し、22の沿岸県の港湾に30カ所以上の漁業検査のための入出港(PIPO)管理センターを設け、労働省、タイ国海軍、漁業局など複数の政府機関が協力して労働監督を含む検査業務を遂行しています。労働監督業務は労働省の労働者保護・福祉局が主導して実施しています。

 15年以上のキャリアのほとんどが陸上の工場監督業務で占められるサモーン・クムビリヤさんはソンクラー県の入出港管理センターに配置されましたが、海上船舶における労働問題や違反案件を処理するには陸上に基盤を置く労働監督体制では有効でないことに直ちに気づきました。漁業の労働問題や違反事項はそれまで経験してきたものとは全く異なり、漁船員の船上における労働・生活条件も陸上労働者のそれとは非常に異なっていたのです。

 そこで、労働監督官の再訓練を支援するものとして、欧州連合(EU)の資金協力を受けたILOの「船舶から陸上まで権利プロジェクト」が介入することになりました。ILOは労働者保護・福祉局と協力して180人の新人労働監督官に中核的な監督スキルの強化、労働者の権利に関する知識、新たに導入された強制労働禁止規定などの法改正、そして、危険が付きものの漁業労働者にとっては貴重な情報であるところの基本的な安全衛生事項など、タイ国漁業の問題を処理する助けになるような新たなツールや技術についての導入訓練を行いました。

 「訓練の重点は労働監督官の能力向上に置かれ、深く掘り下げた面談を行う方法、自らの権利についての知識がないかもしれない外国人労働者を含む漁船員にタイの法律に基づいた権利について伝える方法を学びました」とクムビリヤさんは振り返ります。

 労働法の改善を固定化する助けになるものとして、タイは2019年1月にアジアで初めてILOの「2007年の漁業労働条約(第188号)」を批准しました。政府は労使団体と協議の上、条約の要件を満たすために法を改正しました。条約批准を受けて、EUはイエローカードの撤回を決定しました。タイの重点は今後、より効果的な実施に移ることでしょう。タイ湾とアンダマン海における労働者酷使の問題に終止符を打つことを目指し、労働監督官向けの新たな研修カリキュラムには漁船員や使用者、政府規制機関が学んだ教訓や遭遇した課題が盛り込まれました。

 「必要としている人を手助けできるのは誇らしいことです。そう感じられるのは労働監督官としての大きな成功です」と、ある研修参加者は語っています。


 以上は2019年10月21日付のバンコク発英文広報記事の抄訳です。