労働統計

ILO新統計データベース:わずか1割の勤労者に世界の賃金の半分近くが集中

記者発表 | 2019/07/04

 今年1月に発表されたILOの仕事の未来世界委員会の報告書は、福祉や環境の持続可能性、平等、人間を中心に据えた開発アジェンダに関わる歩みをより正確に追求できる新しい指標の必要性を強調しています。この勧告に応えるものとしてILO統計局が新たに開発した「労働分配率・勤労所得分布データ集合」によれば、世界全体の所得階層別で上位10%に属する勤労者が受け取る勤労所得は全体の48.9%を占めるのに対し、下位50%の勤労者の所得は合計しても全体のわずか6.4%にしか達しないことが判明しました。

 勤労所得不平等の世界の状況は全体として見ると2004年から縮小傾向を示しているものの、これは各国内における改善の結果ではなく、中国とインドという二大新興国の富裕化が理由であり、国内レベルの賃金不平等は実際にはむしろ拡大傾向にあります。約6億5,000万人に上る所得階層別で下位20%に属する勤労者が受け取る勤労所得は全体の1%にも満たず、状況は過去13年間ほとんど変化していないといったように、仕事の世界には全体として賃金の不平等が相変わらず広く見られます。

 世界最大の統一労働力調査データ・コレクションから導かれた「労働分配率・勤労所得分布データ集合」は世界189カ国のデータを含み、資本ではなく賃金や収入を通じて勤労者が受け取る所得が国内総生産(GDP)に占める割合を意味する労働分配率についての初の国際比較可能な数値と勤労所得分布という、仕事の世界における主な動向に関する二つの新しい指標を国・地域別、世界全体で提供するものとなっています。このデータ集合は今後、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の進捗状況のモニタリングにも用いられます。

 データ集合の分析から得られた主な事項についてまとめた資料によれば、世界的に労働分配率は低下傾向にあります(2004年53.7%→2017年51.4%)。賃金分布を国際加重平均で見ると、所得階層別で中位60%に当たる中間所得層が受け取る所得の割合は低下傾向にあるのに対し(同44.8%→43%)、上位20%の所得割合は増えてきています(同51.3%→53.5%)。上位階層が受け取る勤労所得の割合が1ポイント以上増えた国には、ドイツ、インドネシア、イタリア、パキスタン、英国、米国などがあります。日本は実データが得られず、補定データであるため、国際比較はできませんが、この13年間の労働分配率は微減を示し(同54.6%→54.2%)、所得階層上位10%の所得割合は低下したのに対し(同28.56%→27.64%)、下位10%の所得割合は若干上昇しています(同1.07%→1.10%)。

 所得階層下位50%が受け取る勤労所得はサハラ以南アフリカでは全体のわずか3.3%に過ぎないのに対し、欧州連合では22.9%に上るといったように、賃金の不平等は貧しい国の方が大きくなる傾向があり、これは脆弱な人口の苦境をさらに悪化させていると言えます。

 ILO労働統計局データ生成・解析ユニットのスティーブン・カプソス・ユニット長は、データから示されることとして、「相対的に見て、上位層の勤労所得の増加は中間層と低所得層の両方の所得割合の低下を招くのに対し、中間層と低所得層の所得割合が増えた場合の利益は最上位層以外の全ての層に幅広く波及する傾向」があることを指摘しています。統計手法に関する資料を執筆した同局のロジャー・ゴミス経済専門官は、「世界の労働者の下位50%の平均賃金は月額198ドルに過ぎず、下位10%が上位10%の年収相当額を得るには300年以上働く必要がある」ことを挙げ、世界の労働力の大半が驚くほどの低賃金を耐え忍んでおり、仕事があるだけでは暮らしていくのに十分でないことを意味する人も多い現状を示しています。

 ILOの労働統計データベースILOSTATでは、この労働分配率・勤労所得分布データ集合に加え、就業・失業、労働生産性、労働時間、労働組合組織率、無償労働、児童労働など、労働分野の幅広い統計データを入手できます。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。