ILO新刊:貧困緩和

ILO新刊:貧困・不平等対策になり得る政策を特定

記者発表 | 2019/10/17

  「貧困撲滅のための国際デー」である10月17日に発表されたILOの新刊書『What works: Promoting pathways to decent work (何が効果的にディーセント・ワークへ至る道を促進するか・英語)』は、単独で実施された場合にはそれぞれに欠陥が指摘されている所得補助と積極的労働市場政策を組み合わせた場合、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を増し、貧困に取り組むことを目指す戦略の有効性が相当に高まることを見出しました。途上国及び新興国における訓練やキャリア助言、開業支援などの積極的労働市場政策の役割、そしてその政策を所得補助と組み合わせた場合にいかに人々が労働市場における障害を克服する助けになり得るかを分析した本書は、組み合わせの「有益な効果は明白となる傾向がある」と記しています。

 本書は、貧困から抜け出す最も信頼のおける手段は依然として有償雇用であることを示しています。積極的労働市場政策と所得補助を組み合わせた支援を受けた人は仕事が見つかる可能性が高まり、一般に、より質が高い仕事が見つかる傾向があります。このような総合的な措置はまた、技能ミスマッチを減らし、労働生産性を高め、労働者が経済危機や技術変革、気候関連の変動、季節的な変動が労働市場に与える影響に対処するのを手助けすることができます。報告書は、所得補助を増した国では積極的労働市場政策の有効性も高まり、積極的労働市場政策に対する支出を増大した場合には所得補助の影響力も増大することを示すだけでなく、適正に設計され実施された場合、これらの政策がやがて自主財源でやっていけることも示しています。

 この報告書を主な成果物とする調査研究プロジェクトを率いたILO調査研究局労働市場動向・政策評価班のベロニカ・エスクデロ専門官は「所得補助と積極的労働市場政策の正しい組み合わせがもたらす貧困根絶効果は過小評価できません。この二つを一緒にすると、失業だけでなく、不完全就業や非公式就業にも影響を与えることができます」と説いています。

 報告書はこの総合的な手法が有効となるためには、とりわけ十分な資金、政策を管理できるだけの十分な機構能力、政府だけでなく社会的パートナーである労使団体の十分な関与といった一定の条件が満たされる必要があることも指摘しています。「公平性を伴う成長研究図書シリーズ」の一巻としてまとめられた本書は、一連の分析ツールや成果物を含み、組み合わせ手法の成功例としてモーリシャスの勤労福祉計画とウルグアイの社会非常事態対応全国計画(PANES)を詳しく分析しています。

 5章構成の本書は、第1章「ディーセント・ワークを阻む障害と労働市場に対するその影響」で所得補助と積極的労働市場政策を組み合わせた政策で対処できる可能性があるディーセント・ワークを阻む障害、その障害が現在仕事の世界で進行中の変化とどのように相互作用しており、仕事の質や労働条件にどのような影響を与えているかを分析し、既に存在する相当のディーセント・ワークの欠如が現下の変化によって悪化する可能性を示しています。次に第2章「所得補助を行いつつ、就業能力を高める:概念枠組みと記述証拠」でこの障害に対処した場合の潜在的な可能性を詳しく記し、第3章「所得補助を組み込んだ積極的労働市場政策の有効性についての既知の事実」でこの手法の有効性や不足している知識についてまとめています。最後に組み合わせ手法の成功例として、第4章「総合的手法の新興国経済適応例:モーリシャスの勤労福祉計画」でモーリシャス、第5章「極度の貧困対策としての所得補助と労働市場参加促進措置の組み合わせ:ウルグアイの社会非常事態対応全国計画(PANES)」でウルグアイの事例を紹介しています。

