総会討議資料

ILO新刊-世界人口の半数以上に届いていない保健医療と社会保障

記者発表 | 2019/03/11

 このたび発表されたILOの新刊書は、各国の社会保障制度の整備に関しては幅広い進展が見られるものの、いまだに世界人口の半数以上が必要不可欠な保健医療を受けられず、包括的な社会保障の適用も29%に留まるといったように直ちに対処すべきギャップが存在することを明らかにしています。2019年のILO総会の討議資料の一つとして、「2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)」の実施に関して114カ国の政府から寄せられた46の質問に対する回答と労使団体の見解を元にまとめられた条約勧告適用専門家委員会の総合調査報告書『Universal social protection for human dignity, social justice and sustainable development(人間の尊厳、社会正義、持続可能な開発のために社会的保護を全ての人に・英語)』はさらに、世界全体で引退年齢に達した人の68%しか何らかの形態の年金を受け取っておらず、多くの低所得国ではこの割合はわずか20%に低下し、子どもの所得保障を確保する制度あるいは給付がある国は質問回答国の60%を下回ることを示しています。

 21世紀に入ってから採択された社会的保護分野の最初の国際基準である第202号勧告は、幼児期から高齢期に至る基礎的な所得保障と必要不可欠な保健医療の保障を呼びかけ、さらに、できるだけ早くできるだけ多くの人々に、より高いレベルの保護を確保することを奨励しています。

 報告書は保健医療が全ての人に及ぶ状況は高・中所得国の多くで達成されているものの、利用できる保健医療要素が一部に過ぎない国も多いことを明らかにしています。必要不可欠な保健医療の機会が全ての人に開かれていない主な理由は、保健財源の不足、保健医療労働者の不足、現金支払い率の高さなどに関連しており、この結果、世界中全ての地域で貧窮化や金銭的な困難の増大が見られます。報告書は予算再配分や保健医療労働者の増員など、法と実務の両面から普遍的保健の適用を確立するためにもっと努力する必要性を指摘しています。

 基礎的な所得保障の確立の点でも重要なギャップが残っており、報告書は基礎的なニーズに対処する十分な社会的保護を全ての人に広げるため、正確な期限を定めた明確な目標を立てることを各国に提案しています。そして、このような政策は労使団体その他の利害関係者との包摂的かつ実効的な対話を通じて形成すべきことも説いています。

 普遍的社会的保護はまた、持続可能な開発目標、とりわけ、貧困や不平等の終焉、保健や福祉、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、経済成長、平和、正義、強力な制度機構に関連した目標の達成におけるカギを握っています。

 社会的保護は2020年のILO総会における反復討議の議題でもありますが、総合調査報告は各国の回答を分析し、好事例や障害を明らかにし、第202号勧告のより良い適用を奨励する手引きを示しています。

 ILO国際労働基準局のエマニュエル・サンピエール・ギルボール法律専門官は、社会的保護は社会にとっても経済にとっても「良いもの」であることが立証されており、この人権が世界中の国々、労働者、使用者から強く受け入れられているのは明確であり、「今日幅広く見られる不平等の拡大に取り組み、安定性を育むためには、これは『必須なもの』」として、「ILOは全ての人への十分な社会的保護を達成する道の途中に残る、財源の大きな問題のような何らかの障害に各国が取り組むのを手助けする用意があります」と語っています。

 総合調査報告とは、加盟国による国際労働基準の適用状況を監視する権限を有する条約勧告適用専門家委員会が毎年、ILO理事会の選んだ題材に関連した加盟国の国内法や実践の状況を深く分析してまとめたものであり、総会に討議資料として提出されます。専門家委員会の総会討議資料としてはもう一つ、条約批准国から寄せられた適用状況報告に対する委員会の見解を記した年次報告もあります。日本について今年は、「1930年の強制労働条約(第29号)」と「1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)」の適用状況に対する見解が記されており、技能実習生、従軍慰安婦、消防職員・刑務所職員の団結権、公務員の労働基本権の問題が取り上げられています。国際労働基準局からはまた、専門家以外の方々を対象とした国際労働基準の入門書として、個別基準を簡単に解説すると共に今日のグローバル経済におけるその重要性について記した広報資料『Rules of the Game: An introduction to the standards-related work of the International Labour Organization (ゲームのルール:ILOの基準関連活動の手引き・英語)』の最新版も刊行されています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。