第108回ILO総会テーマ別フォーラム

第108回ILO総会テーマ別フォーラム:公平な仕事の未来に至るカギを握るのはうまく機能する多国間システム

記者発表 | 2019/06/18
多国間主義に関するフォーラム模様。写真録画動画もご覧になれます。

 現在ジュネーブで開かれている第108回ILO総会では七つのテーマ別フォーラムが開催されています。6月18日に開かれた「公平な仕事の未来に向けた多国間主義」と題するフォーラムでは、ガイ・ライダーILO事務局長を含む国際・地域機関の代表者などが不平等の縮小に向けて国際・地域レベルで行う必要があることや、この達成に向けて多国間システムがもっと整合的に活動できる方法を探りました。国際貿易・金融におけるグローバル化の最近の波が世界の不平等の拡大にいかに大きく作用し、世界の最貧困層と最富裕層の格差を拡大したか、そして極度の貧困層の縮小にもかかわらず広がりつつある所得と富の分布のばらつき、ほとんどの経済が成長している中で世界の労働力の多くが実質賃金の伸び悩みを経験している現状、女性の経済貢献度は上がりつつあるにもかかわらず、男女不平等がなかなか解消されない現状などの問題も論じられました。

 世界貿易機関(WTO)のロベルト・カルバーリョ・デ・アゼベド事務局長は、世界中で大規模な構造変革が起こっている時代に「古い解決策を適用しようとしてもうまくいかない」と説き、「もちろん国際機関にも、とりわけ問題の特定、解決策の提案、国内的な議論の醸成といったように、運動を起こして正しい方向に進ませる上で大きな役割がある」ことを認めつつも、必要な救済策は主に「国内政策で政府が講じることができるもの」であると論じました。

 国際労働組合総連合(ITUC)のシャラン・バロウ書記長は、従来モデルが壊れている現状を指摘して、ビジネスの進め方を変える必要性を唱えました。そして、「成長の利益にかなう世界経済に向けて働く方法を学ぶ必要がある」と説き、この成長とは、「共有され、包摂的で、人々と持続可能なビジネスの利益にかなう成長」と説明しました。

 フランスは今年、先進7カ国(G7)会合を主催していますが、G7会合と主要20カ国・地域(G20)会合で労働・雇用事項のシェルパを務めるアヌーシェ・カルバー・フランス政府代表ILO理事は、G7諸国、その労働大臣はフィラデルフィア宣言に着想した三つの分野、すなわち国際金融、貿易、仕事の未来に関する国際労働基準のより良い統合を呼びかけていることを紹介しました。

 「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)計画調整庁」のイブラヒム・アッサン・マヤキ長官は、アフリカには最速の速さで成長している経済があると同時に最も不平等な経済も存在することを指摘しました。ニジェール出身のマヤキ長官は、力強い経済成長が自動的に包摂的な成長につながらないために「発展と力強い経済成長は同義ではないことにすぐに気づくことになった」として、包摂的な成長の最も簡単で最良の定義とは「人間らしく働きがいのある仕事の創出」であると論じました。

 世界銀行グループのマフムド・モヒルディン2030開発アジェンダ・国連関係・パートナーシップ担当上級副総裁は、人的資本に投資する必要性を説き、これに含まれるものとして、性差の側面に十分な注意を払いつつ、幼児期や普遍教育、全ての人への保健への投資を挙げました。また、加えて、官民両部門のまともなパートナーシップと巨額の支出が要請されるデジタル基盤構造などの基盤構造への投資、そして社会的支出と社会的保護に関連した分野を網羅する脆弱性に関わる投資の必要性も指摘しました。

 経済協力開発機構(OECD)のガブリエラ・ラモスG20シェルパ兼首席補佐官は、最先進国でも「富の50%が上位人口10%に集中し、最下位層40%の保有する富は3%」に過ぎないといったように、今見られる不平等水準は持続不能であると訴えました。さらに、所得分布の底辺に位置する人が中流所得にまで到達するのに5世代もかかるのは、社会に流動性がないことを意味し、賃金は過去20年間横ばいで、生計費、住宅費、教育費は上昇基調にあるにもかかわらず、賃金は伸びないといった状況は中流階級の停滞を招いていると説明しました。

 米国国際ビジネス評議会のピーター・ロビンソン理事長は、極度の不平等は「社会を不安定化させ、二極化を一層促進し、制度に対する人々の愛着を損なう」として、「不平等が少なく、繁栄し安定した社会の方がビジネスがうまくいくのは明白」と指摘しました。さらに、いまだに職場に存在する性的多様性と男女平等の欠如の問題に取り組む必要性を挙げ、なかなか解消されない「文化や社会の障壁、そして、女性に子どもや高齢者を世話する不均衡に重い責任を押しつける慣行や姿勢、不名誉な烙印」が職場における性的多様性の達成を阻んでいる場合が多いと指摘しました。

 ライダーILO事務局長は、不平等の拡大を「世界経済の成長を続けるために支払わなくてはならない代価」と見る見方から離れる必要があると強調し、創立100周年を機に仕事の世界が今総会で行っていることの中心に位置するものとして、「古いモデルの再検討」を挙げ、より公平な仕事の未来に至るために必要なものについての回答の構築を始めることを提案し、この作業においてはILOに大きな役割があるものの、ILOだけで成し遂げられる仕事ではない点に注意を喚起しました。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。