労働市場を通じて貧困と闘う、より効果的な手法

シンシア・サミュエル=オロンジュオンILOアフリカ総局長

 シンシア・サミュエル=オロンジュオンILOアフリカ総局長も「貧困撲滅のための国際デー」に際して発表した論説文で報告書の内容を以下のように説明しています。

 最も信頼のおける貧困脱却方法は依然として有償の就労ですが、仕事を得る機会も人間らしく働きがいのある労働条件の確保も課題であり続けています。途上国の就労者の66%、新興国でも22%が、働いていつつも極度のあるいは中程度の貧困状態にある「働く貧困層(ワーキング・プア)」であり、その扶養家族まで考慮に入れると問題は一層顕著になります。

 人々を貧困に陥れるのは失業や非労働力化だけでなく、不完全就業や非公式(インフォーマル)就労などのディーセント・ワークの機会の欠如も阻害要因になっています。

 適切な労働市場政策は就労機会を拡大し、労働条件の質の改善を図ることによって貧困撲滅の戦いにおいて重要な役割を演じることができます。とりわけ無職の人々に対する所得補助を積極的労働市場政策と組み合わせた労働市場政策がこれに当たります。

 このILOの新刊書『何が効果的にディーセント・ワークへ至る道を促進するか』は、所得補助と労働市場における積極的な支援を組み合わせることによって、各国は構造的なもの(教育や技能の不足、不平等の存在など)から一時的なもの(気候関連のショック、経済危機など)まで、ディーセント・ワークを阻む様々な障害に取り組めることを示しています。国際貿易や技術進歩、人口動勢の変化、環境変動などといった世界規模の力によって仕事の世界が作り替えられようとしている今、この政策の組み合わせは特に時宜を得たものであると言えます。所得補助と積極的労働市場政策を組み合わせた政策は、このような力が労働市場に発生させる変化に人々が適応するのを手助けすることができます。所得補助は人々が無職の期間に貧困に陥り、どんな仕事でも質を問わずに受け入れることを強いられないよう確保します。一方で積極的労働市場政策は、質の高い雇用を見つけるために必要な技能を人々に備えさせることによって、中・長期的に就業能力を高めることになります。

 本書の制作に当たって集められた新たな証拠は、この所得補助と積極的支援の組み合わせは実際、労働市場の状況改善にも効果的であることを示しています。複数の政策の影響評価からこの種の総合的な取り組みの受益者の就労機会がいかに増し、労働条件が向上するかが示されています。

 この組み合わせ法がいかに成果を生むことができるかを示す一つの例として、モーリシャスで展開された革新的な失業給付制度である勤労福祉計画を挙げることができます。この計画は、所得補助に加えて、訓練(2016年に廃止)、職業紹介、開業支援という三つの異なる労働力化支援措置を受ける機会を労働者に与えるものです。この計画はインフォーマル経済で働いていた失業者にも開かれており、対象を最も脆弱な労働者にまで広げることによって不平等を減らし、インフォーマル就労の悪循環から解放される助けを提供しています。

 もう一つの成功例として、より大規模な条件付現金支給計画であるところの社会的非常事態対応国家計画(PANES)の一環として実施されたウルグアイの公共事業計画を挙げることができます。深刻な景気後退期に実施されたこの事業計画は、最貧困層と最も脆弱な人々を対象とするよう注意深く設計されました。PANESの受益者には公共事業に参加する機会が与えられました。最長5カ月間のフルタイム就労と引き換えに、参加者にはより高い所得補助が行われ、追加的な職業紹介の補助が与えられました。この取り組みは社会的保護を欠き、極度の貧困層に陥る危険性があった人口の大多数をカバーしました。報告書はこの二つの措置を同時に提供したことが事業の成功にとって決定的に重要であったと記しています。

 こういった政策の貧困撤廃効果は過小評価できません。失業、不完全就業、インフォーマル性の問題に同時に対処することによって、積極的労働市場政策と所得補助を組み合わせた政策は貧困の根本原因の幾つかに直接影響を与えつつ、途上国及び新興国の数百万の人々の労働条件と労働市場機会を向上させることができるのです。


 以上は次の2点の2019年10月17日付広報資料の抄訳です。